16話 裏切り者は…
「なん…で…」
刺されたことを熱さをもってズキズキと訴えてくる痛みによって僕の頭の中は急速に冷えていった。
「どうして…」
先ほどまで、ヒイロが悪の組織の首領に痛めつけられていたのを見過ごせず、逆らい痛い目に遭っていながらも僕にヒイロを助けられなくてごめん、とボロボロになりながら泣いていた筈のグレンが、僕の後ろから顔を俯けていながら、剣を持つ腕はまっすぐ僕の胸へ伸びている。
「どうして、か。」
しばらくの沈黙の後、ようやく顔を上げたグレンはポツポツと語った。
まるで、すぐ近くにいる僕ではなく誰か別の人に話しかけているようにも見える。
「父様が、」
実際に、グレンが話しかけているのは僕の目の前で殴られて口の端から血が滴っているのを拭っていた悪の親玉にだった。
「父様が騙されてクビになったのはアオハ、お前のせいだって聞いたから」
それからもグレンはポツポツとトツトツと語り始めた。
まとめるとこうだ、
僕が、この間倒した通り魔が他の大臣達と繋がっていたが、今の地位にみっともなくしがみつき辞めたくない大臣達は比較的地位が低いグレン父に罪をかぶせて難を逃れた。
そして、辞めさせられたグレン父はやさぐれて酒浸りになり昼間から家で呑んだくれていたのを見かねたグレン母とグレンは理由を問い詰めたところ、通り魔を負かして捕まえてしまった僕のせいで他の大臣から責任逃れに使われたと息を巻いて語ったらしい。
その後、僕に報復してやると息巻いていたのをグレン母は宥めすかせようとしたが失敗し、復讐すべきは他の大臣だろうと説得しようとしてまたもや失敗。
そうして、投げやり気味に
「だったら、その通り魔を捕まえた子に復讐でもなんでもすれば良いんじゃない⁈馬鹿阿保カス酒浸り逆恨み野郎!」
と言い放ったらしい。
グレン母さん、そこまで頑張ったならどうしてもう少し頑張って説得してくれなかったんですかね…
まあ、そんなこんなで父親っ子だったグレンはグレン父の話を全て鵜呑みにして2人で復讐計画を練っていた。
最初、グレンは出会い頭に斬りかかろうと提案したがグレン父によって却下され、僕の友人ポストに入り込むように言われたそうだ。
なんでも学年どころか学院きっての美少女2人と(かたや妹だが)友達である僕は学院中の男子生徒から妬まれているはずなので男友達に飢えているだろうから友達として近づいた方が懐に入り込みやすいと踏んだらしい。
『やったあ、男友達が出来た!』
って喜んでた僕って本当馬鹿だね。
まんまとグレンとグレン父の掌の上でゴロンゴロン転がされてるじゃん…
と、言うよりその大臣のせいじゃん、僕のせいじゃないじゃん。
そんな、子供ですら少しも考えなくてもわかるような事に気がつかないから良いエスケープゴートにされたんだろ。
そんなことに巻き込まれるのが僕だけだったなら懇切丁寧に説得していた。
大臣達に復讐するのには手を貸せないが、少しは同情して許しただろう。
しかし、こいつらは巻き込んではいけない人を巻き込んだ。
こいつらだけは絶対に許さない。
いや、生きて返すことは出来ない。
「………」
「父様の言う事に間違いなんてある訳がない。父様はお前が悪いって言っていた!お前が何か重大な事をかくしてるとも言っていた!そして、現にそれは当たっていたんだ!お前が全ての元凶だ!なにが通魔を捕まえた英雄だ!この偽善者が!」
偽善者…
一瞬、頭の中に白黒の映像が流れる。
『お前は現実を見ろ、大多数のためには少数は切り捨てるんだ』
『嫌だ!僕は僕の信念を貫き通す!だから絶対に犠牲は認められない』
『チッ、お前の言い分はわかった。しかし、お前は全てを守るために大切な妹を失うことになるが…、それでもいいならオレの邪魔をしろ、良いな?』
『……っ‼︎』
『ほぉぉーーら、良いと即答できない。結局お前の信念なんて浅ましいただの偽善なんだよ!この、』
「聞いてんのかよ!この、」
『「この偽善者が!」』
グレンの声と過去の映像の声が重なって聞こえた。
喉の奥からせり上がってくるものを必死で抑える。
「っ‼︎…ハァ、ハァ…ち、違う!僕は偽善者なんかじゃ…」
いくら、過去のショックを思い出して過呼吸になろうと、ずっと剣を刺されたままの僕はしゃがみこむことも倒れることも出来ずに、徐々に徐々に剣が食い込んでくる。
「その反応、図星か?」
「違…う、僕は…僕は!偽善…者じゃ、ない!」
ついに、膝から力が抜け剣に体重がかかる。
剣の上側は切れないようになっていて良かったな…
両刃だったら今頃縦半分になってるところだったなぁ…
なんて場違いなことを考えながら。
しかし、いくら切れなくなっていても全体重がかかっているため更に肉がゆっくりと抉られていく。
その激痛のお陰で不幸中の幸いにも意識は手放さずに済んだ。
感謝していいんだか悪いんだかよくわからず、チラリとグレンを振り返り苦笑する。
いつもグレンが教科書を借りにくるときに浮かべるものと全く同じものを。
「なんなんだよ!」
それを見たグレンが狼狽えた様子で剣を僕から引き抜いた。
支えとなっていたものがなくなり、敢え無くコンクリートの地面に倒れこむ。
「なんなんだよこいつ!」
血だまりに沈む僕を気味の悪い物を見るような目でみる。
「なんで笑ってんだよ!」
なんで、か
本当なんで笑いかけてるんだろう。
なんで、いつものように苦笑しているんだろう。
「なん、で、だろう、ね…?」
息も絶え絶えに、顔だけをグレンの方へ向けて答える。
すると、グレンは、まるで化け物でも見るかのような目をこちらへ向けて、先程まで刺さっていた剣を振り回して、半ば狂乱状態に陥りながら叫び始めた。
「あ、頭おかしいんじゃねーの⁈なんで刺された奴が刺したやつに笑いかけてんだよ⁉︎瀕死の重症の筈なのに、死にかけてるはずなのに、なんでお前はまだ喋れるんだよ⁉︎いいからその憐れむような目と口調をやめろ!そんな目で俺を見るな‼︎見るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
「おい、グレン!」
立ち上がっていながら何をするでもなくこちらを見ていた悪玉が、いきなり錯乱状態に陥ったグレンに呼びかけて意識を戻そうとしていた。
「落ち着けや!この出来損ないのクソガキが!」
「ぐぁっ!」
ガゴンッ!
という音が響く。
と罵声を浴びせながら、グレンの横っ面を拳を握りしめて殴った音だった。
グレンが殴られた衝撃でアスファルトの上に倒れる。
殴られた頰を抑えながら父親である悪玉の方を見上げる。
「ちったぁ頭冷えたかってんだクソガキが、未だに優位なのはこっちだ、なぁに慌ててんだか。おぅら、ゴミこっち見てみろよ、てめぇの大事な大事な妹がどこにいんのかネタバレのお時間といこーかぁ!」
そう言って、ボタンを押すと、巨大な筒が上に向かって何本も伸びている、一体なにに使うのかよくわからない謎の機械の一部がガゴンと音を立てて開いた。
お読みくださりありがとうございます
更新が遅くなりすいませんでした。
あと少しで2章が終わる筈です!
次こそは更新が遅くならないよう頑張ります!
よろしければ、評価、コメントのほど是非よろしくお願いします