試験当日の五月三十~六月一日
本日から、三日間の中間試験が始まる。
試験前の緊張感の中、少しでも試験範囲の内容を頭に詰め込もうとクラスの皆は頑張っている。
…だというのに…
「拓|う~ん…このグラビア写真の何処が気に入らないんだよ?俺は気に入ってるのに…」
「統|………」
こいつ…拓巳は俺の悪あがき…もとい、試験前の試験勉強を邪魔しに来ていた。
自分は余裕だからって…
「統|…なあ拓巳、俺は今何をしていると思ってるんだ?」
「拓|そんな事どうでもいいから、教科書を置いてこれ見ようぜ」
「統|人の勉強の邪魔するなよ!」
そんな暇があるならお前も勉強しろよ!少なくとも、グラビア写真を見るよりは有意義だろ!
「統|俺は成績がいいわけじゃないんだよ。だから集中させてくれ」
「拓|分かったよ。一緒に集中してグラビア写真を見ようぜ」
「統|お願いだから人の話を聞くか、何処かに行って?」
あえて人の話を聞いてない拓巳に、さすがに怒りを覚えた。
その後も何度邪魔をするなと言っても聞かないから、
仕方無く勉強をしながら拓巳が見せてくるグラビア写真を見る事になった。
「拓|おい、ちゃんとこっち見ろよ。ほら、これなんかいいだろ?」
「統|………」
「美|うあ~!やっと終わった…」
「要|まだ一教科しか試験は終わってませんよ…」
「統|さも、試験が全部終わったような言い方だったね…」
「美|あたしにとっては長い苦行の時間だったんだよ~…」
「統|大袈裟だな…たった一時間じゃないか」
「拓|その一時間が長いんだよ。書き終わったら何もする事が無いんだぞ?」
「美|あたしが言いたかった理由はそれじゃないよ…」
「統|新城さんがツッコんだ!」
ボケなのに、ボケなのに新城さんがツッコんだ!
驚きすぎて二回も思ってしまった。
「美|分からない所が多くて大変なんだよ~…
でも、勉強会をしたおかげで分かる所が増えて助かったよ~教えてくれてありがと~要ちゃん」
「要|あうっ、後ろから乗っかってこないでください。頭をぐりぐりもやめてください~…」
「拓|…何か百合っぽいな…」
「統|思っててもそれは口に出すな…」
俺も思ったけどさ…
何となく目の前の光景から目を逸らした。
「美|そういえば三人はどうだったの?あたしだけ言うのは不公平だよ」
「統|自分から言ったのに…」
「拓|まあ、いいじゃないか。俺はいつも通りだったな」
「統|つまりは高成績か…」
「要|私も、いつもと同じか、良くなっていると思うんですけど…自信はあまり無いです…」
「統|俺はいつもよりは良くなってると思うよ」
「美|じゃあ皆平均点は超えるかな?」
「拓|誰か赤点取るかもな」
「統|取るわけないだろ。漫画みたいな事を言うな」
「要|取る可能性があるとすれば…」
「美|あたしは無いよ!今回は自信があるんだから」
「拓|俺だって、赤点取るつもりは無いぞ」
「統|そもそも赤点取るような成績じゃないだろ…俺も赤点にならないと思うけど…」
「要|私も成績は悪くは無いので…ありえるとすれば、美尋さんと国東君でしょうか…?」
「美|だからあたしは違うってば!絶対赤点は取ってないよ!」
「統|新城さんの言い分はともかく…この中で赤点に近いのは俺と新城さんだろうね」
赤点に最も近いのが新城さん。
その次に俺で、御蔵さん、拓巳になる。
拓巳と御蔵さんは赤点を取る可能性は零だけど、俺は程々の成績だから下手をすれば可能性はある。
新城さんは自信があるようだが、前の成績はぎりぎりだったらしいから半々といった所だろう。
「拓|それでも、勉強すればいい点を取れるんだからさ、赤点にならないように皆で頑張ろうぜ!」
「統|………」
お前が言うな、その台詞を…!
