久々の恋
合コンの続きです。
軽くて押しが強く見える武人さんも、実は悩んでいたんです(笑)
可愛い後輩に頼まれた二次会。当然ながら目当ては徹に正樹。俺達はおまけ。
まぁ、後輩とは言え大人になっているからそこまで露骨におまけ扱いってこともなく、なんとなく皆でワイワイやっていた。カラオケしたり、呑んだり、呑んだり……。
そして、お開き。約束通り徹にも正樹にも連絡先を聞いたりはせずにあっさりと退散した後輩に、ちょっと感心したのは黙っておこう。
「ん」
後輩たちをタクシーに乗せて見送った途端に、口の端だけで笑った徹が自分の携帯を出してきた。ああ、こっちも約束しましたね。
「ちょっと待てな。メール送るから」
愛衣ちゃんから聞き出した由夏ちゃんの連絡先をメールで送信。ちょっとぼんやりした子で、助かった。
「この子、元カノとかか?」
違うだろうな……。別れた女に固執するヤツじゃないことはよく知っている。ましてや俺が聞いた連絡先を欲しがるなんて、そんな徹は見たことがない。元カノなんかじゃない事はわかっているのに、気になって仕方がない。
「……幼なじみだ。っても中学以来交流はないんだけどな」
「さっき話しかけりゃよかったのに」
思ったことをそのまま口にするのは、俺の最大の欠点だ。口の端だけで笑う徹を、心底怖いと思った。
「俺は、嫌われてるんでね」
「……なにやったんだよ」
コイツ、見た目はいいのになぁ。
「なにもしてねぇ」
絶対嘘だと思ったけど嬉しそうに彼女の連絡先を見つめる徹に、流石にこれ以上は聞けない。自分にも人にも厳しい徹は、言い寄られることも多いけど、フラれる事も多い。優しさの欠片も見えない男に長くついてこれる女なんて、早々いないと何度諭しても改善はされない。『優しい男がいいいなら、他を当たればいい』って言い切ってしまう冷たさが、嫌われた理由かねぇ。
なんで女の子に、そんな冷たい言い方するのか俺にはサッパリわからない。
俺は、女の子には優しい。それこそ、好みじゃなくても、お姉さまでもお嬢ちゃんでも、『女性』には出来る限りの愛情と優しさを、という信念のもとに生きている。よっぽどのことが無ければ声を荒げる事もないし言葉だって気を付ける。女の子には、常に機嫌よくしていて欲しいから。
そんな俺が恋愛をするとなれば、それはそれは甘やかす。が、何故か長くは続かない。徹に言わせれば、俺は甘すぎるんだとか。
お互いの欠点は見えるのに、自分の欠点はどれだけ言われても改善できない。人間、そんなもんなんだろう。恋愛下手な俺は、いつしかちゃんとした恋人を作らなくなっていったが、それなりに楽しかった。別に、本気じゃなくてもいい。
合コンで知り合った女の子に次につながる連絡をしたいなんて思ったのは久しぶりだ。一度しか会っていない彼女にまた会いたいと、困らせないようにしてあげたいと思った。この子とは、すぐに終わってしまうなんて嫌だ。
なのに、本気の恋愛から随分遠ざかっていたせいで、どうやって連絡をしたいいのかわからない。あんまりガッツいていると思われるのも嫌だけど、社交辞令のみってのもなぁ。学生の頃なら、なにも考えなくても電話もメールもすぐにできたのになぁ。
ー昨日はありがとう。あれからちゃんと帰れた? 由夏ちゃんの連絡先ありがとうね。徹が喜んでいたよ、由夏ちゃんとは幼なじみだったらしいけど、聞いた?ー
情けない……。15分考えて、こんな文章しか浮かばないってどうなんだ?
これ、返信来るのか? 来ても、その後続かない内容じゃないか? う~~~ん……。
ーおはようございます。こちらこそありがとうございました。楽しかったです。由夏から、徹さんとは小さい頃の友達だって聞きましたよ。連絡とれるようになるといいですねー
はい。とりあえず丁寧な敬語で返信来ました。これ脈なしにしても冷たくない?お兄さん泣くよ?
困った顔しながらも気遣いをしていた昨夜の姿を思だすと、困らせたくないと思ったりやっぱり会いたいと思ったり、久々の気持ちの動きに戸惑ってしまう俺は、やっぱりもうオジサンなのかなぁ、と少し悲しくなる。
それでも必死で話をつなげてやり取りを繰り返すと、少しずつ砕けた文面に変わっていき、テレビに映る猫を一緒に見て笑うこともできた。
日曜日の夕方になってやっと、『また皆でご飯に行きたいね』と伝え、『そうですね』と返ってきた。社交辞令かもしれないけれど、彼女からの返事は全て嬉しかった。
週末、必死に頑張った俺の収穫。
愛衣ちゃんは社会人になってからは彼氏はいない、少し料理が苦手、猫が好き。
由夏ゃんは彼氏はいるが遠距離で中々会えない、犬が好き、食べる事が好き。
久しぶり、とはいえ2日もかかってこれってどうだ? これでも今の会社入る前は彼女が途切れたことはなかったし、合コン行けばそれなりに収穫はあったんだけど。
まぁ、いいか。
あきらめる気も譲る気もないけれど、彼女が困らないようにゆっくりと進みたい。彼女だって俺と同じように、久しぶりの恋愛に戸惑っているのだろうから。
メールのやり取りだけですごく充実した週末を過ごしたような気になっていた俺は、きっかけを作ってくれた『幼なじみに嫌われてしまった』徹が気になって仕方がない。
月曜日、俺が出社した時にはすでに仕事をしていた徹に声をかける。
「連絡したのか? 幼なじみの彼女」
「ああ、土曜に遊園地に行ってきた」
「は? 」
コイツ、やっぱり訳が分からない。嫌われていたんじゃなかったのかよ。自分で連絡先聞けないぐらいに嫌われているのに、遊園地に行った?
俺なんて、メールだけだったのに……。
毎日のようにくだらない事をメールで送る。彼女も新しく始まったCMとか、会社の側にある猫カフェとかの日々のこまごまとした事を教えてくれる。メールはとても楽しそうなのに、電話をすると、中々出てくれない。風邪をひいているとか、今はちょっと忙しいとか。
会いたいと言えば、テンプレートのように『その日は都合が悪い』といった返信がくる。
もう、諦めた方がいいのか。俺からのメールなんて、迷惑なんじゃないのか。はっきり嫌だと言えない彼女に、負担をかけているんだろうか。携帯を見るたびに、俺の胸には灰色の気持ちが広がっていく。
その頃、次第に増えていった溜息に気づいた正樹が何を思っていたかなんて、考える余裕はなかった。
1週間を乗り切って家に帰った途端に携帯がなる。正樹からのメール、宛先は俺のほかに徹も。
メールの内容を見た瞬間、心臓が5cm程度上に上がった。
ー愛衣ちゃんと由夏ちゃんと呑んでます! 武人の携帯使って呼び出してるんだから早くおいでよー
一瞬、書いている意味が分からなかった。俺の携帯使って呼び出す?なんのために?
俺が固まっている間に、状況を把握したらしい徹から電話が来た。
「武人、お前今すぐ書かれていたところに迎え。20分以内」
「20分? 無理だよ、俺だってもう家についてるし。正樹がいるんだからそんなに急がなくても帰ったりしねぇだろ?」
「20分だ」
「……はい」
仕方ない。スーツもそのまま、もう一度部屋に鍵をかけて部屋をでた。
余計な事をされた。という憤りと、これで何かが動くかもしれないとう期待が入り混じる。