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何でこうなった…な五月二十一日~二十二日

 昼休みの後から新城さんは、俺、御蔵さん、拓巳以外のクラスメイトほぼ全員と話をしていた。

上手くいくわけないと思っていたが、予想以上に手伝いを申し出る人が多く、

クラスの四分の三が新城さんが用意したノートに名前を書いていた。

その結果を見て、御蔵さんと拓巳はこれなら大丈夫だと思って新城さんの対応策を認め。

俺はクラスメイトの名前が書かれたノートを前にぐうの音も出ず、

渋々ながらも対応策を実行してもらう事になった。

「統|まさかこんな事になるとは…」

実際に手伝ってもらうのは明日になるようだが、俺を除く三人は成功すると思って安心している。

…上手くいきすぎて怖いと思う俺はおかしいんだろうか…

「美|国東君は心配しすぎだよ~これで失敗なんてするわけないって」

「統|成功する保障は無いよね?」

「美|これが上手くいったら、あたし達の結婚式をしようね…?」

「統|不吉な前振りはやめて…」

明日失敗する流れになるから…無自覚ならもう二度としないで…

不安のあまり、放課後になっても家に帰る気がせず、教室に残っていたら、

何でか新城さんと二人きりになったんだけど…これなら素直に帰った方がよかったかも…

「美|さすがに結婚式は冗談だよ~それにこんな事を言っても失敗しないから」

「統|その言い方だとわざとあの前振りしたんだよね?そうなんだよね?」

「美|そっ…そこまで強く言ってこなくても…」

「統|不安になったから仕方ないんだよ」

全く…悪ふざけは自重して欲しいよ。

強く言われて少し反省している新城さんにそう思う。

「統|ちなみに何で教室に残ってるのかな、新城さん?」

「美|国東君が残ってるから。国東君は?」

「統|家に帰っても落ち着かないだろうから、もう少し残ってるだけ」

「美|じゃああたしも残っていい?」

「統|好きにしなよ。誰も文句は言わないし、俺は構わないから」

俺が此処に居るのを了承すると、新城さんは俺の前の席に俺と向かい合うように座った。

…そうだ、今新城さんに謝っておこう。

誰にも聞かれたくない話じゃないけど、今なら誰かに邪魔をされないだろう。

「統|…新城さん。話があるんだけど、聞いてくれないかな」

「美|えっ…もしかして、今すぐあたしと付き合いたいって…」

「統|そんな話じゃないから」

食い気味に否定をすると、新城さんはぶすくれた。

いや、勝手に勘違いしたのはそっちなのに、そんな態度を取られても…

「統|俺が新城さんに謝りたいって話をしたいんだよ。元々は新城さんが言った事だよ?」

「美|あっ、そっちなんだ。早く言ってよ~もう」

「統|話は最後まで聞こうよ…」

「美|じゃあ謝ってもらうけど、分かってるよね…次は無いって」

「統|分かってると思うけど…一応聞いておく。次は無いってどういう意味…?」

「美|ふふふ…もし、国東君が間違ったらその時は…」

「統|…その時は?」

「美|あたしが許してもいいと思うまで何かをしてもらおうじゃない!」

「統|具体的には?」

「美|それは教えてあげられないよ」

なるほど…具体的に言わない事で、俺の恐怖心を煽るつもりなのか。

…もしくは何をさせようか迷ってるだけかもしれないけど…後者の方が怖いような…

「美|さて、次は無い事をちゃんと分かった所で、あたしを怒らせた事を謝ってもらうよ」

「統|分かったよ」

「美|ちなみに間違えた時は、さっき言ったのとは別にビンタをお見舞いするからね」

「統|そこまでされる事じゃないよね!」

何?俺、気付かない内にそんなに怒らせるような事をしたかな?

