立ち直れなくなりそうな六月五日
一限目後の休み時間。
もう中間試験の結果が、残り一つとなった。
「統|………」
だから何だと言いたいが、次の授業が残り一つの教科だという話をしているだけだ。
こんな話をしている理由は、俺自身が試験結果が気になっているからだろうか。
「統|………」
何か…他の教科が、全体的に成績が下がってたな…せめて次は前より点数が上がってて欲しいな…
「美|どうかしたの?一点だけ見つめて。何かあるの?」
「統|あ~…新城さん?別に何も無いよ」
ぼ~っと前を見ていたら、新城さんが話しかけてきた。
「統|ただ、試験の点数の事を考えてただけだから」
「美|そうなんだ。あ、そうだ。要ちゃ~ん」
試験の成績が気になっていると言うと、新城さんは何か思いついた様子で御蔵さんをこっちに呼んだ。
…何をしようとしているんだろうか…
「要|えっと…何の…用ですか…?」
「統|御蔵さん、そんなに怯えなくても大丈夫だと思うよ?」
「美|そうだよ、今は何もする気は無いから」
「要|今は、ですか…」
「統|新城さん…余計な事は言わずに、用件だけ伝えようか…」
「美|えっ?あ、そうだね?」
疑問符を付けるのはやめて?御蔵さんがもっと怯えるから…
新城さんの台詞を聞いた御蔵さんが逃げそうなのを見てそう思った。
「美|さっきね、国東君と試験の事で話してたら、
試験の点数を見せ合って比べてみようって思いついたの!」
「要|そっ…そうなんですか…」
「統|…俺は、試験の点数の事を考えてたって一言しか言ってない…」
だから、何を言ったんですか…って目で見ないで…巻き込んだのは謝るから…
「統|見せ合うのはいいとしても、比べてどう…」
「拓|見せ合うって何の話だ?」
俺の言う事を遮るように、拓巳が会話に入ってきた。
いきなり何だ…というか何に反応してんだ…?
「美|試験の点数を見せ合って比べてみようよって話をしてたの」
「拓|ああ何だ…試験の点数なのか…」
「統|何でがっかりしてるんだよ…」
「拓|いや、男女で見せ合うって言ったら、服の下の事だと思うだろ…?」
何を言って…って、ああ…どっちにしろ、何を言ってるんだ…
近くに居る女子二人に聞こえないような小声でそう言ってきた拓巳にそう思う。
「拓|でも、そういう事なら俺も仲間に入れてもらおうかな」
「統|お前のは見なくても分かる」
「拓|仲間外れにするなよ、悲しいだろ?」
「美|別に勝負するわけじゃないしいいよ。…負けるって分かってるし…」
「統|それを言うのもどうなのかな…?事実だろうけど…」
負ける勝負はしたくないのは分かるよ?だけど、自分でそれを言うのもどうなのかな…
「美|兎に角!四人で試験の点数を見せ合うの!これは決定事項なの!」
「統|そこまで言うのならいいけどさ…見せ合って何をする気なの?」
「要|勝負するわけではないですし、点数を見せ合ってどうするんですか?」
「美|えっと…そうだねえ…」
新城さんは試験の点数を見せ合ってどうするのか考え始めた。
…何も考えずに点数を見せ合おうって思ってたのか…
「美|この四人の総合点数の順位を予想する、っていうのはどうかな?」
「拓|それなら点数で勝負するより、皆に勝ち目はあるな」
「要|確実に当てられるわけでは無いので公平ですし、いいんじゃないですか?」
「統|順位はある程度分かる気がするけど…絶対にそうなるわけじゃないし、いいかな…」
負けたとしても何も損する事は無いだろう。
拒否する理由は無いので俺も賛同する事にした。
「美|じゃあ、ルールはどうしようか?」
「統|四人の順位を予想して、全員当たるか、
当てた人数が多い人の勝ちにすればいいんじゃないかな?」
「要|そうしないと簡単というか…答えが固まりそうですからね…」
「統|…否定出来ない…というより、確実にそうなるだろうね…」
少しでも難易度を上げないと予想する意味が無いだろうからね…
最早何の為に予想するのか分からなくなりそうだった。
「統|まあそれはいいとして、早速予想を…」
「拓|上から順に、俺、御蔵さん、統次郎、新城さんの予想で」
「要|あ、私も同じく…」
「美|あたしもだから、国東君はそれ以外って事で!」
「統|俺は予想させてくれないの!ていうか、全員同じ予想じゃねえか!」
俺も含めてそれ以外はありえないって思ってるんじゃねえか!
