ずっと
個室。
ここが私の小さな世界なのだ。
そう自覚したのは一体いくつの時だっただろう。
月日は容赦なく私を成長させ、振り返る隙も無かった。
四方に建つ冷たい壁。
いつからか私は閉じこめられるのではなく閉じこもるようになっていた。
心が、分からなくなったのは私が泣いた日からだった。
母という絶対的な存在が、夜な夜なくりなす暴力。
怯えながら過ごし震え続けていたが何故か一度泣いてしまえば全て闇に消えた。
恐怖とは。
心の怯えから来るものだと思っていたが、きっとそれは違ったのだろう。
恐怖とは身体の記憶から来るものだったようだ。
これをすればこうなるだろう。
あれをすれば何か報復を食らうことになるだろう。
かくして、私は世界を作り出しその中に閉じこもることで恐怖を忘れ、己を守る術を獲得したのだ。
此処にいれば見つかることはなく、攻撃されることも無い。
それは悲しき経験値が弾き出した虚しい答えであった。
だがどうだ。
身体の覚えた危機回避能力に頼る余り、感受性を持つはずの心は何処へ行った。
幼きころ感じた「私は何処」という問いの答えを成長したはずの私は未だ知れてすらいない。
問うているのが誰かすら分からない。
そんな経験が貴方には、ないだろうか。
見つけた居心地の良い場所に安寧するあまりそこから抜け出す方法を忘れてしまう。
それを知っていた心を手放してしまうなどという愚行。
そう、まさに私はそれなのだ、今。
私は、ああ…いつからこうなってしまったのか。
諦めた未来、飽きた心、膿んだ身体。
ただの人形よりも価値の劣る醜き生きる屍。
笑ってしまう。
だが、未だ私はこの壁を突き崩す術を忘れてしまっているのだから仕方ない。
ずっと、ずっと…
私はこの壁共に囲まれて生息するに違いない。
抜け出し方を思い出したとしても、今更何をする気にも起きないのだろう。
いや、寂しい。
確かにその感情はある。
だからきっといつか私は駆け抜ける。
この壁の外を。
今はもう少し、その瞬間を待ちわびて
眠るとしよう。