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人は見掛けで判断してはいけません!  作者: 内守谷ひみか
2章 蒼色世界
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18話 黒い影

−悪の組織のボスがグレンの父親じゃなかった−


「いや、グレンはずっとお前を『父さん』と言っていた筈だ!」


そう、グレンは父親が母親に叱咤激励されて、斜めはるか上空に解釈して僕達に復讐していたはずだ。


「でも、あいつは俺の事は1度も『父さん』って呼んじゃいねぇ!」


思い返してみる。

確かにグレンは何度も『父さん』という単語は口にしていたが、この薄汚い初老のおじさんに向かって呼んだことはない。


「っ!ならお前は誰なんだ」


「お、俺は…俺はぁ!」


何故か、自分の正体を明かそうとする男は口をパクパクさせて、何度もどもりながらも自らの名前を口にしようとする。

自分の名前を言うのに何故こんなにも言い淀んでいるのか、内心首を傾げていると、


「ア……オハ…」


カチャ…

とわずかに鎖の擦れる音が広い空間の中に響いた。


「すみ、ませ…ん。」


未だ白い顔をしながら、こちらを向いているヒイロの姿があった。

鎖によって吊り下げられる形となったヒイロの手首からは、どれだけきつく縛られているのか、血が滴っている。


「ヒイロ!」


辛そうに顔を上げるヒイロは何故だか一度びっくりしたような表情をした後、ほんの僅かに悲しそうな、何かを納得したような歪んだ感情を滲ませたが、すぐに取り繕った表情になると、こう言った。


「わた、しは…シュヴィ、ですよ」


本当に魔力を吸い出されて辛いのか肩でゼェゼェと荒く息を吐きながら、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。


「一緒に、連れてこられて…私、すみません。足手、纏いに……っ!」


全てを言い終えたのかそれ以降ぐったりとして動かなくなったシュヴィ。


「そんな、ことって…」


両腕に全体重がかかり、さらに傷に鎖がめり込み血が魔法陣に滴り落ちているシュヴィを見やりながら、全身を激しく巡る激情を抑え切ることができず叫び声ともつかない咆哮をあげる


「良かったあああああああああああああああああああ!」


あの崩折れているのがヒイロじゃなかった。

あの鎖でつられているのがヒイロじゃなかった。

あの腕がすりむけて血が滲んでいるのがヒイロじゃなかった。

あの魔力を根こそぎ搾り取られているのがヒイロじゃなかった。

あの、

あの、

あの、

あのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあの


今にも死にそうなのがヒイロじゃなかった。


「良かった…」


いきなり叫び声をあげて、死にかけている少女が自分の妹ではなく友人の少女であったことに喜び狂喜乱舞している様を目の当たりにした悪の親玉は、


「なに喜んでやがんだ!てめぇ!ああぁ?てめぇの友達が!死にかけてんだぞ!?この国の王女さまだそ!それが殺害されかけてんだぞ!てめぇに容疑がかかんだぞ!」


錯乱し、つばを撒き散らしながら騒ぎ立てる。


「いや、シュヴィを殺しかけてるのはお前だし、加害者の親玉が言うなよ」


「黙れぇ!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!こんなはずじゃなかったんだよ!こんなはずじゃ、こんなこんなこんなこんなこんなこんなこんな!そもそも!てめぇがふざけたタイミングで、俺がぁ俺がやっと出世できるタイミングで、出てきやがって!しかもなんだ!俺が全て悪いだと⁈ふざっけんな!なんで、なんでなんでなんなだよ!」


頭を両手で搔きむしりながら振り回して、なにやらよく分からないことを叫ぶ悪の親玉は何故だかとても滑稽に映った。


「わざわざあいつ(・・・)が仕入れた情報通りにやったってのに!魔毒ガスを学院に繋げたってのによぉ!クソ!クソ!クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソォォォオオオオオオ!」


「憐れだな、おまえ」


先ほどまでこの男に感じていた恐怖心などが、驚くほどあっさりと無くなっている事に気がついた。


「俺を見下してんじゃねぇよ!憐れむような目で見んな!俺ァなあ!俺ァなぁあ!」


そろそろ聞くに耐えなくなってきたので、言葉らしい言葉を吐かなくなってきて床にへたり込んでしまった男の首筋に短剣の腹を当てる。


「お、俺を誰だと思ってんだ!こんな真似して許されるとでも思ってんのか!テメェごときが俺を、俺様を殺していいと思ってんのか!見下していいと思ってやがんのか!なんなんだその目は!憫むような目は!見るな!俺を見るな!思い上がるなあああああ!」


