あるコンビニの事情
本能の赴くままに書いた短編コメディー
後悔はしていない
「店長」
「なんだね」
ここは東北のどっかにあるとある個人経営のコンビニである。
今日もここ、「列島」コンビニエンスストアで血と涙と熱き友情の物語が展開されるのである。
「バイト増やしてくれませんか」
「えー」
「えーってなんですか。増やしてくださいよ」
コンビニバイト歴4カ月。ちなみに高校1年生である桐島アキラが言った。
「そうは言うけどねアッキー。人件費というものは案外安くないものなんだよ」
自称20代後半。新島秀雄が言った。なんとなく野球選手っぽい名前である。
「しかしですね店長。24時間営業であるこのコンビニを店長とアルバイトを含めて僅か2名というのは、あまりにも従業員が少ないとは思いませんか」
店長は反論した。
「しかしだねアッキー。事実このコンビニは2名で上手く切り盛り出来ている訳であってね」
「上手く切り盛りしている・・・ですって?オレのシフトはほぼ毎日出勤の上、10時間以上働く計算になっているんですよ?労働基準法を違反しています。それとアッキーってあだ名もやめてください。女のあだ名みたいで嫌です」
「ほらアッキーお客さん来たよ」
「いらっしゃいませー!」
すかさず営業スマイルを浮かべる桐島。
伊達に毎日10時間以上コンビニでアルバイトをしている訳ではないのである。
現在土曜日の午前7時過ぎ。ここはとある高校の近くに存在するコンビニであるため、殆どの場合学生のたまり場のような場所になっている。
そして今もまた、昼食を求める多くの学生がコンビニに溢れているのであった。
ちなみに桐島が通っている高校ではない。
「お会計543円になります。千円でのご会計ですね。457円のお釣りとなります。ご確認ください」
「え、お好み焼きパンですか?少々お待ちください・・・店長、今日お好み焼きパン入荷してますか?・・・入荷やめた?あれ一部のお客さんからすごい需要ありますよ。今度仕入れといてください」
「お弁当は温めますか?え、弁当じゃなくて私を温めて欲しい?お客様、カイロなら日常品コーナーにありますので、ぜひそちらでお買い求めください」
「店長、客にまぎれて立ち読みするのは後にしてください。余裕でレジ混んでいるので」
「只今からあげっちセール中です。千円以上のお買い物をされたお客様には更に1個増量するキャンペーンを行っております」
そんな感じで5時間経過。昼休み突入。
といっても人員が2人しかいないので、レジに立ちながらの休憩となる。
桐島は紙パックの野菜ジュースを飲み終え、それを弱弱しく握りつぶした。
「ダメだ・・・死ぬ」
今日は5時に起きて6時前に出勤。それから一度も休むことなくレジや清掃、棚出し。
そしてやっと1時になり多少人が少なくなったところで5分間の休憩が入る。
これでバイト終了ならなんでもないのだが、これから更に夜10時までノンストップで仕事があると思うと、流石にしんどいものがあった。
ちなみに時給は600円である。
「おっす桐島お疲れさん」
「・・・店長」
桐島は店長を睨むように見る。
「な、なんだよ」
店長が多少おびえた様子で桐島を見た。
「マジでバイト雇ってください。正直過労死しそうです」
「えーでも~今俺の借金ハンパねぇし~人雇う余裕ないっていうか~」
「そうですか。じゃあオレを雇う余裕もありませんよね。今までありがとうございました」
「ああっ!待って!桐島は行っちゃダメだって!」
そんな二人のやりとりに割って入って来た少女がいた。
その少女はクスクスと笑いながら
「相変わらず仲いいですねぇ」
「でしょ?」と店長「どこが?」と桐島。
「水島さんうちでバイトしてくれませんか」
と桐島が言うと
「絶対ヤダ♡」
と即答。そして勝手に保温機からからあげっちを取り出してぱくぱく食べ始める。
「198円です」
すかさず桐島が言う。
「店長にツケといてちょうだい」
「了解」
「ちょっと!?二人とも!?」
泣きそうな店長を余所に水島はからあげっちにパクついている。
そこで一人の男子高校生がやってきた。
すかさず「いらっしゃいませ」という桐島。
その客は迷わずに雑誌コーナーへと向かう。
そして今週号のジャンプを立ち読みし始めるのであった。
「真島さんうちでバイトしませんか」
桐島が立ち読みしている客に声をかける。
「絶対やだ」
その少年はマンガから目をそらさずに即答した。
となりで店長が勝ち誇っているのが気にくわない。
「んじゃまたくるねー」
そう言って水島はコンビニから出ていった。
桐島は機械的に「ありがとうございましたー」という。
隣では店長が
「またタダ食いされた・・・」
と嘆いている。
そんな店長に対して桐島は
「店長。水島さんに何か弱みでも握られているんですか」
と無表情で問う。
