6話 兄妹水入らず
ヒイロを必死になって宥めすかして何とか壊れた人形みたいな状態から戻して、やっと僕達は家路に着いていた。
家路って言っても寮なんだけど…
「多分兄さんに頼みたい事っていうのは最近王都で頻発している通り魔の件でしょうね」
今まで壊れていたなんて信じられないくらい真剣な表情を浮かべてシュヴィから頼まれた事について憶測を述べ始める。
「その通り魔は何故か女の子しか狙わないそうなので、代役…いえこの場合囮が適当ですね、が欲しかったところによく女の子と間違われてしまう男子で女顔で童顔という究極の逸材が目の前に現れたのです、頼むなという方が無理でしょう」
所々何故かシュヴィを庇っている節がある様に見えるヒイロに非難がましい視線を向けると、
ヒイロは、そんな視線なとおかまいなしい続ける。
「なので、私が兄さんの女装を見たいから、とかそんな不純でやましい動機で女装にオッケーサインを出したわけではなくて、えとえと…そうです!困っている方に手を差し伸べるのは人として当然の事!そういうわけなのです!勘違いしないでくださいね!」
早口で少し意味のわかる様なわからない様な事をまくしたてる我が妹。
そして、何故か本当に何故か凄く良いかをして、まるでやりきったぜ!みたいな雰囲気を醸し出している様に見えるんだけど…
これ僕の勘違いだよね?そうだよね?ね?
まあ、お兄ちゃんとして答えておきますか!
「うん、わかってるよ。ヒイロは困っているシュヴィを見過ごせなかった。だから僕が了承しやすい様にちょっとふざけた感じで勧めてくれたんだよね。あの後教室で仲よさそうに話してたもん、ヒイロとシュヴィが良い友達になれる様に僕も空気を読んでこの頼みを完遂するよ!ヒイロの頼みでお願いでもあるしね」
兄らしく妹の我儘もといお願いを微笑みながら、迷惑がるでもなく、
はたまた面倒臭がるわけでもなくさらりと受け入れる。
そんなアオハを見て、ヒイロは、この人はやっぱり自分の兄なんだと嬉しく思うと同時に、
兄を兄としてではなく1人の異性として思っている感情が壁からニュルリと「呼んだ?」と顔を出してくる。
「呼んでません!お引き取りください!」
いきなり怒鳴りだした妹をギョッとした顔で見つめるアオハ。
ヒイロは、ハッとして咳払いをした。
ただし顔を赤くしながら。
「何でもありませんからね!それより兄さん?囮を引き受けるのは良いとして、もし襲われたらどうするんです?」
何かを誤魔化すように早口でもっともな事を言い出したヒイロにシュヴィから受けた説明を極力同じようになる様に思い出しながら説明をした。
「ええと、そこは僕も気になってシュヴィに聞いてみたんだ、そしたら、万が一の事が起きない様にちゃんと近くに騎士兵を護衛に付けるって言っていたよ」
すると、
人差し指を唇に当てて「ふーむ」と可愛らしく唸って考えていたヒイロが、
「まあ、護衛が少し豪華なくらいが囮を手伝わされるこちらとしはいい条件でしょう。…………………………………………………兄さんの実力を知らなければの話ですけど」
騎士兵とは王女専用の兵団みたいなものであり、特別力の優れたものだけが就くことができる最高役職である。
そして秘密裏に敵を始末していく、いわゆる王女だけが動かす事ができる懐刀のようなものだ。
そんな、
凄い騎士達を少し豪華などと言い放つ我が妹。
この子は将来絶対大物になる、そんな気がする一言でした。はい。
そして最後の一言。
これは自分をヒイロが過大評価している事が現れとなっている。
実際、
僕の実力なんて平々凡々で大多数のうちの1人として埋もれてしまうほどだ。
でも、ヒイロが…
僕のたった1人のとても大切な家族がそういう風に思っていてくれるのはとても嬉しいし、いつもそうなる様に努力は惜しまないつもりだ。
「ありがとうヒイロ。期待しててね!僕頑張るからさ!」
すると、
ヒイロはかなりこっぱずかしかったのか顔を真っ赤にしながらフイッとそっぽを向いてしまう。
そんなヒイロを見てほほえましく思っていると、
「ありがとうございます…兄さん」
と、
まだ真っ赤な顔をして背を向けながらお礼をいうヒイロ。
なので僕も
「どういたしまして」
と、優しい口調で答える。
そして、
自然に笑みが溢れて、
顔を見合わせた僕たちはどちらともなく笑いあった。
久しぶりの兄妹水入らずの時間はとても穏やかに過ぎていった。
まるでこれから襲い来る嵐の前触れみたいに…