ぽっちゃり転生令嬢は愛される
異世界転生⋯⋯。
そう自覚したのはお茶会の為にドレスに着替え、姿見を見た瞬間だった。
(ぽっちゃり⋯⋯。違う⋯⋯デ◯。)
異世界転生を自覚したものの、まだ頭の中がぼんやりしている。
そんな中、私はお茶会に連れて行かれた。
会場に着くとやはり同年代の令嬢令息からのからかいの洗礼を受けた⋯⋯。
(仕方ないわね。ぽっちゃりだもの。
そう⋯⋯やや大きめのぽっちゃり⋯⋯。)
私はぼんやりしたままお茶会を終えて、邸に帰って来た。
大人し過ぎる私に家族は心配するが、
「少し体調が悪いの⋯⋯。」
そう告げた瞬間。
邸は大騒ぎ!
私は急ぎ着替えさせられ、ベットに寝かされる。
母は「急いでお医者様をっ!」
と、とても焦っている。
使用人も大慌てで看病を始める。
少しすると仕事中である筈の父が慌てて帰って来る始末⋯⋯。
私は愛されている⋯⋯。
とんでもないくらい過保護に⋯⋯。
だから、ぽっちゃりなのだ。
そんな過保護が今は泣きたくなる程嬉しい。
私は愛されている⋯⋯。
寝たふりをしながら、私は涙を流した。
前世の私は病で寝たきりだった。
双子の弟は元気に育つ中、私は小さいままで動けないし、喋れない⋯⋯。
でも、思考は普通にあった。
弟からの酷い言葉も、両親の嘆く言葉も理解している。
家族は私には思考がないと思っている⋯⋯。
弟を優先する両親は、私が入院すると旅行に行っていた。家族三人で。
私は邪魔者だった。
家族には愛されなかった。
私は16歳まで生きた⋯⋯。
良い事は一つもない前世。
家族に迷惑をかけた前世は、思い出したくないものばかり。
元気な体に転生したものの⋯⋯ぽっちゃり。
「良いじゃないか!ぽっちゃりで、何が悪いのよ!」
深夜目を覚ました私は、姿見で自分の容姿を見てそう自分に言い聞かせる。
「痩せっぽっちよりも全然良いし、歩けるし話せる!それだけで十分よね!」
姿見の私は、前髪を長くし目を隠している。
そっと前髪を掻き上げてみると、とんでもなく可愛い顔が出て来た!
「うわぁぁぁー!!」
驚いた私は後ろに倒れ、尻餅をついてしまった。
四つん這いで前に進み、姿見の前に座る。
もう一度、髪を掻き上げてみる。
やっぱり可愛い!とても可愛い!
ニッコリ笑ってみれば、より一層の可愛さを増す。
「ぽっちゃりでも可愛いを目指すわ!」
決意を新たに、私はまた眠りに就いた。
寝ている間に私が前世を思い出す前の自分と融合していた。
前世の異世界の小説では、高熱を出すとか死に瀕した時にそうなるとか⋯⋯書いていたはず?
私はグーグー寝てる間に、融合してスッキリと目覚めた。
前世を思い出す前の私は、ぽっちゃりを気にし過ぎて根暗まっしぐらだった。
周りの女性は細身が多い。
皆でからかわれては根暗にもなるか⋯⋯。
でも、今日からの私は違うわよ?!
ぽっちゃりを受け入れてるし、なんせ元気に生きてるだけで丸儲け!
そんな気分なのだから。
朝から浮かれる私に、侍女達は驚いている。
「おはよう!今日も宜しくね。」
元気に挨拶すると、更に驚かれる。
「今日から私は生まれ変わるの!明るく元気に行くわ!」
赤ちゃんみたいな手をグーにして、決意を伝えた。
勿論、侍女達は泣いて喜んでくれた。
今日は同年代の集まるお茶会が開かれる。
学園に入学する前に、その学園の1番高位貴族の邸で交流会があるのだ。
朝から侍女に前髪を髪留めで留めてもらい、おでこを全開にしてみた。
(良く似合うわ!)
