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少し変わった五月八日

 特に何も変わった事も無く二限目が終わった。…これでいいのか…?

いや、別に二人が同時に話しかけて来て嘘がばれるよりいいけど、何も無いのもどうなのかな…

何かあって欲しい。だけど何か起こるのは困る。

そんな気持ちをどうにかするために教室から出る事にした。

「拓|どこに行くんだよ統次郎」

「統|別に決めてないけど、それが?」

「拓|なら飲み物買ってきてくれよ」

「統|あ~…わかった…」

…そのついでに使い走りを頼まれた…まあ別にいいけどな…

「統|あ、何買えばいいのか聞き忘れた」

廊下に出てその事に気付く。まあいいか、あいつにはパックの青汁を買ってこよう。

聞きに戻るのが面倒なため、買う物を決めて、自販機に向かった。


 「統|まさか売り切れとは…」

自販機の前で考えてもみなかった事態に陥る。

人気なんて無いはずの青汁が売り切れていた。拓巳に飲ませようと思ってたのに…

仕方ないから拓巳には林檎ジュースを買うか。なら俺は…

「美|ど~ん!」

「統|うわっ!」

何を買うか迷っていると、背後からいきなり衝撃を感じた。

「美|何を迷ってるの、早くしてよ」

「統|新城さん…とりあえずどいてくれないかな?」

「美|早く決めない君が悪い」

いや、背中に乗られると柔らかな感触が…口に出せば変態と言われるから言えないけど…

「美|買わないならあたしが買うからお金入れて」

「統|待って、俺が金出すの?」

「美|それが何?」

まるで俺がおかしいような目で見られてるけど、…俺はおかしくないよね?

文句を言うのも面倒なので、黙って硬貨を自販機の投入口に入れる。

「美|あれ?青汁売り切れてる。珍しい」

「統|…飲みたかったんだ?」

「美|いや全然」

じゃあ、何で言ったんだよ…

「美|ん~と、これにしよ。えい」

新城さんが押したのはオレンジジュースだった。ちなみに百円。

「統|それじゃ、俺はこれで」

俺が押したのはカフェオレ。値段は百円。ついでに拓巳の分の林檎ジュースも買う。これも百円。

「美|あれ?二本も買ったんだ。二本とも飲むの?」

「統|いや、林檎は友達の分。頼まれたから、ついでに自分の分を買っただけ」

「美|へえ。カフェオレ飲むんだ。大人だね」

「統|カフェオレ飲んだら大人って…」

普通はブラックコーヒーじゃないかな…パックにストローを挿して、

さっそく飲んでいる新城さんにそう思う。

「統|ところでさ、いつまで背中に乗ってるつもり?」

「美|このまま教室までずっとのつもり」

「統|もっと早く降りて!」

背中のむにむにした感触を気にしないようにしてるけど、さすがに限度があるから!

「美|何?女の子に重いって言うの?」

「統|いや…そういうわけじゃないけど…」

そんな不満気に言われても、困ってるのは俺なんだけど…

「美|ならいいでしょ。早く教室にいくよ」

「統|いや、良くないから!」

結局はお互い妥協して、教室の手前までこのまま一緒に行った。…妥協してこれなのは察してくれ…


 新城さんのせいで、いつまた振り回されるかと、不安を抱えて昼休みまで過ごした。

…このままじゃ、いつかストレスで倒れそうかも…振り回されるのに早く慣れないとな。

そう思いながら弁当を取り出す。その時偶然にも、教室を出ていく御蔵さんを見つけた。

「統|どこかに行くのかな?」

そういえば、御蔵さんとは朝話しただけだ。

「統|追うべきか…」

このままだと、御蔵さんとあまり関わらないまま一ヶ月が過ぎそうだ。

そうなると、御蔵さんを知りたいって言ったのに変だと思われるかもしれない。

「統|…今がちょうどいいし、仕方ないな」

どこに行くのか知らないが、御蔵さんの後を追う事にした。

「拓|統次郎。昼飯…」

「統|悪い、今日は一緒に食えない」

「拓|え?あ、おい」

昼飯に誘って来た拓巳を置いて教室を出るが。御蔵さんの行き先なんて知らないのにどうやって追うか…

「統|あ、見つけた」

見渡してみると、階段に向かっている御蔵さんを見つけた。

追いかけると、どうやら上に行くようだ。

「統|どこに行くんだ?」

さっきまで居た教室は二階。上に行ったって、上級生の教室くらいしかない。

なのに何で三階へ行くんだ?

