第3章 第42話
それから、僕たちみんなが落ち着いて、それぞれの近況について話したり、昔話に盛り上がったりと、日が暮れそうになるまで喋った。
「おっと、そろそろ遅くなるな。帰るとするか」
父様がよいしょ、と立ち上がる。
「ありがとう師匠!楽しかったよ!」
「ありがとう父様。忙しいのに」
「何を言ってるんだ、私とお前たちの仲じゃないか。お前たちの成長も見れたし、こちらも色々と勉強させてもらった。こっちこそありがとうだ」
父様はお互い様だ、と笑う。
父様はこれからヴァルヴィデアで暗躍しまくるだろう。次に会うのは、いつになるのだろう。父様、どうか無事でいてください。
僕は父様に手を差し出す。
「父様、お元気で」
父様は僕の手を取り、厚く握手を交わす。
「ウィルたちもな」
そうして、僕とオリビアは父様を見送り、父様との時間が終わったのであった。
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僕とオリビアは今、マドワキアに帰る馬車にことことと揺られている。
「それにしてもなんか濃い1日だったね」
「本当だよねー。師匠と稽古できたし、わたしもレベルアップしてたし、そのことに目が行きがちで最初に馬車が襲われたことが昨日のようだよ」
オリビアは”真”として認められたのが嬉しいのか、終始ニコニコ、いやにまにましている。うむ。可愛い。
ほんでもってオリビアの”真”は何派になるのだろうか?
「オリビア、僕の”真”は無剣派なんだけど、オリビアって何派になるの?」
「え、なんなんだろう。そう言えば師匠は自分のことを鬼人派って言ってたし、”真”に辿り着くとそういう流派に派生していくんだね。えー、どうしようかなー。そうだ、ウィルが決めてよ」
オリビアがそこにある物を取って、くらいの、なんでもないように言ってくる。
「わたしがその域に辿り着けたのは、師匠もそうだけど、やっぱりウィルがいてくれたからだよ。ウィルと一緒に鍛錬できたから辿り着けたんだ。だからね、ウィルに決めて欲しいかも」
オリビアあ•••。
オリビアの型はオリビアにとっての無駄を無くして、極限にオリビアにあった型になっていること。そして、その無駄がない極限の型の先に、オリビアは相手のやる事なすことの核を見通せていること。
「オリビアの型は自分の無駄がなくなって、その先に相手の本質を見抜いていることだ。ならば、その”真”はオリビアの心眼に他ならない」
僕は一息おく。
「オリビア、君は真・ヴァルヴィデア流”心眼派”を名乗るといい」
「ふふ、ありがとうウィル。”心眼派”•••。かっこよくて、重くて、いい名前だね。すごい大切にする!」
「そのまますぎたかな?」
言ってみた後であるけど、あまりにもそのまま過ぎたかと不安になる。修正ってできるんだろうか•••。
「ううん。ウィルらしくて、わたしは好きだよ。一瞬で気に入っちゃった。ありがとうね」
オリビアが笑顔でお礼を言う。うん、まあ、オリビアが笑顔ならそれでいいか。オリビアが笑顔ならとっても良いことだ。
「これからも一緒に頑張ろうね、ウィル」
「それはこっちこそだよ、オリビア」
帰るまでの馬車は、ことことと揺られるも、なんだか心地よかった。
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寮に着いたときには、ちょうど夕暮れの時だった。実に夕食どきである。はあ、朝は誰もいないからいいんだけど、夕食は結構みんながいて、僕のことを奇怪な目で見てくるからあまり落ち着いて食べれないんだよね。アディも夕方はいないし。
ぐう。
しかし、お腹とは減るものであるのが人の心理である。うむ、ご飯を食べよう。
食堂へ赴く。お、今日はシチューとパンの食べ放題だ。やったー、ちょうど父様との稽古でめちゃくちゃエネルギー使ったから、お腹減ってたんだよねー。
食堂に入ると、ふんわりと香るパンのいい香りが漂い、また数多の種類のパンがずらっと盛られ並べられていて迎えられる。や、やばい、食欲のままにアホみたいな量のパンをとってしまいそうだ。いいや、僕は育ち盛り、食べなきゃ強くならない!
僕は自分を正当化して食欲の赴くままにパンを貪り集めた。
「おお•••」
席につくと、自分のとってきたパンがこんもりと聳え立ち、まあまあとってきてしまったとちょっと後悔する。でもこれもまた、バイキング形式の醍醐味だ。実に、いただきますだ。
僕は手を合わせて食とご飯を作ってくれた職人に感謝をして食事を始める。
うむ!うまい!!外はさくさく、中はふんわり、噛んだときに広がるバターの食感もたまらない。僕は無我夢中にもりもり食べる、が、途中からやはり変な目で見られることに気づく。うぅ、やっぱりあんまり慣れないなあ•••まぁいいんだけどね。
そんな居心地の悪い中、パンを食欲のままに吸い込んでいると、何人かの生徒が近寄ってくるのがわかった。
「お、おいお前いけよ」「い、いや、言い出したのお前だろっ」「背に腹は変えられぬ•••」「ちょ、ちょっと」
えー、となんだろ?もはや僕の真横にいるけど、なんだか怖いので気づかないふりして黙々と食べる。
そんなこんなをしていると、1人がぼんっと前に押し出される。
「あ、あの!」
これはもう無視できないな•••。
「はい?」
「特撰のウィル、だよね?」
「恐らく?」
「恐らくってなんだよ」「やっぱり変なやつかもしれないぞ」「しっ!聞こえるぞ!」
いや、聞こえてるよ?
「あの!僕たちも1年生なんだけど、僕たちに勉強教えてくれない!?」