「ドレスの腰に巻いているリボンを、胸の下に替えたいのだけど。直ぐに出来そう?」
デ◯が腰にリボンを巻けば、ボンレスハムにしかならない。
だが、バストの下で絞れはなんとか見れる。
私の提案に、侍女達がせっせと縫い替えてくれる。
私は自分でお化粧を施した。
この世界のお化粧は濃いのだ。
私の顔はふんわりな顔でしかも(大きめの)ぽっちゃりなのだ。
濃い化粧なんて似合う訳がない。
侍女達の努力の甲斐あって、可愛らしいドレスにふんわり柔らかな女性が出来上がった。
侍女達は、私の姿に沢山の褒め言葉を贈ってくれた。
ルンルンと足取り軽く玄関まで向かうと、母が目を見開き口を開けたままこちらを見つめていた。
「お母様。おはようございます。」
母は言葉が出ないようで、コクコク頷くだけだった。母を引き攣り馬車に乗り込むが、馬車の中でも母は私を凝視するばかりだった。
「お母様。私の格好は可笑しいですか?似合っていませんか?」
私の言葉に母がやっと我に返った。
「いいえ!とっても似合っています!可愛い娘に驚いただけよ。」
母はそれからもずっと笑顔で私を見ては、可愛い可愛いと褒めてくれた。
お茶会が催される公爵家に到着する。
母と私が会場に入ると、皆の視線が私に集まる。
(そりゃあそうよねー。)
遠巻きにヒソヒソ話。
驚きの視線に、変わらない侮辱の視線。
(せっかく楽しい気分だったのに⋯⋯。)
私は居心地が悪くなり、会場を離れて中庭に向かった。
中庭に着くと小さな女の子が蹲り泣いていた。
「どうしたの?」
声をかけると、泣きながら話をしてくれる。
転んだらしい⋯⋯。
「痛かったのね?」
ドレスには汚れはなかった。
ポンポンと草を払い、泣きやまない女の子を優しく抱きしめた。
「私はぽっちゃりだから、抱きしめられたら柔らかいでしょう?プニプニだもの。」
私は笑いながら女の子に私のプニプニを堪能してもらう。
「本当!気持ち良い!」
女の子はそう言いながら、私のプニプニな体を堪能していた。
「泣き止んだかな?」
私が女の子の顔を覗き込むと、元気な声で
「うん!」と返事をしてくれた。
「会場に行くのかな?一緒に行く?」
女の子に問いかけると、
「お兄様を待ってるの。」
そう返事をされたので、私は一人で戻ろうと女の子に手を振り離れようとした。
一歩後ろに下がると、誰かにぶつかった。
倒れそうな私を、ぶつかった人が助けてくれた。
が、重みで私を支えられず、一緒に倒れ相手を潰してしまった⋯⋯。
急いで起き上がろうとするが、腰に手が巻き付かれて動けない⋯⋯。
腰に巻かれた腕を視線で追うと、とてつもない美男子と目が合った。
「ごめんなさい!直ぐにどきますね!」
急いで起き上がろうとするが、腕の力が強まった。
美男子は私を後ろから抱きしめたまま起き上がり、座り込む。
私は美男子の足の間に座っている⋯⋯。
(なぜだ⋯⋯。)
私は動こうとするが、腰に強く巻き付いた手により美男子に抱き込まれてしまった。
「ふにふにだね。」
美男子の言葉に、私は恥ずかしくなり顔を真っ赤にさせる。
「お兄様!女性にその言葉は失礼ですっ!」
(お兄様?)
クルリと振り向くと、確かに女の子と似た容姿をしている。
「可愛い。」
「柔らかい。」
美男子は私を向かい合わせで抱きしめると、私の肩に頭を乗せ同じ言葉を連呼する。
暫しそのまま、美男子に私のプニプニを堪能された⋯⋯。
(どうしたら良いのかしら⋯⋯。)
私はじっとしたまま動けずにいた。
「あらあら。珍しいわね。」
コロコロ笑いながら誰かが近付いて来た。
もぞもぞしながら、ようやく顔を出すと美女が私と美男子を眺めていた。
「アロンソ。その子が気に入ったのかしら?」
(アロンソ? アロンソ様!!)
「申し訳ありません。公爵子息様に乗っかってしまうなんて!」
私は慌てて腕の中から逃げようとするが、全く逃げられない。
ジタバタする私に、夫人が声をかけてきた。
「貴女の名前を聞いても良いかしら?」
私はハッとなり、名乗りすらしていない事に気が付いた。
絡みつく腕を、ペシペシ叩いてみるが意味がない⋯⋯。
仕方なくこのまま名乗りをする。
「シアーズ侯爵の長女ココと申します。」
カーテシー等不可能。
頭を下げたいが、それも無理⋯⋯。
相手は公爵子息なのだが、段々腹が立ってきた。
「いい加減離れて下さい!それに、勝手にプニプニしないでっ!」
おおきな声で伝えるも、美男子は
「そんな君も可愛い!」と抱き込んでしまう⋯⋯。
夫人はコロコロ笑うだけで、助けてはくれなかった。
「ココ!」「ココ!」
母のオルガがココを探しに来てくれた。
「お母様!助けて!」
私をキョロキョロ探すと、ご子息の腕の中に私がいる⋯⋯。
母は顔を青褪めさせて、私を見ている。
「オルガ夫人。ココさんには婚約者がいまして?」
夫人が母に問いかけた。
母は「婚約者はおりませんが⋯⋯。」
顔を青褪めさせながら答えた。
