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色々と複雑な五月十日

 「要|………」

「美|………」

「統|………」

思い立ったが吉日とばかりに、二人を急いで引き合わせたけど…

こんな空気になったのを考えると、会わせたのは失敗だったかもしれない。

なんとも言い難い空気が漂う中で、そんな事を考えていた。

早くいじめをどうにかしないといけないと思う一心で、朝から二人を引き合わせられるようにしたけど、

もう少し慎重に会わせるべきだったかもしれない。…どうすんだ、この空気…

「統|えっと…とりあえず…御蔵さん、この人が新城美尋さん。新城さん、この人が御蔵要さん」

「要|よ…よろしくお願いします…」

「美|う、うん。よろしくね」

とりあえず、二人を紹介してみたが、同じクラスなんだから名前くらい知ってるだろうと、

意味の無い事をしていたと後になって気付いた。というか、会わせた後の事を考えてなかった。

…誰か教えてください…言っても誰も答えてくれないけど…

「要|………」

「美|………」

また空気を沈黙が支配しているが、

さっきと違って新城さんは少し笑っていて、御蔵さんは少し怯えているように見える。

…その様子が、俺を壁にして隠れたいように見えるのは何でだろう?段々と近付いてる気もするし…

色々と考えなしだった事が災いして、困り果てている俺に、

蜘蛛の糸程にか細い救いの手がこの時差し伸べられた。

「拓|なあ統次郎、そういえば俺、

今まで俺の好みの写真集を見せてたけどお前の好みってどんなのだよ」

「統|…今そんな話をするのか?」

「拓|いや、話してるのは分かってたけど、気になってよ」

だとしても、後にしようとか思えよ…正直助かったと思ってるけどさ…

あえて空気を読まなかった拓巳に、馬鹿と言うか、

よくやったと言うか悩んでしまう。まあどっちでもいいけど。

「拓|ところで、何の話をしてるんだ?俺も入れてくれよ」

「統|遠慮しようとか思えよ…」

「美|別にいいんじゃない?人数が増えた方が楽しいと思うし」

「要|そっ、それは何か違うような…」

「拓|まあ、気にしない気にしない」

「統|お前が言うのか、その台詞を」

「美|そんな事いいじゃない」

「拓|楽しければ何でもいいんだよ」

気のせいかな?段々と収拾がつかなくなってるような…

楽しげに笑っている拓巳と新城さんを見ていると、そんな気がしてくる。

「統|とにかく、一旦話をまとめよう。新城さんと御蔵さんは、拓巳…こいつが入ってもいいかな?」

「美|大丈夫だよ~」

「要|私も、大丈夫です」

「拓|全員一致だな。俺も話に混ざるぞ」

「統|俺の意見は無視なのか!」

「美|なら、多数決で決定」

「統|どうしたらそうなるんだ!」

確かに俺も、拓巳が入って来ても不都合は無いから別にいいんだけど、

俺の意思を無視されたようで納得出来ない!

「統|はあ…まあ、俺も文句は無いから別に構わないけどさ」

「拓|じゃあ、仕切り直しだな。ところで、この二人は誰だっけ?」

「統|同じクラスの人の名前を忘れる奴が居るか~!」

しかも、御蔵さんの方は二度も忘れるってどういう事だ!前に聞かせたのは二日前だぞ!

その上、その時には覚えてた新城さんの名前も忘れてるのは何でだ!

「拓|いや、顔は知ってるんだけど、名前が分からなくて」

「統|…こっちが御蔵要さんで、そっちは新城美尋さん。忘れるなよ」

「拓|ああ、そうだったな。よろしく二人共」

「統|御蔵さん、新城さん、知ってると思うけど、こいつは榎本拓巳」

「美|名前くらいは知ってたよ。よろしくね」

「要|話した事はありませんけど、私も名前は知っています。…よろしくお願いします」

一月以上は同じクラスになっているはずなのに、

何故か初対面のように振る舞っているのは変な気がするが、

それよりも二人がよろしくと言った後、その二人をじっと見ている拓巳の方が気になった。

「統|どうしたんだ?何か気になるのか?」

「拓|…78、55、81と、84、58、86、だな」

「統|…は?何を言ってるんだ?」

いきなり訳の分からない数字を言った拓巳に、何を言ってるんだこいつは、と思ってしまう。

俺と同じく何の事か分かっていないだろう二人も…あれ?

