ダンボールの中の世界
お母さんが死んだから僕は今ここにいるのかもしれない。
薄暗い路地の片隅で僕は泣いていた。
あれはお母さんが死んでから一月も過ぎない頃、記憶に残っているのは僕のお母さんを飼っていた飼い主の声。
「ごめんな、会社クビになっちゃったからお前のエサ代払えないや」
僕はその言葉の意味を知らない。ただ、何となく悲しい気持ちになったのを覚えている。
そんな僕は今大きな箱の中にいる。飼い主の掌に納まる大きさの僕にとっての大きな箱。
大きな箱には色々な物が入れられている。まず、白くて甘い液体の入ったお皿。それからお母さんのように白くて暖かい布。そして、飼い主との思い出が詰まったふさふさと揺れる棒。
(ぐぅー)
考え事をしていたらお腹がなってしまった。
僕は何時ものように白くて甘い液体をちびちびとなめていると、白い液体はついに底をついてしまった。
次にお腹が空いたらどうしよう?と普通なら考えるだろう。しかし、幼い僕はそんなことも考えずに、シミを眺める。
僕には読めないけど、飼い主が付けたシミには何か意味があるような気がする。
【誰か拾ってください】
それが僕の入れられた大きな箱の名前なのだろうか?
お腹が満腹になった僕にまぶたが重くなる時間が訪れた。
(くぁー)
口を大きくあけて、あくびをすると僕は小さな体を丸めて、暖かいタオルに包まれる。ただ、それだけでお母さんの温もりを肌で感じて安らかな気持ちになった。




