11話 後の祭りとはこの事か…
あの後の事を考えると、今でも頭が痛くなる。
あの後、衛兵さんがやって来て騒ぎについて詳しく聞かれる事になった
………………………………………………のだが
「騒ぎが終わってから来たくせに、偉そうに何様のつもりですか?本当ならもっと早く来るべきなのに、こんな遅く、職務怠慢…いえ、職務放棄ですか?」
ショックからいち早く立ち直ったヒイロが、いつものように外面の「良いヒイロ」を全力で発揮して、目に涙を溜めて瞳をうるうるさせながら衛兵さんを見ると、あまりの美少女っぷりに衛兵さんは調子に乗りすぎ、良い所を見せたかったのか見当違いにも程がある間違えをした。
そう僕に詰め寄り何故こうなったのか、お前が喧嘩売ったんじゃないのか、女のくせ男に喧嘩を売るな、とかあーだこーだと本当にトチ狂ったんじゃないかと疑いたくなるくらいの勘違いをして僕に喚きちらした。
それを見てプッツンと来たのか、勢いよく冷水を浴びせかけるかのように言ったセリフがさっきのアレだ。
喚きちらしていた衛兵がいきなり静かになり膝からまるで糸が切れたかのように崩れ落ちた。
衛兵の中で『幻想』の2文字が音を立てて崩れ去った瞬間だった。
魂を吸われたかのように真っ白な顔になり、口が半開きになっている。
目の前で手をひらひらしてみても反応がない、
どうやら重症のようだ。
1人目が再起不能に陥ったのを見計らったかのように、もう1人の衛兵さんがやって来た。
そして、慣れているのか「隊長〜たーいちょー」と耳元で数回呼びかけるが返事がない、ただの屍のようだ。
衛兵さんは、ハァーーーーーと長い溜息を吐いて隊長の足を束ねて掴みズルズルと引きずっていった。
そして、噴水広場の隅の草むらのそばの商業用ゴミ捨て場と立て看板の立っている所へ引きずって行くと白い紙に大きな字で『粗 大 ゴミ』と書いてバシッと貼り付けた。
そして、やりきった感の溢れている衛兵さんは手をパンパンはたいて、こちらに人の良さそうな笑みを浮かべて歩いてきた。
「こんばんわ、少しこの騒ぎについて詳しい話を聞きたいんだけど、良い?」
柔らかな物腰で、あくまで事情を聞くだけだから、とニコニコしながら言ってきた。
僕は、良いですよ、と返そうと口を開きかけた。
そこへ、またしても場を凍らせるような発言をする者がいた。
「笑顔がうさんくさくて信用なりません。こちらが駐屯地へ出向くので他の人にしてください。」
ヒイロだ。
しかしながら、昔はもっと体が弱くて誰と話すのもおどおどしていたというのに今ではその面影が全くない。
衛兵さんが『うさんくさい』と言われた笑みをスッと引くと、またすぐうさんくさいらしい笑みを顔に貼り付けた。
今度はヒイロがイラッとした風な顔をしたが、こちらも一瞬。
すぐによそ行きの表情を貼り付けて、少し困った風に言葉を紡ぎ始めた。
「こちらは、入学式を終えすぐ王女様に頼み事をされた件についての会議があったので疲れているんです。友人の王女様に明日伝えなければならない事があるので、このまま夜遅くなり明日遅刻でもして朝一番で伝えられなければ私は遅れた原因を事細かに説明しなければなりません…さて、遅れてお怒りになる王女様はどちらに責任を取らせるのでしょうか…私それが心配で」
チラチラと、時々下を向いて心臓の上に両手を重ねて眉を八の字にしたヒイロは、本当に心配そうに下を向いて黙り込んでしまった。
しかし、僕の方からだと下を向いた顔が見えるので、舌をちらっと出しベーとしている。
そして、顔が若干にやけてる。
「お…王女様のご学友とは知らずに失礼いたしました。しかし、事情を聞かねば…負傷者もいる事ですし」
しどろもどろになりながら、
なおも説明を求めてくる衛兵さん。
しかし、いつの間に復活したのか先ほどの隊長さんがやってきて、
「こう言っていらっしゃるんだ、事情はあの伸びてる方に聞けば良い。こんな大人しそうな学生が喧嘩なんてふっかける筈が無いだろう!なあ!」
あからさまに態度が変わった隊長さん。
ヒイロ策士だなあ…
いくら衛兵さんでも王女様と友人だなんて言ったらしつこく出来ないし、第一学生だなんだと言って馬鹿にしたり犯人と決めつけたり詰問したり出来なくなる。
もちろん長時間拘束なんて出来るわけがない。
その辺りのことまで考えてのさっきのセリフだ。
しっかり成長している我が妹がすごく誇らしい。
「そう……ですね、では、気をつけておかえりください。」
「ご配慮のほど感謝します」
と言って一礼しスタスタと歩き出すヒイロに慌てて僕も衛兵さん達に一礼して後を追いかけた。
「さすがヒイロだね、よくあんなにスラスラとセリフ出てくるよ」
「そんな事ないですよ?でも兄さんに褒められるのはまあまあ嬉しいので素直に受け取っておきます」
上機嫌に寮への道を辿っていく。
そして、女子寮の前までヒイロを送り届ける。
何故か、ヒイロはそのままエントランスロビーの扉の方に行かず脇の草木が生えている方へ向かって行った。
何時までも女子寮の前にいるわけにも行かないのでさっさと僕も自分の寮の部屋まで行く事に決めた。
エントランスロビーの扉を開け、中に一歩入ると、
そこには…
「こんな時間まで、一体、何を、していたん、ですか!」
ありえないくらい怖い顔をした寮母さんが両腰に手を当てて仁王立ちしていた。
「えっと、遅くなってすいませんでした。少し変な人にに絡まれて…」
事情を説明しながら、ふとさっきのヒイロの行動とセリフが頭の中で一致した。
あれは、寮母さんにバレないようにこっそり自室に戻ったのだ。
多分ベランダかどっかの窓から入ったのだろう。
そして、あのセリフだ
「兄さんもご武運を」
あれはこの事だったのか…
しかし、時すでに遅し。
僕はこの後1時間たっぷりと説教されるのだった。
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