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峠を越えた六月一日

 「美|はふう~…試験最終日が終わった~…」

「統|…お疲れ様…」

机に突っ伏し、腕を前に伸ばしてだらけている新城さんを労った。

…どれだけ大変だったんだろうか…

試験が全て終わって放課後になり、皆緊迫感から解放されて晴れやかな表情で教室を出ていく。

「要|大変だったのは認めますけど…ここまでなのは美尋さんだけですよね…」

「拓|何にせよ、これで堂々とグラビア写真を見れるぞ!」

「美|すや~…すぴ~…」

「統|…コノヒト、どうしようか…起こす?」

「要|眠らせてあげましょうよ…」

「統|そうだね。五月蝿い人を起こさなくてもいいよね」

「要|もう少し言い方を柔らかくしませんか…?」

十分柔らかい言い方じゃないかな?事実なんだしさ。

「拓|帰る前にグラビア写真集を見るぞ、統次郎!」

「統|人があえてスルーしてたのを…そのままにしておけよ…」

「拓|そんなの俺の知った事じゃないからな。三日間溜め込んだ分、一気見するぞ!」

「統|一人で読んでろ!」

人の都合を考えない奴だな!写真集を見れなくて不満だったのは分かるけど、せめて月曜日にしろよ!

「美|んん…いけない…眠っちゃってた…」

「要|どうやら、五月蝿くしすぎたみたいですね…」

「拓|五月蝿かったのは俺達の方だったな」

「統|一番の原因が何を言ってるんだ…」

お前が余計な事を言い出さなきゃ、新城さんは起こされずに済んだだろうに…

まだ少し眠たげな新城さんを見てそう思う。

「美|ふあ、ああ~…試験が終わって気が抜けちゃったのかも…」

「要|頑張ってましたし、無理も無いかもしれませんね」

「統|今は休んでもいいと思うよ?」

「美|今はいいよ…後でまた眠くなった時に眠るから…」

「統|…限界が来たらすぐに言ってよ…?」

「拓|その時は、統次郎がおぶってくれるから」

「統|何で俺なんだよ!」

「美|ん~…」

「統|手を伸ばしておんぶの催促するのやめて!しないから!」

「要|それよりも…限界が来るのが早いですね…」

いや…あれは限界だったというより、ただおんぶして欲しかっただけじゃないかな…

御蔵さんの言葉にそう思った。

「美|違うよ~…おんぶして欲しいわけじゃなくて、立たせて欲しいだけ」

「統|ややこしい…というか、あの動作は立つのを助けて欲しいようには見えないって…」

せめて立たせての一言があれば分かったんだけどね…

新城さんを立たせながら心の中で文句を言う。

「美|試験が終わったから、お疲れさま会みたいなのをやりたいな…」

「統|却下。絶対にやらないから」

「要|せっ、せめてどういったものなのか聞いてからにしませんか…?」

「美|休みの日にこの四人で遊ぼうかなって」

「統|どっちにしろ却下。試験が終わったら暇になるわけじゃないんだから…」

「拓|明日か明後日なら暇だけどな」

「統|拓巳?余計な事は言わなくていいからな…?」

前に三人で繁華街に行った時でさえ大変だったのに、四人で行くなんて冗談じゃない。

…絶対に誰か一人は自由に行動して面倒な事になるんだから…

面倒事を引き起こすだろう人物に釘を差しておく。

「拓|なっ、何を怒ってるんだよ…それなら、下の自販機でジュースを買って乾杯でもするか?」

「統|まあ…それなら別にいいか…」

「要|そんなに時間もかかりませんし、私もいいと思いますよ」

「美|よ~し。そうと決まったら…」

眠気を取るためか、新城さんは自分の頬を軽く叩き。

「美|自販機の所へ、レッツゴー!」

「要|ううっ…」

御蔵さんを引き摺って、自販機へと向かって行った。

…急に元気になったな…


 「統|それじゃあ、頑張って試験を終えた事を…」

「美|かんぱ~い!」

コッ、という音と共に、新城さん発案の試験お疲れさま会が始まった。

…人に乾杯の音頭をさせておいて割り込んで来るのか…?