なのに俺一人だけそれ以外にさせるってどういう事だ!
強制的に予想を決められて、ものすごく不服だった。
「美|だって、こうしないと予想の意味無いでしょ?」
「統|だからって俺一人だけって…」
「美|あたしは予想外したくないもん」
「統|それって俺に当てるなって言ってるのと同じだからね?分かってる?」
全員が同じ予想にすると意味が無くなるのは分かるけどさ、これじゃあほぼ出来レースじゃないか…!
「美|国東君はあたし達の予想が外れたら当たるんだから、確率は高いよ?」
「統|それもそうか…ならいいや…ってなるわけないから!」
「拓|大穴狙いで一人勝ちするって思えば、納得出来ないか?」
「要|この状況だと無理があると思います…」
「統|そう思うなら助けて…」
そう言っても誰も助けてはくれなかった。
…そんなに予想を外したくないのか…?
「美|ちなみに、予想が外れたら当てた人にジュースを奢ってもらうからね」
「統|外れた場合の俺の負担が多くない!」
「美|大丈夫だよ~そんな高いわけじゃないんだから」
「統|値段の問題じゃないから!」
結局、俺の言い分は聞いてもらえず、
三人とは違うという予想にされ、外したら三人にジュースを奢る事になった。
…なんで俺だけなのかな…?
「拓|………」
「要|………」
「美|………」
「統|………」
「美|…国東君…そろそろ顔、上げない…?」
三人に見下ろされてる俺に新城さんはそう言ってきた。
全ての教科の試験が返ってきた二限目後の休み時間、俺は一人だけ机に突っ伏していた。
何故そんな事をしているかと言うと、約一時間前にした中間試験の順位予想の結果が出たからだ。
「統|全教科の点数が前より下がってた…最悪だあ…!」
「拓|下がってたって言っても、赤点になったわけじゃないんだから気にするなよ」
「美|総合点はあたしより多かったんだから大した事じゃないでしょ?」
「要|国東君の言っている事は、二人の言っている事とは違うと思います…」
この四人での総合点の順位は、拓巳、御蔵さん、俺、新城さんという予想通りの結果だった。
そのせいで三人に奢らないといけなくなるから落ち込んでいるわけじゃなく、
全教科がいつもより悪くなっていて新城さんに僅差で勝っている事が原因だ。
…点数が下がってる事より、新城さんに負けそうだった事がショックだ…!
「美|そんな事よりも、
要ちゃんのおかげで赤点ぎりぎりだったのが大分上がって助かったよ~ありがとね」
「要|…そんな事と言って、流していいんでしょうか…?」
「統|いいよ…別に…」
「拓|本人がこう言ってるんだから流していいだろ」
「要|えっと…じゃあ、どういたしまして…」
「美|次もお願いね!」
「要|それはちょっと…お断りさせてください…」
「美|大丈夫だよ~次は国東君も巻き込むから!」
「要|どこも大丈夫じゃないですよ!」
次は俺も巻き込むって何!と思ったが、それを口に出す気が起きてこなかった。
「美|国東君も、今度の試験の時は勉強会しようね!」
「統|ごめん…今そんな先の話されても困るから、その時になってから話して…」
「美|返答が何だか冷たい気がするよ!」
新城さんは俺の反応に不満なのか、何かを言ってきているが、それを聞く気になる程の余裕は無かった。
「拓|そういえば今回の試験、統次郎は成績が下がって、
新城さんは上がったけど、俺は変わらなかったな」
「統|人の傷口にさりげなく塩を塗り込むのはやめろ…」
「美|要ちゃんは成績どうだった?勉強会のおかげで上がってた?」
「要|私は…少しだけ上がってましたけど、そんなに変わっていませんよ」
「拓|つまりは成績が下がっていたのは統次郎だけだったって事だな!」
「統|塩を塗り込んだ傷口をさらに粗塩で揉んでくるな…!」
今度は痛い所を狙ってきただろ…!わざとやってるよな!
