12話 ラスボスとはなんぞや?
どうやら、例の通り魔とやらはあの男であったらしい。
本人は否定していたけれど、衛兵さんたちが場所や時間帯また、被害女性の人相や背格好を詳しく話したところ自分が巷で有名な通り魔だったことに気づき大層驚いていたと言う。
衛兵たちもここまで自覚の無い通り魔は初めてだ、
とやや呆れ気味でいたくらいだそうだ。
そうして、
裏で操っていた人物を聞いた瞬間、忠誠心なんてかけらも持ち合わせていなかったのか、ベラベラベラベラと喋るわ喋るわで思わず衛兵たちがポカーンと口を開けて固まったあとに「そんな話して大丈夫か?」と言ってしまうくらいには喋り倒したらしい。
内容は、
「人使いが荒い」「給料が低い」「金払いが悪い」「ことあるごとに見下してくる」「転職を考えています!」
大体がこんな感じだったと衛兵さんがぼやいていた。
大体、転職を考えていたのなら早々と転職ないしは辞職して欲しかったところだ。
そうしてくれていたら僕達だって襲われなかったし、入学式の翌日からサボることもなかっただろうに……
悔やまれる!
と、
掌を握りしめて膝の上で「くーー!」と言っていると、
衛兵さんは不思議そうに、そして少し疲れたように続きを話し始めた。
そして、
そんな、いろいろな意味で衛兵を驚かせた男は、今は牢の中で
「やべー、ベラベラ喋っちまった……始末されるぅぅぅぅぅぅぅぅあああああああああ」
と、青い顔でガクブルしているそうだ。
こんな感じで今日の朝に衛兵たちが集っている詰所で聞かされた話の一部だ。
一連の話を聞き終わる頃には午前の授業がとっくに終わり、そろそろお昼休みまで終了する時刻になっていた。
ちなみに、事件説明はほんの30分くらいで、
のこるはほとんど衛兵さんの愚痴みたいなものだった。
学院に着くまでに15分は要するので、既に5限が始まってしまう。
仕方なしに、僕とヒイロは大食堂へ向かうことを決め、詰所を後にしようとしたところで、
「そういえば、朝からいらっしゃいましたが王女様の御用は良かったんですか?」
ギクリと肩を跳ねさせて、
軽く汗をたらしながら、
「朝に念話石で連絡しましたし大丈夫でしょう。私自身昨日の暗殺屋に疑問がありましたし、あなたたちの責任にはしませんから、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
衛兵さんの表情がすこし強張っていたのを目ざとく察したヒイロは、口からでまかせをまるで息をするようにはいたあと、フォローのセリフを吐く。
これなら、緊張が解けて嫌でも落ち着き先の問題をうやむやにすることが出来る。
全くもって完璧な手口だった。
我が妹は、詐欺師の素質があるのかもしれない。
「じゃあ、話は全て済みましたしお暇しますね」
そう言い、ソファから腰を上げ長時間座りっぱなしだった為思い切り伸びをしたいのを我慢しながら衛兵達の詰所の門をくぐって表へ出た。
ただし、見送り付きで。
最後に衛兵の隊長さんが思いっきり大きな声で「またのお越しを!」と言いながらビシッと敬礼をかましていたような気がするが、気がするだけだ、きっとまやかしか幻あたりだろう。
ほら、今日は春の兆しがあって暖かいしそのせいだ。
うん、きっとそうに違いない。
「何を遠い目をしているんですか兄さん、ほら早く行きますよ!」
すでに歩き出していたヒイロが立ち止まり、こちらを振り向いてブンブン手を振りながら大きい声で叫んでいる。
「待って、すぐ行くから!」
と言い、いまだ敬礼している衛兵の隊長さんの方へ向き直り僕はニコリと微笑みながら隊長さんへ近づいた。
そして、
耳元へ顔を近づけて小声で囁く
「要らない詮索はしない方が身のためだぞ?」
バッ
と素早く離れる隊長さんの動きに驚いた振りをしながら、
ただし表情は変えずに変わらずニコニコと微笑んだまま
「と、あの若い衛兵さんにお伝え下さい」
と言い残し、ペコリとお辞儀をして随分先を歩いているヒイロのあとを追い始める。
「もう、兄さんは遅いです!さあ、これから学院の食堂へ行きますよ!」
「え、やっぱり教室に行くんじゃないの?さっきは勢いで流しちゃってたけど、そういえばなんで食堂?」
僕の疑問に「何を言っているんだろうこの兄さんは」みたいな表情でやれやれと肩を竦める仕種をしながら今節丁寧に説明を始める。
「いいですか?この国の学院の大食堂は建物1つまるまる食堂となっていて選択制になった学年の方々のために昼食後も開けててくれるそれはそれはとても優しい食堂なのです!そして、そこで出る軽食からお茶からガッツリしたものまであらゆる全てのものがまるで最高級ホテルででるような味なんですよ!そんな話を聞いていかない理由がありますか?いいえありませんよね!というわけで早速いきますよ!走りますよ!善は急げです!」
