グレリン
彼女は空腹感を覚えた。
その空腹感を、彼女はおかしいと思う。何故なら、彼女はほんの数時間前に食事をしたばかりだったからだ。何にせよ、彼女はまた食事をした。とにかく、空腹感を満たしたかったからだ。さっきはご飯だったから、今度はトースト一切れにバターを塗って、砂糖をまぶしてペロリといった。途中で、苦しくなるような事もなく、文句なく美味しくいただけた。
それから数時間後、また彼女のお腹が空いた。今度はスナック菓子で腹を満たす。これでは絶対に太るだろうな、とそう思いながら。そして、一方でこう不思議にも思う。どうして、自分はこんなにも空腹感を覚えるのだろう?
それからまたまた数時間後、やっぱり彼女のお腹は空いた。また彼女は何かを食べようと思った訳だけど、そこで少し立ち止まって考えた。絶対にこの空腹感はおかしい。あれだけ食べたのだから、お腹が減っているはずはない。充分に体内に栄養もエネルギーもあるはずだ。そして彼女はこんな結論に達した。
この空腹感は“嘘”じゃないだろうか?
誰が誰に吐いた嘘か? もちろん、自分の脳が自分自身に吐いた嘘である。脳が自分に嘘を吐いている。本当は、お腹は減っていないのに、減った減ったと脳が嘘を吐く。
そこで彼女はその空腹感を我慢してみた。じっとしていると耐え切れないから、軽く外を散歩してみたりして。何度か厳しい時はあったけど、しばらくすると楽になるのを感じ始めた。その後空腹感は、それこそ嘘だったかのようになくなっていた。
脳が嘘を吐くのを止めたのだ。そう彼女は結論付けた。
それからしばらく後、彼女はグレリンというホルモンがあるのを知った。これは、空腹感を感じさせるホルモンらしいのだけど、その効果はそれだけじゃない。なんと、ストレス緩和の効果もあるというのだ。つまり、ストレスが溜まると、そのストレスを緩和させる為にこのグレリンは分泌される。そしてその時に、その副作用として空腹感を人に感じさせてしまう。
この時に、何かを食べるとどうなるだろう? ストレスはまだあるのに、グレリンの分泌は止まってしまう。つまり、ストレスは緩和されない。ストレスがまだあるのだから、当然グレリンが分泌をされる。すると、そこでまた空腹感を覚えて、以下繰り返し。
彼女は、当然、自分があの時に陥っていたのはこの状態なのじゃないかと考えた。もちろん、確かな証拠はないのだけれど。どうして人間にこんな仕組みがあるのかは知らないが、人間というのは、そんなに都合良くはできていない、厄介なものだと、そう彼女は思ったのだった。
このグレリンの話、確かまだ仮説に過ぎないので、ここに載せるのは躊躇っていたのですが、ある日、心理学の本を読んでいて、食依存傾向にある人は、食べたその時は幸福感を感じても、少し経つと気分が落ち込む、という話が紹介されてあって、載せてみようと思いました。
生理学方面と心理学方面から、それぞれ同じ現象を報告しているのであれば、信頼性は高くなるだろう判断して。
もし、心当たりがある人がいたら、空腹感はストレス解消効果があると思って、我慢してみるのも良いかもしれません。悪循環から抜け出せるかもしれませんよ。