選択肢1、誤解される五月十八日 選択肢2、油断できない五月十八日
選択肢1、指導室を出る
このまま新城さんを放っておいてもいいんだけど、俺の説明不足で誤解させたみたいだし、
それに俺の事を考えてどうにかしようとしてた事は嬉しかったから。
「統|先生、新城さんを連れ戻しに…」
「早|今日はもういいから、早く追いかけなさい。じゃないと嫌われるよ」
「統|…はい。ありがとうございます」
そう言って新城さんを追いかける…前に、御蔵さんと向き合った。
「統|言いたい事、聞きたい事があるだろうけど、今は新城さんを優先させて。…ごめんね」
「要|いえ…気にしないでください。
美尋さんを優先するのは当然ですし、私は後ででも大丈夫ですから」
「統|…多分、御蔵さんに説明できるのは御蔵さんが思うよりも後になると思うけど…
そう言ってくれて安心したよ」
言いたかった事を言った俺は、
ようやく新城さんを追うために指導室を出て行って新城さんの居そうな場所を探し始めた。
新城さんの鞄や靴が無くなってないか、教室や靴箱を見に行ったが、
鞄は机の上にあったし、靴を履き替えていなかったからまだ校舎の中に居るのは分かった。
「統|…他に何処を探そう…」
でも、新城さんの居そうな場所は見当もつかない。…勢いだけで出るんじゃなかった…
「統|帰っていたら追えたんだけどな…」
前に新城さんを家の近くまで送っていった事があるから、ある程度なら追えたんだけど、
学校の中だから居場所がさっぱり分からない。
「統|…屋上に行ってみるか…」
上から探せば見つかる気がするし、何となく思いついた場所へ行ってみる事にしよう。
「統|………」
何となくとか、居ないだろうな、なんて思った時程、探してる人が居たりする。
今のこの状況にぴったりと当てはまる言葉は他には無いだろう。
「美|国東君…追ってきたんだ…」
手摺に手をかけて外を見ていた新城さんが、こっちを向いて驚いた顔をしていた。
「統|やっと見つけた…って言う程探してないけど…どうして此処に?」
「美|…国東君に、追いかけて欲しくて…」
…ならもう少し分かりやすくして欲しかったな…
立ち入り禁止の屋上じゃなく、せめてどこかの空き教室とか。
「美|でも、本当に追いかけてくれるなんて思わなかった。…どうして追いかけてきたの?」
「統|言い方が悪かったみたいだし、それに…勘違いさせたままなのは嫌だったから」
「美|先生に言われたからじゃないの…?」
何だか不貞腐れたようにそう言った新城さんに、軽くデコピンをする。
「美|あうっ」
「統|それで渋々追いかけてきたと思ってるんなら、豊中先生に聞きに連れていこうか?」
「美|…違うの…?」
「統|違うに決まってるじゃないか。もしそうなら俺は勘違いさせたままなのは嫌だなんて言わない」
まったく…俺が自分で新城さんを追いかけて欲しかったのは分かったけど、
そんな不安になるなら追いかけて欲しいなんて思わないでくれよ。
額を手で覆いながら、呆けた顔をしている新城さんに呆れてしまう。
「統|明らかに傷付いた顔されて、放っておけるわけない。これでも疑うかな?」
「美|ううん…それを聞けてよかった」
どうやら信じてもらえたようだ。新城さんのほっとした顔を見てそう思った。
「統|じゃあ、今から弁解…もとい、説明するよ」
「美|えっ?何を?」
「統|…俺が何の為に新城さんを追いかけたと思ってるの…?」
人の話聞いてなかったのかな?…聞いてなかったんだろうな…
「美|あっ、そうだったね。なら説明してもらうよ。何の事か分からないけど」
「統|………」
怒っていても話が進まないのは分かってる…でも言いたい…!少しは人の話を聞いてよ…!