そう思っていたら、御蔵さんはまだ上に昇っていき、屋上まで来ていた。

いや、正しくは屋上への扉の前なんだが。そこで御蔵さんは階段に椅子のように座って。

「要|いただきます…」

鞄から弁当箱を出して、そう呟いた。たぶんいつも此処で食べているんだろう。

教室で食べているのを見た事がないし。きっと、一人でいたいんだと思うけど…

「統|一緒に食べてもいいかな?」

「要|国東君…?」

そんなの、俺には関係ない。俺はただ、一人で食べるのは寂しいから誘っただけ。

決して御蔵さんの事を寂しそうだなんて思ってない。

心の中でそんな言い訳をしながら、隠れていた階段を昇っていく。

返事がないけどどうしようか、と思っていると、御蔵さんは端にずれた。

これって…座っていいって事だよね?遠慮なく、空けてくれた御蔵さんの右側へ座った。のだが…

「統|………」

「要|………」

会話をするのも躊躇うくらい静かな屋上で、二人黙々と弁当を食べる。

…気まずい…気まずすぎる!これじゃあ一人で食べた方がましだ!何か会話をしないと…

「統|い、いつも此処で食べてるんだ?」

「要|そうですね…」

「統|…人が多い所は嫌い?」

「要|そうですね…」

…会話が続かねえ…どうすればいいんだよこの状況…

投げ捨てられる会話のキャッチボールを続けられなくなり、話しかけられなくなった。

それでも、何か話そうと考える事五分。

「要|ごちそうさま…」

そう言って御蔵さんは弁当を鞄に仕舞い、俺に会釈して階段を降りていった。

「統|儘ならねえ…」

さっきまでの会話を思い出して、そう呟く。

これは新城さんと同じくらいの問題だ。早く御蔵さんと打ち解けないと、

話すたびにストレスが溜まりそうだ…

半分も食べていない弁当をつつきながら、溜め息をつくしか出来なかった。


 「統|何とかしないとな…」

今日一日あの二人と話してみて、色々と問題が見つかった。これは早くどうにかしないと、

俺の精神がどんどん削れていく。

「統|何とか…出来るのか…?」

出来たら苦労はしないよな…家への帰り道で独り言を呟いた。

ああするべきか、いやこうするべきだと、色々考えるがどれもこれもいい案とは思えず、

何も思いつかずに家に着いた。

「統|今日はもう無理だな…」

「難しい顔してどうしたの?学校で何か悩み事かな?」

「統|牧園さん。いや、別に話す程の悩みじゃないんですよ」

話しかけてきたのは隣に住んでいる牧園志帆さんだった。

この小さなアパートの角部屋に引っ越してから、ほぼ毎日話しかけてくるんだけど、

正直話をするのが面倒臭くなる人だ。

「志|そういう風には見えなかったけど…ところで、学校ってどこに通ってるんだっけ?」

「統|躑躅野高等学校ですよ…何度忘れるんですか?」

「志|ああ。そうだったね、思い出せなかったよ」

こんな風に、前に言った事をよく忘れて、

同じ事を言わされる事を何度も繰り返してるから面倒になってくる…

後、今更だが、俺が通っている躑躅野高等学校は学力が高く、

学校行事に力を入れてるからか人気がある学校だ。

賑わいのある駅前にも、住宅地にも近く、電車で通っている人も多い。

俺も電車で通えたのだが、混み合う電車に乗りたくなかったから一人暮らしを選んだ。

ちなみに、俺が躑躅野高校を選んだ理由は学校行事目当てだったりする。

「志|それで何を悩んでたの?話せば力になれると思うよ?」

「統|…実は最近、友達が増えまして、どう接したらいいか分からないんですよ…」

「志|ん~…それって、相手は女の子?」

「統|え!何で分かったんですか!」

まだ何も言ってないし、態度にも出してないのに!

