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悲惨な五月十四日

 教室に着いた俺は、待つと言っていたのに弁当を広げて食べ始めている三人の机に、

ドン!とジュースを叩きつけて、無言で拓巳に詰め寄った。

「拓|おっ、おい?怒ってるのか?先に食べてたのは悪かったって。でもそんなに怒る事じゃ…」

「統|知っ…のか…」

「拓|は?今、何て言った?」

「統|俺が変態だっていう根も葉も無い噂を知ってたのか?」

大声で問い詰めたい気持ちを抑え、出来るだけ冷静に問い詰める。

近くに居る二人の様子は分からないが、そんなの気にする余裕は無い。

「美|えっ?国東君、その噂今まで知らなかったんだ?」

「要|美尋さん!それは言っちゃ駄目ですよ!」

「統|…知ってるの…?」

話に入ってきた新城さんに顔を向けると、御蔵さんに怯えられた。…何で?

「美|うん。だって国東君ってグラビア写真ほぼ毎朝見てるから、

クラスの女の子は女好きの変態だって言ってるよ?」

「要|わっ、私は二人っきりになると、その…いっいやらしい事をされると聞いた事が…」

「拓|俺は統次郎と話をするだけでクラスの女子に嫌われるって聞いたぞ?」

「統|何だよそれ~!」

前々から思ってたけど、今の今までクラスの誰にも話しかけられた事が無かったのって、

この噂のせいだったのか!道理で拓巳以外の友達が出来ないわけだよ!

「統|俺はただ…拓巳が見せてくるグラビア写真の批評をしてただけなのに…」

「拓|それが駄目だったんだろうな」

「要|グラビアアイドルの批評をしているだけでも十分女の子に嫌われますよ…?」

「美|これって自業自得だよね?」

「統|俺のせいなのか!」

三人に心をズタボロにされて涙が出そうになる。…何で俺だけがこんな…って。

「統|拓巳は?グラビア写真見てるのは拓巳も同じなんだから、拓巳も噂になってるんじゃないのか?」

「拓|俺か?俺のは統次郎のとはちょっと違うぞ」

「統|違うって…どういう事なんだ?」

「拓|俺よりも、二人に聞いた方が良いんじゃないか?」

そう言って拓巳は第三者である二人に話を振った。

「美|榎本君の噂って言うと…グラビアアイドルが大好きでグッズを集めてるとか」

「要|あとは、DVDや漫画をこっそり貸してくれるとかですかね?」

「美|でも女の子には貸してくれないって聞いたよ?」

「統|…他には?」

「美|う~ん…無いかな~…要ちゃんは?」

「要|私もそれくらいしか聞いた事ありません」

「統|………」

えっ、それだけ?一つ目のは事実そのままだけど、二つ目のは少し暈した言い方してない?

だって拓巳が貸してくれるDVDや漫画って、エロいやつだよ?

この前も、見せてやろうか?って聞かれたからいつも通りいらないって断ったし。

「拓|なっ、俺の言った通りだろ?」

「統|納得出来ない…何で俺だけが変態扱いなんだ…」

俺よりも拓巳のほうが女好きなのに…

「拓|俺はオープンだからな。むっつりスケベじゃないし」

「統|そういう問題じゃないだろ…」

俺はグラビアアイドルの写真集を見てただけなのに、

どうして俺だけが変態扱いされなきゃいけないんだ…

拓巳の方が色々とそういう事をしているはずなのに…

「拓|…お前ってさ、グラビア写真をどういう目で見てるんだ?」

「統|何で、そんな事を聞くんだ?」

「拓|いいから、答えろよ」

何なんだいきなり…そんなの聞くまでも無いだろ。

「統|どういう目でって、普通に鑑賞してるだけだけど…」

「拓|そうじゃなくて、お前はグラビア写真を見てどう思ってるんだって聞いてるんだよ」

「統|そんなの、一緒に見てるんだから聞かなくても分かるだろ?」

「拓|念のためだ…」

訳の分からない拓巳の質問に変な事を聞くなと思うも、素直に質問に答えた。

「統|写真を見てるんだから、ポーズの良し悪しとか、モデルの表情や体型を見てるに決まってるだろ。

ああゆうのは、水着やモデルを良く見せる為のものなんだから」

何の疑問も持たずにそう言うと、拓巳は残念なものを見る目で俺を見ていた。

「拓|統次郎…お前って、可哀想な奴だな…」

「統|何でそんな目で見るんだよ!」

「美|何ていうか…うん、頑張って?」

「要|これから、いい事がありますよ?」

「統|二人も拓巳と同じ目をしながら慰めないで!」

よく分からないけど、何だか馬鹿にされてる気がする!

