4話 最悪な出会い
恙無く入学式が終わり、
掲示板を見て各々示されている自分の教室へ向かった。
妹と奇跡的にも同じクラスになり(クラスは2組しか無い)、一緒に教室に入っていく。
すると、教室にはすでに半数以上の生徒が着席していた。
ようするに出遅れたのだ。
なのに、
ほぼ埋まっている教室の隅。
一番後ろの列の席が微妙に空席になっていて、
すでにそこしか2つ並んで席が空いているところはなかった。
なんか嫌な予感がする。
だって考えても見て欲しい。
1番後ろのしかも隅っこの席、
本来なら1番人気の席なのだ、
そこが空いている。
だから、なにか嫌な予感がするのだが2人で並んで座わる気満々のヒイロにあの席は嫌な予感がするから離れて座ろうとは到底言えない。
仕方がないので、件の席へ向かってみる。
周りの初対面の筈のクラスメイト達から妙にお気の毒な人を見る目を向けられている、
僕とヒイロは互いに顔を見合わせて頷きあう。
覚悟は良いか?
と
そして
バッチリだ!
と意思を交わす。
トン、トン、
と一段づつ階段を踏みしめながら件の席へ、窓際に座っているクラスメイトの女子へ話しかけた。
「す、すいません。隣空いてますか?」
既に(周りが避けているのがありありとわかるので)わかりきっている事実を、棚へ押し上げて引き出しにしまいながら、微笑を浮かべてはなしかける。
まじまじと見るのは失礼だと分かっていたが、これは驚いた。
今の今まで、他のクラスメイトの奇怪な行動から特に注目もしていなかったのだが近くに来て、話しかけてみると、彼女の美女というより美少女といった感じの少し幼いながらも凄く整った容姿に、自分の妹みたいに可愛い女の子がいるんだという事に驚き少しフリーズしていると、何を勘違いしたのかヒイロがニコリと彼女に笑いかけながら、密かに僕の脇腹へ肘鉄をかましてきた。
こ、怖ィ…
「ぐふぅ…」
見た目からは想像できないほどの、一撃がとても重いヘビー級の肘鉄を僕の軟弱な脇腹へ決めこんだのでモロに入った。
そのため、今の僕にできることは、
呻く事。
それ以外に何もなかった。
しかし、事態は僕を置いてどんどん進んでいく。
「はぁ〜、兄さんがお見苦しい所をお見せしてしまい申し訳ありません。久しぶりの女子との会話に舞い上がってしまっているのです」
やれやれ、困った兄さんだぜ
とでも言いたげな、というか言っているヒイロに抗議してやろうと口を開きかければ、またヘビー級肘鉄をくらう。
周りの事の成り行きを見守っているクラスメイト達は肘鉄のダメージを受ける僕に対して同情の眼差しを向けている始末だ。
「はぁ、で、私になにかある…の?」
コテンッ
と不思議そうに首をかしげて此方を見てくる美少女。
クラスの男子の精神HPが1500減った!
効果は抜群だった。
そしてHPゲージが全損してグフッと吐血しながら机に突っ伏しだす男子を冷ややかな目で見る女子達。
まだ、自己紹介すらしていないほぼ初対面だというのに男子に向ける女子達の視線は痛い。
何故かクラス内のヒエラルキーが位置付けられた気がした一瞬だった。
そんな中、
やっぱり男の子なので多少ドキリとしてしまった僕の脇腹がどうなったかは…想像に難くないだろう?
「はい、実は2人並んで座れる席がもうここしかないのでお隣失礼してもよろしいですか?」
「………………………………どうぞ……」
結構長く溜めたが快く(?)オッケーしてくれたので僕とヒイロは隣に座る。
因みに男子達はノロノロと机から体を起こしていた。
終始沈黙というのも心苦しいので何か話題を…
と思っているとヒイロがタイミング良く切り出し始めた。
「私はヒイロ・アルカディラと言います。こっちは兄のアオハ・アルカディラです。これから三年間仲良くしていただけたら嬉しいです。」
「よ、宜しくお願いします」
ぎこちなく銀髪美少女に笑いかけた。
いや、
これ笑じゃない、
苦笑いだ。
などと思っていると、ジーーと静かに僕の顔を見つめていた美少女さんは、緊張気味にいきなり自分の自己紹介を始めた。
「え…と、シュヴィーラ・エルカディア…です」
…………………………………………………………………………………………………………………………………え?
エルカディアって言った?
今この子エルカディアって言った?
「エ、エルカディア…さん?で間違いない?」
コクンッと確実に頷き返すエルカディアさんを見て、机に突っ伏していたクラス内男子も冷たい視線を送っていた女子も僕の脇腹にずっと攻撃を加えていたヒイロも、全員がフリーズした。
「シュヴィ……と呼んで下さい。あと、アオハって呼んでも良いですか?」
瞬間反射で頷く僕に、やっと解凍したのかヒイロが肘鉄をお見舞いする。
そして、シュヴィはさらなる爆弾発言を投下した。
「アオハ…あなたの容姿を見込んで…お願いする」
固唾を呑んで見守る、というより動けないクラスメイト達の視線をものともせず続ける。
「女装して!」
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はい?
「何を言ってるの?え、と…シュ…ヴィ?」
聞こえなかったのかと勘違いしたのかさっきよりも声を大きくして、また爆弾発言を投下した。
「アオハの女顔を見込んでお願いです!女装して下さい!」
今度こそ、話を飲み込んだ僕は…
「お断りします」
と、矢継ぎ早にこたえた。