幕間 へるぷみー
あのあと机に突っ伏して半屍と化したヒイロを連れて女子寮のヒイロの部屋へ運びに行った。
寮母さんに止められるかと思ったのにそんな事も無く、内心『あれぇぇええええ?僕男だよ?ねぇ男だよ?』とツッコミを入れながらヒイロの部屋へ向かった。
後ろから「今時珍しく仲の良い姉妹だね〜」って聞こえた気がするがスルーだ。
きっと、僕たちの後すぐに仲の良い姉妹が来たのだ、うん、そうだ、そうに決まっている。
105号室。
ここがヒイロの部屋か〜と扉の前に立っていると不思議な感じがしたような気がしたが気のせいだと決めて、扉に鍵を差し込んで回す。
すると、カチャンという音が聞こえたのでドアノブを回す。
扉を開けて短い廊下を歩いて寝室まで行き気絶したままのヒイロを寝かせる。
そして、そそくさと出て行こうと踵を返した僕は足元にあった紙に気づかずバランスを崩してしまう。
このままじゃヒイロにぶつかる。
気絶したとは思えないほど穏やかな表情をしているヒイロを起こすわけにはいかない。
グルンッと身体をベッドに向かって背側から腹側に向きを変えて、両腕をついて間一髪のところで身体を支える。
ところで、
この体勢はすこし…いや、大変まずい。
傍目から見たら勘違いされそうな状態だ。
なぜなら、これは今巷の少女達に人気のある『床ドン』とかいうやつだったと思う。
こんなところ人に見られなくて良かった〜と思いながら身体を元の位置に戻す。
戻しながらさっきの光景を思い出してしまう。
程よくぷっくりと膨らんだ唇にサラサラの白髪。
気絶してるはずなのに少し紅くなった頰。
そして、長く伸びたまつ毛。
ブンブンと首を振り
忘れようとする。
そう、僕らは兄妹なのだ。
とても鮮明に覚えているこの光景にドキドキするのはおかしい。
まず、鮮明に覚えているのもおかしいわけで……
いやいやいやいや、ちょっと待とう。
妹に恋愛感情なんて持つわけがない。
小声でぶつぶつと呪文のように唱えながら部屋に鍵をかけて出る。
すると、目の前に俯いてフラフラとした足取りである人が歩いて来た。
まっすぐ、僕の方へ…
さあ、みんなは覚えておいでだろうか。
僕は只今女子寮にいる。
僕は、だ。
そう、普通男子が女子寮にいるのはおかしいのだ。
いくら妹の部屋に用があり妹をお姫様抱っこして運んでいたとしても。
あまりにも女顔で男子と気付いてもらえる事の方が稀だとしても。
基本的に男子は女子寮へ立ち入り禁止だ。
前に侵入しようと試みた猛者達は女子寮に巣食う「何か」にこっぴどくやられて次の日から漢女になったとか……
やばい!
僕も漢女にされてしまうのではないか⁈
ガチガチに緊張していると、未だに表情の見えない寮母さんがヌッと腕を僕へ差し出し始めた。
やばい!
殴られる!
咄嗟に両腕でガードの構えを取った。
固く固く目を瞑る。
来るべき衝撃に耐えるために。
しかし、いつまでたってもその衝撃は襲って来なかった。
そのかわり寮母さんの手はガッシリと僕の肩を掴んでいた。
「…………え?」
僕が不思議な顔をしていると、
寮母さんは俯いたままで表情がまったく見えない状態のままゆっくりと口を開いた。
「あなた……」
「は、はい!」
一体僕はどうなってしまうんだろうか、
ああ、だれかお助け……
「この学院の入学案内の表紙のモデル、やってくれない?」
「イ、イエスマム!………………………はい?」
あれ?聞き間違いかな
なんか今表紙のモデルとか聞こえた気がしたんだけど?
「え〜と、僕の身がどうなるか分からかったので言いたくなかったのですが……僕、男ですよ?」
「ええ、薄々気づいていたわ、しかし!しかしねあなたよりうちの女子の制服が似合う子もなかなかいないのよ!それに女装男子とか美味し……いえなんでもないわ、とにかくお願い!」
あまりにも必死すぎて、声が大きくなっていく寮母さん。
あまりここで大声出されるとヒイロが起きてしまう。
それは困るのでとりあえず落ち着いてもらうことにする。
というか、少し本音漏れてませんでした?
どうして僕の周りはこうも女装させたがる人が多いのでしょうか
「まず、僕がモデルをするのは無理だとして、ここであまり大声出さないで下さいヒイロが起きてしまいます」
「そんな釣れないこと言わないでお願い今回だけだから」
小さい声でなおも必死に説得を試みる寮母さんに僕は少し、いやすごく引いていた。
まず学院の入学案内のパンフレットに女装男子起用するってなんじゃそらだよ⁈
あと、必死すぎて顔が怖いです……
いい加減逃げてしまいたい…
いや、もうこれ収集つかないしいっそのこと逃げてしまおう!
そうしよう!
「ね?少し、少しでいいから」
ジリジリと後退し、後ろにある壁を乗り越えて逃げようとする。
しかし、すぐさま僕が逃げることを察知した寮母さんは逃げ道に回り込んだ。
あ、これダメなやつだ。
「モデルしてくれたら、女子寮に入った罰則はチャラにしてあげるわよ?あなたまだ若いのになりたいの?漢女に」
とうとう脅し始めた!
これ寮母さんがやっていいことなの⁈
明らかに声にドスが入ってる!
「いえ、でもそれは…えと、不可抗力といいますか…妹を送りに…」
ニヤリと笑う寮母さん。
あ、嫌な予感がする。
「妹に床ドンしてドキドキした事、バラされたい?」
はい、詰みました。
僕はもうだめです。
お父様お母様ヒイロ先立つ不孝をお許しください。
あなたたちの息子はもうここまでみたいです。
ごめんなさい。
「さあ〜これで来年度は人がいっぱい来るわよ〜」
スキップしながら僕をズルズルと連行する寮母さん。
その後のことは、えーと、
来年度は人がすごくて倍率もすごかったです。
お察しください。
受験の息抜きに書いてみました。
お楽しみ頂けましたら幸いです
しかし、私が書いてるとはいえ女装男子好きキャラ多いですね
アオハどんまいです