この後、話をさっさと終わらせて弁当を食べたけど、その弁当はいつもよりしょっぱく感じた。


「統|今日は…疲れる日だった…」

昼休みから、ずっと三人には同情されてるような態度をとられて、

放課後になった今まで腫れ物に触るような扱いに嫌気がさしていた。

…三人共、帰り際に心配そうな視線だけ送ってきやがって…明日もその態度だったら泣くぞ…

今朝の事よりも気をもむ出来事に疲弊した体を奮い立たせて、椅子から立ち上がり教室を出ると。

「知|あっ、来た。待ってたよ、国東君」

そこには昼に起きた事の根源となった人物が、昼休みと同じ表情で待っていた。

「統|…何で…」

「知|何でって、取材の最中にどこかに行っちゃったから放課後にまた来たんだよ?」

「統|…疲れてるから、明日にしてくれない?」

今日はもう話をしたくないと正直に口にして、

さっさと帰ろうと財部さんの横を通り過ぎようとすると、財部さんに腕を掴まれた。

「知|疲れてるって言われたからって、取材をやめる記者は居ないよ?

相手の事気にしてたら新聞なんて書けないんだから」

「統|え~…ちょ…帰らせてぇ…」

抵抗する気力の無い俺には、誰も居ない教室へと引き摺る財部さんを止める事が出来なかった。

「知|じゃあまずは、昼休みにした質問、

国東君は御蔵要のいじめに関与、または荷担、もしくは目撃していない?」

「統|昼休みの時よりも一言増えてる!」

というか、関与も荷担も一緒だろ、何で増やした。

「統|…俺は少し前から御蔵さんと話をするようになっただけで、いじめに関わっているどころか、

御蔵さんがいじめられてる現場なんて一度も見ていない」

「知|それじゃあ、御蔵要はいじめられてないって言える?」

「統|友達として、御蔵さんはいじめられてないって信じてる」

御蔵さんのいじめと、そのいじめに俺が関わっているという疑いを消す為に堂々と嘘で答える。

…何で俺がこんな事…って俺が嘘を吐いたからだな。

「知|ふ~ん…なるほどね。とりあえず国東君は関わってないし、見てもいないと」

「統|当たり前だ。友達になって日は浅いけど、そんな所を見つけたらすぐに助けに行く」

「知|そっか~でも君がいじめを目撃してないだけで、御蔵要がいじめられてないって証拠はないよ?」

「統|…御蔵さんがいじめを受けてる証拠も無いんだろ?」

「知|だからこそ、私は調べてるんだけどね」

どうにか俺が御蔵さんのいじめに関与、もしくは目撃していない事は信じてもらえたようだ。

後は、あの三人組が何もしてこなければ大丈夫だろう。多分。

「知|次はそうだね…御蔵要と最近仲良くなったみたいだけど、何でかな?」

「統|…言わないと駄目かな?」

「知|答えてくれない限り、延々と聞き続けるから」

「統|うっわあ…すっごい嫌だ…」

「知|ちなみに、納得のいかない答えでも同じ事をするよ」

それって嫌がらせじゃ…ああ…だから記者って嫌われるんだ…

適当に答えてると詰問されてしまいそうだから、出来るだけ嘘は言わず、

いじめに関わる部分は誤魔化す事にした。

「統|最初は…御蔵さんから話をしてくれて、これからも話をしたいって思ったから、

友達になりたいって俺が言ったんだ」

「知|へえ…そういう事なんだ…それで、新城美尋、御蔵要と駅前広場で待ち合わせて遊んだんだ?」

「統…っ何で、それを…?」

「知|新聞部の実力、舐めてもらっちゃ困るよ?」

怖いよ新聞部!何でそんな個人的な事を知ってるんだよ!

