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泣きたくなった五月九日

 「統|………」

「拓|統次郎、今日こそはお前も満足する写真集を…ってどうした?」

「統|ただの…寝不足…」

昨日は悩みすぎたせいであまり寝られなかった。今どれぐらい眠いかと聞かれたら、

教室に着いた途端に机に突っ伏すぐらいには眠い。

「拓|学校に来てすぐに寝るなよ…今日は始まったばかりだぞ?」

「統|別に眠りたいわけじゃないんだよ…だけど、ソレを見る気にはなれない…」

「拓|なんだよ、今日こそは統次郎が満足しそうなグラビアアイドルの写真集持って来たのによ」

「統|明日にしてくれ…明日に…」

今日は見たって何の反応も返せそうもない…

「拓|まあ、そんな調子じゃまともに見れないか。ところで、

何で寝不足なんだ?エロ本でも拾って読んでたのか?」

「統|誰が…そんな事するかぁ…」

「拓|教科書で弱々しく叩くなよ…冗談だって」

「統|冗談でも…笑えるかぁ…」

「拓|…声に覇気がねえ…」

それだけ眠いんだよ…少しは気付けって…

「拓|何かあったのか?そんなになってると、少し心配になるぞ」

「統|悩み事があるだけだ…」

「拓|悩み事?それってどんな?」

「統|言えない…」

「拓|言え」

言えるわけないだろ…あの二人に接触出来る奴に。

言ったら馬鹿正直に二人に告白が嘘って事をしゃべるって分かってるんだから。そうでなくても、

二人に扱いづらいって拓巳を通して言うようなものだ。そんな事、させるわけにはいかない。

「拓|お前がそんなだと、俺が写真集持って来る理由が無くなるだろ」

「統|…理由…?」

「拓|俺のプライドにかけて、お前の好きな体型の女の子を見つけてみせるっていっただろ」

ああ…そういえば一年の時に、こんなの見て楽しいのか?って言って、

そこから少しだけ口喧嘩してたら、何故かお前の好きな女の子の写真集を見せて、

俺が見ているものがどれだけ面白いか分からせてやるって言われてから、

ああいった写真集を見せてくるようになったんだっけ。…忘れてた。

「統|諦めろ…どうせ無理だから…」

「拓|…なら、兄貴のエロ本を持って来て見せてやる」

「統|やめんかい!見付かったらどうするんだ!」

前にそれを持って来て、見付かっただろう!

あの時以上に起こった先生は見たことが無いくらいだったのを忘れたのか!