剣の刃の部分をどんどんと首の表皮に食い込ませる。

ップ…

という音とともに表皮が切られて赤い雫が滴り落ち、コンクリートの地面に水たまりを作り出す。


男はついに喚き散らすことすらやめ、ガチガチと歯の根を鳴らして声にならない声を漏らしている。

これがあと少し切れれば、今度は喉から、風を切るような音に変わるだろう。


人は首を切られても少しの間は生きているらしい。


ならば


落ちた首についた両の目玉が最後に移すのはもっともっと残酷で凄惨なものがいい。

意識せずとも口の端がニタリと釣り上がるのが嫌でも自覚できる。


「化け物…」


至近距離で笑みを見た男はもう抗う気力が底をついたのか、はたまた観念したのかガタガタとあまりにも滑稽に震えていたのがピタリと止んだ。


「化け物」


そのかわりかどうかはわからないが、とても平坦な声で同じ事を繰り返している。


「化け物だ」


「……その化け物に手を出したのはお前だ、後悔しながら死んでいけ」


首に食い込ませた剣を鋸で切るように、少し切っては戻し、戻しては切り進めて、を繰り返す。

その間も男は絶え間なく絶叫を上げているが、知ったことではない。

ヒイロに手を出した罰だ。

報いを受けるのは当然だ。


「あああ、ぁぁああああああああぁぁぁぁ!!」


切り落とすのにそこまでの時間はかからなかった。

ただ、最後に人間の首を切り落とす、嫌な感触が剣を伝い握り込む手のひらに感じただけ。


1メートルくらいの落差を滑るように転がり落ちていくあの男の首を、憎い敵を討った愉悦に昂ぶる感情で眺める。


「……バ、ケ………ノ」


その表情は恐怖に塗れていた。


「やっと終わった」


聞くに耐えない罵詈雑言を浴びせかけられ、ヒイロを危険にさらされている幻影をひたすらに見せつけられて。

アレがシュヴィだったから良かったものの、もしヒイロだったと考えると今でも身の毛がよだつ。


兎にも角にもやっと終わったのだ。

きっと、ヒイロもこの地下のどこかには居るはずだ。

早くこんな埃っぽくて薄汚い場所から連れ出さなければならない。

晴れやかな気分で、地下の魔法陣や機械のある部屋を出ようとしたその時。


後ろから、黒い靄が立ち上った。


「ふひひひ、やはりこのニンゲンでは役不足でしたね」



黒い靄は、落ちた男の首から噴き出し人型を形成していった。


「お初に御目にかかります、ワタクシはフェノキール、是非フェノとお呼びください。いやはやそれにしましても、さすがイヅナ様の弟君であらせられる。」


自身をフェノと名乗った黒い人型靄は丁寧にお辞儀をしてきた。


「いやはや、やはりイヅナ様の仰っていた通り素晴らしい。その冷徹さ、思い切りの良さ、残酷さ…どれをとっても素晴らしい。やはりこのようなつまらない事に拘って暴れ回るしかない脳足りんなんかではあなた様には届かない!やはりもっと質のいい傀儡を用意するんでした、これではあなた様に失礼だ、どうしましょう、そうだ、そうです、あそこのあのオスのウジ虫を使いましょう、そうしましょう!私はなんて頭がいい、いやはやいやはやなんて運がいい、こんなに道具に恵まれる事もそうはない。御誂え向きにそこなウジ虫はあなた様にとって少なからず情があるようだ、あなた様の冷酷さ残虐さ凄惨さをとくとワタクシに魅せて下さい!さあ、さあさあさあさあさあさあさあさあさあさあさ!」


靄を鉤爪のついた手型に変形させると、勢いよくグレンの方へ手を伸ばしていく。


「やめろ!」


思わず手がグレンを貫くギリギリの瞬間に間に入ってしまった。

考える前に体が動いてしまった。


「おや?あなた様はこのウジ虫に裏切られた筈…どうしてお庇いになる?その少なからない情の為?そんなものワタクシが望むあなた様の残忍さ、残酷さ、冷徹さには必要ない!いやはやいやはやワタクシの思い違いか?そうなのか?いいや、否、断じて否。ワタクシがマチガエルわけがない!」


爪を弾き返すと、再度グレンに向けて鋭い鉤爪を伸ばす。


「させない」


なぜグレンを庇うのか。


分からない。


僕がこいつを庇わないといけない、そんな理由などどこにもない。

むしろ、こいつは僕を裏切ったんだから熨斗をつけて渡せばいい。

そして、こいつを殺したところで正当防衛だ。

恨みを晴らすいい理由も得られる。


なのに、なんで…


「ふむ、あなた様も混乱なされているようですな…無理もありませんな、剣で貫かれたのですから。ではではワタクシはまたの機会、あなた様が回復なされてからまた出直すとしましょうか、そうそうこの機械、あとはそこのボタンを押せば有毒な薬の気化したものが学院のダスト管を通って蔓延するでしょう。ではワタクシはこれにてお暇させていただくと致します。失礼いたしますよ、っと」


カチンッ


と小気味よい音がして、目の前の機械が音を立てて動き出す。

学院に有毒な薬のガスが蔓延するまで、


あと3分…

更新が止まってしまってすみませんでした。

これからはコンスタントに更新できるよう頑張ります!

評価、コメントなどいただけましたら励みになります。

よろしくお願いいたします

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