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予定外で予想外の五月十四日

 …まず、状況を説明する前に、弁解させてもらいたい。

俺は、御蔵さんと新城さんの間を取り持って、御蔵さんがいじめられないようにしたかった。

それに関しては上手くいったと思っていいと思う。

…だけど、それによる弊害の事なんて全く考えていなかった。

いや、弊害があるなんて思ってもいなかったんだ。

「要|………」

「美|………」

「統|………」

弁解も終わったので、今の状況を説明しよう。一言で言うなら、板挟みになっている、だろうか。

こうなったのは、今も獲物を狙う目をしている新城さんの言動が原因だ。

今より少し時間を遡って、俺が拓巳といつものように写真集を読んでいると、

新城さんが御蔵さんの髪をいじりたいと言ってきていた。

御蔵さんは、最初は嫌そうにしていたが、説得されて少しだけならという条件で受け入れたようだった。

だが、それで新城さんが満足するわけもなく、

まだ髪をいじろうとする新城さんから逃げて来た御蔵さんは、

俺を盾にして新城さんから逃れようとしている。

こうして今、俺の背中に隠れながらびくびくしている御蔵さんと。

俺の前で楽しそうにニヤニヤしている新城さん。

そして二人に挟まれて困り果てている俺、という状況になっている。

…なんで俺、この二人の間に立ってるんだろうな?

「統|…とりあえずさあ、俺を盾にするの止めてくれない?」

「要|だっ、駄目です。そんな事をしたら、この人…新城さんに何をされるか…」

「美|名字呼びなんて余所余所しいなぁ、美尋って呼んでよ」

「要|あううう…」

「統|だからって俺を引っ張り出さないで…」

文字通り廊下まで引っ張り出されて、無関係なはずの俺が、

何故か二人の緩衝材にならざるを得なくなっている。

こうなった以上、俺が二人を宥めて場を収めるべきなんだろう。

そうしないと、何時までもこうなるだけだ。

「統|…ずっとこうしてるわけにもいかないんだからさ、妥協してみない?」

「美|そうだね。要ちゃんが諦めて、あたしに髪をいじらせてくれたら万事解決するよね!」

「要|むっ、無理です!」

「統|何で御蔵さんだけが妥協するの…」

「美|え~?それでいいでしょ?」

「統|よくないから…兎に角、お互いに譲れる部分は譲って。妥協しないと何度でもこうなるんだから」

「美|しないと駄目なの?」

「要|相手が納得出来ないと、妥協しないのと同じになりませんか…?」

「統|最初は相手の事を考えないで、ここまでならって所を言えばいいから。

そこから少しずつ譲歩して、二人が納得出来るように話し合っていこう」

こうして、二人がああしたい、こうされたくないと話し合い始めたのはいいが、

最初の妥協出来る部分は二人共が全然妥協出来ていなかった。

このまま二人で話し合ったら、時間がかかってしまうのは分かりきっているので、

もう俺が妥協案を出す事になった。

…相手の事を考えないでいいとは言ったけど、何も、一切譲らないってのはおかしいでしょ!