「・・・」
店長は無言だ。
桐島は、水島さんがここに来る限り店長の借金は無くならないような気がする。
と漠然と感じていた。
それから1時間が経った。
真島は満足したようにジャンプを元の場所に戻し、ボルヴィックを5本ほど買ってコンビニから出ていった。
「真島さん、なんでいつも水ばっか買っていくんでしょうね。それもボルヴィックだけ」
「いや、俺に聞かれても困るんだが・・・」
それから数分後
「この時間帯はヒマですね」
「だね。今のうちに休憩してきてもいいよ」
今このコンビニ内には客は誰もいなく、店員の桐島と店長の新島の二人のみであった。
「休憩したいのは山々なんですけどね」
「けど、何よ」
「また来そうな気がするんですよね」
「何が」
「コンビニ強盗」
と桐島が言った瞬間だった。
「お前ら動くんじゃねぇ!」
黒ずくめの格好をした3人組がやってきたのであった。
手には銃と思わしき物が握られている。
「・・・ほーらね」
桐島は半ば諦めた様子で黒ずくめの集団を眺めている。
「お前ら両手を頭の後ろで組んでその場にしゃがみこめ。妙なマネしたらぶっ殺すぞ!」
黒ずくめの男(Aと名付けよう)が桐島と店長に向かって叫んだ。
「なぁ桐島。なんでコンビニ強盗はこのセリフが好きなんだろうな」
「別に好きっていうか・・・コンビニ強盗のマニュアル本にでも書いてあるんじゃないんですか。『店内に入ったらまず両手を頭の後ろで組んでその場に座り込めと叫べ』って」
「お前ら何ボソボソ喋ってんだ!ぶっ殺すぞオラァ!」
黒づくめの男(Bと名付けよう)が二人に向かって叫んだ。
二人は大人しく言われた言葉に従う。
「で、店長どーするんですか」
腹話術並みの技術で桐島は店長に話しかけた。
「そりゃな、ここで売上持ってかれる訳にはいかないだろ。俺の脱借金生活がますます遠のいてしまう」
桐島と同じく腹話術で店長が桐島に話しかける。
「でも相手は銃持ってますよ。流石に銃をぶっ放されたら困ります。銃器相手に戦ったことはないので」
「バーロあれはどう見てもモデルガンだろうが。怖くもなんともねーよ」
「本当ですか・・・?」
「俺を誰だと思ってやがる」
「借金まみれ店長」
「・・・」
が、店長は気を持ち直し
「じゃあ俺は黒ずくめAをやる。お前はBとCをやれ」
「店長さりげなくオレにCまで押しつけないでください」
「いちにのさん!でいくぞ」
華麗にスルーする店長
「・・・分かりました。いちにのさん!ですね」
しぶしぶ了承する桐島。
「いち」
「にの・・・」
さん!
店長が黒ずくめAに接近する。それと同時に桐島もBに向かって跳躍。
「はぁっ!」
桐島の飛び膝蹴りが黒ずくめBの鳩尾に突きささる。
黒づくめの男たちは、頭にはヘルメットを装着しているので胴体を攻撃するしかなかったのだ。
声もあげずその場に崩れ落ちる黒ずくめB。
「なっ!?」
驚いた様子の黒ずくめの男(C)。
既にAも店長の正拳突きを腹部に喰らい、昏倒している。
黒ずくめの男Cはコンビニ店員とコンビニ店長の(意外な)戦闘力に戸惑うばかりだ。
「覚悟してもらおうか」
桐島がそういうと、Cへと近づいていく。
「ちょ、ちょっと待て!お前これが見えねーのか!」
焦った様子で銃を振りかざす黒ずくめC。
「ふん、そんなおもちゃでオレを騙せると思うなよ」
「いや、教えてやったの俺だろ」
店長が後ろで主張してくるが、何のことやらさっぱりだ。
「ち、畜生こうなったら・・・」
黒ずくめCは腰に付けていた黒くて楕円形をした何かを取り出した。
「これでぶっとばしてや・・・」
黒ずくめCが何かを言う前に、鳩尾に肘打ちを食らわす桐島。
その場に倒れる黒ずくめC。
「お前、容赦ねーな」
店長が桐島に言う。
「コンビニ強盗に情けなど無用でしょう・・・ところでこれ、なんですか」
桐島はCが落とした楕円形の何かを拾う。
「それは・・・手榴弾じゃねーかな?」
「これもおもちゃですか。やれやれ」
と言った瞬間。桐島の手にした手榴弾から、何かピンのようなものが外れた。
「あれ、なんですかこれ」
「それ、本物だわ。あと5秒程度で爆発すんぞ」
「・・うぇ?」
「早く捨てろをおおおおおおおおおおおおお!」
「うおわあああああああああああああ!!!!」
桐島はコンビニを飛び出し、手榴弾を空中に思いっきり蹴りあげた。
数瞬後
ドォオン・・・という音を立てながら手榴弾が爆発した。
「・・・マジかよ」
「いやぁ危なかったなー桐島」
はっはっはっはっは
と笑いかけてくる店長。
「はっはっはじゃねぇ!思いっきり死ぬとこだったじゃねぇかぁ!」
桐島のただならぬ迫力に店長はビビりまくる。
「いやまぁ結果オーライだし」
「どこがオーライだ!マジで寿命縮んだわ!」
「とりあえず警察呼ぼう」