「知|合流して三人になった後、洋服店に行ったね。女性物しか扱ってない洋服店に」

「統|頼むからそれ以上はやめてくれ!」

聞いてるこっちは怖いんだよ!

まさか一昨日遊びに行った時の事全部知られてるんじゃないかって思うと、背筋が寒くなる!

「知|やめて欲しいならもっと納得出来る答えを言って」

「統|そんな事を言われても…」

つまり、納得出来ない答えだったから一昨日の事を持ち出してきたんだ?

…下手に誤魔化したら、いじめの件で俺の疑いが深くなりそうだ…

「統|さっきの答えのどこが納得出来ないのか分からないんだけど」

「知|話の細かい部分をわざと端折ったでしょ。うやむやにしないで」

「統|ああ…そういう事…」

全く誤魔化せてなかったわけか…残念だ…

「知|調べた限りだと、国東君と御蔵要とは共通点は無いでしょ?

だから、話をしただけで友達になりたいって思えなくて納得出来ないの」

「統|…確かに、仲良くなれる共通点は全く無いよ。でも、

俺に話しかけてくれた女の子なんてほとんど居なかったから、だから友達になりたいって思ったんだ」

「知|下心とかは無いの?」

「統|そりゃあ…親しくなって、いつか彼氏彼女の関係に…とは思ってるよ。

だけど、相手の気持ちもあるから淡い期待程度だけど」

「知|ふむふむ…なるほどね…」

この後も、財部さんの取材は続いた。

とはいえその内容は、最近の御蔵さんの様子だとか、

御蔵さんに話しかけていた人で知ってる人はどれくらい居るか、

といった本当の事を言っても大丈夫な質問ばかりだったけど。

「知|う~ん…まあ、こんなものかな」

今までの取材の内容を書いていた手帳を眺めて財部さんはそう呟いた。

取材自体は三十分もかかっていなかった。

「統|終わり?もう終わった?終わったんなら帰らせて!」

三十分もかかってないとは言っても、いつ問い詰められてしまいそうな質問をされるかと冷や冷やして、

早く帰りたいと思って本音が出てしまった。

「知|今回の取材はこれで終わりだけど、次もあるかもしれないからその時もよろしくね」

「統|次は遠慮してもらいたい…」

「知|それじゃあ、はいこれ。どっちか好きな方をどうぞ」

そう言って財部さんは、昼休みに差し出してきた例の封筒を二つ机の上に出した。

「統|それはいらないよ。その写真が欲しくて取材を受けたわけじゃないし」

大体、被写体の全身が写ってないと全体のバランスとか、躍動感が分からないじゃないか!

「知|えっ?意外だね。両方欲しいって言うと思ったのに」

「統|そんな風に思われるのは心外なんだけど…俺は噂されてるような変態じゃないから」

「知|そうなんだね。でも…取材を受けてもらって報酬を渡さないっていうのは、

新聞部の裏の活動をしている身としては気が咎めるんだけど…」

「統|…なら、俺が噂されてるような変態じゃないって広めてくれないかな?」

「知|それはいいけど、それでいいの?」

「統|噂が無くなって欲しいから、新聞部にどうにかして欲しい。だからそれで十分なんだよ」

「知|…分かった。でも、信じてもらえるかは国東君次第だよ」

「統|…そうなんだよね…誤解を与えるような言動をしていたのは事実だし、気をつけないと…」

「知|それじゃあ私は、今回の取材をまとめたり、

明日の号外に国東君の噂を否定する記事を書かないといけないから帰るね」

「統|あ、うん…」

そう言って財部さんは颯爽と教室を出ていった。

…明日号外に載せるんだ…新聞部の行動の早さに呆気にとられてしまった。

「統|まあ…早い方がいいか…?」

不名誉な噂は早く消えて欲しいし。そう思うことにして、新聞部との事は終わった事にした。

翌日の朝、教室の掲示板に学年限定号外新聞が張り出されていた。

意外にもしっかりとした内容が書かれていて驚いたのは余談だろう。

…でも、最後に、信じるかは貴方次第…と書かれていたのは余計だと思う…

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