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東方鼯鼠転空記  作者: 平成の野衾(ノブ)
世に放たれし空の色
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第五話 時代錯誤な地上の都①

 とある山奥の川沿を、一人の少年が歩いている……


 その少年は鈍色を基調とした榛色の装飾が施された着物を着ていた。その赤茶けた髪の間からはちょこんと可愛らしく先の丸まった獣耳が、存在を主張するようにピクリと揺れる。

 そう、何を隠そうあの鼯鼠である。

 この少年、かれこれもう二時間近く川を歩き続けている。それなのに何の成果も得られないまま刻々と時だけが流れ、すでに疲れが出始めて来ている様子がみてとれる。


 ふと、少年が立ち止まった。




「はぁ~、何処まで行っても山しかないな」


 まったく困ったもんだと肩を落とした。


 華飛天のもとを去ってから、少し行くと川の流れる音が聞こえてきた。その音を頼りに河原へ出ると、ふと気温が何度か下がったような気がした。とても澄んだきれいな清流だった。

 そんな川に沿って歩いていけば、そのうちに何かしらの人工物が見つかるかと思い、ここまで歩いてきた。しかしこの状況、このまま行っても何もなさそうな気がしてならない。

 さて、何か見つかれば少し様子を見て、それで人がいるようなら何かしらの情報が手に入るかと思って期待していたのだけど……


 しっかし、ここまで何もないとは……これは時間がかかりそうだ。

 ……なんだかいろいろと不安になってくるな。


 と、頭を抱えていると、僕の耳が何かを感じ取ったかのように『ピクリ』と動く。



(川の上流だ、何か来る。)


 川の水を斬るような音が、上流からの水音に交じって微かに聞こえてくる。

 その音が次第に大きくなり、確実に接近を知らせると、


(あれは…………船か?)


 木製の簡素な船が川を滑るようにして着実にこちらへと進んでくるのが木々の間にチラリと見えた。

 しばらくの間その様子をボーッとして眺めていたのだが、その船の姿かたちがまともに見えるようになった時、


「あっ、やべ隠れないと!!」


 と言いようやく少し慌てる。

 ついうっかり人の気配に呆然としてしまったが、僕は今人ならざる者。しかも、人間に対しては敵対勢力という可能性さえある。そもそも、こんな姿の生き物を怪しまないほうが無理というものだ。

 つまり、こうなってしまったのなら、それに合わせた行動が必要になる。

 いま、この瞬間までそのことに全く気が付かなかったことが、後になってみれば不思議でならない。


 せっかく見つけた人間の手がかりなのにそんな些細なことで見失うなんてもったいない。

 というわけで僕は能力で姿を隠すことにした――この動作も手慣れたものだ。


 ……少しして船がさらに近づいてくると、二人ばかりの人間が船に乗っているのが見えてきた。その装いは帷子かたびらのを思わせる鎧で、兵士かなにかの人たちなのだろう想像がつく。

 まだ少し距離があり、人間だった頃は絶対にあそこの会話は聞こえなかったのだが、そこは動物の妖怪の特権というべきか、その兵士たちの会話が鮮明に聞こえてきた……




「……ろ妖力の検出された場所だ、探知機の用意をしとけよ」

「はぁーい」

「それから、今回検出された妖力はおそらくあの妖怪のものだ」

「なんだか引っかかる言い方ですね」

「まあ、相手が相手だからな」


 ここでしばらくの間沈黙があった。

 その沈黙を破ったのは口ぶりから察して部下にあたるであろう人であった。


「……それじゃあその妖怪は協定を破ったということでしょうか?」

「さあな、だがあいつは理由もなく約束を破るような奴じゃない。何かあったのかもな……」


 意味深な間が開いて、


「ともかく今回の俺たちの任務はあの鼯鼠になぜ何の連絡もなく外に出てきたのかを聞くことだ、危険は少ないとはいえ何があるかわからないから気を引き締めて行けよ」

「はい!」




 あの妖怪ってのは母さんのことなのだろうか?僕が知る妖怪は母さんだけで、此処に来るまでも他の妖怪なんかには全く出会わなかった。

 だとすると僕がここにいるせいで母さんが何か疑われてる可能性もあるということになるのだろうか。

 僕のせいで人に迷惑がかかるのはいやだ。何とかしてこの場を納めないと。


 さて、どうしようか……


 ……


『ピ―――――』


 !!


