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普通が分からなくなる六月四日

 「拓|うっはあ…見ろよこれ、仰向けになって無防備な姿でさ、色気出てるだろ?

しかも出るとこは出て、引っ込むとこは引っ込んでる。これなら統次郎も…」

「統|ああ、体型はいいよ。でも、仰向けになる事で折角の胸が潰れて、尻も隠れてる。

それに、体型はいいんだけど、体格に合ってない。もうちょっと身長が伸びないと駄目だな」

「その発言は、クラスの女子全員を敵に回しそうだな…」

試験後の休みが明けて、

拓巳は溜め込んでいたというグラビア写真集を俺とクラスメイトの一人に広げて見せていた。

…何か朝からこのやり取りするの久し振りな気がするな…

「というか…僕を巻き込まないでくれないかな?一応彼女が居るからさ」

「拓|普通の、一般的な意見が欲しいんだよ。…最近自信が無くなってな…」

「統|何の自信だよ…」

「拓|俺の女の子を見る審美眼が、曇ってないって自信がだよ!」

「統|そんな自信はいらな…いや…女性を見る目という意味では必要か…?」

「それとこれとは違うと思う…」

将来、意外な所で役に立つかもしれないと思っていたら、そんな事は無いと言われてしまった。

まあ、内面は分からないしな。

「二人は彼女が居ないからいいだろうけど、僕はこんな事してるって知られると後で大変だからさ…」

そう言った彼は、こっちを不審者を見る目で睨んでいる女生徒をちらっと見た。

…恐らく彼女と付き合っているのだろう…

何だか、蛇に睨まれた蛙のように見えた。

「拓|別に彼女が居てもこういうのは見ていいだろ。浮気をしてるわけじゃないんだし」

「そういう極端な話じゃないんだけど…」

「統|でも、本当にグラビア写真とかエロ本を彼氏が見るの許せない女性って何でだろう?

自分だけを見て欲しい、的な理由なのかな?」

「…それはクラスの女子に聞いて…言ったら女子全員の反感を買うかもしれないけど…」

そう言われたら聞く気になれないじゃないか…

元から興味は無かったが、今の一言で知りたくなくなった。

「統|まあ、俺と拓巳は彼女居ないし、関係無い話…」

「拓|いや、俺彼女居るから関係あるぞ」

…ん?今…拓巳は何て言った?

彼女?彼女が居る…って。

「統|はああ!おまっ…そんなの聞いてないぞ!」

「拓|言った事無いしな。教える必要は無いと思って」

「嘘…でしょ…?彼女居るのにグラビア写真を堂々と見てるなんて…」

いや、気にする所はそこじゃない。

拓巳に彼女が居る事を誰も知らない事と、もう一つ。

友達である俺が、拓巳に彼女が居る事を聞いてない事だ。

「統|ショックだ…こんな奴に彼女が居るのに、俺には居ないなんて…」

「拓|失礼だな、俺に彼女が居ても不思議じゃないだろ?」

「統|エロ本ばっかり見てる奴に彼女なんて普通出来ないからな!」

「拓|エロ本だけじゃないぞ。グラビア写真だってよく見てる」

「統|五十歩百歩だよ!」

「エロ本まで見てるなんて…僕がそんなもの見てるって知られたら…ひい…!」

…君は彼女にトラウマでも植え付けられてるのかな…?

そう思ってしまうくらいに、クラスメイトは震えていた。

いや、そこは別に気にする必要は無いけども。

「拓|俺にだって女の子と付き合えるなら、統次郎にも出来るだろ。

今彼女が居ないのは何か原因があるんじゃないか?」

「最近は皆と話す事も増えたし、チャンスくらいあったんじゃないかな?」

「統|…それ本気で言ってる…?ここ最近俺に起きた事を思い出しても同じ事言える?」

「拓|…他に原因があるかもしれないだろ!」

「その原因が無くなればこれからもてるかもしれないんだから、諦める必要は無いよ!」

「統|そう言うって事は俺の質問の答えはノーって事だよね?

それと、自分で言っておいてあれだけど、その言い草に怒っていい?」

本当に言うのも何だけどさ、今迄の出来事のせいで彼女が出来ないって暗に認めるのはやめてくれない?