直前でお仕置きされる事が決定したため、尚更間違えるわけにはいかなくなってしまった。

「美|こうなったのは国東君のせいなんだから、文句言わない」

「統|…じゃあ、いくよ」

少しばかり不機嫌な新城さんに、間違えたらやる気だな…と思い、

どうか当たってますように…と祈りながら口を開く。

「統|…五日前に新城さんの望むようにするって言ったのに、約束を破ってごめん!」

新城さんに頭を下げて、謝罪の意を示す。

…内心、これで違ったらどうしよう…と、どきどきしながら顔を上げずに待つ。

「美|…何でその事で怒ってるって思ったの…?」

「統|それは…新城さんが約束を破られるのは嫌だって言ったから、

怒る前にした約束を守ってなかったのを怒ってると思ったんだ」

「美|………」

…何、この沈黙…何で黙ってるの…?

顔を上げて、聞かれた事を答えたのに、何も言ってくれない新城さんにびくついてしまう。

「美|…当てずっぽうじゃないみたいだけど、

まあ…ここまで謝ってくれたなら及第点をあげてもいいかな」

「統|…それって…許してくれるって事…?」

「美|百点満点中の六十五点だけどね」

そう言われて、やっと人心地つく。

ビンタは回避できたようで良かった…

「美|…一応聞くけど、残りの三十五点が何か心当たりは無いかな?」

「統|…確信は無いけど…あるにはある」

「美|だったら、言ってみて。間違えてても何もしないから」

「統|そう言うなら…でも、本当に当たってるか分からないよ?」

「美|何でそんなに念押しするの…いいから言って」

もし外れていたらものすごく恥ずかしいのは分かっている。

だからなるべくなら言いたく無いんだけど、言わないでいるのは難しいようだ。

「統|俺自身、そうなのかなってぐらいにしか思って無いんだけど…」

「美|自信が無いのは分かったから早くしてよ」

「統|…十七日の昼休みに拓巳が、

朝から統次郎の所に何人も来てたって言った時に不機嫌になってたよね?」

「美|…まあ、そうだけど…」

「統|その後に、クラスの女子に話しかけられて嬉しいって俺が言ったって聞いた時に、

さらに機嫌が悪くなったよね?」

「美|…それが何?早く答えてよ」

「統|…だから思ったんだ。

もしかして、俺がクラスの皆と楽しそうに話してたから怒ってるんじゃないかって」

さすがに拓巳が言ってたように、女子と楽しそうに話してたからとは言えなかった。

女子に限定するなら、新城さんだったら女の子と話してたから怒ったって理由は無いと思ったからだ。

後、皆と言っとけば女子だとしてもクラスの皆だとしても間違いでは無いと思ったからでもある。

「美|………」

「統|…何か言ってくれない?黙ったままでいられると怖いんだけど…」

何もしないと言われたが、だからといって無言でいられると怒ってるように見えるんだけど…

「美|あっ、怒ってるわけじゃないよ。ただ、自信が無い割にはちゃんと分かってるんだと思って」

「統|それって…まさか、合ってるって事?」

「美|後から答えたから、全体で九十点だけどね」

ええ…拓巳が言ってた事とちょっと違うけど、大体は同じだったのか…

本当に理不尽な理由で怒ってたんだね…

「統|クラスの皆と話してたから怒ってたって…

じゃあ俺はこれから、誰とも話したらいけないって事?」

「美|そうじゃ無いよ。あたしが怒ったのは、楽しそうに話してた国東君、だから」

「統|ごめん。何が言いたいのか分からない」

「美|国東君あたしと話してる時は楽しそうじゃないのに、

他の人と話してる時は楽しそうにしてるんだもん。怒るのは当然だよ」

あ~…つまりは、新城さんと居る時だけ楽しそうにしてなかったから怒ってたってわけなんだ。

…俺のせいか、これ…?