と、早口でガーとまくし立てバーと走っていくヒイロの後を慌てて追いかける。
正直なところ軽いシリアスくらい挟みたかったなぁ……
なんか、
さっきまでシリアス出来る雰囲気だったのに一気にぶち壊されたなあ……
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「ふぅ、ひと運動した後の紅茶はとても美味しいです。聞き及んでいた通りの味ですよ。それにケーキも絶品です、兄さんも一口いかがですか?」
カップをソーサーの上にカチャリと上品に置くと、フーと息を吐いた。
僕もそれにつられてついつい息を吐いてしまう。
今までピンと張っていた緊張の糸がたるんだ気がした。
だからだろうか、
後ろからの刺客に気がつくのがとてもおくれた。
「アァァァァァーーーーーオォォォォォーーーーーハァァァァァーーーーー!」
ガバリと後ろから思い切り抱きついてきた王女様に気がつかなかったのだ。
僕は情けなく「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」と悲鳴をあげながら長椅子から転げ落ちた。
僕の驚いて椅子から滑った速さに、さらにシュヴィの飛びついて……水平ジャンプしてきた分の力が加わり、僕は地面へ側頭部を強打した。
「いってて、ど…どうしたの⁈シュヴィ!」
飛びついてきて僕の側頭部と腹にダメージを与えたこの国のお姫様兼友人のシュヴィは、胴に腕を回して僕を絞り上げていた。
「いったい!痛い!シュヴィ出るお腹から出ちゃいけないものが出ちゃう!紅茶が出る!」
やっとこの状態を理解したのか、ゆるゆると腕の力を抜き目元の涙を袖で拭い、
周囲を見回して、自分のしたことを思い出して大赤面した。
しかし、咳払いをして気持ちを落ち着けてから話を切り出した。
「例の通り魔に襲われたと聞きました!大丈夫ですか?怪我はありませんか?生きてますよね?」
「大丈夫、怪我もないし生きてるよ」
と答えると胸に手を合わせて「ほぅ」と息を吐いた。
「ヒイロも無事で何よりです」
「心配してくれてありがとうシュヴィ、まさか通り魔に襲われるとは思わなかったからびっくりしましたよ」
2人が椅子に座り、
シュヴィが(いつ出てきたのか分からないけど湯気が立っているから出てきたばかりの)紅茶に口をつけながら、ふと思い出したように僕の方に向き直り、
「そういえば、衛兵の方にアオハが倒したと聞きました!昨日は入学式で武器携帯は禁止されていましたし招待に行った時も持っていませんでしたし…どうやって倒したのか差し支えなければ教えてください!」
凄く目をキラキラさせて聞いてくるシュヴィに(犬耳と犬しっぽをパタパタフリフリしている幻覚をみた)僕は根負けした僕は、武器を制服の裏に隠し持っていた事を伝えた。
するとシュヴィは、
「ここに隠していたんですか?分かりませんでした!さすがアオハです!………………しかし、火球が掠めたと伺いましたし……大丈夫ですか?」
と言い、僕にピタリとくっついて来た。
まつ毛長いな〜とか腕にあたっているシュヴィの双丘のムニッとした柔らかさに大赤面していると、それを目の前で見ていたヒイロがジト目になり始めた。
ヒイロに50のダメージ!
「えっと、火球は全部避けたから大丈夫だよ、あとシュヴィ、えと、あ…当たってます……」
と、明後日の方向を向いて赤面しつつ教えると、バッ!と勢いよく長椅子の端まで移動してすんごい勢いで謝り始めた。
「すすすすすいません!わたしったら凄くはしたない事を‼︎ゔぅ〜穴があったら入りたい…」
手で顔を覆って、身悶えしながら謝り倒しているシュヴィを慰めに近づき
「心配してくれて本当にありがとう嬉しいよ」
というと、パァと辺りが輝き桃色っぽい雰囲気を真ん前で見せつけられていたヒイロがバタンッ!と机の上に倒れ伏した。
ヒイロに120のダメージ!効果は抜群だ!ヒイロは倒れた。
最後に、
「ラスボスが最初に出てきてどうするんですか…」
という謎のつぶやきを残して。
今回、更新が遅くなり申し訳まりませんでした。
私ごとになってしまうのですが、受験がだんだん近づいてきてしまい、勉強をしなければならない状況となってしまいました。
次の更新は遅くとも3月中旬までには頑張って皆様にお届けできるように頑張ります。
何卒「人は見掛けで判断してはいけません!」をよろしくお願いいたします。
感想、レビューのほどよろしくお願いします