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偶然の続く六月五日

 皆が帰り支度をして下校していく放課後の教室。

俺は試験の答案用紙を見て溜め息を吐いていた。

「統|あ~あ…はあ…」

平均点くらいだったのに…点数が下がったって親に知られたら大変だな…

いや、今は一人暮らしだから今日は大丈夫だろうけど…

それでもいずれは知られるのだから、次で挽回しておかないといけない。

「統|片方気にしないようにしたら、もう片方の気にしないようにしてた事が気になってる…」

試験の結果を気にしないようにすると背後が気になるし、

背後を気にしないようにすると試験の結果が気になってしまう。

そんな事を考えて、机に肘を乗せて頭を抱えていると。

「美|何をやって…って、また点数が下がった事を気にしてるの?」

「統|新城さんか…いや、次の試験が憂鬱なだけだよ」

「美|試験が終わったばっかりなのにもう次の試験の事を考えてるの?早くない?」

「統|次は全教科の点数を上げないといけないし、赤点取ったら笑えないから…」

次も同じような点数になったら本当にまずいし、

これ以上下がって赤点になったらもう泣くしかなくなる。

だから次は成績を良くしないと補習するはめになってしまう。

そうなるのは絶対に嫌だからな…

「美|赤点ぎりぎりだったわけじゃないんだから、そんなに焦らなくても…」

「統|いや、新城さんはもっと焦るべきじゃないかな?」

前より上がったって言ったって、そんなに高いわけじゃなかったんだから、

油断したら赤点取るかもしれないんだよ?

余裕そうにしている新城さんにそう思ってしまった。

「美|別に平気だよ~次の試験はまだ先なんだし」

「統|前は赤点はぎりぎり回避してるって言ってなかった?」

「美|心配しなくても、次もあたしはジュースを奢らないから!」

「統|その心配はしてないから!」

何?次の試験でもやるつもりなの?

しかも奢らないって断言するって事は、誰かに奢らせるつもりなんだね?

次もまた俺が奢る事になりそうな気がして、絶対に止めなきゃいけないと思った。

だけどそれよりも気になった事を思い出して、考え込んでしまった。

「美|…国東君?聞こえてる?」

「統|………」

新城さん…俺がつけられてるって知ってるのかな…?

新城さんの性格を考えると、新城さんが尾行を頼むとは思えないし…

あの三人の内の誰かが言い出したんだろうけど、新城さんに言ってるのかな…?

そもそも尾行していると分かっているのは一人だけだが、

尾行される理由を考えると三人共関わっていないとおかしいので、共犯者という事にする。

「美|反応が無い…なら、頬を抓って…」

「統|抓らなくてもいいから、ちゃんと聞いてるって」

「美|むっ…残念…」

「統|残念じゃないから…」

…悩むくらいなら、それとなく聞いてみる方がいいかな…

これ以上悩んでたら新城さんの玩具にされそうだし…

俺の頬に伸びてきた新城さんの手を止め、抓られないようにしながらそう思った。

「統|ジュースで思い出したんだけどさ、

三限目の授業の後の休み時間にジュースを買いに行った時にさ」

「美|ああ、国東君が試験の順位予想を外してあたし達のジュースを買いに行った時の話?」

「統|…言いたい事はあるけど…今は言わないでおくよ…」

言ったって仕方ないし…言ったとしても忘れるだろうからね…

「統|自販機の前で、誰かの気配を感じたんだよね。周りに誰も居なかったのに」

「美|………」

「統|まあ俺は気のせいかなって思ったんだけど、変な話だよね」

「美|へっへえ~そうなんだ…不思議だね~…」

あ…この反応…知ってるっぽいな…

目を合わせないように視線を泳がせながら惚けている新城さんにそう思った。

「統|だけどさ、何だか気になるんだよね…新城さんはどう思う?」

「美|なっ…何がかな?」

「統|いや、俺が人の気配を感じた理由だよ。何か分からない?」

「美|えっと…気のせいじゃないかな?その時以外じゃ気配はしなかったんでしょ?」

「統|それがどうしてか、それ以降から休み時間になると気配がしてさ…今もそうなんだ」

「美|えっ…そうなの…?」

「統|まあ、思い込みかもしれないけどね。探したわけじゃないけど」

ふとした時に、ああ見てるな、と思う事は多々あった。

でも、出来るだけ気にしないようにしていたので本当にそうかは分からない。

今もつけられてるかも分からないんだよな。

「統|もし本当に誰か居たなら、誰なんだろ…誰だと思う?」

「美|そんな事を言われても…分からないよ…」

「統|同じ人なら、新聞部かな?でも、気配を消し忘れるなんてへまするかな…?」

「美|新聞部は忍者みたいだね」

「統|さすがに天井に潜んではないと思うよ…?」

「美|じゃあ、スパイかな?」

「統|最新機器を使って盗聴や変装はしてないって…ていうか、スパイは日本に居ないし…」

「美|だったら探偵?」

「統|迷子の猫を探したり、浮気調査してないから…後、急に現実的にされるとツッコみづらいから…」

それと、探偵を忍者やスパイと同列にするのはどうなんだろうか…

それ以前の話として、新聞部は何をしてると思ってるのかな?

