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俺達が騒いでるところに、母親が飲み物とお菓子を持ってきてくれた。

布団を被っていた俺を見て具合が悪いのか心配していたが、違うと顔を覗かせて伝えると安心して1階に降りていった。

まったく、こいつらのせいで余計な心配させちまった。

風邪が治ったら、トイレをぴかぴかに磨いておこう。

そんな時は、汚れが激落ちする魔法のスポンジ『つるピカくん』の出番だ。

因みにキャッチフレーズは【これ1つでどこもかしこも、つるっつるのピッカピカ!!】だ。

浴槽の水垢からトイレの水回り、台所のシンクに湯呑に付いた茶渋まで取れる。

このカップも綺麗にしてやるか…。


「そういえば幸弥。昨日、例の店に行ってきたんだろう?」


「うグフッ」


定春の言葉に飲み込もうとしていたミルクティーを鼻の方へ逆流させかけた。

奥の方がつんと痛くなる。


「大丈夫か幸弥!?お菓子食べるか!?」


包装を破いたうまか棒を向けてくる優一に、普通逆だろと思いながら首を横に振った。

思い出さないようにしていたのに、突然傷口に塩を塗りつけられた気分だ。


「その様子だと、何かあったな」


定春の鋭い洞察に、胸がぐっと唸りをあげる。

優一が身を乗り出して興味津々な眼差しを向けてきた。

これは話さなきゃ帰らないパターンだ。

つってもな…


「別に、何もなかった」


そう、何もなかったんだ。

彼女のいる世界に圧倒されて、逃げ出してきただけだ。

情けねえ。


「幸弥?」


心配そうな声と共にうまか棒が差し出される。

お前はどうしてもそれを俺に食わせたいらしいな、優一。

だが断る。


「お前らが期待するような展開はなかったんだよ。残念だったな」


差し出されたうまか棒を押し返すと、あろうことか力任せに口元へ持ってこようとする。

俺が優一の手首を掴んだまま、本人は眉根を寄せて食わせようとしてくる。

なんなんだよっ!


「彼女には会えなかったのか?」


俺達の攻防戦を傍観しながら定春が問いかけてくる。

てか、こいつ止めてくれ。


「会ったっ…けどっ、他の客達が群がってきちまって、それどころじゃ…っなかったんだ!」


同等の力のせいで、俺と優一の間でうまか棒が震えながらみしみしと悲鳴を上げている。

そのうち潰れるんじゃねえか。

そして優一はこの状況を楽しんでやがる。

つか、話聞く気無くなってんじゃねえか!

寄せていた眉根もいつしか元の位置に戻っている。

片手に持っているカップも一緒に震えて、中身が零れそうだ。

冷めたミルクティーは美味くない。

早くこいつをなんとかしないと。


「つまり、彼女の連絡先も聞けないまま逃げ帰ってきたわけだ」


「逃げてねえ!……こともねぇけど」


反射的に否定するが、事実なのは確かだ。

語尾が小さくなる。

と同時に力も抜けてしまい、優一がその隙を逃さずうまか棒を口の中へ突っ込んだ。

力任せだった割には勢いがなく、口内までなんとか原型を保ったうまか棒を仕方なく咀嚼した。


「うまっ」


「だろ!?新味なんだぜこれ!その名も【懐かしのコロッケ味】!!」


悔しいことに、懐かしのコロッケ味は確かに美味い。

それは認めるが、もっと普通に食べさせてほしかった。

……いや、自分で食べたかった。


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