「拓|目が覚めたか?なら早く見ようぜ」

「統|…分かったよ、まったく…」

その後、時間になるまで拓巳と写真集を見たが、眠気は無くなっておらず、

適当な返事をしただけで内容は見てなかった。


 …眠い…さっき一限目が終わったばかりだけど、ものすごく眠い…

居眠りしそうなのをこらえて頑張ったけど、次は無理だろうな。

「統|何か…眠気覚ましを…」

ああそうだ、コーヒーを飲もう。自販機に無糖のコーヒーがあったし。

そう思い立ち、早速教室から出る事にした。

「美|あ、国東君。どこか行くの?」

「統|新城さん…ちょっと飲み物を買いにね…」

「美|今日も?なら、あたしも行こうかな?」

「統|…奢らないよ?」

「美|そんなつもりじゃないよ。ただついてくだけだから」

廊下に出てすぐに新城さんに話しかけられた。…今一番相手したくない人なのに…面倒な…

「統|別にいいけど…面白い事なんて無いよ?」

「美|じゃあ面白くしてくれない?」

「統|…さっさと買いに行こうか…」

何言っても無駄なら諦めよう…きっとそれが一番いい気がする…

階段へ歩く俺に倣うように付いてくる新城さんを見てそう思った。

「美|なんかさっきから眠そうな声だね。夜更かしでもしたの?」

「統|いや…単に寝付けなかっただけ…」

「美|いつまで起きてたか覚えてる?」

「統|最後に時計を見た時は…四時三十分だったかな…」

「美|…ベットから出たのは?」

「統|…六時三十分…」

「美|寝てたとしても、二時間しか寝てないの!よく眠らなかったね…」

「統|…そうだね…」

「美|何で寝付けなかったの?」

君のせいだよ。そう言いたくなるのを必死で抑えて、息を吐く。

「統|ベットには入ったんだけど…色々と考え事をしちゃって…」

「美|ふうん…そうなんだ。だからコーヒーで眠気覚まし?」

「統|そうだよ…よく分かったね…」

「美|だって眠たい時に飲む物って、コーヒーくらいじゃない」

まあ、そうか。少し考えれば分かるよな。

「美|…ねえ、もしかして寝不足の原因ってあたしのせい?」

「統|ぐっ!げほ、げほ!」

「美|ちょっと、何で今咳き込むの」

図星をさされたからだよ!まさか言い当てられるとは思ってもいなかったから、

驚きのあまり、咳き込んでしまった。そのおかげか、眠気なんてどこかに飛んでいったけど。

「統|ごっごめん…吃驚して。何でそう思ったのかな?」

「美|えっ?ただ、なんとなくそうかなって」

「統|………」

そんな理由で当てられたのか…何か複雑…

「美|で、どうなの?あたしの事を考えてたから寝不足になったんでしょ?」

「統|い、いや別にそういう理由じゃないよ」

御蔵さんの事も考えてたから、新城さんの事だけ考えたから寝不足になったわけじゃないし。

大体、言い当てられたからって素直にそうだって言えないだろ。理由が理由なんだし。

「美|なんだ、つまんないの」

「統|つまんないって言われても…」

「美|ああ、やっぱりあの時付き合うって言えばよかったって思って、

どうすれば今から付き合えるんだろうって、考えてたから寝不足になったんなら面白かったのに」

「統|それはない、それだけはないから」

たとえそう思ってたとしても、寝不足になるまで考えないだろう。

一ヶ月過ぎるのを待つか、すぐに告白の返事をするかのどっちかを選ぶはずだ。

「美|…食い気味に否定しないでよ…」

「統|だって違う上にありえないから。冗談だとしても面白くない」

「美|じゃあ、何で寝不足なのか教えてよ~」

「統|早くコーヒーを買いに行こうか。さっさとしないと置いて行くよ」

「美|ちょっと!教えてってば!」

あ~…もううるさいな…こういう時は聞こえないふりをしよう。

新城さんの教えて攻撃はコーヒーを買うまで続き、飲み物を奢る事で黙ってもらう事にした。

…少ししつこすぎないか…?


 結局、コーヒーを飲んだ甲斐もなく、居眠りをしてしまった。そのおかげか、

眠気は取れたが、堂々と居眠りをしたせいで、昼休みに職員室でお叱りを受けてしまった。

「統|やっと終わった…」

眠るつもりは無かったのに、つい睡魔に負けてしまった…おかげで昼休みが半分も潰れたし…

早く昼飯を食べないと空腹のままで午後を過ごす事になると思いながら、早足で階段へ向かっていると。

「早|本当に何も無いんだね?」

「要|…はい…」

聞き覚えのある声が聞こえた。声の聞こえる所を覗いてみると、豊中先生と御蔵さんが話をしていた。

「早|最近御蔵がいじめをされているって噂を聞いてね。

何も無いならいいんだけど。…何かあったら先生に相談しなさい」

「要|…わかりました…」

そう言って頭を下げた御蔵さんはこっちに向かって…ってまずい!隠れないと!

慌てて近くにあった掃除用具の入ったロッカーの中に隠れる。

体が全部入りきらないから半開きになっているけど音さえたてなければ大丈夫。…だと信じたい…

そんな気持ちで目の前を通り過ぎて階段を昇る御蔵さんを見送る。

後は豊中先生が通り過ぎれば大丈夫、そう思った時だった。

「早|これで隠れてるつもり?早く出てきなさい」

ガン、ガン、と強い音をたてて、ロッカーが蹴られていく。ちょ!ばれるの早いな!

「早|早く出てこないと、ロッカーを倒して引きずり出すからね」

「統|出ます!出てきますから!蹴るのは止めてください!」

ロッカーを倒された上に、引きずり出されるのはさすがに嫌なので、ロッカーから出る事にした。

蹴られるだけでも十分怖かった…

「早|最初からロッカーに隠れなきゃ良かったんだ。で、さっきの話を盗み聞きしたのか?」

「統|なっ何の事ですか?俺にはさっぱり分かりません」

「早|国東、あたしはロッカーに隠れるような、

悪い生徒には指導しないといけないと思うんだ。だから…」

「統|すみません盗み聞きしましただから指導はやめてください」

「早|分かっているならいい」

早口で謝り、なんとか説教と指導はとりやめてもらえた。よかった…

「早|聞いていたならちょうどいい。御蔵の事なんだけど、最近いじめを受けていない?」

「統|…何で俺にそんな事を?」

「早|さっきも言ったように、最近御蔵がいじめをされているって噂があってね。

ここのところ御蔵によく話しかけてる国東なら何か知ってるんじゃないかと思ってね」

確かに御蔵さんに話しかける事はあったけど、そんなに話してるか?