「拓|まあ、お疲れさま会って言うには人数が少ない気がするけどな」

「統|そこは気にする所じゃないだろ…」

「美|人数なんて関係無いよ。楽しければそれでいいんだよ」

「要|私は、人数がこれ以上多くなると困るのでこれでいいです…」

「統|それも気にする所じゃないと思う思うけどな…」

俺には紙パックのジュースで乾杯してる方が…いやそれも気にする所とは違うか…?

「美|人数を増やそうと思っても、

この四人以外で誘える人なんて居ないんだから気にする必要は無いよ」

「統|いや…探せば居るんじゃないかな…?」

この四人共通の知り合いは居ないかもしれないけど、

誘えば来てくれる人は居るんじゃないかな…新城さんなら特に…

「拓|居たとしても、とっくに帰ってると思うけどな」

「統|試験が終わって早く頭を休ませたいと思うだろうしな。…誰かさんは例外みたいだけど…」

「美|ええっ?誰の事?」

「要|自分で言った事をもう忘れているんですか…」

本当に忘れているか、自分の事じゃないって思っているかのどっちかだろう…

俺の言いたい事が分かっていない新城さんにそう思ってしまう。

「美|忘れてないと思うけど?」

「統|もういいから…別な話をしようよ…」

「美|そう?だったら、次にお疲れさま会をする時はファミレスでやりたいんだよね」

「要|何でファミレスなんですか?」

「美|何となく?」

「統|何となくって…じゃあ、これでもいいじゃないか…」

「拓|でも皆でワイワイとやるっていうと、ファミレスのイメージだよな」

「統|だから何となくファミレスだって言うのか…?」

分からなくは無いけど、次があるか決まってないのに今する話かこれは…

「美|今、あたしは次の期末試験前にこの四人で勉強会をするのを目標にしてるの!」

「統|気が早すぎる!」

「要|また私が教えないといけないんですか!」

「美|次もよろしくね!」

「要|私に拒否権は無いんですか!」

あったらあんな言い方しない…というか、そんなに嫌がるって、勉強会で何があったんだ…

次があるかもしれない勉強会について話し合っている二人を、苦笑しながら眺めていると。

「拓|楽しそうにしてるよな」

「統|…そうだな…俺達は蚊帳の外だけどな…」

「拓|でもお疲れさま会、やって良かっただろ?」

「統|どうだろうな?話に巻き込まれなければそうかもな」

少しひねくれた事を言うも、二人のやり取りを見るだけでもやってよかったかもしれないなと思った。

「拓|ところで、俺はカフェオレ、新城さんは林檎ジュース、

御蔵さんはミックスジュースを飲んでるけど、何でお前は野菜ジュースなんだ?」

「統|飲みたくなった、それだけだ」

「拓|…そうか…」


 紙パックジュース一杯だけのお疲れさま会は三十分でお開きとなり、俺は今、家の前に着いている。

明日から休日だし、今日は夕飯を作る以外は何もせずに寝るぞ~…

「志|あ、統次郎君。お帰りなさい、かな?」

「統|ただいま帰りました。珍しいですね、こんな早い時間に居るのは」

「志|今日はお休みをもらったからね。今から夕ご飯の買い物に行こうと思って」

はあ、そうですか。

それを聞かされた俺に何をしろと?