一番赤点と頑張る事から拓巳が遠いと知っている俺は、
拓巳の言葉にやる気を出している御蔵さんと新城さんとは対照的に、冷めた目で拓巳を見ていた。
五月三十一日、
「美|うっ…ぬぬぬ…うう~…」
「統|…御蔵さん…昨日はこうなってなかったけど…勉強会の時も、こうなってた?」
「要|いえ…こういう時は、氷水を持ってくるべきでしょうか…?」
「統|さあ…?何とも言えないよ…」
試験二日目で、新城さんの頭から湯気が出ていた。
…これは幻覚なのか、それとも知恵熱が目に見えているのか…?
「統|二日目の朝でこれなら、明日はどうなるんだろ…」
「要|ぼんっ、と爆発するかもしれませんね…」
「統|煙が立ってるからって導火線じゃないんだからさ…」
「要|そんなつもりで言ったわけじゃないんですけど…」
「統|はあ…拓巳の妨害から逃れるために来たのに、こっちは面倒な事になってる…」
せめて少しでも試験範囲を頭に詰め込みたいがために、
御蔵さんと新城さんの所に来て拓巳の邪魔が入らないようにしようと思っていたのに…
これじゃあ勉強がしにくい…
「統|新城さん?大丈夫?頭が熱を持ってるならハンカチを濡らして来ようか?」
「美|大丈夫だよ。ちょっと暑く感じるけど、平気だって!」
「要|…明後日の方向を向いて言ってますね…」
「統|…これはもう駄目だね…」
本人は自覚が無いようだが、これは誰が見ても平気では無いだろう…
新城さんの背中を見ていたら不安になった。
「美|要ちゃん。この公式がよく分からないんだけど…」
「要|えっと…その公式はこの問題を使うと…」
「統|………」
次の試験に備えて勉強している二人を見ながら、俺はさっきの試験で気になった所を調べている。
…濡れたハンカチを頭に乗せている新城さんの事は気になら…いやなるわ。
何で頭を冷やしただけで大丈夫になったんだろうか…
「統|ん…?あれ?えっと…」
気になった所を調べていると、途中で頭がこんがらがって分からなくなってしまった。
「要|どうかしましたか?」
「統|ああ、さっきの試験に出た文章問題を調べてたんだけど、分からなくなって…」
「要|それなら多分、これだと…」
「統|あ、そっか。これじゃなかったのか…」
「美|………」
御蔵さんに試験で間違えた所を教えてもらっていると、新城さんが俺と御蔵さんをじっと見てきていた。
「統|…何か…顔に付いてるのかな新城さん…?」
「美|…二人を見てるとさ…」
えっ…何を言うつもり…?
距離が近い?それとも恋人っぽく見えてる?
後者だとすごく困る事になるんだけど…
戦々恐々としながら新城さんの言葉を待つ。
「美|友達って言うよりも、知り合いの知り合いと言うか、遠い友達って感じだよね」
「統|…ん?」
いやごめん…言いたい事がほとんど伝わってこない…
御蔵さんも同じなのか、首が傾いていた。
「要|えっと…私と国東君がどういう風に見えたんですか…?」
「美|何ていうか、友達って言う程親しくないよね。よそよそしいって感じかな?」
「統|そう…なのかな…?そんなつもりは全くなかったんだけど…」
「要|それを言うなら、私は国東君と美尋さんが友達に見えませんよ。
どちらかと言えば兄妹に見えます」
「美|えっ?姉弟じゃないの?」
「統|そこは置いておこうか新城さん…」
しかし…そうか…思っていたより困る事にはなってなかったが、これはこれで困った事になってるな…
「統|話だけ聞くと、人付き合いが悪い奴みたいに聞こえるけど…
違うよね…?俺をそんな人間と思ってないよね…?」
「美|でも国東君って基本的に受け身って言うか、自分から行動しないよね?」
「要|私も人の事は言えませんけど…国東君が何かをしようと言った事が無い気がするんですけど…」
あれ…?誰も否定してくれない…?むしろ、肯定してる…?