「統|はあ…俺が新城さんと付き合ってる事にされて嬉しくないって言ったのと、
余計な事をしないでと言ったのは、新城さんは何も悪くないからだよ」
「美|そんな事ないよ。だって、あたしが抱きつかなかったら…」
「統|抱きつく事は悪い事じゃないよ。
それに新城さんがセクハラされたって言ったわけじゃないんだし」
「美|…実はね?国東君に抱きしめられた後に、クラスの皆から話を聞かれて、
その時にちょっとセクハラされたと思われるような事を言っちゃったかなって…」
「統|………」
ああ…うん…これは新城さんが悪いな…どうにかしようとするのはむしろ当然だな…
「統|…でも、一人でどうにかしなくてもいいよ。
これは新城さんだけじゃなく、俺の問題でもあるんだから」
「美|うん…そうだね。一緒に考えてくれる?」
「統|当たり前だよ」
いつもと同じように笑っている新城さんに、誤解は解けた事を確認出来て安心する。
これなら余計な事をしないかな…?
「統|誤解も解けたし、もう帰ろうか」
「美|えっ、指導室に戻らなくていいの?」
「統|新城さんが出て行った後、先生が今日はもういいって言ってたから帰っていいと思うよ」
「美|そうなんだ。じゃあ、その前にちょっと」
「統|えっ?何を…」
屋上から出ようと新城さんに背中を向けていた俺の手を新城さんは引っ張ってきた。そして…
「美|えいっ」
向き合った状態で、新城さんがばふっ、っと音を立てて俺に抱きついた。
一限目の後で、俺が抱きしめた時と状況はほぼ一緒だ。
「統|………」
でも、違った。抱きしめるのと抱きしめられるのは全く違う。
抱きしめた時は恥ずかしいなんて思わなかったのに、抱きしめられたらものすごく恥ずかしい。
…抱きしめられてた新城さんもこんな気持ちだったんだろうな…俺は何て恥ずかしい真似を…!
「美|あっ、国東君恥ずかしがってる?ふふん、お返し、だよ」
「統|…今はあの時の新城さんの気持ちがよく分かった…」
「美|…何だかその顔見るの、クセになりそう。またやりたいかも」
「統|巫山戯てるの?こんな所、人に見られたら…」
恥ずかしさで、新城さんの顔が見れず、屋上の扉を見ると、そこには人影が…
「統|………」
よく見ると、その人影は豊中先生と御蔵さんだった。…えっ?何で、居るの…?
「美|あっ、豊中先生と要ちゃんも追いかけてくれたんだ」
俺に抱きついたままで、新城さんは屋上の扉に近付いていく。
そこには、何と言うか…うわぁ…みたいな顔をした御蔵さんと先生が居た。
「要|国東君…どうしてそんな事に…?顔が青いですよ…?」
「早|何をしてるかと思ったら…屋上は立ち入り禁止だよ?」
「美|ごめんなさ~い。でも、二人きりになりたかったんです」
「要|…国東君の心配はしないんですか…?固まってますけど…」
新城さん達の話を聞くだけで精一杯な俺は、
どうやってこの状況に対する説明をすればいいのか考えていた。
…せめて、俺がやらせたわけじゃない事は分かってもらわないと…!
「統|こっ、これは…!」
「美|そうだ!要ちゃんも一緒に、三人で帰ろうよ。きっと楽しいよ」
「要|それは…いいですけど…」
「早|…そのままで帰るつもり…?」
「統|そんなわけ…」
「美|校門までだっこしてもらうつもりです!」
「早|国東…」
「要|最低ですね…」
「統|お願いだから俺の話を聞いて!」
冷たい視線に晒されながらも、俺は必死で誤解を解こうと頑張り、
校門を新城さん達と出る前に何とか弁明して誤解は解けた。
…もうあんな事は二度としないで欲しい…
選択肢2、このまま残る
新城さんを追いかけても何処に向かっているのか分からないし、
大体、出て行った人を追いかけても逃げられてしまうだけだろう。
だったら、今は追いかけずに、きちんと話せるまで待った方がいいと思う。
「統|俺が追いかけても、新城さんが逃げてしまうと思うんです。
だから、先生が先に話をして、落ち着かせてから戻ってもらえませんか?」
「早|…追いかけて、話をする気は無いの?」
「統|俺には、逃げられずに話が出来る自信が無いので…
戻って来た新城さんにならちゃんと話は出来ると思います」
「早|はぁ…なら、連れ戻してあげるけど、新城が行きそうな所に心当たりは無い?」
「統|…残念ながら全く…御蔵さんは?」
「要|私も分かりません…」
「統|居るとしたら…屋上かもしれません。煙は高い所が好きって言いますし」
「要|…言いたい事は伝わりますけど…せめて分かりやすく、暈した言い方をしないんですか?」
「統|暈して言ってもあれかなって思って言わない事にした」
「早|分かる奴が聞いてたら意味が無いけどね…とりあえず、探してくるから待ってなさい」
新城さんを連れ戻すため、先生は指導室を出て行く。残ったのは御蔵さんと俺だけになった。
「要|…良かったんですか?美尋さんを追いかけなくても」
二人になってすぐに、御蔵さんがそんな事を言ってきた。
追いかけない理由は言ったはずなんだけどな…?