心の中でそう思ったが、何も言わずに財布だけを持った牧園さんの話を聞く。

すると、牧園さんの部屋から誰か出てきた。

「早|志帆。悪いんだけど、一応栄養ドリンクも買って来てくれない?」

「統|えっ、豊中先生?何で来ているんですか?」

「早|ん?国東か。その言い方は、あたしが此処に来たらいけないように聞こえるんだけど…?」

「統|いやいや、ただ此処に来る理由が分からないから聞いてるだけですよ。

来ないで欲しいわけじゃないですから」

牧園さんの部屋から出てきた豊中先生にそう弁明する。

…だって居るはずない人物だし…

「志|さなちゃんが、試験が終わると忙しくなるから泊めて欲しいって前から言ってたの」

「早|試験の採点やら、授業の準備で忙しくてね…家より学校に近い志帆の家で採点をしようと思って」

「統|ああ、だからですか」

二人は中学時代からの友達らしく、今でもこんな風に遊びに来る事が何度かあった。

最初に此処で先生に会った時に、その事は二人から聞いてたため、

先生が此処に居る事におかしいとは思ってはいない。

…最初に会った時はどんな確率だよ…って思ってたな…懐かしい…

「早|忙しすぎて、料理出来ないから、誰かに作ってもらわないと食べられないんだよ…」

「統|…大変ですね…」

「志|あっ、じゃあ今日の夕食は統次郎君に作ってもらおうかな」

「統|へっ?」

「早|国東の料理か…志帆のよりはましかな…」

「志|さなちゃんは私より料理が上手いわけじゃないのに、そんな言い方するの?」

「統|ちょっと待ってくださいよ!俺は夕食を作るのを了承してませんよ!」

何で俺が二人の分の料理を作る事になってるんですか!おかしいでしょ!

「志|材料は今から買いに行くから大丈夫だよ」

「早|どうせ自分の分を作るんでしょ?なら、一人分も三人分も変わらないって」

「統|問題はそこじゃないですから!」

隣人に夕食作り頼むってどうなの!それ以上に、先生が生徒に夕食作らせるのもおかしいから!

「早|五月蝿いなあ…国東、あたしは生徒達のために今も仕事をしているんだよ?」

「統|えっ…はあ…急に何ですか…?」

「早|生徒達のために働いてるあたしを、生徒である君が助けなさい」

「統|その理屈でごり押しは出来ませんからね!」

もっともらしく言っても夕食作りをする気はありませんから!

普通なら生徒にやらせない事をさせようとする先生に、何をやらせようとしているのかと思った。

「志|時々、私が作ってって頼んだら作ってくれるのに、何で今回は駄目なの?」

「統|確かに何度か作ってますけどね、その度にこれっきりにしてくださいって言ってるんですけど?」

「志|そんな事、私聞いてないよ?」

「統|貴女が忘れてるだけですよ!」

「早|あたしも何回か国東の料理を食べてるけど、そんな話は知らないよ?」

「統|先生もその場に居たんですけどねえ!

しかも、その何度かは先生が来たら必ず作ってるんですけど!」

「早|さあ?そうだったかな?そうだとしても、あたしはそれに了承してないよ」

牧園さんは仕方無いにしても、豊中先生は嘘を吐いてますよね!

先生が来たら絶対にしてるやりとりなんだから、忘れてるはず無いんですからね!

「志|まあまあ、とりあえず今回は統次郎君が作ってくれないかな?」

「統|くっ…また俺が作らないといけないのか…」

「早|次もまた、よろしく」

「統|次は無いですよ!本当にこれっきりですからね!」

さりげなく次も夕食を作らせようとする先生に、今回だけだと釘を差す。

…誰も頷いてくれなかったけど…

「志|じゃあ今日の夕食はパエリアがいいな」

「早|ならあたしはペスカトーレを頼もうか」

「統|…作り方分からないので、後でレシピくださいね…

それと、オリーブオイルがないので買って来てください…」

「志|分かったよ」

いつも思うけど…二人が俺に作ってと頼まれる料理って難易度高いんだよな…

何でそんな料理を作らせるのか…俺はそんなに料理上手くないんだけど…

「志|それじゃあ買い物に…あっ、行く前に、本当に違ったんだね」

「統|はい?何がですか?」

「志|ほら、少し前だったかな?統次郎君って男の子の方が好きなの?って話をさなちゃんにしたの」

「統|先生に余計な事言ったのは貴女だったんですか!」

先生が個人的に気になったって、牧園さんから聞いたからだったのか!

というか、なんでそれは覚えてるのかな?他の事は忘れてたのに!

「早|国東が誰からBLかもしれない話を聞いたのか知りたがってたから、

志帆に話をしておいたんだよ」

「統|思いっきり余計なお世話でしたよ!」

「志|それじゃあ、今度こそ買い物に行ってくるね!」

「統|この空気のまま放置ですか!」

いくらなんでもマイペースすぎませんかね!

言う事を言った牧園さんは満足した顔で買い物に向かった。

メインヒロインを決める投票の結果、40話で打ち切りが決定しました。

あと残り少ないですが、最後まで読んでくださるとありがたいですし、

楽しんでもらえれば嬉しく思います。

それでは、残り9話になった嘘つきは恋の始まりを、

楽しみに待っていてください。

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