「志|何となく、かな。男の子同士なら接し方が分からないって事は無いんじゃないかなって」

「統|確かにそうですけど…」

「志|それに統次郎君も男の子だから女の子に興味を持つのは当たり前だよね」

「統|そこに関しては異議があります!」

その言い方だと、俺が女の子と付き合いたいがために近付いたみたいじゃないか!

最初の時はともかく、俺はあの二人に対してやましい気持ちはまったくない!

「志|あれ?統次郎君って男の子の方が好きなの?」

「統|そういう事じゃないですよ!」

「志|でもさっき、女の子に興味ないって自分で言ったよね?」

「統|俺はちゃんと女の子が好きな、健全な男の子です!」

ヒトを勝手に男色家にしないでもらいたい!

「統|俺が言ってるのは、友達としてその子とどう接すればいいか悩んでるだけで、

その子とどうすれば付き合えるかじゃありません」

「志|そっか。BLじゃなくて残念だけど、お姉さんはほっとしたよ」

「統|残念とか思わないでください!」

もう嫌だ…こういうマイペースな人と話すのは疲れてくる…

「志|まあまあいいじゃない。それで話を戻すけど、

友達になった女の子にどう接すればいいか分からない。だっけ?」

「統|はい。まだ友達になったばかりなので、どうすればいいか分からないんですよ」

短いと言っても、昨日今日話をしただけの間柄だけど、

たぶん一ヶ月過ぎても問題は解決しない気がする。

「志|う~ん、そうだね…一番は自分らしく接する、だと思うんだけど」

「統|それで解決するなら悩んでませんよ…」

「志|そうだよね~…」

話せば解決するとは思ってなかったけど…取っ掛かりも無いか…もうどうしようもないんじゃないか…?

「志|後は自分の事を知ってもらったり、その子の事を知ろうとするくらいかな」

「統|それは…少し難しいかもしれません…」

「志|これも駄目なんだね…」

俺の事を知ってもらうのは御蔵さんには出来ると思う。

だけど、新城さんは話を聞いてくれない気がする。

逆に俺が二人の事を知ろうとするのは新城さんなら出来ると思うけど、

御蔵さんは話をしてくれないだろう。

たとえ出来る事をしたところで、御蔵さんが話しかけてきたり、

新城さんが話を聞いてくれたりしないのは確実だ。

「統|とりあえず、打ち解けられるまで話をしていこうと思います」

「志|そっか。どうして友達になったのか、理由は聞かないけど、仲良くなれるといいね」

「統|…頑張ります…」

理由なんて、口が裂けても言えない。…だけど何故だろう?

牧園さんは俺がその子と付き合いたいから友達になったと思われてる気がする…

何か言ったとしても、その誤解は解けそうにもないので自分の部屋へ黙って入る事にした。

「統|あ~もう、こんなに悩まされるなんて…」

鞄を机の上に置いて、ベットにもたれかかる。こんな事なら、

素直に断っていればよかったかな…いや、今更だけど。

「統|大体、二人共極端なんだよ。扱いづらいわ」

御蔵さんは暗すぎるし、新城さんは明るすぎると思う。二人を足して、二で割ればちょうどいいのに。

「統|まあ、気疲れしない程度に話しかけたりすればいいかな」

今出来る事があるとすれば、二人とどうやって一ヶ月付き合っていくかを考える事くらいだ。

もうそれしか浮かばない。

「統|…これ以上悩みの種が増えなきゃいいけど…」

なんか…まだ厄介事がある気がするんだよな…この心配が杞憂に終わる事を祈りたい…

ぐったりと天井を見上げて、何も起こりませんようにと何度も祈り続けた。

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