「統|御蔵さん?何で、震えてるの?」

「要|なっ、なな、なん、な…」

「美|何だか…顔が赤くなってるような…」

「統|えっ!さっきまで何ともなさそうだったのに。大丈夫?御蔵さん?」

呼びかけてみるが、反応が無い、ただの屍…ではないが、明らかに様子がおかしい。一体何が…

「美|お~い、どうしたの?返事して~」

「要|何で…」

「統|えっ、何が…」

「要|何で私のスリーサイズを知ってるんですか!」

「統|…はい?」

スリーサイズ?何でそんな話に…って。

「統|ああ、あの数字か。何の事かと思った」

「美|あの数字ってそういう事なんだ。なるほど~」

「要|貴女のも言われてるんですよ!何でそんなに落ち着いてるんですか!」

珍しい事に、御蔵さんが騒いでいる。…こんな事もあるんだな…不思議とそう思ってしまった。

「統|そういえばグラビアアイドルのスリーサイズも当てたりしてたな。

水着じゃないと分からないと思ってたけど」

「拓|まあ、俺は普通に服を着てる人でも分かるからな」

「要|自信満々に言う事じゃありません!」

「美|あはは。面白いねその特技」

「要|笑い事じゃないですよ!」

御蔵さんが声をあげている…すっごい違和感を感じる…というか、拓巳が居るだけでこんなに騒がし…

賑やかになるのは何故だ…俺が頼るべきだったのは拓巳だったんだろうか…

自分が出来なかった事をした拓巳に敗北感を感じてしまう。

「統|とりあえず、御蔵さんは落ち着いて。誰もそんなに気にする事じゃないんだから」

「要|普通は知られたくないんですよ!」

「美|え~別に知られても良いと思うけど?」

「要|それは貴女がおかしいんです!」

「拓|なんか、楽しくなってきたな」

「統|俺には大変な事になってるように見えるけどな…」

どうすればいいんだろうか、この状況…もう俺には、この場をまとめる事が出来ない気がした。

「統|それにしても、78、78かあ…割と普通だよな?」

「拓|そうか?俺は小さい方だと思うけどな」

「要|本人を前にして胸の事を言わないでください!傷付きます!」

「美|うわ~セクハラだよ、酷いね~」

「拓|何で!俺はただ、見たままを言っただけなのに!」

「統|だからじゃないか?」

「美|言っておくけど、国東君もセクハラしてたよ?」

「統|ちょ…嘘だろ!何も言って…」

いや、言ったな。確かに言ってたな。一言だけだけど…

でも、それを笑いながら言ってる新城さんもどうなんだろうな…

「拓|もし、78が普通なら、84は、大きめになるって事だぞ」

「統|まだ続けるのか…」

「拓|俺は信念を曲げるつもりは無い!」

「要|そんな信念は必要ありません!」

…何だか、ボケとツッコミの住み分けが出来てるような…

これって良い事なのか?何か違う気がするけど…

「美|だけど、78が小さいとしたら、60くらいの人は小さすぎるって事にならない?」

「統|セクハラと言っておきながら、新城さんも同じ話するんだ…」

「拓|60って、子供くらいじゃないか。そんな人が居るか?」

「統|俺の話は無視か…居るんじゃないか?色んな人が居るんだし」

「美|…ロリコン?」

「統|何でそんな発想になったんだ!」

「要|しかも私を見て言いましたよね!私は幼児体型じゃないです!」

「拓|気にしすぎじゃないか?別にまな板でも…」

「要|胸の事は言わないでください!」

ああ、もう…まとまりがなさすぎて、話が変な方向に突き抜けていく…

このままだと、二人を引き合わせた意味がなくなってしまう…何とかしなければ…