後、俺が今迄女の子にもてた事がないって決めつけるのもやめて欲しいな。

…もてた事なんて一度も無いけどさ…

「統|はあ…本当に怒るつもりは無いけどさ…原因って言ったって、何だと思うんだよ?」

「拓|俺が思うに、統次郎は女の子の理想が高いと思うんだ」

「統|そうなのか…?俺は高いとは思った事無いけど…」

「グラビアアイドルの体型に辛口な評価をしてるんだから、説得力無いよ…」

「拓|だから、どんなグラビア写真を見せればいいのかの参考のためにも、

好みの女の子のタイプを聞かせてくれ!」

「統|…絶対にさっき言ったのが本音だろ…」

「拓|色々なものを見せてきたけど、俺はお前の好みのタイプが分からねえ!

一体どんな娘が好みなのか教えろ!それを見せるから!」

「色々って…どんなものを見てるの…?」

「統|一口に色々って言われると説明しづらいけど…学校じゃあグラビア写真だけだけど、

俺の家や拓巳の家だと色んな種類のエロ本を見てるな…」

「拓|エロ漫画、官能小説、アダルトな写真集。

分類で言えば、合法ロリから熟女に、貧乳から巨乳、さらにはキワモノの…」

「もういい…周りの視線が痛いからもうこれ以上はいい…」

自分から聞いておいて…とも思ったが、予想よりも種類が多くて聞く気になれなかったんだろう。

思えば…口に出せないようなものも見せられたっけ…

一年とちょっとでどれだけ見たかも分からないや…

「拓|そうか?なら話を戻して、統次郎の好みのタイプを教えろ」

「統|もう一度言っておくけど…俺は女の子の理想が高いとは思った事無いんだけど?」

「拓|今迄どんな女の子でも食いついてきた事無かったじゃねえか」

「ホモと疑われる程理想が高いんじゃないかな?」

「統|…そんなに言うなら言うけども…多分普通だよ?」

あまりにもしつこいので、自分の理想の女の子…と言うより、どんな子と付き合いたいか言う事にした。

「統|俺は、女の子であれば年齢、体型、性格は気にしないな。

でも、制限を付けるなら、年齢は十三歳から五十歳迄で、

俺の事を好きでいてくれるなら、太っていようが性格が悪かろうがいいかな」

「えっ…」

「拓|………」

思ったままを口に出してみると、やっぱり理想は高くない…いや、むしろ低いとさえ思った。

だが、二人の様子を見ると、理想の高い低いを気にしているわけじゃないようだ。

…何で信じられないって目をして俺を見てるのかな、二人共…

「統|一応言っておくけど、本心だから。嘘偽り無い本音だから」

「拓|本心なら尚更最低だぞ…」

「統|ん?何で俺が最低って話に?」

「よく考えて?今の発言…どう聞いても、女なら誰でもいいって言ってるようなものだよ…?」

「拓|自分で女好きを否定したくせに…女なら見境ないのかよ…」

「統|はあ!違うって!俺の事を好きになってくれるならどんな娘でもいいってだけで…!」

「拓|太っていようが痩せていようが関係無いんだろ?」

「性格が悪くても別にいいんだよね?」

「統|そうだけど?」

「拓|そういうのを世間一般では女好きって言うんだぞ?」

「統|だから!俺の事を好きになってくれる娘だけだって!」

「なら、好きにならない女の子は好みじゃないの?最初から恋愛対象にならないの?」

「統|そんなわけないじゃないか。

好きだって言ってくれる女の子がいいってだけで、誰だって対象にはなる」

「拓|…綺麗な大人の女性や、可愛い女の子も…?」

「統|当然」

「…かなりのぶさいくな娘とか、ぽっちゃりした娘でも…?」

「統|当たり前だよ」

「拓|…女好き確定…」

「統|違うって言ってるだろ!」

何でそうなるんだよ!ただ守備範囲が広いだけだろ!

「どう考えても普通じゃないし…そこ迄言い切っちゃうと女好きを通り越して、変態の域だよ…」

「統|ここ最近の頑張りを無にする一言はやめて!」

「拓|噂は事実だった、それだけの話だ」

「統|事実じゃないから!ありもしない噂がまた流れるからそういう事を言うな!」

前にあった噂が酷いものばかりだった上に、濡れ衣を着せられてたんだ。

またそんな事になるのは絶対にごめんだ!

