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ベッドに寝転がったまま窓の外を眺めていた。

開けられたカーテンから差し込む日差しは暖かいのに、外はきっと寒い。

少し高くなった空を鱗雲が泳いでいく。

時折鳴る携帯を開いては閉じ、溜め息を吐いた。

風邪を引いたのは久しぶりだ。

普段は学校にいる時間に家で寝ているのは、なんだか新鮮だった。

何もできずに寝ているだけというのは酷く退屈だ。

携帯でゲームをしようにも、病欠してる後ろめたさが遊ぶ気分にさせなかった。

そうして過ぎていく時間を持て余しながら、昨日のことを思い出そうとする思考を無理やり振り払う。

そうしなければ、胸が擦れてひりひりと痛んでくるのだ。

休み時間に送られてくる友人達からのメールを眺めながら、“馬鹿だな”とか“俺も混ぜろ”とか思ってみる。

夕方になるまで、そんな風に気を紛らわしながら過ごした。


「こんちわー!幸弥の見舞いに来ましたぜー!」


窓の外から夕焼け小焼けが流れ、しばらくするとでかい声が玄関から響いてきた。

明らかに優一の声だ。

少し遠いが、定春の“優一、うるさい”という声も聞こえてくる。

母親の嬉しそうな声と、妹のはしゃぐ声も同じように響く。

楽しそうな会話のあと、階段の上がる足音が聞こえ、ノックと同時に扉が開け放たれた。


「幸弥やっほー!元気に風邪引いてるか!?」


「病人が元気に病気してる訳ないだろ。あと静かにしろ。今は病室も同然だ」


俺の友人どもはどんな時でも変わらない。

例え俺が寝込んでいようとも。

がんがん頭に鳴り響く優一の声にこめかみと口端を引きつらせながら、俺は言い放つ。


「見舞いサンキュ。とりあえず優一はドアの向こうから喋りやがれ。定春はそこな」


言いながら顎でベッドの前を示すと、定春は俺の目の前に座った。

友人の家だろうと、律儀に正座をする堅物だ。

優一は文句を言いながらもドアの外へ向かう。

従順なのか、素直なのか…。

そうして扉を閉めたところで騒ぎ出した。


「これじゃ2人共見えねーじゃん!!!俺ぼっちじゃん!!!幸弥君いーれーてー!」


静かにすることを約束させてから部屋にいる許可を出してやった。

そんなお約束を一通りやり終えてからやっと落ち着く。

学校に行っていればどうとも思わないのに、こういう時はいつものやり取りが意外と嬉しかったりするもんだな。


「幸弥、寂しかったのか?」


定春の隣に胡座を掻くと同時に優一が言った。

なんだよ、突然。


「んなわけねーだろ。あほか」


「だって嬉しそうだからさ。な、定春!」


定春に同意を求めると、本人は微笑みながら“そうだな”とか言う。

んなわけあるか。

お前らなんかに会えなかったくらいで寂しいとか、思うわけ…


「っ、あほか」


横向きの身体のまま、頭の先まで布団を被った。

考えもしなかったが、そう言われると少しだけ寂しかったのかもしれなくもない。


「え、何その反応!かわいいんだけど!幸弥お嫁にしていい!?」


「お前もう帰れよ…」


何とち狂ったこと言ってんだ…。

恥ずかしくて消え入りそうな声で言ってやるが、優一は喜ぶし、定春は「嫁にするなら色々と問題が生じるだろうから、解決策を考えなければな…」とかほざいてやがる。

やっぱり、寂しく思うなんてあるわけない。

友達やめたいくらいだ。


……今のは嘘。


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