合コン
出会いの合コン、裏話です。
武人の視点で書いてみました。
高校時代の部活の仲間で呑んだ帰り道、後輩からかなり強引に頼まれた合コン。
大学を卒業していったん公務員になったのに3年で退職、起業したばかりのイベント会社に転職をした俺に、周りの奴らは呆れかえっていた。それ以来、合コンどころか学生時代の集まりでは、腫れ物扱いだったのに、その会社が軌道に乗って、雑誌なんかに載っちゃって、さらに担当者として俺の写真まで載ってしまってから、随分扱いが変わってきた。
いや、それは良い事なんだよ。見返してやる、じゃないけれど公務員でいるよりずっと給料いいし、今は休みもしっかりとれるようになった。でも、だからって、見向きもしてない俺に向って、『誰か紹介して!』ってどうよ? お前、俺の事は完全無視だろ?
高校時代はあんなに仲が良かったのに……。
「だって先輩だし、今更、ねぇ」
ああ、そうですか。コイツ、黙っていればそこそこ可愛いんだけど。あんなに面倒見てやったのに。
「俺にもいいコ紹介しろよ? 」
「もちろん! 先輩の好みはわかっています。だから、先輩入れて、3人で!」
俺の好み? 自分では好みなんてないと思っていたのに、お前は知っているのか? まぁ、期待しておくよ。こっちは……。どうするかな?
現在彼女ナシ、寄ってきた子で好みだったらとりあえず付き合ってみる徹。
現在彼女ナシ、好きな子とじゃなきゃ付き合いたくない、彼女としっとり、よりもワイワイ遊びたい修。
どっちもアイツら相手じゃ見込みは薄いが、まぁいいだろ。二人とも、見た目は悪くない。
「先輩、当日で悪いんですけど、あと一人増やせません? 先輩の好みのタイプが、同じ会社のコも一緒がいいって」
なんじゃそれ? 友達も一緒じゃなきゃとか小学生か? いかにも、な女子か……。
俺、そういうタイプ、苦手なんだけど……。
「彼女持ちしかいないぞ。顔はいいけど」
「大丈夫です! 楽しく呑んでいただきます!」
人数合わせには興味なし、場を盛り上げるためにって所か? 本当、コイツのこういう所はっきりしていて逆に気持ちいいかも。
意外な事に彼女に一途、ムードメーカーの正樹、も参加決定。
まぁ、週末だし、もうナンパする年でもなくなったから、女の子と呑むのなんて久しぶりだし、俺の好みのコもいるっていうし。
あ、結構楽しみ。
店に人数変更の連絡をして、定時に上がれるように仕事をこなす。ついでに修の仕事も手伝って、千夏には正樹を合コンに連れ出す事を謝罪する。
ー連絡なんてくれなくてもいいのに。楽しんでおいで~ー
愛されている自信かねぇ。正樹、結構モテるんだけど、いいのか?
「いいんだよ。金曜日はお互い勝手に過ごすんだから」
こっちはこっちで、合コン楽しみにしているみたいだし。お前に良い事はないと思うんだけどなぁ。
「仕事終わったか? 行くぞ~」
いつになく張り切る俺に、徹と修は苦笑いしながらついてきた。お前ら、もっと張り切れ!
まぁ、一番いいとこ持っていくのは、徹だろうな……。
徹の正面に座った子は、自己紹介の間も一切表情を動かさずに徹をガン見していたかと思えば、修と一緒になって食べ始めた。ああ、当日参加したのはこの子だ。面白いものを見つけた、とでも言いたげな正樹が近づいていって逃げられた。正樹から逃げる女の子、初めて見た。
で、その子の隣にいたのが、アイツ曰く俺の好みの子?
あ、すっげえタイプ。
フワフワした柔らかそうな髪、白のカットソーに、紺色のカーディガン。ひざ下丈のスカートは少し落ち着いた紅。大人しそうで、一人ぽつんとしている姿が可愛い。ってか、この子、絶対強引に誘われただろ?