間違っている事を言う二人に心底そう思った。

「統|そもそもだな俺が女好きなら、何でグラビア写真に食い付かないかって事に…」

「拓|本当はグラビア写真を見て、俺よりもエロい事を考えてたんじゃ…」

「有り得るよ…だって、誰でもいいんだから…辛口の評価はそれを隠すためじゃ…」

「統|ねえ…お願いだから人の話を聞いて…?」

裏なんて無いから…本当に無いから…

この話は、俺が話を無理やり変える迄続いた。


 「統|…退屈だ…」

色々と落ち着いて、切羽詰まるような事も周りを気にする事も無くなった。

この暇な時間がどれだけ尊いものなのか、そんな事を二限目後の休み時間に考えていた。

平穏だなあ…

「要|あの…私を呼んだのは退屈しのぎの為ですか…?」

「統|そういうわけじゃないよ。ただ二人きりで話をしてみたいと思っただけ」

今更こんな事をしなくてもいい気はするけど…一応は嘘がばれないようにね…

御蔵さんと廊下で話をしようと思ったのは、

今迄自分から動かなかったから少しでも行動しないと、と思ったからだ。

後は、何もしなかったら嘘吐いた意味が無いと思ったというのもある。

「統|と言ってみたけど、特に話したい事も無いんだけどね」

「要|本当に話をする気はあるんですか…?」

「統|無かったら御蔵さんと二人きりにはなってない」

話したい事があるから話をするわけじゃないからね。

話の内容が決まってないだけで、話をする気はある。

「統|他愛無い事でもいいからさ、何か話をしようよ。機会が無いと二人きりで話なんかしないしさ」

「要|そうかもしれませんけど…他愛無い事と言われても…あっ…」

「統|えっ?何か気になる事でも…」

御蔵さんの視線を追ってみると、そこには御蔵さんをいじめている三人の内の一人の姿が見えた。

程々に遠いためか、向こうはこちらに気付かずに二年B組の教室に入っていった。

「要|………」

「統|…何か気になる事でもあった?」

「要|あっ…いえ…何でも無いです。気にしないでください」

これは深く聞かない方がいい。

そう判断した俺は、何も気付かなかった事にした。

…知らないはずの事を話すのは避けたいからな…

「統|思うんだけどさ、お互いに何か一つでも話が合う事って無いよね?」

「要|…もう一度言いますけど…本当に話をする気はあるんですか…?」

「統|俺が言いたいのはさ、何か一つでもお互いの事を知ろうとしてこなかったよねって事だよ」

「要|そんな事は無いと…」

「統|なら、俺が今好きなものを一つでも言える?」

「要|…えっと…グラビア写真…ですか…?」

「統|それは拓巳が見せてくるから見てるだけ、学校以外では見ないよ」

「要|ううっ…小説も漫画も見ないんですよね…?」

「統|前にバトル物とか歴史物の小説が好きだったと言ったけど、今は違うからね」

「要|…ごめんなさい…答えられません…」

ようやく自分の言った事が間違いだったと御蔵さんは気付いたようだ。

「統|はあ…俺も御蔵さんを責められないからさ、これからはお互いの話をしていこう?」

「要|そうですね…私も、隠している自覚はありますし…」

「統|…そういう隠してる部分もさ、出していこうか…」

まあ…隠したくなる気持ちも分からなくは無い。

だってBLなんだし…

「統|とりあえず今回はここまでにしようか。次の授業が始まる時間だし」

「要|次…ですか…気が重くなります…」

「統|気持ちは分かるけど…こうしないといけなくなってるんだから、仕方無いと思って」

「要|はい…」

納得はしているみたいだが、肩を落としながら教室に戻るのを見るに、本当は嫌なのだろう。

…これじゃあ先が思いやられるな…

そう思いながら、俺も教室に入る。

だが、何故か彼女の姿が頭をよぎる。

「統|………」

三人組の内の一人である彼女は、遠くから見ても分かる程に暗い表情をしていた。

…何であんな顔を…?

そう思うも、何も知らない俺は、そのわけが分からない事にもやもやとした気持ちになるしかなかった。

…気にしなくても、いいのかなあ…?

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