「統|もうこの話はやめよう。これ以上続けると、俺も御蔵さんも辛い」

「要|国東君…」

「美|えっ?嫌」

「拓|やめる気はない」

「統|よし、なら続けよう」

「要|国東君!」

だって二人共やめる気がないって言ってるんだから、どうしようもないだろう。

止めたって聞いてくれるわけがないんだから。

「要|そもそも、何でこんな話をしてるんですか!」

「統|始まりは拓巳の一言だったよな?」

「美|責めるべきは一人だけだよね」

「拓|俺だけかよ!二人だって乗っかったのに!」

「統|少なくとも、俺は止めようとはした」

「美|あたしがセクハラって言っても続けてたでしょ?」

「要|この中で一番悪いのは誰かと言われたら、どう考えても…」

「拓|全員が俺の敵なのか!」

残念ながらその通りだ。俺にも非はあるが、全て押し付けさせてもらう。

これも早く話を終わらせるためだ。…悪く思うなよ…

「統|拓巳が悪いと決まったけど、もう時間も時間だし、友好を深めるのは次の機会にしよう」

「美|あっじゃあさ、明後日に駅前の繁華街に行かない?そうしたら、ゆっくり出来るでしょ?」

「統|あ~確かにそれはいいかも。御蔵さんはどう思う?」

「要|私はそれでいいと思いますけど…」

なんだ、けどって。なんか含みのある言い方だな…本当は行きたくないのか?

「美|じゃあ御蔵ちゃんと国東君は繁華街行き決定ね」

「統|…そうだね。拓巳も行きたいなら来るか?人数多い方がいいだろうし」

「拓|俺は週末に用事があって行けねえんだ、悪いな」

「美|そっか~なら、三人で行こっか」

「統|時間はどうしようか。今のうちに決めておいた方が後々面倒がないだろうし」

「要|午前中なら十一時、午後なら十三時くらいですかね」

「美|だったら十一時にしない?一緒にお昼食べてから遊ぶの」

「拓|いいんじゃないか?昼を食べそこねる心配もないだろうし」

「統|何故会話に入ってきた…」

「要|とっ、とにかく、明後日の十一時に駅前広場入口でいいですか?」

「統|あそこなら繁華街にも近いし、いいと思うよ」

「美|よし、じゃあそれで決定~!」

「統|それじゃあ解散しようか」

それぞれが自分の席に戻っていく中。俺は席につかずに、考えていた。

御蔵さんと新城さんを引き合わせて、二人が仲良くなっていいのか、と。

「統|必要な事…だったよな…?」

御蔵さんを守るなら、こうするしかない。

だけどもし、二人が俺の事を話して、俺が隠している事が知られたら?

必要以上に仲良くなられると、俺が困る事になるんじゃないかと不安になってくる。

「統|…心配しすぎかな…」

あの二人は正反対な性格をしている。

俺が考えているような事は起こりえないはずだ。心配する事はない。

「統|…そういえば、繁華街で何をするんだろう…」

あまり行く事がないから知っている店は少ないが、やろうと思えば大抵の事は出来る場所だ。

だからこそ繁華街に行こうと言ったんだと思うけど…俺は何をするんだろうか?

「統|思いつくのは荷物持ちくらいだけど…」

俺は別に何か行きたい所があるわけじゃないから、

基本的にはあの二人の…新城さんの行きたい所に行くと思う。となると、考えられるのは…

「統|…どこだ…?」

分からない…新城さんが何をしに行くつもりなのか見当もつかない!

…困る事にならないといいんだけど…

不安を募らせながらも、心配する事はないと自分に言い聞かせて、自分の席に戻ることにした。

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