アイツ、悪いヤツじゃないんだけど、強引だからなぁ。
「大丈夫? 」
知らない女の子に声をかけるなんて、いつ以来だ? 前は、どうやって声かけていたんだっけ? とりあえず俺の口から出てきたのは、一人ぽつんとしていることへの気遣い。
「大丈夫です。ここ、美味しいですよね」
にっこりと笑って見せて、ビザを口に運ぶ。うん、苦手な場所でもちゃんと気遣いの出来る姿も好印象。
しかし、食べてるだけの修は人数合わせの子には好都合なんだろうな。この二人、絶対修から離れない気がする。まぁ、いいか。
後輩含めた肉食女子はイケメン二人に任せて、俺は彼女の隣に座った。料理の話とか、この辺りの美味しい店、旬の食材を生かしたイベント。食べ物の話ばかりなのに、ニコニコしながら聞いてくれる姿にさらに好感をもって、何とか連絡先が欲しいと思った。さて、こういう時ってどうやって聞き出すんだっけ?
遠い記憶をたどっていれば、鋭い視線が刺さった。何? 徹? 徹の隣では、正樹がニヤニヤしながら目で語る。『その子の連絡先、よろしくね』
ええと、このひたすら食べてる子のことですよねぇ。全く合コンに興味なさそうなんですけど……。
でも、正樹を怒らすと、後で面倒だからなぁ。頑張りますか。
「あの、さぁ、変な事聞いていい? 」
「はい? 」
「君の友達、徹、あの目つきの悪いヤツなんだけど、知合いなのかな? 」
「……由夏、あんな風に男の人見る事ないから、そうなのかも?」
「徹も、あんな風に女の子見る事無いんだよね」
徹は言い寄られる事多いからね、という言葉は頑張って飲み込んだ。
「でも、徹今肉食女子に囲まれてて動けないから、彼女の連絡先聞いてもいいかな? 」
「連絡先……」
聞いてしまってから、自分の発言を全力で後悔した。いくら何でも、友達の連絡先は気軽に教えられないよな。失敗した……。
「あ、嫌ならいいんだ。良ければ、だから。ごめん、忘れて」
「……いえ、良いですよ。本当に知り合いみたいだし、由夏の為にも」
いいんだ……。
なんか、危なっかしい子。まぁ、これで正樹クンからのミッションはクリアした。後は、のんびり。
「先輩、ちょっと!」
コイツ……。ちょっとごめんね、と言う頃にはもう彼女は笑顔で手を振っている。
はぁ。
「なんだよ……」
「めっちゃイケメンです。これは、もう私達に望みがない事は悟りました。でも、せめてもうちょっと夢を見たいんです!」
「お、おお……」
「だから、二次会! なんとかあのイケメンも二次会に呼んでください! 連絡先とか聞きませんから!」
お願いします、と頭を下げるコイツはある意味男前だ。まぁ、可愛い後輩の頼みだし……。
「わかったよ」
「やった! 先輩素敵! 」
彼女は、来ないだろうことはわかっているが、仕方ない。
徹と交渉する材料は手に入ったし、何とかしてやるよ。
「先輩、この間はありがとうございましたぁ。めっちゃ楽しかったです!」
「よかったな」
こちらこそ、ありがとうの言葉は飲み込んだ。結局あの合コンでいい思いしたのはこっちなんだけど、それは黙っておく。
「愛衣、先輩のタイプだったでしょう? 連絡先聞いているのみましたよ~、頑張ってくださいね!」
……見てたのか?
「あ、ちなみに愛衣、ちょっと男の人苦手な子なので、気を付けてくださいね」
「は? 」
おいこら、なんだその情報、聞いてないぞ。ってか、男が苦手な子を合コンに連れてきたのか?
「言ってないですもん。荒療治ってヤツですかね? 先輩なら大丈夫かなって思ったので」
『俺の好み』だからじゃなくて、愛衣の荒療治の相手に俺が選ばれた?もともとあの合コンは、愛衣の為だったのか?
「お前、男前だよな……」
「よく言われます! ではまた呑みましょうね~」