「美|…分かってるよ。国東君と楽しそうに話してる皆に嫉妬して、

それを全部国東君のせいにして理不尽に怒ってたって事は。

でも…あたしが居ない方が国東君は楽しいんだなって認めたくなくて…」

「統|………」

俺は…新城さんを不安にさせてたんだろうか…しかも同じ事で二度も…

俺は不安にさせるつもりは無かったし、不安にさせるような事をしたつもりも無かった。

だけど、今の新城さんの言った事を聞いたらそうじゃない事は分かる。

きっと俺は、何もしてないし、何かをしようともしてなかったんだ。

これでいいだろうって勝手に決めつけて、終わった事にしただけだったんだ。

そうじゃなきゃ、新城さんがこんな…酷く寂しそうな顔をするわけが無いんだから。

「統|そんな事、認めなくていいよ」

「美|えっ…」

「統|そりゃあ新城さんの相手をするのは大変だけど、

だからって新城さんが居ると楽しくないってわけじゃないよ」

新城さんはただ、周りに楽しいって思ってもらいたいだけなのかもしれない。

罰ゲームで嘘の告白をしたのだって、

あの三人に楽しいと思ってもらうためにした事なんじゃないだろうか。

なら、今回俺に怒ったのは前からもやもやしてた気持ちを俺にぶつけただけなんだろう。

自分じゃ一緒に居ても楽しいって思ってもらえない不安と、

他の皆には出来たのに自分だけが出来ない不満をどうにかしたくて。

「統|別に楽しくないと一緒に居たくないなんて事は無いよ。

それに、新城さんが楽しいって思ってくれるなら俺はそれでいいんだよ」

「美|あたしが楽しいって思ったら、国東君は楽しいって思ってくれるの…?」

「統|そんなわけない。でも、無理に楽しませるよりもさ、

新城さんが思う楽しい事をして、一緒に楽しいって思った方がいいと思わない?」

「美|…あたしが一緒にやってって言ったら、やってくれる…?」

「統|気が向いたらね」

そう言ったら、新城さんはむすっとして俺を睨んできた。

だけどその顔は全然威圧感が無くて、あまりの可愛らしさについ笑い出してしまった。

「美|こんな時に楽しそうに笑わなくてもいいじゃない。怒ってるのに…」

「統|ごっ、ごめん。怖くなさすぎて可笑しかったから」

「美|全然謝ってるように感じない…」

「統|だって、その顔で怒ってるって言われても、説得力は無いって」

「美|いつまで笑ってるつもりなの」

まだ笑い続けてる俺に、新城さんはご立腹らしい。

だけど、本気で怒ってるわけじゃないのは分かってる。

その証拠に、言葉にも、態度にも刺々しさは全く無いから。

「美|…そうやって笑ってくれるなら、

国東君はあたしと一緒に居ても楽しくないって認めなくていいかな…」

「統|というか、五日前に、新城さんと遊んだり、今迄以上に話しかけてもいいって言ったんだよ?

