背後が気になる六月五日
「統|…何…やってたんだろうな…」
教室から自販機に向かう道すがら、そんな事を溜め息と共に零した。
三限目後の休み時間になって、新城さん、御蔵さん、拓巳にジュースを買いに行っている。
さすがに三人分のジュースを奢らせるのは可哀想だと思ったのか、
三人はジュース代を出して買いに行かせる事になった。
…あまり変わらない気がするが…
「統|はあ…」
使い走りしている事には別に何とも思ってないが、点数が下がった事はまだ気にしている。
…色々あったからなあ…でも点数が下がったのはそのせいにする気は無いし…
「統|赤点取るよりはましだけど…」
いつも通りに勉強はしてたはずだったし、集中出来ていたはずだったんだけどな…
頭に入ってすぐに、頭から出ていったのかな…?
「統|やっぱり…無理してでも勉強会に参加するべきだったかな…」
いや、あの状況で御蔵さんと新城さんとで勉強会なんて出来なかった。
それに、勉強会をした所で、新城さんに振り回されるだけな気がするしな…
「統|はあ…もう終わった事でうだうだと考えるのはやめよう…」
反省するのはいい事だけど、いつまでも気にするのは良くないからな。
「統|じゃあ、さっさと三人分のジュースを買いに行くか」
面倒な事は手早く終わらせるに限るからな。
落ち込むような事を考えないようにするために、自販機へと向かっていった。
自販機のある場所に着くと俺は新城さん、御蔵さん、拓巳が頼んだ、
林檎ジュースと、アイスティーと、カフェオレの紙パックジュースを買った。
その時、何かがおかしい事に気付いた。
「統|…んん?」
ばっ!っと後ろを振り返り、周りをじっと見回してみる。
「統|…気のせいか…」
誰かにつけられてるな…一瞬だけだったけど、
新城さんが嘘の告白をした後に話をしてた三人の誰か一人かな…
尾行されているのに気付かないふりをしながらそう思う。
今尾行している犯人を見付けてややこしい事にするよりも、
気付かないふりをしてやり過ごす方が面倒が無いので放っておく事にする。
「統|さて、教室に帰って三人にジュースを渡しに行くか」
さっき買ったジュースを三つ抱えて、何もなかったかのように振る舞う。
…しかし…何の目的があって今更俺をつけてるんだろうか…思い浮かぶ理由ならなくは無いんだけど…
教室に向かって歩きながら、後ろからつけてきている人物について考える。
「統|………」
教室に向かって歩き始めたが、居ると分かるとどうしても後ろが気になってしまう。
…少しひやっとさせてみるか…尾行してるんだから隠れるだろ。
「統|やっぱり、自分の分も買うかな」
そう言って自販機に戻っていく。
振り返った時に何かが動いた気配は無く、誰の姿も見てないので息を潜めているんだろう。
「統|さて…何を買うかな…」
もし本当に新城さんの友達なら、俺をつける理由はおそらく新城さんのためだろう。
俺の行動の何かがおかしいと思ったからなのか、はたまた新城さんを心配しての行動なのか、
それは今の俺には分からない。
「統|甘いジュースって気分じゃないし…カフェオレは…微妙だな…」
ただ、言える事があるとすれば、俺の事を不審に思っているが故の行動だという事だ。
…それが約束の期日が過ぎたら新城さんはどうするのか心配だからか、
俺の変態の噂がまだ尾を引いているせいなのかは知りたくないなあ…
「統|はあ…」
おっと、いけない…思わず溜め息が出てしまった。
無意識に表に出てしまった暗い気持ちがまた出てこないように、気を引き締める。
「統|…じゃあ、青汁にするか」
この一言で動揺したのか、後ろからコッ、っと小さな靴音が聞こえた。
誰も滅多に買わない青汁を買った事に驚いたらしい。
気持ちは分からなくは無いけど…そんなに驚く事でもない気が…
「統|さて。今度こそ教室に戻るか」
早くしないと休み時間が終わるし、新城さんが遅い!と文句を言うかもしれない。
そう思った俺は、後ろを気にしないように早歩きで教室に向かった。
「美|ええっ!国東君を尾行してるってどういう事!」
「ちょっと!声が大きいわよ!」
「誰かに聞かれたら大変だよ!」
「美|あっ、ごめん…」
昼休みになって、あたしは嘘の告白の事を知っている友達二人から驚きの事実を聞かされた。
あまりにも驚きの内容だったから大きな声を出してしまったけど、あたしの教室、
つまりは国東君の居る教室から一つ飛んだ先にある教室近くの廊下で話してたから、
国東君には聞こえていないはず。
「美|でも、国東君を尾行するだなんてどうして?そんな必要ある?」
「美尋ちゃんは変に思ってないみたいだけど…何だかおかしい気がしたの…」
「美|え~っと…どのあたりが?」
「美尋が告白した次の日に、何て言われたか覚えてる?」
「美|確か…一ヶ月間の関係は、友達以上恋人未満。だったっけ?」
「そう。でも、国東って自分から美尋に話しかける事ってあまり無かったでしょ?」
「美|そういえばそうだけど…でも、国東君ってそういう性格なんじゃない?」
いつもあたしが言い出さないと何もしてくれないけど、最後にはあたしの言う事を聞いてくれるもん。
あたしがそう思っていても、二人はそうは思っていないみたいで。
「そうだとしてもおかしいのよ、国東の行動は」
「美尋ちゃんの事を知りたいって言ってたのに、美尋ちゃんの事を知ろうとしてないでしょ?」
「美|えっ、そうなのかな?」
「そうなの。だから、何で美尋ちゃんの事を知ろうとしないのか探ってるわけなの」
う~ん…国東君を尾行する理由は分かるけど、
そうなると、国東君があたしに話しかけない理由って何だろ…?