「統|俺が言うのも何だけど、新聞部はそんな所じゃ…」

「美|そうだ!ストーカーはどうかな!」

「統|新聞部に失礼じゃないかな!」

最早不審者じゃないか!新聞部は人を付け回るような事は…してないのかな…?

考えてみたら、段々と自信が無くなってきた。

「統|せめてさ、新聞記者とか言おうよ…」

「美|ああなるほど、それがあったね」

「統|新聞部って言ってるんだから、普通は記者を思い浮かべないかな…?」

「美|だって新聞部員じゃないもん」

「統|そこは問題じゃないから!」

何一つ理由になってないからね!部員じゃなくても思い浮かぶはずだから!

「統|そもそも、俺をつけている人が居るかははっきりしてないんだからさ、今犯人探ししなくても…」

「美|国東君が自意識過剰だったって思うなら、あたしは別にいいけど?」

「統|自意識過剰って言うのはやめて?それなりに傷付くから…」

それにつけられてるのは知ってるんだから、自意識過剰じゃない事は分かってるはずだよね?

なのにその言い方は酷くないかな?

「統|自意識過剰だって言うなら、そこに人が居るか見てみる?」

「美|えっ…それはちょっと…」

何だか視線と気配を感じた教室の入口を指差してみる。

すると、新城さんは明らかに動揺した様子で入口から目を逸らした。

「美|人が居るはず無いんだから、見る必要無いよ」

「統|俺だって人が居るとは思って無いよ、適当に言っただけだし」

「美|なら、見なくても…」

「統|どうせ居ないなら見るも見ないも同じだって。一人で行きなよ」

「美|…あたし一人でなの?」

「統|最初からそのつもりだったけど?」

本当に居たら、一緒に見に行くのはまずいでしょ?

新城さんの友達が居るなんて知るの、俺は嫌なんだし。

見に行く事自体が嫌なのか、複雑そうな表情をしている新城さんを入口へと促す。

教室の外を見回した新城さんは、何かに気付いた様子で教室を出ていった。

おそらく、あの三人の誰かが居たから話をしに行ったんだろうけど…

「統|…遅いな…」

誰か居るか見に行ったにしては遅いと感じる十分が経っても新城さんは戻ってこない。

…忘れられてるのか?見に行くべきかな…?

そう思い、教室を出ようと席を立つと。

「美|ごめ~ん、遅くなっちゃった!」

急いで戻ってきたのか、少し息を荒くして新城さんが教室に入ってきた。

「美|念のために廊下の隅まで見てきたけど、誰も居なかったよ!」

「統|別にそこまでしなくても良かったんだけど…それなら俺の気のせいだね」

「美|だから言ったでしょ、誰も居ないって」

「統|そうだね。でも…だとしたら俺が感じた気配は一体…」

「美|自意識過剰じゃない?」

「統|だからそう言うのはやめて…傷付くって…」

せめて他の言い方にして…なるべくなら心にこないやつで…

二度目の言葉は前よりも心にさくっと刺さった。

「美|あはは、っと、国東君を笑ってる場合じゃなかった」

「統|俺を笑わないでくれない…?」

「美|あたし用事があるの思い出したから帰るね。じゃあね!」

そう言って新城さんは鞄を持って、小走りで教室を出ていった。

「統|慌ただしいな…」

嘘くさい理由とわざとらしい態度で教室を出ていったけど、何だったんだろうか…

あまりにも怪しすぎて何も言えなかった。

「統|…俺も帰るか…」

誰も居ない教室でそう呟いて、俺は教室を出る事にした。


 人気のほとんど無い学校から家に帰るため、靴箱で靴を履き替える。

「統|今日の夕飯、どうしようかな…」

食材は少ないわけじゃないけど、買いに行こうかな?今の財布の中身と冷蔵庫の中身だとすると…

そんな事を考えながら、玄関を出ようとしたその時。

俺を尾行していた彼女が校門へ向かって行くのが見えた。

「統|あれ…?まだ学校内に居たのか?」

もう帰ったと思ってたのに、何か用でもあったのか?

