花香る部屋へ
今日も彼女に呼ばれた。
呼ばれたからには、行かないわけにはいかない。それが契約だったから。
……いつもの場所。いつもの時。いつものノックをする。
「どうぞ」
血の気の引いた顔色に、生き生きとした笑顔がよく似合う。不思議な女。
人は彼女を『悪魔』と呼んだ。不敵な彼女には、それすらも誉め言葉に聞こえる。
「持ってきた?」
「契約だから。あれは失敗だった」
「取り消せない」
「知ってる」
この女とは契約を結んだ。そのせいで、あるものを運ぶ役割をするはめになった。
あるものとは、『花』である。種類は決まっていない。綺麗でなくてもいい。買わなくてもいい。生きていなくてもいい。
しかし、別に特別でもない。
花を置く。
悲しげに見る。見られるのには慣れていない。血の気の引いた彼女は見る。
逃げるように去る。
誰も追っては来ないのに、足だけは早く動く。後ろで声がしたような気がする。
「また来てね」
返事も言わずに行く。
それでも心で呟く。
「契約だからな」
契約の悪魔は嘘をつきません。人と違って。
悪魔を悪く言うのは、人間の傲慢と嫉妬からなのかもしれませんね(^^)