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苦手な彼との交流  作者: 葵月詞菜


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4/5

苦手な彼との交流

(前話より)クラスメイトの熱血スポーツ少年・芝田に、児童センターで行う「おはなし会」を見に来ないかと誘われた真由。本を選ぶのを手伝った手前、少し気になるのも確かで、見に行くことを約束した。

 とうとう「おはなし会」の日がやってきた。

 児童センターは公共図書館の近くで、家から自転車で四十分と少し。晴れていたのと電車代を節約するため、珍しく自分から自転車を選んだ。

 始まる時間は午後一時。真由が到着すると、先に準備に来ていた芝田が出迎えた。

「お、来たな」

 まるで自分がお話を聞きに来たみたいに笑顔だ。

「なーに、その子が芝田の言ってた子? あれ、この前図書館でも会った?」

 同じ年くらいの、彼のお話会メンバー三人が集まってくる。

「本選んでくれたんだよね。ありがとー。あたしもあの本好きだったからうれしかった」

 長い髪の眼鏡をかけた女の子が真由に礼を言った。

「あ、いえ。喜んでいただけたなら良かったです」

 言いつつ、役に立てたうれしさが心を温かくした。

「私たちも頑張るから、今日は楽しんでいってね」

 こちらはショートカットの女の子が、ふふふと笑ってブイサインを送ってくる。この子は何となく芝田に似ていると思った。

「俺も好きな本だった。今度また何か紹介してくれないか」

 三人目の男の子が言う。彼はどちらかと言うと、芝田とは違って落ち着いたタイプだ。そう、まさに読書という言葉がピッタリと当てはまる。

「私でよければ」

 真由が同じ読書好きの匂いに惹かれ笑みを返すと、

「ちょっと待て」

 芝田が若干眉をしかめて間に割って入って来た。

「何よ」

 真由が呆れたように訊くが、彼はむううと唸って答えない。

 男の子の方がクスリと笑い、芝田の頭をポンとたたいた。

「ほら、妬かない。そろそろ準備するぞ」

 そのまま真由に会釈し、芝田を引きずって行ってしまった。

(妬く? 何に?)

 真由は首を傾げながら、部屋に集まり始めた子どもたちの後ろの方に腰を下ろした。



 真由が選んだのは、一冊が童話、もう一冊は縄跳びの練習に励むある小学生のお話であった。

 芝田といえば熱血スポーツで、少しその要素が入ったものを選んでしまった。同時に、運動が苦手な自分と重なる部分も見え、個人的に好きな話だったというのもある。

 彼がこの物語をどのように朗読してくれるのか。少し期待した部分があったのだ。

「大丈夫。跳べるまで見ててあげるから。ほら、もう一回」

 芝田の朗読に、真由は物語の世界へと惹き込まれる。自分が跳べない主人公と重なる。それをそばでずっと見ててくれるのは、彼だった。

(こいつはとことん付き合うんだろうなあ……こっちがうっとおしくなるくらい)

 そう思って、おかしくなる。

 彼を囲む子どもたちが、跳べないけど頑張る主人公の挿絵に釘づけだ。その顔は悔しそうな、歯痒そうな、複雑なものだった。きっと自分も同じような表情をしているのだろう。

(今度、教えてもらおうかな……)