「え?何?九死に一生を得たのにスルーなの?ねぇ店長マジでバイトやめていいっすか?命いくらあっても足りないんで」
「いや!それはだめ!コンビニ経営していけなくなる!」
「うるせぇ!コンビニのバイトよりオレだって自分の命のが惜しいわ!」
「お願い!時給5円UPするから!」
「これだけ命の危機にさらされて5円!?たったの5円しか時給上がらんの!?せめてそこは50円UPだろ!」
「50円UPでいいんかい!」
そんなこんなでギャーギャー騒いでいる二人。
店長の携帯電話の先からは
「こちら警察です。何がありましたか?もしもし?聞こえていますか?」
という声が虚しく聞こえてきた。
その日の夜。
警察の事情聴取を終えた桐島は、やっとのことで帰路へ着いた。
「ただいま・・・」
家に帰ると、リビングでは父と母、それと姉がリビングでテレビを見ていた。
「おーおかえり、今日もバイトお疲れさん」
と父。
「ほら、今丁度ニュースでやってるわよ」
「・・・え?」
母に言われるままに桐島はテレビでやっているニュースを見る。
テレビの中でアナウンサーが喋っていた。
『今日、市内のコンビニエンスストアで強盗事件が発生しました。しかし店長のすみやかな行動によって犯人たちは無事逮捕されたとのことです。なお、このコンビニは過去に―』
「・・・」
「今回の強盗は銃を持っていたんだって?」と父。
「え、うん・・・」
「なんか手榴弾も持ってて、爆発したらしいじゃない?大丈夫だった?」と母。
「え、うん・・・」
「あんたバッカねぇ手榴弾なんて爆発させる前に処理しなさいよ。全くどんくさいんだから」と姉。
「・・・うん」
息子がバイトしているコンビニに強盗が来たというのに、この家族は一体なんなのだろうか・・・
「・・・オレ、今日は疲れたしもう寝るわ」
桐島は、オレの一番の不幸はあのコンビニでバイトしていることではなく、この家族に生まれ付いてしまったことなのかもしれない。と思った。
次の日。つまり日曜日。そして今は午前6時。
オレはいつもと同じように列島へと出勤していた。
「店長おはようございます」
「うっすおはようさん」
そこに少女が一人コンビニへとやってきた。
「うおーい二人とも大丈夫だったかい?」
すかさず桐島が
「いらっしゃいませ!・・・って水島さんか。今日はずいぶん早いですね」
「で?どうだったの?コンビニ強盗!」
水島の瞳は好奇心に輝いていた。
「どうって・・・別にいつも通りですよ」
「いつも通りじゃねーだろ。銃持った黒ずくめ装備のコンビニ強盗は初めてだろーが」
と店長。
「ふーんそっかぁー日々進歩していくねーコンビニ強盗も。これで何回目だっけ?」
「さぁ・・・もはやコンビニ強盗程度でいちいち騒がなくなる程度の回数はこなしましたね」
そう言って遠い目をする桐島。
コンビニ強盗に慣れてしまっている自分が怖い。
「ということで水島さん、うちでバイトしませんか」
「絶対にヤダ♡」
といい、からあげっちを勝手に食べる水島。
「198円です」
「ツケといて。店長に」
「了解」
「ちょっとお!」
泣きそうな店長。
それを気にせずおいしそうにからあげっちを食べる水島。
そして無表情に会計する桐島。
そしてやってくる真島。
「今日火曜日なのでサンマガはまだ入ってませんよ」
桐島が言った。
すると真島は
「いや、今日は久しぶりにクリスタルガイザーを飲みたくなった」
と言って、また大量に水を買っていく真島。相変わらず行動が読めない。
「で、どうだったの」
「何がですか」
何を聞いているのか分かっているものの、わざととぼける桐島。
「コンビニ強盗」「はいつも通りでしたということで真島さんうちでバイトしましょう」「断る」
流れるような会話。店内には店員客含めて4人しかいない。
・・・なーんか嫌な予感がす「お前ら両手を頭の後ろで組んでその場にしゃがみこめ。妙なマネしたらぶっ殺すぞ!」る。
「ほーらねやっぱり来た」
半ば桐島は諦め気味だ。
「なんでうちにはこんなにコンビニ強盗がくるんだろうなー」
呑気な店長。
「人が少ないからに決まってんでしょ。ということでバイト増やしてください」
「だが断る」
「静かにしろっつってんだろうが!」
強盗が叫ぶ。今日の強盗は4人組のようだ。
「じゃあ俺がAで」
と店長。
「じゃああたしがBで」
と水島。
「じゃあ桐島がCとDで」
と真島。
「真島さんさりげなく残り全部をオレに押し付けないでくれませんか」
と桐島。
「お前ら聞こえてんのか!?マジでぶっ殺すぞ!!」
叫ぶ強盗。
「んじゃ・・・」
「いち」
「にの」
さん!
今日もコンビニエンスストア『列島』は元気です。
たまには後先考えない訳のわからないコメディー(といっていいのだろうか)を書きたくなります
続きを書きたい気もするけど、どうしようかなぁ
好評な反応があれば書いてみたいですね