第4話 気になること④
いつも粛々と目の前にある課題へ取り組んでいるイメージが強いリゼットにしては珍しく、今日は外で一人ぼんやりと日向ぼっこをしていた。
バラ園の真ん中で物憂げに佇む美少女というのはそれだけで絵になる。
残念ながら今世にはカメラだのスマートフォンといった便利な道具はないから、この光景は私の脳内ディスクだけにしっかりと焼き込んでおくとしよう。
(まあ、そんなことはさておいて)
目の前のリゼットはらしからぬ動揺した顔で私を見返している。
いつもはもう少し表情を隠すのが上手いと思うのだけど。
いや、いざという時は顔に出やすいのがリゼットか。
もしくは私がリゼットと一緒に居る時間が長いせいで、表情変化に気づきやすくなってしまったのやもしれない。
「言いたいことはハッキリと仰ってください。大変申し訳ございませんが、私は馬鹿だから、リゼット様の考えを察して差し上げることはできかねます」
「どうかしら? 貴方の場合は察していたって気づかない振りをするじゃない」
「それは気づかない振りをしているのではなく、自分の予想が間違っている可能性を考慮しているんですよ。情報の確実性を重要視するのはリゼット様の忠実なる下僕として当然の嗜みです」
「よく口が回るわね」
「私は母の口から生まれたと聞き及んでいますので、口が回るのは生来の気質です」
「そのうち舌を引っこ抜いてやろうかしら……」
「引っ張ってみますか?」
ンベッと舌を出して見せると、リゼットは手を払う仕草だけで『仕舞え』と指図した。
それから呆れた顔でわざとらしく溜息をつく彼女は、私の方へジトッとした目を向ける。
「どうして貴方はそうなのかしら。もう少し淑女としての恥じらいを持ちなさい」
「ハハッ! 淑女! 私がですか?」
ド平民、しかも中身オッサンの私には面白過ぎる冗談だ。
思わず吹き出してしまった。
しかしいよいよリゼットの逆鱗に触れたのか、ギロリと鋭い視線が飛んで来たので咄嗟に口笛を吹いて誤魔化す。
「そういうところがダメだと言ってるのだけど。まあ、言っても意味がないのでしょうね」
「寛大な配慮痛み入りますね」
「それは嫌味かしら?」
「本心ですとも」
ようやくいつもの調子を取り戻したのか、リゼットは「嘘ばっかり」と短い言葉で私の戯言を切って捨てた。
それからようやっと本題を話す気になってくれたのか、一拍置いて口を開く。
「別に、大したことでは無いのよ。ただ、ちょっと……わたくしを…………」
全然いつもの調子ではなかった。
「ドンドン私から顔をそむけるのはやめてくださいよ。どうしたんですか昨日から」
「だから、わたくしを呼ぶときに……名前だけで……いいって言ってるのよ」
ようやっと聞き取れたリゼットの呟きをゆっくりと頭の中で咀嚼し飲み込んだ。
(つまりこれは、アレか? …………ついに、デレ期?)
「ふひっ」
思わず気持ち悪い笑いが零れた私に、リゼットは何か勘違いをしたようで、大層ご立腹な顔で腹パンをキメて走り去っていった。




