第3章 第40話 【成長】
どこかホグン村での稽古場を彷彿とさせる、林に囲まれる、ひらけた更地に父様は佇んでいた。
「ウィルにオリビア、久しぶりだな。少し騒がしかったが、何かあったか?」
久しぶりの父様。また、存在が大きくなった気がする。
僕たちはここに着く前の経緯を説明する。
「そうか•••物騒なもんだな。そやつらも生きる術というのが限られていたのだろう。しかし、奪う行為は何事であってもだめだ。奪うことでは何も生まれない。何もな」
父様はどこか遠くを見る。それは奪い奪われる戦いが起きることの未来を見ているのだろうか。その目は、その悲しみが生まれることに憂いているのか、悲観している。
ただ、今から未来に何も変わらないわけじゃない。僕たちだって変わってるんだって、悲観しなくてもいいって、思ってもらおうか。
「父様」「師匠」
僕とオリビアの声が、圧が重なる。
「ほう?」
父様は、先までの愁然した表情から一変、獰猛な笑みへと変わる。さながらそれは、楽しみを見つけた童心の笑みだ。
「お前らにも見えているのか?」
「さあ。でも、なんとかしようとは思ってるよ」
「フハハハハ!!私は良き弟子をもったな!!どれ、示してみよ。マドワキアを背負う者たちよ」
父様はやる気満々だな。よかったよかった。少しは元気が出てくれて。
「わたしが相手だよ、師匠」
ぞくぞく、とオリビアの圧に鳥肌が立つ。それは目をカッ開いている父様も同じのようだ。
「これはオリビア、いっちょ前のプレッシャーを放つではないか。実にひりつく、死を感じさせるプレッシャーだ」
父様は稽古用の木剣を左右に持ち、二刀流観音開きの構えを取る。
父様の本気の構え、空気が重くなったかのように感じるくらいの威圧感だ。少しでも隙を見せると、動いてもないはずの父様に、持ってないはずの真剣で、瞬殺されると錯覚してしまう。父様、やはり次元が違う。
ただ、僕たちだって強くなってるんだぜ?
「師匠も、いいプレッシャー放つじゃん」
オリビアは全く動じてない。
構え会う2人。
お互いに1歩も譲らない。
「これほどの戦士に名を名乗らぬのは無礼というもの。私は真・ヴァルヴィデア流剣術”鬼人派”の使い手、オリビアよ————本気で参るッ!!」
瞬間、父様が間合いを詰める。その速さは刹那の速さだ。そして、手数も尋常じゃない。普通なら到底捌けない量と質の剣撃が視える。
だが、オリビアはそれを最初の一撃で残り全ての連撃をキャンセルさせる————
「!?」
「フハハハハ!!それがオリビアの到達点か!!実に面白い!!」
これは、どういうことだ。力も、技術も圧倒的に父様の方が上なのが確かだ。でも、針の穴を通すような、ここしかない、という点を突く•••オリビアには、別の景色が見えている。
「師匠、集中してよ。間合いだよ」
転じて、オリビアの連撃が父様を襲う。父様の致命的となる箇所を、全て狙い撃つような連撃。手数は多くない、でも、その全てが死を彷彿させる攻め手だ。決して無視できない攻撃、全てを捌かなければならない。父様は、防がざるを得ない。
オリビアは効率的な稽古を徹底していた。自分にとっていい方法、自分にとって1番早く成長する方法。それに合わないものは全てを削ぎ落としてきた。それは自分の戦闘スタイルにも当てはまっている。意味のない攻めはしない、意味のない防ぎはしない。その結果、その全てが、最適解を導き出す動きにたどり着いた。最小限の動きと力で、最大限の成果を出す、ヴァルヴィデア流剣術の正統派生•••。しかしそれは剣術ではなく、見る眼の到達点————オリビアは人の”真”をみる眼を持っている•••!
「ふはは•••厄介、実に厄介よ」
父様も攻めあぐねている。それほど攻められているわけではないのに。オリビアの攻撃は、物理的にも、流れ的にも致命的な部位を狙う。だから攻めに転じようとする動きすらもキャンセルさせられてしまう。
見ていてとても勉強になるな。その動きの先に全ての解答がある。何にもない攻めも防ぎも、よくよく考えるとその先に相手の動きを殺す意味がある。
ただ、父様だってまだまだ手を残している。
あんなに巨大だった父様の圧力が、目の前にいた父様の気配が一瞬で消える。父様の虚実•••テクニックを使わないと拮抗を崩せないと判断した、つまりオリビアは純粋な力だけの父様と互角かそれ以上ということだ。
自然と僕も顔がにやける。
あー、嫌だなあ。僕も戦闘狂みたいじゃん。でも、悲しいかな、わくわくしている僕がいる。父様じゃないけど、強者を前にすると血肉沸き踊るのう。
虚実を使い翻弄する父様、オリビアも巧妙に捌く。が、達人の凝縮された永遠と思われたその時間が、オリビアが膝を折り、父様が木剣をオリビアの首に添えるという形で終わりを告げる。
「ぐぅ•••」
「オリビア、よくぞたどり着いた。さながら真実の眼だな。お前の目には、動きの真髄が見えていると伺える。2人ともが”真”に辿り着くとはな。師匠冥利に尽きる」
オリビアが大の字で仰向けになる。息も絶え絶えだ。
「オリビアよ。敗因はその眼の領域への集中する気力と継続する体力の持続性だな。力も技術も私とやり合えている時点で、”真”の領域の中でも上位にいる。だが、体力はどうにもならん。どんだけよい素材でもそれを守る器がしょぼければ、腐れ落ちる。体も同じだ。戦闘において、いや、どの領域にもおいてどれだけ才能があっても、最後まで立ち続けなればそこで終わりだ。オリビアよ、お前はまだまだ強くなれる」
オリビアは多少落ち着くも、まだ返事ができないほど息が乱れている。初めての”真”の領域での実戦•••。その負担は半端じゃないだろう。でも、初めてがこの結果なら、末恐ろしすぎる。たぶん学校で相手になる人いないんじゃないかな?先輩とか強いのかな?
「うむ。しかし、よくぞたどり着いた。オリビアよ、”真”ヴァルヴィデア流を名乗るが良い」
息が乱れるオリビアの顔が、笑った気がした。オリビアも”真”に到達したか•••僕も、負けてられないな。
「さて、そこにも手をつけれなさそうな戦士がいるな」
父様は僕を見る。僕はどんな顔をしているのだろうか。あんまり知りたくないな。だって、戦闘狂だって思われるじゃん。
「ふははは、いい顔をするようになったな。さあ、始めようかッ」
父様、戦闘ハイってやつだな。でも、僕も待ってました、ってやつだ!