 目を閉じて考えていると、川の流れに任せた船が音もなく目の前まで流れてきていた。そこから騒がしく鳴り響く、甲高いビープ音に似た警告音。

 船に乗った男が一人(おそらく上司であろう)立ち上がり船から降り、小さなアンテナ付きの箱のような物を手にしてこちらを向き、


「華飛天よ、そこにいるのは分かっている。姿を現せ」


 と言ってくる。


 やはりあの会話は母さんのことだったのか……しかしどうも彼らは僕のことを母さんと勘違いしてるようだった。

 ふぅむ、これは困った。中々に話が複雑だ。

 相手に存在が知れている以上しらばっくれるのもリスクがある、か……ここは母さんのためにも素直に姿を見せておいたほうがいいのだろうか……

 そんなことをしたら即刻討伐されかねない。そのことが気がかりだ。


 まあでも、選択肢はないか……

 そう腹をくくると、僕は母さんのために能力解除をした。


「……ッ!」


『カシャリ』


 能力を解いて姿を見せると同時に、停泊させた船の上で話を聞いていた男が、素早く何かをこちらに向けてくる。

 それは銃のような形をしているように見えるた。しかもただの銃ではなく、あたかもSFの世界でよく見るレーザー銃のような近未来的な形をしているのである。


 少しして上司(仮)のほうが話しかけてくる。


「お前は……華飛天ではないな。ここで何をしている、答えろ」


 決して荒っぽくなく、しかし凄みのきいた声で押し付けるようにそう問われる。


 もう一人の兵士が銃?を構えなおし、警戒を強めた。


「えっと、た、旅だけど(正確には放浪かもしれないけど)」


 僕は銃を気にしながら、信じてもらえるかは別としてとりあえず正直にそう答えた。


「お前から華飛天と同じ力が検出されている。お前と奴はどんな関係がある?」


 なるほど、僕は母さんの力を分けてもらって(こういうのを使役?っていうんだったかな)生まれているから母さんと同じ系統の妖力を持っていて、それがあの探知機に反応したということか。


 それにしてもこの人たちの言ってた協定とか約束って何のことだろう?


「……聞いているのか!」

「えっ、あ~うん聞いてるよ、そうだなぁ彼女とは親子の関係かな」

「……………そうか、奴にもついに……よし、そういうことならついてこい、俺たちの都を見せてやる」

「いいんですか隊長!」

「大丈夫だ、華飛天の子であるなら悪さはしないだろう」


 クルリ……とこちらに向き直った隊長は、


「なあそうだろ」


 と、半ば脅迫じみた問いかけを繰り出した。それに大して僕は、「う、うん」と情けなく答えるしかなかった。


 そりゃあ、悪さなんかするはずないだろう。だって、つい最近まで人間だったわけなのだから……

 それにしてもなんだかやけに意味深な言い方だったな。


 もしかしてこいつ母さんとなんかあったのか!?


「よし!そうと決まればさっそく向かうぞ、ほら早く船に乗りな」


 そういう彼に半ば強制的に船へと連行された僕であった。


 兎にも角にも、なんだか丸く収まったみたいでよかった。


 それより都ってのはなんだ?

 船で流れて来てるということは川の上流にあるということで間違いないと思うのだけど……僕が歩いてきた所にはそんなもの見あたらなかったとはず……そもそも都と呼ばれる規模のものに気が付かないはずがない。

 まあそれもこれもいってみればわかることか。


 それよりさっきからこの部下さんの視線が背中に刺さるんですが……




 _________

 %〈鼯鼠移動中〉%

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄




「もうそろそろで着くぞ」


 早いなぁ、まだ五分もたってないと思うのだけど。


 そう心の中で思いながら素直にうなずく。

 それにしてもこの船はどんな原理で動いてんだか。だれも漕いでないうえにエンジンらしきものも何もない、それなのにかなりの速さで流れに逆らって川を進んでいるなんて……

 信じられないこともあるもんだ。と寛容に受け止める。こういう非科学・超科学の類にももう大して驚きはいない。それはとっくに母さんが一通りやった。

 しかし全く気にならないわけでもない。キョロキョロして怪しまれるわけにもいかないので、怪しまれない程度にこの船を観察する。ただいくら見てもいくら考えてもこれが木造船であるということ以外まったく何も分からん。これ以上の詮索は空想の域に達すると判断して、きっぱりこの際諦める。

 それよりもうすぐ着くといっている割には全くそれらしきものが見えないということが気になる。

 はたして本当にもうそんな近くに来ているのだろうか……


 話は逸れるけど船であったことを簡単にまとめると大体いこんな感じだ、


 まず初めに名前を聞かれたのだが、前世での自分の名前が思い出せない上に母さんからも名前で呼ばれたことがないことに気が付いて、そのことをいったら「それじゃあお前は今日から茶鼯ちゃごだな」と、勝手に名前を決められた。まあいいけれど……

 僕を都に連れて行くといったこの兵士――僕の名付け親になったでもある――は、自分の名前を玄武げんぶだと名乗り、都の警備部隊の隊長であることも教えてくれた。

 それからもう一人の兵士はやはり僕のことがあまり気に入らないらしく、わざわざ僕と反対側に座ってさらに警戒のまなざしまで向けてでこちらを見ている。


 閑話休題


「それで都って何処にあるの? 見当たらないけど」


 と言いながら辺りを見回していると、突然頭に生卵をかけられたような気持ち悪い感覚がした。かと思ったら急に寒気がして、それと同時に意識が遠のいていくのを感じる……――


 一体何が……そんな言葉を形作る余裕もなく、僕の意識は深い闇へと落ちていったのであった。

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