15話 裏切り者は誰だ?
「あ、そうだ。君と一緒に連れてこられた友人君たちに気をつけた方がいいですよ」
ふと思い出した、みたいな感じでさらりと重要そうな事を言い出した。
「確か、女の子の方でしたかね。あの子が首領と話をしているのを見たので」
なんてことを親切に教えてくれながら、長い廊下を歩いていく。
悪の親玉と直接話していた。
ふと、授業か始まる前にグレンが言っていたことを思い出す。
「シュヴィが犯人じゃないのか…?」
その言葉が頭に突き刺さって離れない。
そんなわけがないと頭では分かっていて否定していても心のどこかでは、「もしかしたら」という思いが鎌首をもたげてしまう。
俯いて考えていたことで無言になってしまい、暗く重たい沈黙が訪れる。
不思議に思うくらい、あまりにも親切な敵は
「やっばいですかねぇアレなこと言ってしまいましたかねぇ、僕」
とオロオロアワアワしてキョロキョロとしていて落ち着きがなかった。
そろそろ、広い場所に出るというところだった。
いきなり、隣で親切な敵さんがオロオロし始めたことがわかった。
俯いていた僕もあまりの殺気の濃さに思わず顔を上げ、ゴクリと生唾を飲んだ。
「うわぁー、怒ってますねぇ。行きたくないなー」
うわぁ
と、名状し難いくらいの渋い顔をしながら、殺気を放っている敵の親玉のことを思い出したのかブルリと身震いをしている親切な敵さん。
「君、殺されないでくださいよぉ。」
「あははは、善処します。」
乾いた笑い声を出しながら、あまりにも敵から言われる言葉にしてはおかしい発言に、さっきからずっと気になっていたことを試しに聞いてみることにした。
「そういえば、なんで、あなたは敵であるはずの僕にそんなに色々教えてくれるんですか?バレたらまずいですよ、ね?」
そう聞くと、「あー、確かに僕、君の敵でしたねぇ」と忘れていたのか「……思い………出した…!」みたいな感じでハッとしていた。
「…えーと、僕バイトですし…幹部じゃないですし?」
どうやら、この人もいろいろと苦労をしているらしいことがわかった。
そして、あまりの給料の良さに思わず飛びついたらしいが、そこがあまりにブラック会社で辞めたいが辞めるなんて言って逃げ出したら命、というより首がさようならしてしまうという見事なまでの八方塞がりに陥ってしまったらしい。
話を聞き終える頃には、敵さんはグスグスと鼻をすすり目頭をハンカチで抑えていた。
その様子はまるで聞くも涙語るも涙といった感じだ。
まあ、実際泣いていたし。
「悪の組織にアルバイト…」
なんとも言えない思いを抱く。
僕、アルバイトに負けたのか…
これは余談だが、一応書類選考をしていて、少しでも腕が立ちそうな人たちを採用していた。
ここらへんは、さすが腐っていても高級官僚であったことが伺える。
ちなみに時給がいくらかはものすごく気になったが、どれだけ聞いても「破格の値段」としか教えてもらえなかった。
「兎にも角にも!僕はただのアルバイト、なら、別に少し親しくなった相手を応援してもいいじゃないですか!」
開き直りここに極まれり。
ふんっと腕を組みながら少し頰を朱に染めていた。
今の話にどこに頰を赤らめる要素があったのだろうか…?
「…ありがとう…ございます……?」
「ふ、ふんっ!」
敵陣ど真ん中へ向かうには、どうにも緊張感が全くない謎な雰囲気が広がっていた。
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「よぉ、こないだやったクッソくだんねー会議以来だなぁおい!」
五角形のだだっ広くて薄暗い部屋のど真ん中に設置してある謎の機体に腰掛けていた。
いつのまにか、こっちから聞こえていたはずのヒイロの悲鳴は聞こえず姿さえどこにあるのか分からない。
「こっちはてめぇのおかげ様でクビだよクビ!笑えんだろ笑えるよなぁ笑えや!」
「あははははははは」
笑えという要求に、とてもではないが本心から笑う気になれなかった。
まあ、当たり前だが…
だから、棒読みで言ってみたら笑えと言った悪の組織のドンは額に青筋を浮かべた。
「てめぇ!バカにしてんのかああ?」
笑えと言われたから笑えば怒られる。
理不尽な…
「そんなくだらないことはどうでもいいです。ヒイロは…僕の妹は無事なんですよね?」
ボスは青筋を浮かべて不機嫌そうに、ハンッと鼻を鳴らした。
そして、言った。
「それより、てめぇは目の前に倒れてるお仲間が心配じゃねぇのかよ?」
ボスの馬鹿にするような、虫ケラでも見るような目線の先を後から追う。
すると、たしかに薄暗いながらも目の前の床なので誰が、どのような状態でいるのかが分かる。
「俺様がよぉ、気分よーーーく魔力搾取の副作用の苦痛に歪む面ぁといい声ぇで鳴くメス猫見てんのによぉ邪魔ぁしやがるからぶっ潰してやったんだよぉ、威勢良かったわりにゃあ雑魚だったなぁ、ははははっ!」
目の前には、グレンが血を流しながら倒れ伏していた。
口汚く罵る声は、耳を素通りしていく。
「……………。」
「ああん?お仲間の目も当てられねぇ惨状を前にびびってなんにも言えねぇのかよ、てめぇそれでもタマついてんのかぁ?」
あまりにもあんまりな言いようと仲間の惨状に何にも言えなくなっていると思っている悪の組織の親玉、(もう長いから悪玉でいいや)は下卑た笑いを浮かべていた。
「……アオ………ハか?」
俯いて何を言おうか考えていると、ボロボロになって地面に倒れ伏したままだったグレンがガクガクと震えながら僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「グレン!」
「わりぃ、俺…お前の妹がいいようにやられてるのに手も足も出なくて…ごめん、ごめん…」
それだけ言うとグレンはまた床に沈んでいった。
後ろで息をのむ声が聞こえた。
多分親切な敵さんだろう。
今まで首を刎ねられる場面は幾度も見てきたが学生というよりも子供が瀕死の重傷を負って死にていで床に横たわっているのだ、怖気付くのも当然といえる。
「なぁ、そこのガキが必死こいててめぇの妹助けようとしてる時よぉ、てめぇは何してたんだぁ?おい、聞かせろよクソがぁ!」
さらに深く俯く。
悪玉はさらに調子に乗っていく。
「てめぇは牢屋で呑気におねんねしてやがったよなぁ!てめぇのお仲間は必死こいてたってのによぉ!なぁ、今どんな気分だ?てめぇが自己犠牲してまで助けたかった妹が死にそうな目にあってたっていうのにてめぇは牢屋で敵と仲良しごっこときたもんだ!こりゃあ傑作だなぁ!あははははははははははははははははははははははははははは!」
死にそうな目に、ヒイロが?