何だか、前に聞いた事があるような…
「まあ…それだけじゃないんだけど…」
「美|えっ?どういう事?」
「ああ、美尋ちゃんは知らなくていいから」
「そもそも、美尋に言っても分からないんだから」
「美|何それ?言ってみなきゃ分からないでしょ?」
「言わなくても分かるわよ」
む~…何が何でも言うつもりは無いみたいね…あたしに言っても分からない事って何?
何も言ってくれない二人にもやもやする。
「美|そういえば、今も国東君の事尾行してるの?あの子居ないけど」
「あっうん、そうだと思うよ。だって言い出しっぺだし」
「美尋の事が心配だったんでしょうね、怪しいから尾行してみるって言って朝から張り付いてるわ」
「美|うわ~知らなかった~…」
そんなに心配させてる事に少なからず驚いた。
でも、思い返せば…国東君に告白するって言ったら三人共止めてきたっけ…
「美|もしかして、二人にも心配かけてた?」
「まあ…あの子程じゃないけど、心配はしたわ」
「他の人なら頑張って~って気楽に言えたんだけど…」
「美|再三念押ししてきたよね、本当に国東君でいいの?って。でも、本気で止めなかったよね?」
「美尋だったら別にいいかしらって思ったからよ」
「美尋ちゃんだったら何があっても別にいいかなって思って」
「美|本当は心配してなかったでしょ!そうなんでしょ!」
心配してたならやめなよって言うはずなのに、一切言わなかったよね!
途中でもう好きにすればって言ってたよね!それで心配してたって言えるの!
「違うわよ。美尋の事を良く分かってるからそう思ったのよ」
「美尋ちゃんなら何も起きないだろうし、何か起きても平気だって分かってるから」
「美|本当かなあ…?」
「信頼してるからこその言葉なのよ。だから、そんなに心配してないのよ」
何でだろう…別に嘘を吐かれてるとは思わないし、
信頼されてないとは思ってないんだけど…馬鹿にされてる気がする…
二人の目を見てるとそう思えて仕方無かった。
「でも、あの子はそう思わなかったわ。何を言っても聞かなくて…」
「結局、納得出来るまで国東君を尾行する事になったの」
「美|今更な気がするんだけど?」
「美尋ちゃんも悪いと思うよ?国東君が言った一ヶ月が過ぎたらどうするのか言わないから…」
「実際に付き合おうって国東が言ったら、美尋はどうするつもりなの?」
「美|う~ん…その時にならないと分からないなあ…」
「…だからあの子が心配してるんだよ…」
でも本当に、その時にならないと分からない。
今の所は、国東君と付き合ってもいいかなって思ってるけど…
「美|国東君が、付き合おうって言うのは想像出来ないんだよね…」
「あら、告白した直後は振られない自信はあるって言ってたじゃない」
「美|国東君なら簡単に付き合うって言うと思ったんだもん」
「根拠はあったの?」
「美|全く無いけどね!」
「自意識過剰…いえ、噂を信じていたならそうでもないのかしら?」
「美|そういえば、女好きの変態って言われてたっけ」
「それだけじゃないんだけどね…まあ、美尋ちゃんは知らないか」
「美|知ってるよ。国東君と二人きりになるといやらしい事をされるとか、
国東君と話すとクラスの女の子に嫌われるって話でしょ?」
「他にもあるわよ?でも、これ以上言うと国東が可哀想になるからやめましょう?」
「そうだね…お昼に出来る話じゃなくなるからね…」
「美|ん?それってどういう事?」
「美尋ちゃんにも分かるように言うなら、年齢制限が付く話になっちゃうって事」
えっ?子供には聞かせられない話って事?怖い話って事なのかな?