遠慮なく心の傷を広げてきた拓巳に怒りが沸いてきた。
「拓|そう言うなら顔を上げろよ、でないと言われっぱなしだぞ?」
「統|俺がこんなに落ち込んでるのは成績が下がったからじゃないんだ…
新城さんに負けそうになったから悔しいんだ!」
「美|あたしに対してすっごく失礼じゃないかな!」
「統|たとえ赤点を取ったとしても、新城さんにそれなりの差で勝っていれば悔しくなんてなかった!」
「美|言っておくけど、あたしそこまで頭が悪いわけじゃないからね!」
「要|上がったと言っても、平均点より下ですけどね…」
「美|それは今言わないで要ちゃん!」
今回は俺も平均点より下だったから人の事は言えないが、
成績が上がっていても平均点以下なら、頭が悪い部類に入ると思うよ…?
元々はどれだけ成績が低かったんだろうか…
「美|あたし頑張って点数上げたのに、何でこんな事言われないといけないの!」
「統|…そうだね…新城さんは頑張ったから俺に僅差で負けたんだよね…
だったら、嘆くよりも喜ばないと…」
「要|…何だか、自分に言い訳しているように見えるんですけど…」
「拓|そうしないと顔を上げられないんだろ…」
机に突っ伏していた顔を上げたら、御蔵さんと拓巳がそんな事を言っていた。
…本人が居る前でそんな事を言うなよ…!
「統|正直に言えば、認めたくないけど…試験の点が上がって良かったね新城さん」
「美|正直に言うのは悪い事じゃないけど…正直に言わないで欲しいな…褒められた気がしないから…」
「拓|点が上がっていても、順位が一番下なのはどうかと思うけどな?」
「美|そういうのも正直に言わないで欲しいな!」
「要|順位は関係ないですよ。
結果は四人の中で最下位だとしても、点数が上がったのは変わらないですから」
「美|フォローしてるみたいだけど、最下位って言ったらフォローにならないから!」
自分が四人の中で一番下だと予想していたが、それでも口に出されるのは嫌らしい。
まあ、気持ちは分からなくはないけど…
「美|皆してあたしが頭悪いように言わないでよ…」
「統|別にそういうつもりで言ったわけじゃないけどさ…事実だから」
「拓|この中で一番頭が悪いのは新城さんだって言っただけだしな」
「要|順位に関しては、本当の事ですし…」
「美|お願いだから!これ以上は頭悪いって言わないで!」
「統|だったら、これからはちゃんと勉強すれば…」
「美|無理だよ!あたし頭良くないから!」
「要|自分で頭悪いって認めちゃってますよ!」
自分で頭良くないのを分かってるから、他人にそう言われたくないんだろうか…
でも、少しでも勉強すればいいんじゃないかな…?それとも、それすらも無理なんだろうか…
「拓|頭が良くないって自覚があるなら、こつこつ勉強すれば成績が上がるんじゃないか?」
「統|一日だけしか勉強してない奴がそういう事を言うな…冗談にしか聞こえないから…」
「拓|失礼だな、一日だけじゃないぞ。試験前夜と、試験当日だ」
「要|あまり変わりませんよ…」
「美|…ある意味じゃ羨ましいかも…」
いや…全然羨ましくは無いよ?覚えた次の日には忘れちゃってるんだよ?
俺にはどう考えても拓巳のようにはなりたいと思えなかった。
「美|こんな話はやめようよ…あたしの頭の良し悪しなんて話はさ」
「統|それは別にいいけどさ…他に何の話をするの?」
「拓|だったら、予想の結果が出たんだし、統次郎にジュースを奢ってもらうか!」
「統|うわ~…今度は俺がして欲しくない話だ~…」
心の底から嫌なわけじゃないが、ある意味では理不尽な理由で奢らないといけないので嫌ではある。
「拓|文句言うなよ、お前の予想が外れたんだから仕方無いだろ?」
「統|約一時間前を思い出せ?俺は予想しなかっただろ?」
「要|確かに…国東君は予想はしてませんよね…」
「美|国東君の尊い犠牲は忘れないからね…」
「統|その言い方やめて?何だか死地に向かってるみたいで複雑な気持ちになるから」
それに尊いと言われる程の事じゃないからね?
大袈裟に言われても全く嬉しくなかった。
「拓|死地じゃないけど、統次郎にいつジュースを奢ってもらおうか?」
「美|そうだね~次の休み時間にすぐに行ってもらおうかな?」
「統|…じゃあ買って欲しいジュースはそれまでに決めておいて…」
「要|とっても投げ遣りに言っていませんか…?」
「統|決まった事にあれこれ言う程、往生際悪くないから…」
どうせもう買いに行くのは決まってるから、素直に行くよ…
諦めに近い気持ちで奢る事を受け入れる事にした。