悲鳴をあげていた、ヒイロが?
いいようにやられていた、ヒイロが?
苦痛に歪んでた、ヒイロが?
ヒイロが、苦しんで、いた…?
「もういい、その薄汚ねぇ口さっさと閉じろよ」
先ほどまでとは打って変わった俺の態度に悪玉は笑いをやめて訝しんだ視線を向けた。
ここにはグレンもいるが意識を失っているし聞こえていないだろうから素を曝け出しても大丈夫だろう。
「さっきから黙って聞いてれば好き放題言いやがって、いい加減にしろよ。俺に仲間なんていないしそんな事どうでもいい。ヒイロはどこだ!どこにいる!?」
身体に魔力を行き渡らせ、いつでも戦えるようにする。
すると、男は何が面白いのかまた笑い出した
「あははははははは!それがてめぇの素か!いいねいいないいよなぁ!てめぇの妹が気になってるみてぇだけどなぁさっきからずっとてめぇの近くにいるぜぇ?」
近くにいる。
敵の言葉をあまり鵜呑みにするのは良くないが、ついあたりを見回した。
しかし、どれだけ目を凝らしてよく見てみてもヒイロどころかヒイロらしき影すら見当たらない。
「分からねぇのかぁ?これだよこれ!」
トントンと自分の後ろにある大きい謎の機械を手の甲で叩く。
「こん中に入れて魔力絞り取ってんだよ、ほら」
ポチッと座っていた機械の操作ボタンを押して内側をみせる。
「⁈」
そこには、両手首を細長い鎖で縛られて頭の上で機械の中の天井から吊るされているヒイロの姿があった。
「ヒイロッ!」
「………に…ぃ…さま」
呻くように、たしかに兄様と呼んだヒイロをさらによく見てみると、すでに意識を手放しており、足に力が入っていないためか細長い鎖が手首に食い込み赤く滲んでいた。
「お前ぇ!絶対に許さない!よくも俺のヒイロに!」
男に向かって走り勢いよく殴りつける。
なぜか悪玉はされるがままに殴られ、壁に向かって飛んでいった。
まるで、わざと攻撃を受けたようにも見えるが、今のアオハは気づかない。
飛んでいった悪玉に向かい更に加速する。
胸ぐらを掴んで右側から左側から更に下から殴りつける。
ここでも男は抵抗らしい抵抗はしなかった。
「ヒイロに!ヒイロを!苦しめる奴は!死にやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
馬乗りになって一心不乱に殴りつけていたからか男は床に頭を打ち付けて仰向けにひっくり返った。
「はぁーー、はぁーー、ふぅ」
乱れた呼吸を整えるために深呼吸を繰り返していた、その時だった。
「なんだ、しめぇか?」
倒れた男から声が聞こえ、慌てて追撃を入れに行こうとする。
しかし、
ザシュッ
後ろから腹部に衝撃が走った。
目の前の悪玉はヨロヨロと起き上がり、口の中に溜まった血と抜けた歯を吐き出していた。
その様子からは俺に何かしたようには見えない。
では、一体この腹部に走る熱い痛みは…?
「もう少し早くブッさせよ、おかげでこちとらぁボロボロだろぉが」
俺の背後にいる人物に話しかける。
刺す?何を…?
そう思い腹部に触ってみると、そこには騎士剣みたいな片手剣が突き刺さっていた。
「このクソガキの信用を得て油断させたところぉにぶった斬る、いいねぇいいよ傑作だぁ!」
あの親切な敵があんなに親切にしてくれたのはそういう事だったのか、何が少しは親しくなったから死んでほしくないだ。
所詮、敵は敵だったんだな。
そう思い、剣をまだ持って背後に立っている親切だった敵の顔を見てやろうと頭だけ動かす。
「っ!な、なんでっ!」
そこには…
「わりぃわりぃ、許してくれよ〜ア・オ・ハ」
血濡れの剣をニヤニヤと笑いながら俺に突き刺すグレン・サークレスが居た。
今話もお読みいただきありがとうございます!
1カ月以上お待たせしてしまい申し訳ありません。
アオハの本来の一人称や口調が出てきて「誰お前」状態だと思いますが次話もお読みいただければ幸いです。
さて、ここから本章は折り返し地点です。
なるべく早く更新出来るよう頑張りますので、是非評価ポイント、感想の程よろしくお願いいたします!