「統|え~っと…二人の言い分を聞いて、妥協するなんて甘い考えだったって事は分かった。

だからもう、二人が納得しなくても俺の妥協案受け入れてもらうから」

「美|あたしが満足出来るくらい、髪をいじらせてくれるよね?」

「要|私はそれが嫌なんですけど…」

「統|何で二人は、そんなに自分の事しか考えてないのかな…」

譲歩するって考えは全く無かったのか…?俺の話をちゃんと聞いてたのかと問い質したくなる。

「統|もうさ、間を取って、

最初の予鈴が鳴り始めるまでは新城さんの好きにさせるでいいんじゃないかな?」

「美|え~!短いよ!」

「統|朝だけでも出来るんだからいいと思って。

それに、次の朝にも機会があるんだから楽しみにすればいいんだよ」

「美|朝だけじゃあ、コテとかアイロンが使えないよ…」

「統|そういうのは学校に持ってこないでよ…?道具が使いたいなら、

休みの日に約束して、自分の家か御蔵さんの家で楽しんで」

「美|ああ、そうだね。その方がいいね」

「要|私はよくないんですけど!」

「統|御蔵さん、よく考えて。これで納得したら、朝以外は新城さんに遊ばれる事は無くなるんだ。

それで十分だと思えない?」

「要|でっでも、休日に家に来られるのは…」

「統|その時は、御蔵さんは拒んでいいから。それとも、髪をいじられるのが嫌?」

「要|そういうわけではないですけど…この髪型は気に入ってますし…」

んん?どうやら御蔵さんは、今の髪型を崩されたくないみたいだ。

「統|なら、最後にその髪型にしてもらえばいいと思うよ?というか、教えてもらえば?」

「要|…そうですね、自分で出来るようになれればいいですし。

出来ない間は見本としてやってもらえれば…」

「美|そういう事なら、特訓してあげるよ。出来るようになるまで付き合うから」

「要|おっ、お願いします」

ふう、どうやらお互い納得したようだ。これでしばらくの間は、平穏に…

「美|じゃ、早速教えてあげるよ。さっ、戻ろう戻ろう~」

「要|えっ!あああの、ちょっと新城さん!」

「美|やだなぁ、あたしの事は美尋って呼んでってば~」

「要|たっ、助けてください!国東君!」

新城さんに引き摺られながら、教室に戻っていく御蔵さんを見送った。

…きっとこの光景を俺は何度も見るんだろうな…二人を生温かい目で見守っていたら、そんな気がした。

「統|…俺も戻るか…」

廊下に突っ立っているのもどうかと思い、教室に足を向けたその時。

「統|ん?」

視界の端に、きらりと光る何かが映った。

反射した光だったんだろうが、何で反射したのかは見えなかった。

「統|…気にする必要は無いか…」

どうせ誰かが持ってた鏡だろう。そう結論づけた俺は、特に気にもせずに、

また教室へと足を向けて歩き出した。


 「拓|統次郎、一緒に飯食おうぜ」

「統|おお、そうだな」

昼休みになって、早速拓巳が弁当を持って俺の所に来た。

一年の時から、理由が無い限りは拓巳と昼飯を食べているため、

いつも昼休みになると、拓巳と居る事が多い。…他の誰かと食べる事が無いからだけど…

だがまあ、そんな事を気にしてもしょうがないので、

いつものように隣の席に座る拓巳と弁当を広げた時。

「美|ねえ、一緒に食べてもいい?」

「要|うう…」

二人分の弁当を持っている新城さんと、

どう見ても一人で昼食を食べたがってる様子の御蔵さんがやって来た。

「拓|別にいいんじゃないか?なあ、統次郎」

「統|ああ、俺はいいと思うけど…御蔵さんは?」

「要|…二人に断られると、私が新…美尋さんと二人で食べないといけなくなります…

それは嫌なので助けてください…」

「統|…じゃあ好きな所に座って…」

「美|じゃあ、あたし此処~」

各々が好きに座った結果、俺から見て右横に拓巳、正面に新城さん、

そして右斜め前に御蔵さんという位置取りになった。

新城さんと御蔵さんも弁当を広げ、さあ食べようというときになって、俺は飲み物が無い事に気付いた。

「統|あっ、お茶買いに行かないと」

「拓|あ、なら俺にストレートのアイスティーを買ってきてくれ」

「美|あたしはオレンジジュースね」

「要|図々しいと思いますけど…お金は出すので、私は冷たい緑茶を…」

「統|…後で絶対に払ってもらうからな…」

「美|そんなの分かってるよ~」

「拓|戻ってくるまで待ってるから、早く買いに行って来いよ」

「統|はいはい行って来ますよ…」

何で俺がと思うが、文句を言っても仕方ないので、

三人に頼まれた飲み物を買いに自販機へと急いで向かった。