そう思った俺は、彼女がやって来た方向、体育館の方を見た。

そこには新城さんと、嘘の告白の事を知っているさっき校門に向かった彼女を除いた二人が居た。

「統|…何か話してるみたいだな…」

四人で話した後、今度は三人で話をしているらしい。

…ちょっと聞いてみるかな…気になるし…

そう思った俺は、隠れながら新城さん達に近付き、盗み聞きを始めた。

「美|国東君に尾行されてる事を知られなくて助かったよ…」

「危なかったんでしょ?よく誤魔化せたわね?」

「美|誤魔化したわけじゃなくて、国東君が見に行かなかったからばれなかったの」

「美尋ちゃんが見に行かないようにしたの?」

「美|ううん、国東君が気配がするって言った所にあたしが見に行かされたの」

「…で、そこにあの子が居たのね…」

「あと少しで尾行がばれてたんだね…」

「美|三限目の後の休み時間から気配を感じてたって言ってた」

「朝からじゃないんだ?」

「その休み時間に何かあったのかしら?気付かれた様子は無かったってあの子言ってたけど…」

ちょっと待って?俺、朝から尾行されてたの?

あれから結構気配感じてたのに…気付いてなかった…

一日中つけられていた事に気付いていなかったのがショックだった。

「美|休み時間になったら気配がするようになったって言ってたけど、昼休みから後も尾行してたの?」

「してたんじゃないかしら?あたし達二人は尾行なんてしてないけど」

「美|えっ、二人も尾行してたんじゃないの?」

「してないしてない。わたし達が止めようとしたから、あの子は一人で尾行してたの」

「さすがにばれそうになったから、明日はもうしないとは思うけど…」

「美|…明日も尾行したら、今度こそばれちゃいそう…」

「…一応、どうするか聞いておくべきじゃないかな…?」

「美|尾行するって言ったら、あたしが止めておくよ」

「あたしも釘を差しておくわ。何かあったら大変だもの」

「国東君が何かしようとしたら、皆で止めに行こう!」

「美|そうだね、国東君は怒るかもしれないから、その時は庇わないと!」

う~ん…この場合、俺が何をすると思ってるんだってツッコむべきか、

俺が何かする前提で話しないでってツッコむべきか…悩ましいな…

どっちにしても、三人には伝わらないが…

「美|じゃあ早速、あの子に聞いてみないと!」

「時間がかかるだろうから、何処か落ち着ける場所に行った方がいいんじゃない?」

「美|なら、あたしの家に行く?」

「それはいいかも。美尋ちゃんの家なら近いし、誰かに話を聞かれる事も無いもん」

「…何だか、今誰かに話を聞かれてるみたいな言い方ね…」

「美|そんなわけないでしょ?誰がこんな話を聞きたがるの?」

「案外…そこに隠れて聞いてる誰かが居たりして…」

「美|もう!冗談はやめてよ!」

「冗談か本当か、確かめてみまっ…しょ!」

油断していた俺にとって、そこに隠れている誰かが居るか確かめられるのは、不意打ちのようだった。

あっ…見つかった…!

「………」

「美|…どう?居た…?」

「…やっぱり誰も居ないわ」

「そうだよね…誰か居るわけないよね…」

「美|何でちょっとがっかりしてるの?」

「はあ…とりあえず、美尋の家に行きましょ?誰も居なくても人目が気になるわ…」

「うん…錯覚だって思っても気になるもん…あの子への話は歩きながらにしよ」

「美|なら早く行こうよ、日が暮れない内に」

そう言いながら、新城さん達は校門へ向かって行った。

あっ…危なかった…!

俺が居る場所とは反対の方を見てたみたいだから盗み聞きがばれなかったみたいだ…

見付からなくて本当によかった…

「統|もう駄目かと思った…」

隠れるのをやめて物陰から出ながら、俺はそう呟いた。

…見付かっていたら、大変な事になったかもしれないからな…

最悪、俺が嘘を吐いてるとばれてたかもしれない…いや、言いすぎか?

「統|まあ、安心するのはまだ早いけどな…」

俺の口から本当の事を伝えるまでは、嘘を吐き続けないといけない。

なのに、気を抜いて嘘がばれたら今迄の事が色々台無しになってしまう。

それだけは避けたい。

でも…今出来る事は無いんだよな…

「統|…とりあえず…夕飯の準備をするか…」

余計な事をしなきゃ大丈夫だろう。

そう思った俺は、新城さん達の事を考えるのをやめて買い物をしに行く事にした。

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