自分でも否定出来ないと分かっているから余計悲しい…
「統|そんなつもりは無かった…というか、えっ?そんなに言われる程俺から何もしてない…?」
「美|いつもあたしから話しかけてないかな?必要な時ならあったかもしれないけど…」
「統|必要以上に話しかけるのは面倒…」
「要|そう思っている時点で何もしていないと言っているのと同じでは無いですか…?」
「統|あっ…」
二人に吐いた嘘がばれないようにしてて、本来の目的を完全に忘れていた。
今迄俺は何て無意味な事を…
六月一日、
今日が試験最終日。
この最後の峠を越えれば後は下るだけ。
少しの間は平穏が続いてくれるといいのだが…
「統|………」
何でだろうか…それが儚い希望に思えてくるのは…
目の前に居る一人のクラスメイトにそう思ってしまう。
「統|試験前の朝に何…?勉強しないといけないんだけど…」
「それは分かってるよ。でも、僕は聞きたい事があって…」
そう言って後ろに居るクラスメイト達の方を気にしている様子を見ていると、
皆の代表として来たけど、本当はやりたくなかった、という心の声が聞こえてくるようだった。
「国東君はさ…好きな子とか…居ないのかな…?」
「統|それ今聞く事かな…?」
試験勉強の最中に来て話す内容かこれは…
答えられない内容では無いため困った事にはなりそうもないが、
そういう話は試験が終わってからにして欲しいと思った。
「統|特に好きな人は居ないけど」
「じゃあ、気になる女の子が居るとかは?」
「統|う~ん…そういうのも居ないなあ…」
「だったら、好きな女の子のタイプは?」
「統|いや、ちょっと待って?何でそんな事を聞くわけ?男に聞かれると気持ち悪いんだけど…」
何?俺まだホモだと思われてるわけ?男に口説かれても嬉しくないんだけど…
「統|聞きたい事があるならはっきり言いなよ。まだるっこしくされても迷惑だから」
「…本当にはっきりと言っていいのか…?」
「統|さっさと終わらせて勉強に集中させて?」
こっちはいつもより勉強する時間が少ないんだから、無駄に時間を使わせないで?
「なら、はっきり言うけど…ストーカーなんて、してないよね…?」
「統|………」
ふっ…ふふふ…予想はしてたけど、ここまで濡れ衣を着せられ続けてると、
怒りより笑いが込み上がってくるね…!
表に出てしまいそうになる怒気と笑みを必死に抑える。
…両方共抑えてないと、怒りで暴れそうになるからね…!
「統|絶対にそんな事はしてないんだけど…ちなみに、誰がそんな事を…?」
「同じクラスの…ああほら、彼女だよ」
「統|…彼女がストーカーされてるのかな…?」
「姿は見てないらしいけど…気配を感じるんだって」
「統|ああ~…だから思い当たったのが俺だったんだ…」
やりそうだという理由で疑われる、その事にだろうな…と思ってしまったのは、
もうしょうがないと諦めているからだろうか…
「気配を感じる時は夕暮れ時か夜で、ヒタ…ヒタ…って足音がするんだって」
「統|…ん?」
「しかも、ポタッ、ポタッなんて音も聞こえるらしくてさ」
「統|…それで…?」
「人が居ない場所、特に墓地の近くだと近くに聞こえるんだってさ。…肩を掴まれたらしいよ?」
「統|心霊現象まで俺のせいにされてる!」
怪談っぽい話なのに、何で俺のせいにされるんだ!
普通なら、えっ…幽霊…?って思うものじゃないのか!
それ以前に、肩を掴まれてるのに姿を見てないのはどう考えてもおかしいじゃないか!
やってない事を疑われるより、おかしな状況で疑われる方が悲しかった。
「心霊現象?そんな非科学的な事はありえないよ」
「統|いやいや!ヒタ…ヒタ…とか、ポタッ、ポタッって音の正体は何だと思ってるの!
墓地の近くだと音が近くに感じたり、肩を掴まれたのに姿を見てない理由は何なの!」
「彼女が言うには、足音はストーカーが音を立てないように裸足になったのかもって。
もう一つの音は涎が垂れる音だろうって。音が近くに感じるのは墓地だけじゃなく人が居ない場所だし、
肩を掴まれた時は怖くて振り向けなかったんだって」
「統|割と無理やりじゃないかな!」
後半はまだいいとしても、前半はちょっと無理がある…というか、無理しかないよ!
「でも、心霊現象と言うよりは可能性はあると思うよ?」
「統|………」
たっ…確かに否定は出来ない…
ぐうの音も出ない反論に何も言えなかった。
…ストーカーされた彼女が、これからどうなるかも、ね…




