17話 裏切り者の末路と敵の正体
ガタンッ
という音を立てて機械の一部が開く。
そちらの方へ、血が足りなくなり朦朧とした意識を奮い起こして顔を上げて目をやる。
次の瞬間、傷のことも忘れて勢いよく飛び出す。
「お前!何をした⁉︎」
一瞬のうちに頭に血が上り沸騰する。
だってそこには、そこには…
「ヒイロォォォォォォォ!」
機械の中の小さいスペースの天井から伸びている細長い鎖で腕を拘束されていて、意識がないからか宙吊りになっていているヒイロがいた。
床には細々とした魔法陣が描かれ淡く光っている。
先程、機械の中にいるというヒイロの姿を映像で見させられたが、直に見るのとでは悲痛さが違う。
そして、先程よりもヒイロの息が荒く、肩を上下させて荒い息をしている。
そして、顔色が青を通り越して白くなっている。
驚き、足に鞭打ち起き上がって吠え猛る僕の姿に満足したのか、はたまた自分たちが優位に立っているけとがはっきりしていて余裕あるからか、悪の親玉が饒舌に話し出した。
「ははっ!いんやいや、大変だったんだぜ?まずこのパイプをテメェらの通ってる学院の教室に繋げんのはよぉ!一体全体何人の首がぶっ飛んだんだぁ?あはははは!」
この床から生えている数本のパイプは僕たちがさっきまでいた教室につながっているらしい。
ただ、学院にパイプを繋げて何をしたいんだ。
ここまで手間のかかることをしておいてただそれだけなはずがない。
聞くだけで数人の首が飛んだことが分かるし、それを聞いて憤慨する僕の姿を見たいのだろう。
それを聞いてもなんの怒りを見せない僕に訝しげな、それでいて思惑が外れて不発に終わったことにムッとした表情を浮かべている。
「チッ、なんだよ面白くねぇーな。まぁいい、このパイプから魔力のある奴にしか効果がない気体性の魔毒が教室ひいては学院中に充満して苦しんで死んでいくんだよ!ただこの機械はバカデケェお陰で消費魔力もバカみてぇに食うんだわ。で、だ、その動力源にテメェの妹を使ったって訳よ、俺様ぁ頭がいいからなぁ、ゴミの再利用だ」
僕たちが通っている学院は魔力のある人しか通えない、という性質がある。
ということは僕のせいで無関係な人たちがたくさん傷つき、最悪の場合死者も出るだろう。
いくら、補習日で人数が少ないと言えども今日はお祭りの最終日なので、近くにもたくさんの人がいて少なくない犠牲者が出るのは目に見えている。
「…僕の、せいで」
「そぉーーだよ!テメェのせいで祭りを楽しみにやってきた無関係な奴が5万10万と死んでいくんだよ!テメェのせいでなぁ!」
ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべて、なおも言い募る男。
僕が地面に倒れ伏し、争う力を無くして絶望していると思い込んで優越感に浸りながら近寄ってくる。
「どーだぁ?テメェのせいで無関係な奴らが死んでいく気分ってのは、なかなかにそそるもんがあるんじゃねぇか?あははははははっ!」
ガッ
と頭を片足で踏んづけてくる。
そのまま僕を見下ろしている男はグリグリと足先を傷口に抉り込んでくる。
「ぐ…ぁぁ…」
思わず口から苦悶の嗚咽が漏れる。
でも言わなければならないことがあるんだ、この男に…
「たっまんねぇなぁ!おい!さっきまで生意気に吠えてた野郎がこうして苦しんでやがる!胸が空く思いってのはこういうのをいうんだろぉなぁ!なぁ!グレン!」
さっきから俯いたままからピクリとも動かないグレンにグレンの父は話をふる。
するとゆるゆると顔色の悪い面をあげて、僕の血がついている剣を握り締める手をカタカタと震わせながら喋り出した。
「…あ、うん……ただ、」
「どうしたあ?なんか浮かねぇ顔してやがんなぁ、お前の父さんをクビに追いやって一家離散間近に追いやった相手が地面に苦痛な顔して倒れてんだぜ?しかも他ならない俺たちの手でなぁ!しかもこいつが後生大事にしている妹の命も魔力欠乏症で風前の灯火ときたもんだ!これがウケねぇわきゃねぇだろがぁ!」
いまだに僕を踏んでいる足の膝をバンバン叩いて笑うグレン父にグレンは何か言いたそうな顔をするが、それをすぐに引っ込め無理やり笑みを貼り付けていた。
正直、
なめていた。
こんな、身なりの汚い初老の男がロクに戦えるわけがないって。
そして、なめてかかってる間にあっさりと友人だと思っていた相手に裏切られて刺されて、ヒイロまで人質に取られたままで、
そして、未だに踏まれたまま地面に倒れ伏している。
恥ずかしい、な。
昔にも師匠から言われていたのに…
