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第3章 第38話 【新しい友達】

 ごとごとと、揺られて行く。さすが商人の個人馬車だ。座るところにはいいクッションがあり、腰は痛くならないし、揺れも少ない。ごてごてに豪華な装飾とかないのも落ち着く。


「マニ君のところって大きい商売してるって聞いたから、もっと宝石とかごてごてについてて他のライバルを威嚇してるような馬車のかと思ったよ」


 オリビアが面白いことをいう。


「そんなに大きの?」


「いやいや、ぼちぼちやで。ちょっとパドロンの大手3つに入るくらいや」


 いや、強すぎ!商業の国っていうのは商売の神様みたいな業者がごろごろしてる。その中で大手3つって、それもうトップ3の1つじゃん。

 マニ君も満更でもなさそうに、ちょっとふざけていう。

 言い方によっては自慢に受け取られることもありそうだけど、全然嫌な感じはしない。これもテクニックなのか、天性のものなのか。僕は言いたいことは言うし、変に気も使うこともある。コミュニケーション能力がある方ではないから、巧妙に精神的なパーソナルゾーンに入っているマニ君の立ち回りはなんだか新鮮だ。


「まあ、後はゴテゴテに飾ってたら嫌な気するやろ?最初にマイナスの印象で入る意味はあんまりないからな。綺麗に清潔感があるほうが、好印象にもたれがちや。お、ここは綺麗に気を使ってるやってな。ほな別の物事も繊細に扱ってそうやなって思ってくれるやろ?まあ人でも一緒やな。清潔感ないやつはきもいけど、清潔感あるやつってそれだけで目ひくやろ?そんなもんや」


 オリビアが首をうんうんと頷きながら、すごい勢いでメモをしていく。どうやらオリビアの何かにハマったらしい。

 なるほどなあ、と感心される。コミュニケーションなんてあんまり考えたことなかったけど、これだけ人が思うことを考え、そしてその需要と供給に応え、時に逆張りもする。コミュニケーションという巧みな戦場で商業の人たちは研鑽し戦っているのだと、一種の闘いなのだと感じさせられる。

 マニ君のこの懐に入る能力は天性のものもあるけど、相当の商業の教えを叩き込まれ、そしてそれをちゃんと考えて実践できる努力をしてきたということも伝わってくる。

 新しい分野を目の当たりにして、新鮮だ。


「でも、話を聞くと、マニ君は何でパドロン王国に進学しなかったの?」


「確かに。商売については都市マドワキアより商業の国の方が栄えてそうだけど」


「その意見もごもっともやな。わいもちょっと前までは、自分の国のところで学ぼうって思ってたで。ただな、アーサー殿下がわいと同じ代で、尚且つ王立中等学校に入学するって聞いてから考えが変わったわ。王家にそんな近づけるなんてことないからな。天秤にかけた時、それは商業の国で学ぶよりも、こっちに入学した方が価値があるっちゅーことや。ただ殿下は絶対特撰に行くから、こっちも相当受験骨折れたでー」


 確かに、王子に近づける、もはや友達になれるかもしれない可能性なんて普通に考えればないに等しいもんね。それを考えると、僕たちの代はそれだけでマドワキア王立学校に入学できる価値があるわけだ。

 ふんふん、なるほどなるほど。価値がある無しの考え方をしてみて、損得勘定ではなく、一旦普遍的に物事を考えられるからいいかもしれない。何か行き詰まった時に、一旦立ち止まって振り返る時の考え方に使えそうだ。試験勉強もあるし、予定を立てる上でとかで煮詰まったときは、意識的に使ってみよう。


「まあでも王立入ってよかったわ。不思議な人間がぎょーさんおる。商売だけだと思ってたわいの世界がよー広がったわ。いろんな人がおんねんなーって。他の世界を見ることも重要やってことを忘れるとこやったわ。その中で、あんたら、特にウィルについては不思議やわあ」


「え、僕?」


 至って普通よ?