「統|逃げられるのに追いかけてもしょうがないって。それに、何処に居るかも分からないんだし…」
「要|そういう事では無くて…美尋さんに何か特別な感情というか…好きなんじゃないんですか?
そうでなかったら、美尋さんと付き合っている事にされて嬉しくないと言わないと思うんですけど…」
ああ、なるほど!俺が新城さんの事を好きだと思ってたのか!
だから新城さんが出ていった時、何か言いたげにこっちを見てたのか。
「統|いや、よく考えて?新城さんと付き合ってるなんて話が広まると、
二股の噂がまた流れると思わない?」
「要|そんな事は…あるかもしれないですけど、
普通は好きでもない女の子を抱きしめたりはしないです」
「統|嘘でもいいからそんな事は無いって言って欲しかった…」
どう頑張っても周りが持ってる俺への評価は変わらないんだろうね…そこはもういいけどさ、
抱きしめた時はそうすれば嫌な思いをさせずに離れてもらえる方法がそれ以外思いつかなかっただけ。
たとえどんなに嫌だったとしても、新城さんを抱きしめたと思う。
というか…そもそも、
新城さんと付き合ってるって事にされたくない分かりやすい理由があるんだけどな…
「統|俺はさ、新城さんを抱きしめたかったから抱きしめたわけじゃないって言ったよね?」
「要|それが両想いじゃないからとか、好きだと言ってないからという理由だからじゃないんですか?」
「統|…何でそんなに俺が新城さんの事を好きだって前提で話をしてるの?」
「要|…美尋さんの事が好きだから、付き合っていると嘘を言うのが嫌なんじゃないんですか?」
…どうやら、俺が新城さんを好きだって思い込んでるみたいだな…どうして違うって分かって…
って、ああ、御蔵さん自身が関係ないって思ってるのと、俺がちゃんと理由を言ってないからか。
「統|あのさ…俺は新城さんの事を好きなわけじゃないって。
御蔵さんの気持ちを考えたら、新城さんじゃなくても、誰かと付き合うなんて話は広められないよ」
「要|でっ…でも、そうしないと国東君は悪く言われたままなんですよ?」
「統|御蔵さんは俺の事を好きだって言ってくれたのに、
嘘でも他の誰かと付き合ってる事になんかしたくないんだ」
「要|あ、う…私のために嘘を言っているわけじゃないんですか…?」
「統|信用してない…いや、自信が無いだけか…何だったら、
誰に対しても抱きしめられるって分かってもらうために、人が居る教室で抱きしめようか?」
「要|…それは嫌です…」
あっ、引かれてる?まあ、好き合っても無い男女は普通抱き合わないらしいから当然か。
でも、俺は女の子だったら抱きしめたり、抱きしめられたりされても嫌じゃないけどな…
俺がおかしいんだろうか?
「統|別に本気じゃないから嫌ならしないけどね。
だけど、新城さんと同じ事を御蔵さんにも出来るって事は分かって」
「要|それは…分かりました…」
う~ん…?何か思ってた反応とは違う…俺が新城さんの事を好きだと思い込んでるなら、
同じ事が出来るって言えば多少は好意があるって思ってくれると考えてたのに…
何だか落胆しているように見える御蔵さんに内心首を傾げる。
…新城さんにやった事よりも恋人同士がしそうな事をすればいいのかな?
「統|何だったら、今此処でキスをしようか?」
「要|えっ、ええ!誰かに見られたらどうするんですか!」
予想してたよりも驚いた御蔵さんに、ちょっと気圧されるが、
その慌てている様子が面白くて、ちょっとからかう事にした。
「統|二人きりなんだし、誰も来ないって。
それに、自分の事を好きだって言ってくれる子に少しでも気持ちに応えたいって思うのは悪い事かな?」
「要|そっ…それは…悪い事じゃなくても、想い合ってないと…」
「統|そんなに赤くなって顔を逸らさないでよ。可愛すぎて、もっと迫りたくなるから」
「要|あっ…あう、あう…」
徐々に逃げ道を塞いでいき、最後には口…ではなく、頬に口付け出来るようにしていく。
…今迄嫌な思いをしてきたんだから、いい思いをしてもいいよな…?
