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問い詰められる五月十八~二十一日

 新城さんの我が侭で、新城さんと、御蔵さんと一緒に繁華街の方向へ行く事になり、

俺の家から遠くなる帰り道になってしまった。

「統|やっと帰れた…」

大して遠いわけじゃないけど、何の用も、何の意味も無く繁華街の近くまで行くのは堪える。

しかも、放課後に聞かされたセクハラの話は、嘘のラブレター二枚の時よりも辛かったから、尚更だ。

今日はもう面倒はごめんだ…そう思って、家のドアノブに手を伸ばし…

「志|あれっ、統次郎君今帰ってきたの?今日は遅かったんだね」

おそらく、今日最後の面倒である牧園さんが、買い物袋片手にこっちへやって来た。

…何でこんな時に…顔には出せないが、そう思ってしまった。

「統|はい、放課後に先生に呼び出されて。

その後、友達と繁華街近くまで一緒に帰って、遠回りしたんです」

「志|へえ~そうなんだ。楽しかった?」

「統|楽し…くはなかったですかね…」

帰り道で主にしゃべってたのは新城さんだったし、俺は精神的に余裕が無かったから、

相槌を打ってただけで会話には参加していなかったから。

「志|友達と一緒なら、普通は楽しくおしゃべりして、楽しいものじゃないの?何かあったの?」

「統|何かあったと言うより…一人は人見知りが激しいですし、

もう一人は何でか怒らせてしまって話しかけづらくて…

しかも、二人共女の子なので話についていけないんですよ」

「志|あれ?三人で帰ったんだ?というか二人共女の子なんだね」

「統|ええ、まあはい」

「志|それよりも気になるのが怒らせた子が居るの?理由は?」

「統|それは…俺には分からなくて…」」

「志|ええっ、統次郎君が怒らせたんでしょ?何で分からないの?」

「統|いや…知らない内に怒らせたみたいで…思い当たる節も無くて…」

「志|それは言い訳だよ。統次郎君に怒ってるんなら、統次郎君が何かしたんでしょ?」

あれ?いつの間にか俺、責められてる?何でこうなったんだろう…

「統|う~ん…本人が言うには、約束を破られるのが嫌っていうのが、ヒントらしいんですけど…」

「志|なるほどね。という事は、約束を破った、

もしくは約束が守られていないのどっちかをしているって事かな?」

「統|それでも思い当たらないんですけど…というか、破るも守られていないも一緒じゃあ…」

「志|そうかな?でもその子も…えっと…統次郎君の通ってる学校ってどこだっけ?」

「統|躑躅野高等学校です…前に言ったの十日前ですよ?」

「志|あはは…ごめんね?で、その子も躑躅野高等学校の子で同じクラスなの?」

「統|そうですけど、それがどうかしたんですか?」

「志|だったら、いつから怒ったのか思い出せない?怒る前にした約束がそうなんじゃないかな?

思い出せないと、その子と付き合えなくなるかもだから、絶対に思い出さないと」

「統|…前にも言いましたけど、別にその子と付き合うために友達になったわけじゃないですよ…」

「志|えっ?そんな事、統次郎君言ったっけ?」

「統|………」

あっ…この人、十日前に言った事全部忘れてるんだ…これは何を言っても無駄だな…

「統|怒る前に約束はしてますけど、それじゃないと思うんですよね…」

「志|でも、他に思い当たらないんでしょ?だったら、それ以外にないよ」

「統|…もしかしたら、思い出してないだけかもしれないので、もう少し考えてみます。

次は無いらしいので」

「志|そうなんだ、じゃあ間違わないように頑張らないとね。その子に告白出来なくならないように」

「統|…告白しませんけどね…」

どうせ聞いてくれないと分かってはいるけど、自分の部屋へと帰っていく牧園さんに最後にそう言った。

「統|まあ…その約束の事は後回しにしないとだけどね…」

今は新城さんを抱きしめた事で広まったセクハラの話の方が大事だ。

「統|…約束か…」

そういえば、新城さんの望むようにするって約束を別の日にしようって言ってなかったな。

…月曜日に新城さんに言えばいいか。

自分の部屋の扉とは反対方向の、二階から見る景色をぼ~っと見ながらそう思う。

「統|…無茶な事言われないよね…?」

今更だけど、望むようにするは、言ってはいけなかったかもしれない…

新城さんが何を言ってくるか、少し怖くなってしまった。


五月二十一日、

 「統|…あのさ、何なのこの状況?」

俺は今、十人のクラスメイトに囲まれている。

朝、教室に入った俺を四人がかりで俺の席まで運んで、

まるで刑事ドラマに出てくる取調室の空気を醸し出している前に四人、後ろにも四人、

左右に一人ずつ居るクラスメイト達は神妙な顔をして立っている。…何が始まるんだろうか…

「私達は三日前に見た、新城さんと国東君が抱き合っていた理由を知るために集まったの」

「国東が新城にセクハラしたんじゃないかって皆心配してるんだ。

何があったのか聞かせてもらうからな」

どうやら、前に居る男女二人が代表して話を進めていくらしい。

…後の八人は俺が逃げられないようにしてるのか?