一緒に居ても楽しくない相手にそんな事は言わないって」

「美|うん…そうだね」

安心した顔で新城さんは笑ってくれていた。

これならもう、十六日の時と同じ事は言わないかな…ってそうだった、

十六日の約束をもう一度したいって言わないと。

「統|謝って許してくれた所で、言わないといけない事があるんだけどいいかな?」

「美|何?言わないといけない事って」

「統|五日前にした約束の事だよ」

「美|五日前…あ、もしかしてあたしの言う事を聞いてくれるって約束の事?」

「統|…少し違う気がするけど…そうだよ」

「美|…何を言うつもりなの?」

「統|えっ…何、その反応…」

いきなり新城さんの機嫌が急降下していく。

…思ってた反応と違う…

「統|約束守れなかったから、明日こそ新城さんの望むようにするってもう一度約束したいんだけど」

「美|………」

「統|…新城さん?何で、意外…って顔をしてるの…?」

「美|あたし…てっきり、あの約束はもうしなくていいよね、って言うと思ってた…」

「統|約束を守らなかったのに、そんな事を言わないよ…」

約束を破っておいて、その約束を終わった事にしようとしてるって思われていた事に、

少なからずショックを受ける。

…新城さんの中の俺のイメージって…

「美|でもそっか…それなら断わる理由は無いし、むしろお願いしたいくらいだよ」

「統|そっか、じゃあかえ…」

「美|今度こそ約束を守ってもらうために指切りしよう!」

帰ろうかと言おうとしたら、被せるように、新城さんはそんな事を提案してきた。

「統|…指切りって確か…嘘を吐いたら拳骨一万回に、針を千本飲まされて、

約束をしたって証に指を切るんじゃあ…」

「美|本当にそんな事はしないよ。いいから手を出して」

右手をぐいっと引き寄せられ、小指と小指を絡められる。

引き寄せられた時に、握ってきた柔らかな手の感触にどきっとしたが、

指切りという子供っぽい事をするとそんな気持ちは霧散した。

「美|ゆびきりげんまん♪うそついたらはりせんぼんの~ます♪ゆびきった!」

「統|ふっ…子供みたいだね」

「美|いいでしょ、別に」

「統|そうだね。じゃあ今度こそ帰ろうか。家まで送るよ」

「美|えっ!いいの?やったあ!」

「統|寄り道はしないからね」

楽しそうに笑って教室を出ていく新城さんを微笑ましいなと思いながら、

俺も靴箱に向かって歩き始めた。明日はきっと大丈夫だと信じて。


五月二十二日、

 今日はいよいよクラスの皆に俺のセクハラの話を無くしてもらえるように手伝ってもらう日だ。

とはいっても俺や新城さん、御蔵さんや拓巳に、

名前を書いてくれなかったクラスメイトはいつも通りなんだがな。

こうなったのは、新城さんがいつもより早く教室に来て、

クラスの皆にどうやって手伝ってもらうかを具体的に話している時の事だ。

皆にやってもらいたい事を説明した後、

あたしは他のクラスの人が信じてくれない時にしか動かないけど、

その時は信じてもらえるように一緒に頑張ろう!

と言って今は御蔵さんの髪をいじっている。

俺も拓巳も御蔵さんも、手伝える事は無いからいつもと同じように過ごして…

「美|ん~…いつもの髪型にちょっと変化をつけようか、でも、

要ちゃん髪長いからツインテールとか今迄やった事無いシニョンにしようか…どっちがいいかな?」

…少し前の事を思い返して現実逃避するのはやめよう…

俺は今、新城さんの望むようにする、という昨日の約束を守り、

新城さんと一緒に居て御蔵さんの髪型が変わるのを見ている。

「美|やっぱりツインテールにしよ。国東君、櫛と髪ゴム取って」

「統|はいはい…」

…といっても、俺はこういう事は全く知らないから新城さんの手伝いをしているだけだ。

「要|…国東君も大変ですね…」

「統|お互いにね…でも今は言わないで…」

その後も…


 休み時間。

「美|次は移動教室だから、国東君におんぶしてもらって行くよ~!」

「統|えっ?でも俺は、次の選択授業はこの教室…」

「美|文句言ってないで早く行こうよっと!」

「統|うわっ!分かったからいきなり背中に乗ってこないでよ…」

「美|ちなみに、あたしが教室の外に出る時は絶対に国東君におぶってもらうから」

「統|そんな話は聞いてないんだけど!」


 昼休み。

「美|はい国東君、あ~ん」

「統|あっ…あ…む…何で、弁当を食べさせられてるんだろ…」

「美|あたしが言ったからに決まってるでしょ。はい、次は国東君があ~んする番だよ」

「統|…これ結構恥ずかしいんだけど…あ~ん…」

「美|あ~…んっ。だから二人きりでお弁当を食べてるんでしょ?あ~ん」

「統|此処教室だから二人きりじゃないよ!」

「美|クラスの皆が順調にいってるって言うから、こうやって約束を守ってもらってるんだよ?

後、食べ終わるまであ~んしてもらうから」

「統|色々ときついってそれは!」


 放課後。

「統|やっと今日が終わった…」

「美|国東君。一緒に帰るよ」

「統|…俺は何をするのかな…?」

「美|察しがいいね。あたしの鞄を持って、あたしの家の前迄一緒に帰ってもらうよ」

「統|…他には…?」

「美|繁華街には行かないけど、寄り道はするよ」

「統|まあ…それだけなら別に…」

「美|二、三時間はね!」

「統|どれだけ寄り道する気!」

…といった感じで、一日中新城さんに振り回される事になった。

ちなみに、俺がセクハラしたという話はクラスの皆の協力によって間違いだったという事になり、

代わりに俺は我儘姫の従者と呼ばれるようになった…

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