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まぶたを開けた瞬間、目に飛び込んできたのは、見覚えのある天井だった。
木の梁が走る、古びた教室の天井。
窓から差し込む陽光が、机の上にやわらかく広がっている。
その光景に、俺はしばらく言葉を失った。
――ここは、アルセリア学園。中等部の教室だ。
制服の感触。机の高さ。指先の細さ。 すべてが、あの頃のままだった。
「……戻ってきたのか」
思わず、そう呟いた。
女神エリシアの言葉が、脳裏に蘇る。
「いつに戻るかは、あなたにも私にもわかりません」
なるほど、そういうことか?
俺の“二度目の人生”は、ここから始まるらしい。
ふと、前の席に目をやる。
そこにいたのは、あの人――セリーヌ・ローレン。
金糸の髪が陽光を受けて輝き、誰もが振り向くほどの気品に満ちている。
彼女がこちらを振り返り、微笑んだ。
「おはようございます、エドガーくん」
その声に、胸の奥がわずかに痛んだ。
けれど、俺はその痛みを飲み込んだ。
二度目の人生は、恋愛ではなく、友情として距離を保つ。 それが最善だ。
一度目の人生で、俺は感情に任せて動きすぎた。
だからこそ、今回は冷静に、慎重に、未来を見据えて行動する。
* **
高等部への進学が近づいた頃、かつて憧れた騎士クラスを横目に見ながら、俺は迷わず文官クラスに申し込みをした。
文官クラスには、爵位を継げない次男や三男が多く、貴族社会の重圧も騎士クラスに比べて薄かった。 その空気が、今の俺には心地よく、その雰囲気の中で、俺は心から勉強に打ち込めた。
毎日、予習復習を欠かさず、きっちりと授業の内容をノートにまとめ、 夜は図書室で文官試験の過去問を解き、休日には模擬試験を自作して挑戦した。
その努力は、確実に実を結んでいった。
「マルヴェール君、成績がどんどん上がってますね」
教師にそう言われたとき、俺はただ静かに頭を下げた。
だが、心の中では、小さく拳を握っていた。
一度目では遅すぎた努力。
だが、今回は違う。 失敗を避け、正しい選択を積み重ねる。
それが、俺の新しい信条だった。
高等部を卒業する頃、俺は文官試験に合格した。
今回は、兄・ギルバートに追い出されるより先に、王都で小さなアパートを借りる手配をし、 両親にきちんと挨拶をしてから家を出て、完全に独立した。
* **
文官として働き始めた俺の人生は、まさに順風満帆だった。
職場では、真面目さと丁寧な仕事ぶりが評価され、少しずつ信頼を得ていった。
ある日、街で“聞き覚えのある詐欺”の噂を耳にした。
一度目の人生で、俺が騙されて破産した、あの事件だ。
今回は違う。 俺は即座に、文官の仕事の一環として調査に動き、被害が広がる前に、詐欺グループの摘発に成功した。
自分の過去の痛みを、他の誰かが受けないように
―― 今度は、その痛みを、他人を守る力に変えたのだ。
「マルヴェール君、よくやった。今回の君の功績は大きい」
上司の言葉に、胸が熱くなった。 やっと、認められたんだ。
一度目では得られなかった“誇り”が、ようやく手に入った
――そう思った。