「統|そんな事を言われても、皆が思ってるのと実情は…」

「拓|皆して何やってんだ?統次郎を包囲して。楽しそうだから俺も混ぜてくれよ」

「統|この状況のどこが楽しそうなんだよ…」

「拓|これから起こりそうなお前の不幸がだよ」

「統|酷いなおい!」

グラビア写真集片手に俺の所に来た拓巳が、この包囲に参加してきた。

…友達なら俺の不幸を止めてくれないのか…?

「拓|冗談だよ。本当は暇なのと、何でこんな事になってるか気になったからだって」

「統|…それなら俺を囲んでる皆に聞いてくれ。俺は上手く説明出来ないと思うから」

多少の疑念は残るが、説明を他の人に任せる事にした。

…まあ、俺がこんな状況だから、写真集が見れないなら、ってところだろうけど…

「拓|ああ…そういう事なら、俺が居た方がいいな。

俺は写真集を見ててその場面は見てないけど、少しは統次郎の味方しないとな…」

説明を聞き終えた後、しょうがないなといった様子で拓巳はこっちを見てきた。

…なんか馬鹿にされてる気がする…

「じゃあ榎本が乱入してきたけど、二年C組教室内セクハラ事件の裁判を再開するぞ」

「統|いつの間にか裁判になってる!」

「被告人は私達が許可するまで発言はしないで」

え~…何それ…っていうか、被害者であるはずの新城さんが居なくてもいいのか?

