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乙女ゲーの主人公にTS転生した私、シナリオを放棄して推しの悪役令嬢と2人で学園ダンジョンに挑む!  作者: 真嶋 青
第一部

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第11話 覚悟の差

「リゼット! 貴様!」


 アルフレッドが投げ飛ばされたのを見て、今度はシャルルがリゼットへ迫る。

 さらにその後方から、クロードの魔法ファイアボールが飛来した。

 

 (アホかコイツ!?)


 今のリゼットは何をしでかすか分からない。アルフレッドは投げ飛ばされるだけで済んだが、魔法を使われれば今度は剣を抜くかもしれない。

 そこまで考えたところで、私は咄嗟にリゼットの前へ(おど)り出て大盾を構えた。


「《プロテクト》!」


 火球が盾に着弾すると、思ったほどの衝撃はなかったものの、爆風の熱で肌がチリチリと痛む。


「だ、大丈夫かリーナ!?」


 私が割り込むとは思っていなかったのか、リゼット目掛けて直進していたシャルルがその足を止めた。


「ええ。お気遣いどうも……ですが、もうそれ以上はこちらに近寄らないでください」

「さっきのやり取りを見ていただろう? リゼットの側にいると君も危険なんだ! そこを退()いてくれリーナ!」

「ええ、見ていましたよ。突然、激昂(げきこう)したあちらの御貴族様が、ご主人様に乱暴を働こうとしたのを」

「それは……! リゼットがアルフレッドの親友を侮辱したからだ!」

「だから、殴り、魔法で焼いても良いと?」

「――ッ!」


 怒らせたのはリゼットだが、先に手を出したのは紛れもなくアルフレッドを始めとした三人の方だ。

 当然、リゼットにも非はある。だからと言って、暴力に訴えかけるのでは破落戸(ごろつき)と変わらない。

 

「どうして……どうして、そこまでリゼットの肩を持つ!?」

「可愛いからかなぁ」

「「は?」」


 今度はシャルルとリゼットがハモった。


 (しまった……うっかり本音が……)


「き、君はリゼットに脅されているから仕方なく命令に従っているんじゃないのか?」

「殿下、何を勘違いしているのか知りませんが、私は自分の意思で彼女と行動を共にしているんですよ」

「だが、君は講義に参加できないほど、ダンジョンで日々酷使されているんじゃないのか?」

「殿下、今目の前にいる私を見て、もう一度冷静に考えてください。私が、本当に奴隷のような扱いを受けていると思いますか? 私が、嫌々命令に従っているように見えますか?」


 私は、構えていた盾を手放し、「ほら見ろ」と言うように両手を広げる。

 すると、シャルルは何度も私の頭から爪先までを視線で往復させた。


「ほ、本当に……?」

「はい」


 我ながら一点の曇りもない返答をしてやった。

 ついでにシャルルの後ろで杖を構えるクロードをひと睨みすると、彼は何故か悔しそうな顔をして(うつむ)いてしまう。


 気まずい雰囲気の中、静寂を切り裂いたのは、リゼットの冷え切った声だった。


「とんだ茶番ね」


 振り向くと、リゼットは感情の見えない静かな瞳で私とシャルルを見ていた。

 

「茶番、だと?」

 

 いつの間にか立ち上がっていたアルフレッドが、リゼットの後ろから剣呑な声をかける。

 それでも多少の冷静さは取り戻したのか、襲い掛かるような事はしない。

 

「平民一人の処遇を巡って、貴族が揃いも揃ってこのような下らない揉め事を……。茶番と言わずして何と言いましょうか?」

 

 リゼットの冷え切った言葉は、その場にいた全員の動きを縫い止めた。

 その静寂の中で、リゼットはゆっくりとシャルルへと視線を移す。

 

「殿下。貴方様は、このような所で油を売っている暇などないはずです。ダンジョンが解放されて約一週間。殿下が率いるパーティーの到達階層は、未だ第二層といったところなのでしょう?」

「……それが、どうした?」

「殿下ともあろう御方が、そのような場所で足踏みをしていてどうするのです?」

 

 その言葉は、まるで氷の刃のように鋭く、シャルルのプライドを切り裂いた。

 

「……ッ! それは、パーティーメンバーの習熟度を考慮して、慎重に進めているからだ!」

「慎重、ですか。わたくしには、ただの停滞にしか見えませんが」

 

 リゼットは、ふっと、嘲笑とも憐憫(れんびん)ともつかぬ、美しい笑みを浮かべた。

 

「わたくしたちは、本日、第四層の攻略を終えましたわよ。貴方がたがのんびり講義を受けている間に、わたくしとそこの平民は、ダンジョンで戦い続けた。ハッキリ申し上げます、殿下。貴方は、こんなところで正義の味方ごっこをしている場合ではありません。今の貴方の覚悟は、そこの平民にすら劣っています」

 

 その一言が、決定打だった。

 シャルルたちの顔から、血の気が引いていくのが分かる。

 

「わたくしは、この平民の価値を理解し、正しく使っているに過ぎません。貴方がたのように、彼女を『か弱き庇護対象』という名の檻に閉じ込め、その才能を腐らせるつもりは、毛頭ありませんので」

「……それでも、君のやり方は強引すぎる!」

 

 かろうじて、シャルルが声を絞り出す。だが、その声には、もはや先ほどまでの威勢はない。

 

「ええ、そうかもしれませんわね」

 

 リゼットは、あっさりとそれを認めた。そして、初めて、その氷のような瞳に、微かな熱を宿す。

 

「ですが、殿下。覚えておくとよろしい。ダンジョンに限らず、『戦場』において最後に物を言うのは、綺麗事ではない。ただ一つ、研ぎ澄まされた『強さ』。それだけですわ」

 

 言い終えると、リゼットはもはや彼らに一瞥もくれず、私に向き直った。

 

「平民、行くわよ」

「は、はい!」

 

 呆然と立ち尽くす三人を背に、私たちはその場を後にする。

 その背中に、クロードの怪しい視線が向いていることに、このときの私は気づけなかった――。

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