怖い話は苦手じゃないけど、好きじゃないのでそれ以上は聞かない事にした。
「美|そういえば…」
別な話をしようと口を開いたその時、小さな音であたしのお腹がきゅう、と鳴った。
「美|あっ…」
「ふっ…そろそろお昼を食べないと、美尋のお腹が限界みたいね」
「美尋ちゃんはすぐに表に出るよね」
「美|二人共笑わないでよ…お弁当を食べずにすぐ来たんだから仕方無いの」
「そうだね。わたしもお腹空いたから空き教室とかで食べよう?」
「美|だったら屋上にしない?気持ちいいよ、多分」
「何でもいいから、早く行きましょ?美尋のお腹の音が大きくなる前に」
「美|それはもう言わないでよ!」
二人にからかわれながら、あたし達はお弁当を取りに教室に向かった。
「統|う~ん…」
まだ尾行されてるのかな…気配は…人が多くて分からないけど…
昼休みになっても後ろが気になってしまう。
考えないようにしたいが、どうにも難しかった。
「統|…たまには昼飯を一緒に食べようって、自分から誘ってみるか…」
いつもと違う事をしてみれば、人の気配も気にならないかもしれない。
そう思って、新城さんと一緒に居るだろう御蔵さんの席に向かうと。
「統|あれ?新城さんが居ない…何かあった?」
「要|美尋さんなら、別のクラスの友達の事で呼ばれたと言って教室から出ましたけど…
用事があったんですか?」
「統|いや…一緒に弁当を食べようと思って来たんだけど…新城さん戻ってくるかな?」
「要|…珍しいですね…国東君から来るなんて…」
「統|何となく一緒に食べたい気分なんだよ。後、自分から何も…」
「拓|二人共昼飯を一緒に食べるのか?なら、俺も混ぜてくれよ」
「統|…話の途中で入ってくるなよ…」
ある意味タイミング良く話に入ってきた拓巳を、じとっとした目で見る。
もちろん褒めてはいない。
「統|一緒に食べるかはまだ決まってないけど、俺は三人でもいい。御蔵さんはどうする?」
「要|美尋さんと二人で食べるよりましなので構いません…」
「統|…いつも大変なんだね…」
「拓|よし、じゃあ食べるぞ!」
「統|その前に、新城さんも一緒に食べるか聞くから待て」
持ってきていた弁当箱を取り出そうとする拓巳を止めて、
新城さんが教室に戻ってくるのを待つ事にする。
しばらく話をしながら待っていると、新城さんが戻ってきた。
「統|あっ、新城さん、と…」
「拓|同じクラスの女子二人だな」
「要|あの二人は…友達ですよね?」
「統|さあ…そこまでは分からないよ…」
嘘だけど…知ってるけど言うわけにはいかない…
新城さんと一緒に教室に戻ってきたのは、新城さんの嘘の告白の事を知っている三人の二人だった。
あれ…?つけてきてた人が居ないな…
「要|あの二人と食べるんでしょうか?なら助かるんですけど…」
「統|本音が漏れてるよ…一応聞いてくるから待ってて」
「拓|早くしろよ」
「統|はいはい…」
拓巳に送り出されて、新城さんに一緒に弁当を食べないか聞きに行った。
「統|新城さん。一緒に弁当を食べない?」
「美|あ~…ごめんね?他の人と食べる約束があるから。要ちゃんに食べててって言ってくれない?」
「統|あっ…うん、別にいいけど…」
「美|ありがとう~じゃあ、後はよろしくね!」
そう言って新城さんは、一緒に戻ってきていた二人の所に向かってそのまま教室を出ていった。
何となく置き去りにされた気分になりながら、俺は御蔵さんと拓巳の所へ戻った。
「拓|お帰り。新城さんに振られたみたいだな?」
「統|いや…何て言うか…先約あるから無理、じゃあね~!って言われた感じかな…?」
「要|一方的に断られたんですね…」
「統|あっそうだった。新城さんから御蔵さんに、食べててって伝言を頼まれた」
「要|先約があるなら、言われなくても食べますけど…」
「拓|そんな気にする事じゃないって、早く三人で食べようぜ」
「統|ああ、そうだな」
新城さんに昼飯を断られた事を特に気にする事もなく、三人で弁当を食べたのだが、
俺をつけていた彼女が新城さんと一緒に居なかった事が何故か気になった。




