2話 妹の悪戯
「全く兄さんは無防備が過ぎるんですよ」
さっきまでまるで深窓の令嬢のような雰囲気を醸し出していた小柄な少女が顔をあわせるなりこれだ。
このすこし物言いのきつい少女は、僕の妹でヒイロ・アルカディラと言う。
まあ、小さい頃は病弱でずっと心配ばかりかけさせられたあのヒイロがここまで凛としている事に少々驚きを禁じ得ない。
物思いに耽ってボーーとしている僕が気に入らなかったのか、深い深いため息を吐いて一気にまくし立てた、
「兄さんはですね、そうやって何か一つの事をしたら直ぐにボーーーーーとして、やっと何か思い起こしたみたいに動いては直ぐにボーーーーーとする、の繰り返し、時間が勿体無くないんですか?」
肩を上下に動かしながら一息ついたヒイロは、キッと僕を睨みつけた。
「そうだね、今度から気をつけるからごめんね?あと、少しは落ち着いた?」
何とか怒りを鎮めたのか、
「ええ、本当に気を付けて下さいよ?」
念には念を入れて念押しをしてくる妹を苦笑いしながら、話を始めた。
「で、久しぶりだねヒイロ、大体3年ぶりくらいかな?」
僕がヒイロの最初の挨拶に応えるようにようやく言葉を返した。
「正確には、兄さんが私を敵陣のど真ん中に放置して、勝手に放浪の旅に出てしまってから2年と8ヶ月ぶりです」
言葉の端々に棘を含ませながら返すヒイロの表情は怒っているというよりは少し嬉しそうに見える。それもまた僕の勝手な解釈だという線が濃厚だけど、
「あのね、ヒイロ。僕は別にヒイロを置き去りにしたわけじゃなくてね、色々と事情があって旅に出ただけで別に置き去りにしたわけじゃないんだよ?ただヒイロの意識がなかった時に出て行ってしまった、というだけで」
しばらく、僕の顔をジトーーーというような目で見た後
「世間一般ではそれを置き去りにした。というのですよ?兄様?」
苦虫を噛み潰したような顔をしている僕とは裏腹に少し楽しそうに笑うヒイロを見ると、僕は心の中で
(昔僕の事を兄様って呼んでたけど、今この呼び方は凄く根に持っているという事かな?)
などと心の中で呟いていた僕は、
「それに、私くらい連れて行ってくれても良かったじゃないですか」
とヒイロがとても小さい声で呟いたのに気がつかなった。
「どうしたの?」
声が聞こえたわけではないが、
キラキラと顔を輝かせて僕を詰っていたのに急に顔を俯かせてしまった妹に声を掛けるとあわてたように
「べ、別に何でもありません!ところで、イヅナ姉さんは見つかったんですか?」
と、僕に少し赤い顔をしながら話をふってきた
「え?」
慌てて情けない声が出た僕を呆れた目で見ながら、
「だって、兄さんはイヅナ姉さんを探すために旅に出たんですよね?」
にっこりと花の様な笑顔で核心を突いてくる妹に僕はこう返すのがやっとだった、
「わかってるならあんな人聞きの悪いこと言わないでよ」
それに、又々にっこりと笑い
「ええ、これで今日のところは勘弁してあげます」
と見るもの全てを魅了する様な笑顔で応えたのだった。