『相手がどんな立ち居振る舞いをしても、どんな見た目をしていても、それに惑わされていたら痛い目にあいますよ』
よく僕の師匠が言っていたことだ。
人を見掛けで判断していたら痛い目に遭う、と朗らかに笑いながらものすごい足さばきで剣戟を避けながら手刀を繰り出していた。
見た目すごく優しそうなおっとりしたおばあさんだったのに破茶滅茶に強い師匠を見てとても納得していたはずなのにな……
「ははっ…」
つい笑ってしまう。
それに目敏く気がついたグレン父は、笑っていた顔を苛立たしげに歪めた。
「ああ?てっめぇ、何笑ってやがんだボケが、とうとう気が狂いやがったかぁ?そりゃあ狂いたくもなるよなぁ?大事な大事な妹があんな死にかけで、てめぇは地面と仲良しこよししてやがって、挙句に2対1の絶対的不利、そして、てめぇのせいで知らぬ間に命を天秤にかけられたその他大勢ときたもんだ!これで正常でいられるやつの方がやべぇよなぁ!おい!」
嗚呼、
ああ、
アア、
なんて、なんて、なんて、なんてなんてなんてなんてなんてなんてなんてなんてなんてなんてなんてなんてなんてなんてなんてなんてなんて…
「うるさい」
僕の後ろに立って、父親に賛同していたグレンも気にせずに立ち上がる。
立った途端に傷口から血がボタボタと流れ落ちる。
構わない
「なっ、!てめぇよお!てめぇ!そんなボロクソで調子乗ってんじゃねぇぞ、こらぁ!」
「…うるさいんだよゴミが。お前こそ調子に乗ってギャーギャー喚き立てるな、ゴミ」
先程まで傷の痛みとヒイロを人質に取られた怒りで全身の血が沸騰していたみたいだったのが、今やスッと血が下がり冷静だった。
先程までとはうって変わり視界がクリアになり判断能力が跳ね上がる。
「あーあ、せっかく男子の友人が出来たと思ってたのになー。残念だなー」
思いっきり棒読みで残念がりながら、素早く後ろに振り返り、未だ突っ立ったままのグレンに急接近する。
「……はぁ?っ!」
急に近づいて来た俺に驚いて横に飛び退くグレンに、左足首を軸にして身を捻って右足蹴りを繰り出し、追撃をする。
「グフッ!」
捻りを加えて加速した蹴りを脇腹にくらい、空気を吐き出すのに膝をついて口の端からでたつばを手の甲で拭うグレンにわざとゆっくり近く。
「おい、アオハ。お前授業の時手抜いてやがったな?なんだ今の一撃、くっそ重いわ」
ヘラヘラといつものように話しかけてくるグレンに表情の消えた冷たい顔を向ける。
「喋るな」
「っ!…たく、能ある鷹はなんとやら〜ってやつだったのかよ。そりゃあ無いぜ〜だって俺たち親友だったじゃ」
「だまれ、喋るなって言ったのが聞こえなかったのか?」
それでもなお喋ろうとしたグレンをにべもなく黙らせる。
グレンが一言喋るたびに不快になっていく。
こいつのせいでヒイロが苦しんでるんだ、許せるわけがない。許容なんてできるわけがない。
片膝をついているグレンの目と鼻の先まで来たところで、未だに動けずにいるグレンの首めがけて蹴りを放つ。
先程とは違い、捻りを加えてはいないが、怒りを込めて蹴りを入れたので、十分すぎるほどの力が入り壁まで吹っ飛んでいく。
ガラガラッと壁のコンクリートの一部が崩れて下に倒れてピクリともしないグレンに降り注いでいた。
「まずは1匹」
次は…
「お、俺は助けてくれぇ!そ、そ、そいつなら煮るなり焼くなり好きにしたらいい!俺だけは助けてくれ!俺は武力はからっきしなんだぁ!」
先程までは余裕綽々という感じだったにもかかわらず、今は情けなく腰を抜かして地面に座り込んでガクガクと震えていた。
そんな、怯える様子や言い募る言葉に更に不快になる。
「黙れクズ。お前はそれでもグレンの父親か?どこの世界に子供を身代わりに差し出す父親がいるんだ。それに、ヒイロをあんなに傷つけたお前を助ける?助けるわけ無いだろ!」
不快感と苛立ちをないまぜにした気持ちをそのまま言葉にして吐き出す。
すると、それを聞いたグレン父は、場の空気すら忘れて、自身が裁かれる立場だという事も忘れて、ポカンとした表情で口を開いた。
「はぁ?俺があいつの父親?」
「違うとでもいうのか?違うから助けろ、とでもいうつもりか?」
なおも、男は言葉に強い否定を込めて、
「ちっげぇよ、あいつの父親はもうこの世にはいやしねぇよ」
衝撃の事実を告げた。
お読みくださりありがとうございます。
早く更新をと言っていたにもかかわらず暫く間が空いてしまい申し訳ありません!
次で敵との戦いは終わると思います。
感想・評価のほどよろしくお願いします!
次こそは間を開けないように頑張ります。