12話 罅割れる
いつもの、と言ってもまだ2ヶ月くらいしか通っていないけど通学路を歩いて学校へ向かった。
正直に言って、学校なんかへ行く気分ではないし、そんなことなんかよりヒイロを探しに行きたい。
と言うか、本当は朝日が昇ると同時に部屋を飛び出して探しに行こうとしたのに、ドアの前でシュヴィが待ち構えていたのだ。
で、あれよあれよと言う間に僕の部屋の中に押しかけてきて登校時間になるまで探しに行かせないようにしていた。
もしかしたら、シュヴィはヒイロを拐った犯人達と通じているのかもしれないと疑ったぐらいだ。
「アオハ、無理矢理部屋に押しかけてすいませんでした。ですが、まだヒイロが拐われたと決まったわけではないのです。ここは泰然自若としていましょうよ。もしかしたら喧嘩して顔を合わせ辛くて逃げているだけかもしれませんし、取り敢えず授業に出ましょう!もしかしたらヒイロがひょっこり顔を見せるかもしれませんよ?」
ずっと地面を見つめていたため、顔を上げてちらっとシュヴィを見る。
両手を顔の前で握りしめて、『元気出してください!』オーラを醸し出している。
僕は喉元まで出かかった言葉をぐっと飲み込んで本音とは全く違う言葉を紡ぎ出す。
「そうだね、ヒイロのことだから『兄さんの馬鹿』って言いながら普通に登校してきそうだよね、ありがとうシュヴィなんか元気出てきたよ」
そう言ってニッコリと笑いかけるとシュヴィは顔を赤くしながら、いきなり早口てわまくし立て始めた。
「わわわわ私はヒイロが心配であれこれあれこれとしていただけで…べっ、別にアオハにお礼を言われる謂れはありませんよ!全部ヒイロのためですからね!」
目をぐるぐる回しながら、ついでにバックも振り回しながら、喋れば喋るだけ墓穴を掘っていきそうなシュヴィを見ながら考える。
兄妹喧嘩が原因でいなくなってしまった可能性は極めて低い。
なぜなら、喧嘩をすると必ずヒイロは捨て台詞を吐きながら飛び出して行くが、数時間もしないでひょっこり帰ってきて、僕を見るなり「兄様のおたんこなす」って言って大体喧嘩は終了する。
それなのに、数十時間どころかほぼ丸1日帰ってこないなんて、何か事件に巻き込まれたか拐かされたとしか考えられない。
と、考えると僕に何か恨みがある人がヒイロを拐ったとみた方が色々と納得がいく。
「ヒイロ…教室に居ると良いですけど……」
「そうだね、居てくれれば………………て済む…けど」
ぼそりと呟く。
そう、ヒイロがもしも万が一何事も無く今から僕たちが向かっている教室に居てくれれば僕は…僕の本性を出さなくて済む。
友達も少ないながらも出来た。
なんか、とてもアレなことを叫んでくる知人も出来た。
「どうしてそんな可愛いんだよ」とか「肌綺麗〜!どんなスキンケアしてるの〜?」とか言ってくる同級生とかも……
って最後の方に変なのが固まっているけど、まあ、バレたくない人たちが沢山いる。
僕のせいでヒイロにせっかく出来た友達を離れさせるなんて1番したくない。
だから、みんなが気づかないうちに全てを終わらせる。
あの司令も……
「おはよう」
「おおおおおはようううう!」
「おはようございます!」
教室に入ると、さまざまなクラスメイトが朝の挨拶をするために大きい声で話しかけてきた。
1人、シュヴィに話しかけるのに緊張しているのか、かっみかみだったけど…
そんな些細なことさえイライラとしてしまう。
ヒイロは朝の挨拶すら出来ない緊迫した状態かもしれないのに…
こんなに、呑気に…!
「よーす、アオハ。て、おお…朝から辛気臭せぇ顔してんなあ、どしたよ?」
「グレン……実は、」
僕はヒイロが昨日喧嘩してから一度も顔を合わせていないこと。
ヒイロが寮にも帰っていないこと。
朝のホームルームが始まる5分前になってもまだ来ないこと
などを話た。
すると、グレンはシュヴィが『心配しすぎ』と否定したことをすぐに疑った。
つまり、僕と同じ考えということだ。
「アオハの妹はお前に黙って外泊するような不良娘じゃないんだろ?なのに寮にすら帰ってない…こりゃあ誰かに連れ去られた線が濃厚だろーよ」
「っ!」
急いで教室から飛び出していこうとする。
しかし、そんな僕をシュヴィが止めた。
「もう、授業が始まってしまいますよ!不幸中の幸いなことに今日は臨時授業で午前までです、授業が終わってから探しに行きましょう!」
もしかして…
「おいおい、授業なんかよりアオハ妹探すのが最優先だろ!」
「ですが、授業に出てくるかも知れないですし」
2人の言い争う声すら遠く感じる。
嫌な予感が頭をかすめる。
もしかして、
もしかしたら…
そんなわけないと頭では否定しても感情がそれを押してくる。
もしかしたら、ヒイロを攫ったのは、いや、攫わせたのは…
シュヴィなんじゃ…?
疑念は膨らみ、それは後に築き上げた絆を瓦解させる。
「おい、アオハ」
いつのまにか、シュヴィとの言い争いを切り上げていたグレンが近づいて来て、小声で言った。
「お前の妹攫ったのってさ…」
最初の小さな小さなひびが決して外れる事のない軛のように、小さく、そして決定的な…
「シュヴィなんじゃね…?」
罅が入る。
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展開が遅くすいません。
次回こそ話が進むはずです!
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