「統|大丈夫だよ。一瞬だから…」
「要|は…う…」
座ったままでいる御蔵さんの傍に行き、顔を近付けていく。
硬直して、真っ赤になった御蔵さんはぎゅっと目を閉じ、俺は唇のように紅い頬にキスを…
「早|国東~新城を連れて…何してるの…?」
ドン!ガラッ、ガッシャ~ン!
椅子を巻き込みながら、床に倒れている俺を見た先生が呆れたようにそう言ってきた。
多分先生には、俺が御蔵さんにキスをしようとしてた所は見られてないはず。
何せ、先生が入ってくる直前に御蔵さんが俺を押し退けて、
扉が開く音を聞いた俺は反射的に飛び退こうとして、勢い余って椅子ごと床に倒れ込んだんだから。
「統|いえ…痛た…何でもないです…たた…」
「早|…何でも無いにしては、色々とおかしいけど…御蔵?顔が赤いけどどうかした?」
「要|いっ、いえ!何でもありません!」
「統|俺がバランスを崩して転んだだけですよ」
「早|転んだ拍子に何かしたと…」
「統|それは濡れ衣ですよ!」
御蔵さんに、未遂とはいえ頬にキスをしようと近くに行ったけど、それ以外は何も出来てない!
あまりに酷い先生の言い草にそう思ってしまう。
っていうか…直前でおあずけとか…タイミング悪いって…
「美|国東君何かしたの?」
「統|何にもして無いって言ってるのに…」
新城さんにまでそう言われると悲しくなるよ…
「早|何も無かったならいいけどね。それよりも国東、ここまでしたんだから後は分かってるね?」
「統|あれ?先生、どこかに行くんですか?」
「早|聞きたい事はきけたし、今日はもういいから帰りなさい」
そう言った先生は指導室から出ていった。…いや、此処で放置されても…
「統|…新城さん」
「美|ん…何かな?」
何だか不機嫌な様子で新城さんは返事をした。
…落ち着いて話は出来るようにはなったけど、ちゃんと話をしてないから怒ってる…かな?
「統|ごめん!言い方が悪かったよ…本当は、新城さん一人が悪いんじゃないから、
俺や御蔵さんも一緒に考えてどうにかしていこうって言いたかったんだ」
「美|そうなんだ…あたしの方こそ、怒って出ていっちゃってごめんね。
…本当は国東君に追いかけて欲しかったけど…」
「統|えっ…?それって、どういう意味?」
「美|国東君が追いかけてくれなかったから、先生に屋上に入った事を怒られたんだよ」
「統|ああ…なるほど…」
「要|それは屋上に行かなければ良かったのでは…?」
まあ…御蔵さんの言う事は正しいけど、他に選択肢が無かったんじゃないかな…?
「美|そんな事より、国東君のセクハラの話をどうにかするために、
三人で一緒に帰りながら考えよう!」
「要|えっ…私もなんで…って、ああっ」
俺と御蔵さんを置いて、新城さんは先に鞄を持って玄関へと向かって行った。
「要|…先に行っちゃいましたね…」
「統|そうだね…追いかけないと。でもその前にいいかな?」
「要|あっ!なっ、何ですか?」
御蔵さんは、誰が見ても明らかに俺を警戒していた。…そんな態度を取られると傷付くんだけど…
「統|さっきキスしようとしてたの、本当は冗談だから。
もうあんな事はしないから警戒しなくていいよ」
「要|えっ、あ、はい…」
冗談と聞いてほっとした様子の御蔵さんに、追い打ちになるような言葉を続ける。
「統|でも、可愛いって言ったのは本当だから。もっと自信を持っていいよ」
「要|えっ!ああ…ええ!」
これで少しでも、御蔵さんが自信を持ってくれればいいな。
そう思いながら、誰も付いて来ていない事に気付いて待っている新城さんの所へ、
御蔵さんと一緒に向かって、三人で一緒に帰っていった。