「オリビアからはお金の匂いがすんねん。可愛いし華があるからな」


 オリビアがどんな反応をすればいいか気まずくなっている。はあ、全く、マニ君はわかってないなあ。ちょっと訂正しておこう。


「マニ君、可愛いじゃない」


「おん?」


「”めっちゃ”可愛いだ」


「バカア!!」


 オリビアにボコボコに殴られた。


「なんやなんや、あんたら付き合ってんのか?」


「全然!!ちきあってなんかないよ!!これっぽちも!!!全然!!!!」


 噛んだ。顔を真っ赤にして必死に否定するオリビア可愛い。でも必死に否定されすぎて僕という概念が削られて行くよ。ちょっと悲しいよ。もうそこまでにしてあげてよ。僕のライフはとっくにゼロよ。


「へー、そうなんや。ま、どうでもええけど。まあこんな華ある子と仲良いのもウィルの不思議なとこでもある。正直あんたからはお金の匂いがしいひん。でもな、お金になりそうな匂いがプンプンするねん」


「ど、どういうことでしょうか?臭いってことですか?」

 

「ひっひっひ、あんたおもろいな。ちゃうちゃう。ウィル、あんたからはなんか巻き起こすんじゃないかって予感がするねん。あんた自身からは全くお金の気配がしないけど、あんたが成すことに巻き込まれる形でお金になる臭いがすんねん」


「なるほど」


 わからん。


「何や、全然わかっとらん反応やな。まあ今で言うとあんた王子の騎士になったんやろ?王子が学友を騎士にしたってどえらい騒がれとったで」


 え、まじ?


「たぶん、自分が思ってる以上に界隈では問題なっとるで。だからや。だからそこに商売になりそうなことが絡んでくんねん。あんときはわいも王子それはギャンブルやでって思ったけど、こうして目の当たりにすると王子はあんたのその強さを見抜いてたんやな。騎士にする気持ちもわかるわ。で、それをよくわからんやつは反発するし、もちろん王子を守るやつもおる。そこの橋渡しの人材派遣や情報は価値がでるっちゅうことや。ってことでウィル、あんたはなんや不思議な存在やなってこと」


 僕は何にもしてない。でも、王子が僕を選んだことによって相場ができたってことか。僕自身にはなにもないけど、僕が強さを示したことによって僕じゃないものに、付随的に価値が生まれたってことか。


「なんとなくわかったような気がするよ」

 

「ウィル結構噂になってるんだよ?噂も独り歩きして、高等学生をしばいたとか、王子を強請ってるとか、結構やばいやつって尾鰭葉鰭ついてとんでもない人物像ができてるんだよ?薄々気づいていると思うけど、だからウィルには中々人が馴染んで来ないんだと思う•••」


 ちょ、ちょっと!僕こんなに人畜無害なのに!


「え、あの、みんなでなんとかして貰えませんかね?」


 これ、1人でやると空回りして、もっとやばいやつ認定されて解決しないやつだ。


「ま、こればかりは人の噂は何日ってやつに期待やな。わいもウィルのこと誤解してたわ。こんなに愉快な奴とは思わんかったわ。あんたとは仲ようしたかったんよ。王子に近づけそうやし」


 ひっひっひと笑うマニ君。素直な本音を言うのも、屈託ない表情でも笑うのもタイミングばっちし、褒められている気はしないが全く嫌な気はしない。けど、僕の噂と何とかならない気がする。どうすんの?


「後、助けてもらったのはがちやしな。大きい商売やし、ほんまに感謝してるのは本心や。まあこれも何かの縁や。これからもよろしゅうな。何かあったら何でも言ってええで。できる限り助けになるさかい」


 そんな状況とは知らなかったし、どうにもならなそうって思ってたけど、その中で話せる新しい友達ができてなんか感動しそう!


「こっちこそよろしく!」

 

 よかったー。このまま僕の友好関係はオリビアとアディで終わるのかと思ったよ。オリビアは1軍ポジだし、アディはなんやかんや自分のところで忙しそうだし、僕はぼっちになるんじゃないかと思ってたけど、何とかなりそうです、父様、母様。


「ところでマニ君、今さっきから大きな商売って言ってたけど何の取引なの?」


 僕は疑問になったことを聞いてみる。こっちはヴァルヴィデア方面だ。何かそっちに取引があるのだろうか。


「それはお客様情報やから教えることはできへんわ。ただ、王子の騎士のあんたになら少しは教えといた方がええとは思うわ。どんなとことどんなものを取引してるかは言えへんが、いつか大きな戦が起こるかもしれん」


「大きな戦•••?」


 オリビアがどう言うこと?と言ったように復唱する。

 大きな戦•••殿下が言ってた魔王国と帝国による侵略戦争のことだろう。噂程度だったものがだんだんと現実味を帯びてきている、と言うことか。

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