どうやら裁判(?)は続くみたいだが。

「まず最初に、国東は新城を抱きしめた。それは多くの証人が居るから聞かなくてもいいだろう」

「問題は、何で国東君がそうしたかよ。答えてくれない?」

「統|えっと…理由は色々あるんだけど、一つあげるとするなら、新城さんから離れるためかな」

「んん?離れるために抱きしめたの?それっておかしいんじゃ…」

「拓|…多分聞くべき事を間違えてるんだと思う。

質問をするなら、何で抱きしめないといけなかったのかだ」

呆れたような顔で俺の顔を見ながら拓巳はそう言ってきた。…何なんだその態度…

「何でそんな質問をするのか分からないけど…何で抱きしめないといけなかったんだ?」

「統|そんなの、見ていたなら分かるものなんじゃ…」

「拓|俺みたいに見ていない人も居るんだから、そうなった過程も含めて全部話せよ」

「統|それなら…一限目の授業が終わってすぐに、新城さんが来たんだ」

「抱きしめたのは国東君の席だったから、それは間違いなさそうだね」

「統|何か話でもしたいのかなって思って、席を立って新城さんに体を向けたら、

いきなり腕に抱きつかれて…」

「待て国東、抱きしめたのは国東だよな?」

「統|えっ?その前の話をしてるんだけど?」

「拓|それは誰も見てないと思うぞ」

「統|えっ!じゃあ、新城さんが俺にひっついてきたの誰も知らなかったって事?」

俺を囲んでいる十一人全員が頷いた。…全部見られてたんだと思ってた…

「…たとえそうだったとしても、抱きしめる理由にはならないぞ」

「そうだね。皆が納得する理由にはならないし。

一応、話は続けてね。私達の知らない事もあるみたいだし」

「統|…そうみたいだね…新城さんが腕に抱きついてきて、すぐに離れてもらおうとしたんだけど…」

「拓|具体的には何をしたんだ?」

「統|離れて欲しいって言ったり、説得したりした。失敗したけど」

一度だけしかしてないけどね。

でも、何度も言って機嫌を悪くさせたくなかったんだから仕方無かったんだ。

そう思いながら皆を見ると、

全員が三日前に御蔵さんや、豊中先生が腕に抱きつかれてて…と聞いた時と同じ表情になっていた。

…その顔をされるのに慣れてきた自分自身が悲しいよ…

「…無理にでも、引き剥がしたら良かったんじゃないかな…?」

「拓|嫌がれば新城さんだって素直に離れてくれたんじゃないか?」

「統|無理やり離れたり、俺が嫌がったりして、新城さんに嫌な思いをさせたくなかったんだ。

それに…抱きしめる以外に離れてくれる方法が思いつかなくて…」

「…普通は抱きしめる事自体、思いつかないんだけどな…」

自分でも、何で思いついたのがそれなのか分かんないけどね…

今考えれば色々な方法を思いつくのに…本当、何でだろ…

「拓|それで?離れてくれない新城さんに、次は何をしたんだ?」

「統|言い方が気になるんだけど…中々離れてくれない新城さんを説得しながら、

どうしようか考えてて、逆に抱きしめれば恥ずかしくて、

自分から離れてくれるんじゃないかって思ったんだ」

「…それで、新城さんを抱きしめたわけなんだ…?」

「統|そうだよ。思った通り、新城さんは素直に離れてくれた」

「拓|やり方間違ってるけどな…」

それを言うなよ…今は俺もそう思ってるけどさ…

「う~ん…話を聞いてみると、国東君が百パーセント悪いわけじゃないけど…」

「それでも、国東がやった事はセクハラだしな…」

やっぱり、どうしても俺が悪く見えるのか…もう駄目なんだろうか…そう俺が諦めかけた時。

「拓|…なあ統次郎。新城さんを抱きしめた時にさ、下心とかあったのか?」

拓巳が真剣な顔をしてそう言ってきた。

「統|下心って…まさか…俺が新城さんを抱きしめたかったとか、そういう事か?」

「拓|そうだ。他にも、女の子の匂いとか感触を楽しもうとしてた。

みたいないかがわしい理由も含めてだ」

「なんだか生々しいんだけど…何でそんな事を国東君に?」

「拓|一応こいつの味方だし…俺が思ってる通りなら、皆にも聞いてもらった方がいいと思ったんだ」

一応ってなんだ、一応で俺の味方になってんのかお前は。

そう言ってやりたかったが、どうやら俺のためらしいのでちゃんと答える事にした。

俺に下心があったかだって?そんなの、考えるまでも無い。

「統|あるわけないじゃないか。付き合ってもない友達なんだぞ。

そりゃあ新城さんは可愛いとは思うけれども、だからって抱きしめたいっていう不純な感情は無い」

そう言いきると、その場に居たクラス全員からうわあ…というような視線が送られてきた。

えっ…?俺の周りに居る十一人はともかく、何で他の人まで?

というか、そんな目で見られる事を言ったのか俺は?

「何というか…国東君…うわあ…」

「不健全ってわけじゃないけど…気持ち悪いな国東…うわあ…」

「拓|やっぱりそうか…グラビア写真を見てる時、

お前だけ変な所見てるなって思ってたけどそういう事だったんだな…」

何かクラス全体からひそひそと話し声が聞こえるんだけど…何なのこの空気…?

「統|何だよ、何でこんな空気になってるんだよ」

「拓|…分かってないお前に分かりやすく説明するから、御蔵さんを呼んでこい」

よく分からないまま、とりあえず御蔵さんを呼ぶ事になった。…何で御蔵さんなんだ?

「統|御蔵さん。本を読んでる途中で悪いけど、ちょっと来てくれないかな?」

「要|えっ?あっはい。ちょ、ちょっと待ってください」

話しかけてすぐに後ろに隠した本をしまいながら、御蔵さんはついてくる事を了承してくれた。

…本の内容は予想がつくけど、隠すような本を教室で読むのはどうなんだろ…

「統|御蔵さんを呼んできたぞ」

「要|話は聞こえていたんですけど…何で呼ばれたんでしょうか…?」

状況が飲み込めていない御蔵さんは戸惑いながらそう聞いてきた。

当たり前だ。俺だってよく分からないんだから。

「拓|御蔵さんには証人として来てもらったんだ。ところで統次郎、一つ聞いていいか?」

「統|何をだ?」

「拓|お前、今此処で御蔵さんを抱きしめられるか?」

「要|えっ、ええっ!何を聞いているんですか!」

思ってもみなかった事を言われて、御蔵さんは動揺していたが、俺の心は逆に凪いでいた。

「統|…出来るわけないだろ…セクハラしたって言われる原因だって分かってるんだから…」

「拓|じゃあ、誰もセクハラだって言わなきゃ出来るか?」

「統|まあ…進んではしないけど、出来るとは思う」

そう言うと、教室全体から同情的な目が向けられてきた。…うん、だから何で?

「無自覚でこれ…何だか私…国東君が可哀想に思えてきた…」

「セクハラと言われる原因だって分かってるのに…進んではしなくても、出来るって言うとか…

国東の今の状況が不憫すぎる…!」

「要|私は、昨日色々と聞いてましたけど…今は何と声をかければいいのか分かりません…」

「拓|統次郎…お前がどんな奴でも、俺は友達だぞ…?」

「統|皆その言い方は酷いとか思わないかな!」

それ以上同情されたら泣くよ?泣くからね?皆からの散々な言われように頭を抱えたくなってしまう。

「美|おっはよ~!…って、何なのこの空気…?」

教室の扉から聞こえた声へと顔を向けると、

新城さんが教室の入口でいつもとは違う空気に戸惑ってその場で立っていた。

「美|何だか変だよ?要ちゃん説明して」

「要|えっと…まずですね…」

何があったのか聞いてきた新城さんに、御蔵さんは俺が囲まれた所から、

今迄の事を簡単に説明していった。

話を聞いていくにつれ、最初はへえ~だったのがああ~に変わっていき、最後に。

「美|なるほどね。じゃあ、国東君は昨日に続いて、今日もセクハラの事を聞かれてたんだ」

「要|まあ…そうですね」

「美|でも、国東君って要ちゃんも抱きしめられるんだ。

それって、国東君は羞恥心の無い、無自覚の女好きみたいだね」

…この言葉は、今日のどんな言動や態度よりも深く心に突き刺さった。

…何気なく一番酷くないかな…?

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