…待ってるくらいなら誰か一人でも付いて来ればいいだろうに…


 自販機でパックのアイスティー、オレンジジュース、冷たい緑茶二個を買って、

教室に戻ろうとした。その時。

「ちょっとお話したいんだけど時間あるかな、国東統次郎君?」

後ろ髪を肩口で揃え、前髪は左側…彼女から見たら右手側に分けた髪型をした女生徒が、

薄らと笑みを浮かべて話しかけて来た。

相手は俺の事を知ってるようだが、俺は彼女の顔も名前も見た覚えが無い。

「統|誰…?」

「ああ、自己紹介がまだだったわね。私は新聞部所属、二年A組の財部知冬。よろしくね」

「統|あっ、ああ、俺は…」

「知|二年C組、国東統次郎。部活動は無所属で、交友関係は、一年の頃から親しい榎本拓巳。

それから最近仲良くなった御蔵要と、新城美尋。それで間違いない?」

「統|…間違いないよ…」

念のため、自分も自己紹介しようと口を開いた時。財部さんはポケットから手帳を取り出して、

代わりに俺の事をしゃべってきた。…自己紹介は必要なかったな…

「知|私は新聞部として、お話というか、調べている事があって」

「統|それと俺に何の関係が?」

「知|関係があるからこそ、国東君に話を聞いているんだけど?」

「統|それもそうか…」

でなきゃ俺に話をする事は無いか。

「知|まだるっこしいのは嫌だから、単刀直入に聞くけど、

御蔵要のいじめに関与、もしくは目撃していない?」

「統|………」

話の内容はあまり穏やかなものでは無かった。というか、驚きすぎて何を言ったらいいか分からない。

あれ…?何で俺がいじめに荷担している事になってるのかな~…?

「知|実はね、国東君がいじめに関わっているっていう噂があって、

それを顧問である豊中先生に事実調査をしてほしいって依頼されて」

俺が何も言わないのをいい事に財部さんは言葉を途切れさせずに話を続けていく。

「知|それなら、国東君に直接話を聞いてみようと思って。

…正直に言ってくれたら、報酬としてこれを渡すから…」

そう言って来た財部さんは、茶色の細長い封筒をひっそり差し出してきた。

「統|?何これ…」

「知|女子バレー部や、女子バスケ部の胸元アップ写真…いいのを選りすぐってるよ…?」

「統|何てものを渡してきてんだあんた!」

色々と際ど過ぎる封筒の中身に、動揺してしまう。

…というか、女の子が男にそういうものを渡してくるのはどうなんだ…

「知|えっ?気に入らない?じゃあ、水泳部とかのお尻のドアップ写真は?」

「統|いや、そういう話じゃないから…」

そりゃあ、欲しくないと言えば嘘になるけどさ…盗撮した写真ぽいならさすがに躊躇うよ?

「知|一応言っておくと、モデルには許可をもらってるし、

モデルには個人的にモデル代も払ってるよ?」

「統|合意の上でこんな写真を撮ってるの!」

「知|こういった部分的なアップ写真は今回だけだけど、

まあ部活動生とかの顔写真なんかは裏で売りさばいて裏の部費にはしてる」

「統|合意の上でも悪どいって!何さ、裏の部費って!」

「知|ちゃんと売り上げの二割はモデルに配給してるよ?

それに、使い道はカメラとかの機材を買い替えるためだけだから」

「統|やっている事は真っ当じゃないのに使い道はまとも!」

というか、新聞部としてその活動はどうなんだろう…?

「統|大体、何でそんな物を使おうと思ったわけ?」

「知|えっ?だって君、こういうの大好きでしょ?」

「統|…は?」

財部さんの言った事が理解出来ない…いや、理解したくなかった。

「統|…どうして、そう、思ったのかな…?」

「知|噂を聞いてそう思ったの」

「統|噂?って何?」

「知|国東統次郎は、グラビア写真を毎日見て、女の子をいやらしい目で見てる変態だっていう噂」

「統|はあ!何その噂!」

前半はともかく、後半は身に覚えが無いんだけど!

「統|どうしてそんな噂が…」

「知|情報元は誰かまでは言えないけど、少なくとも君の行いのせいじゃないかな?」

何ていう事だ…俺って周りからそういった目で見られてたなんて…って、待てよ?

「統|あいつは…拓巳はこの事を知っているのか…?」

俺からすれば、拓巳の方が変態だ。

グラビア写真を見てるせいで噂になってるならあいつだって噂になってるはず。

「知|そんな事よりも、君はいじめに…ってちょっと!」

財部さんの制止の声も聞かずに、俺は噂の詳細を聞くために教室へ急いで向かった。

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