「統|俺はそんなに御蔵さんと話してませんよ?」

「早|それでも、同じクラスの奴よりは話しているでしょ?」

「統|まあ…そうですけど…」

「早|先生としては、担当してるクラスでいじめがあると色々と困るんだよ、給料が減ったりね。

でもそれ以上に、いじめられているなら助けたいと思っているんだ。

だから、何でもいい、何かいじめらしいものを見なかった?」

「統|………」

先生はきっと、本気で何とかしたいと思ってるんだろう。そうでなきゃ、

こんな事を普通はしないはずだ。だけど、俺は本当の事を言うわけにはいかない。

…言えば俺のやっている事が知られてしまうから…

「統|…いえ何も見てません」

「早|そっか…悪かったね蹴ったりして。でも、盗み聞きも、

ロッカーに隠れるのも二度としない事。いいね?」

「統|はい。…御蔵さんに何かあれば、先生に報告します。…友達として」

「早|…分かった。ありがとね」

そう言い残して先生は、職員室に戻っていった。

「統|…困ったなあ…」

来てほしくなかった厄介事が来てしまった…いや、解決するだけなら、

先生に報告すればいいだけだけど、それが出来ない理由があるから別な方法を考えないといけない。

「統|でも、どうすればいいんだろうな?」

残念な事に、それが思いつくような頭を俺はしていない。それどころか、

頭を悩ませる問題事に向き合わないといけないんだ。

どっちも無視出来ない、重要な問題だからたちが悪い。

「統|あ~…一度に解決できる方法はないかな~…」

「要|何の、ですか?」

「統|いや、悩み事が一気に解決…って、うわああ!」

「要|…そんな漫画みたいな驚き方をされるとは思いませんでした…」

「統|一人言に反応されたら驚くって」

理由はそれだけじゃないけどね…聞かれてないといいんだけど…

「要|あの…さっき先生と私の事を話していたのを聞いて。

…もしかして私の事で悩んでいたのかもしれないと思ったんですけど…」

「統|………」

「要|あの、国東君…?聞いてますか?」

「統|あ、うん。聞いて、いるよ」

やばい…聞かれてた…何かまずい事しゃべってないといいんだけど…

なんとか表面上は取り繕おうとしているが、心の中ではパニックで頭が混乱している。

「統|確かに寝れなくなる程の悩み事はあるけど、御蔵さんの事だけじゃないから」

「要|そうですか…ってあれ?だけじゃないんですか?」

「統|ごめん、間違えた。御蔵さんの事じゃない、だ」

危なかった…さっきの失言は何とか誤魔化せたが、次は無理かもしれない…

「要|…何で悩んでいるのか聞いてもいいですか?」

「統|あっ、そうだった。先生に頼まれて、プリントを取りに行かないといけないんだった」

「要|えっ?そんな話、聞いてないんですけど…」

「統|早く行かないと先生に怒られるから、じゃあね!」

「要|あっ!待ってください!」

あれ以上話を続けたら、確実に口を滑らせてしまうと思い、強引に話を終わらせて逃げ出した。

…次に会う時が怖くなった気はするけど…

「統|はあ…はあ…っもう、大丈夫かな…」

追って来てる気配は無いし、きっと大丈夫なはず。

「統|はあ…こういう時だけ話しかけてくれなくてもいいのにな…」

御蔵さんも、いつもあれくらい話してくれればいいのに…

そうしたらいじめられる事も無くなるんじゃないか?

「統|…どうすればいいんだろうな…」

あの二人に対する問題はいいとして、御蔵さんのいじめに関しては、俺は何か出来るのか?

たとえ俺がいじめの実行犯である三人組の事を先生に報告した所で、

それで終わりにならないと思う。あくまで俺の感想だが。

「統|あ~あ。誰かが何とかしてくれたらな~…」

例えば拓巳とか、新城さんとか…ん?

「統|そうだ…新城さんなら何とか出来るかも…」

クラスの中心人物の近くなら、嫌でも目立つはず。そうなれば、

あの三人がいじめを続けられなくなるかもしれない。

「統|うん、いい考えかもしれないな」

だけど、二人のうちのどっちにこの話をしようか…下手したら断られるかもしれないし…

「統|どっちに話をしようか…」

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