 物語が終わる頃、不思議とふいにそう思った。

 拍手をしながら、芝田の照れた顔を見ながら、そう思った自分にふふと笑ってしまった。



「挨拶してくるから、待ってて。絶対だぞ! 先に帰るなよ!」

 散々釘を刺して、芝田はメンバーと共に児童センターの職員さんの元へ向かった。真由は先に自転車を取りに行こうかとも考えたが、入り口で待っていることにした。

 少しして、彼ら四人が荷物と共に外に出て来た。

「ちゃんと待ってたな」

 よしよしと頷く芝田を、

「私は犬じゃない」

 真由は睨み付けた。だいたい待ってろと言ったのはそっちだ。

「じゃあね。あなたもありがとう」

「また連絡するー」

「気を付けて」

 他の三人はあっさり解散してしまった。

「何、反省会とかしないの」

「今日は皆用事があるらしい。で、早々に解散」

「ふーん」

 真由は芝田と共に、自転車置き場に向かった。

「高橋はこれから何かある?」

 自転車の鍵を回しながら、芝田が訊く。

「帰って本読む」

 即答した真由に、

「……」

 束の間沈黙が返って来た。

「えっと……丁度おやつの時間だし、お茶でもどうですか」

 なぜか敬語で芝田が言う。

「え、お茶?」

 真由はここまで節約した交通費を天秤にかけ、思わず顔をしかめた。その反応に、芝田が「ああくそ」と顔を手で覆った。

「お前、オレが嫌いだったな」

「え?」

 思わずきょとんとする。何の話だろうと思って、前に彼のことが苦手だと言った件を思い出した。もしかして、あの時のことをそんなに気にしていたのだろうか。

「別に私、嫌いとは言ってないけど。苦手だって」

「一緒だろ」

 なぜか恨みがましい声が返ってくる。

 気まずい空気が周りを漂う。

 真由はどうしようかと悩み、はあとため息を吐いた。

「……じゃあ、お茶の代わりに」

 その声に、芝田が顔を上げる。――分かりやすいが、その期待に満ちた目は何だ。

 真由は引きつりそうになる頬をなんとか抑え、気が変わらないうちに提案した。

「私にバスケ教えてよ」

「……!」

 芝田の顔が驚きに溢れ、目を見開いたまま数秒固まる。

「ちょっとあんたに教えてもらいたくなった」

 本を選んでやったんだから、これくらいお返ししてもらわなければ。

 真由が若干の恥ずかしさに顔を横に向けると、

「分かった、やろう」

 彼のうれしそうな弾んだ声が耳に届いた。


 結論から言おう。彼の熱血は予想以上のものだった。本当にしつこい――失礼、根気よく指導が続いた。

 基礎の基礎も怪しい真由は、まだ楽しいと思えるには程遠い。

「高橋、ドリブルできなきゃ立ったままじゃん」

「もうそれでいい!」

「ダメだって。皆動かなきゃなんないの」

 当然ながら、バスケにおいて優位に立つのは彼の方だ。

(くそう……気軽に教えてなんて言うんじゃなかった!)

 後悔してももう遅い。真由は彼に目を付けられ、彼の熱血指導スイッチが入ってしまった。

「力入りすぎだって。ほら」

 スリーポイントの曲線から、芝田がふわりとボールを放つ。ボールは綺麗な弧を描き、リングに吸い込まれて行った。思わず、見惚れる。彼のフォームと、ボールの軌跡に。

「毎朝毎朝、よくもまあギリギリ教室に駆け込んでくるなあって呆れてたけど、何か納得したわ」

 休憩にジュースを傾けながら、真由は呟くように言った。

 芝田は本当にバスケが好きなんだろう。そして、この実力は練習の成果だ。

「そういえば毎朝、教室の方見たら窓際で誰かがこっち見てるなって思ってたけど、あれ高橋だったの」

 芝田が軽く目を見張る。

「私だけかどうか知らないけど、いつも見事な走りだなって感心してたわ」

「ウソつけ。呆れてた、の間違いだろ」

 彼の言葉に真由は言い返さず、軽く肩をすくめた。

「でも、ちょっと羨ましくもあったから」

 理解できないその熱血ぶりは、どこから湧いてくるのだろうと不思議だった。そこまで熱中できるのはなぜだろうと。そして、純粋に運動能力のある彼が羨ましいと思ったのだ。

「チャイムと戦うのはイヤだけどね」

 真由が苦笑すると、芝田がふっと頬を緩ませた。

「やっぱりオレ、お前に何かとことんスポーツさせたい」

「あ? 嫌よ、断固拒否る!」

 この一時間程ではっきりと分かったことが一つある。やはり自分は屋内でゆっくり読書などをしている方が良い。百歩譲って、たまーに軽い運動をするくらいでいいのだ。

「それに上手いあんたを見てると、すごいと思うからムカつく」

「何それ、ヒド! 八つ当たりじゃん」

 芝田が口を尖らせて抗議する。

「でも、観戦は嫌いじゃない。今度試合見に行こうかな」

 真由はふふと笑い、思いつきを口にした。

「!」

 水を飲んでいた芝田が咳き込んだ。

「上手いオレを見てるとムカつくんじゃなかったの」

「ムカつくけど、あんたよりすごい人もいるなら見てみたいし」

「うわ、性格悪」

「この前の体育みたいに、ポカすることもありそうだし?」

 真由がからかうように言うと、芝田の耳が赤くなった。

「だからっ、あれはお前が!」

「私?」

「……ああもう、来てほしいけど、来てほしくない……」

「あんた何言ってんの」

 芝田はしばらくぶつぶつと呟いていた。真由には意味が分からず、彼の声はスルーして青空の広がる天を仰いだ。

(まあ、今は前程こいつが苦手ではないかもね)

 芝田を見て、クスリと小さく笑う。

(「おはなし会」は好きだな)

 物語の中に惹き込まれる彼の朗読は、心地良かった。「おはなし会」の彼にはあまりガツガツした熱血さが感じられず、バスケをする彼を「動」としたら「静」という感じだ。しかし読む声とパフォーマンスには彼らしい熱があって、時々顔を覗かせる。

「もういい。ほら、練習再開!」

 芝田が一人で言って、ボールを抱えた。

「ええ、まだするの!?」

 勘弁してくれ、という真由の視線は彼に届かない。

 本当に、厄介な奴に目を付けられてしまったようだ。

 真由はもうすでにがくがくしてきた足を見遣り、明日からの筋肉痛の生活を思ってため息を吐いた。

(階段死ぬな……ていうか、これはいつ解放されるんだろう)

 改めて、自分の体力の無さと彼の熱血さを恨めしく思った。


Fin.

最後までご覧いただきありがとうございました。

本編はこのお話にて終了ですが、番外編を1つ付け足して完結とさせて頂きます。

よろしければ後少しお付き合い頂けますと幸いです。

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