「では、アイマー公爵家からシアーズ侯爵家ココ様に縁談を申し込みます。」
夫人の言葉に、私の腰に絡められた腕がキュッと強くなった。
だが、母は断りを入れる。
「ア、アーシア夫人。我が家への縁談は大変光栄な話ではあります。ですが、娘はこのように、その⋯⋯細くはないのですよ?私達にとっては可愛い娘ですが、社交界では良く思われません。ですので、折角のお話ですがご辞退したく思います。」
母はアーシア夫人に深く頭を下げている。
「私は彼女が良いです。マリンを優しく慰めている姿はとても優しく綺麗でした。
私は二階の私室からずっと見ていました。
支度中な為、私は動けずにいたのです。
妹が泣いている横を数人の令嬢達が通りましたが、誰一人声をかけてはくれなかった。
ですが、ココ嬢は妹を見つけると直ぐに駆け寄ってくれました。」
アロンソは優しい眼差しで、ココを見つめる。
「ココ嬢。私と婚約して下さい。心優しく可愛いらしいプニプニな貴女に一目惚れしたようです。」
ニッコリ笑顔で申し込みをしてきた。
「⋯⋯。」
(美男子は浮気をするって、本に書いてあったなぁー。ぽっちゃりな私とは似合わないし⋯⋯。)
「ココ嬢。まだ断らないで下さい。私を知って頂ける時間を下さい。それから返事をして欲しい。」
先程までのフニャフニャした雰囲気を消し、真剣な表情になっていた。
「解りました。知らないからお断りするのは失礼ですもの。お試し期間?を過ごして、お互い大丈夫ならば婚約をお受けします。」
私がそう言うと、やはりアロンソ様は私を抱きしめた。
前世では愛されなかった私が、今世では愛情を貰っている。
雰囲気を変え、性格を明るくしただけで世界が変わった。
私の異世界転生を素晴らしいものにする為に、私は努力する事を決意する。
「因みにですが、アロンソ様は私が痩せたらどう思いますか?」
痩せるの言葉に、首を物凄い勢いで横に振る。
「ダメダメ!絶対に駄目だよ!これ以上痩せたら、プニプニを堪能出来ないじゃないか!!このままのココ嬢が良いんだから!」
アロンソは、慌てて私のダイエット計画を潰しに来た。
「ご子息様は、ぽっちゃりなココが良いのですか?」
母がアロンソに恐る恐る尋ねた。
「勿論です。このココ嬢の雰囲気を気に入っています。柔らかい笑顔も抱きしめた柔らかさも。優しい心も。大好きですよ。」
(アロンソ様はまさかのデ◯専かな?私には有難いけれど、モテモテだろうこの美男子を私は信用出来るのかな?)
「アーシア夫人⋯⋯。先程はお断り致しましたが、ココへの婚約のお話お受け致します。」
母は一瞬だけ言い淀んだが、アーシア夫人に承諾の返事をした。
アロンソ様は、私の肩に頭をグリグリ押し付け嬉しさを我慢出来ずにいるようだ⋯⋯。
(喜んでくれてるなら今は良いかな⋯⋯。
珍しいプニプニに興味が出ただけで、直ぐに飽きるでしょう。)
前世での恋愛経験はない。
恋愛話は病院の看護師さんから本を沢山見せてくれて知ったくらい。
度々入院する中で、看護師さんが私に思考がある事に気が付いてくれた。
紙にあいうえお表を書き、指で文字を指し文字を教えて貰うことから始まった。
私が視線で返事をしながら沢山の言葉を教えてくれた。
家族には絶対秘密にしてもらった。
何となく面倒臭かったから⋯⋯。
看護師さんが気を使ってか、現実の恋愛話ではなく異世界や歴史の中の人物の恋愛話を選んでくれた。
「心寧ちゃんも、異世界転生とか過去の歴史ににタイムスリップしちゃうかもよー?」
と、笑ったりしていたなぁ〜。
(⋯⋯しちゃってたなぁ〜。)
「美男子が浮気するのは当たり前だから、諦めよう。そのうち飽きるでしょうしね⋯⋯。」
私が前世を思い出しながらポツリと呟いた言葉に、聞こえていたアロンソ様の空気が変わったのを私だけが気が付いていなかった。
アロンソ様の変化にアーシア夫人は笑いだし、母は顔を青褪めさせていたようだった。
妹のマリン様は兄の様子を呆れ顔で見ていた。
「そろそろ会場に向かいますわよ。」
アーシア夫人の言葉に、今日の本来の目的を思い出す。
会場に向かう時に私を「エスコートしよう!」と、アロンソ様が満面の笑みで言われたが、丁寧にお断りした。
まだ婚約者ではないし、アロンソ様と一緒に会場入りしたら大変な事になるからだ。
私と母が先に会場入りし、アーシア夫人とアロンソ様。それにマリン様は少し遅れて会場入りする。
公爵家の皆様が会場入りすると、場は静かになる。
私は一番遠くのテーブルからその様子を眺めていたら、二人の令嬢から声をかけられた。
「あの⋯⋯。ココ様とお話がしたいのですが、宜しいでしょうか?」
令嬢達がそう言葉をかけてくれた。
「勿論です。貴女方も今度学園に入られるのですよね?是非お話をしたいですわ。」
私がふんわり微笑むと、なぜか二人が頰を赤らめた。
伯爵家のエリン様。
伯爵家のオリビア様。
「今日のココ様はとっても可愛らしくて、お声をかけたかったのですが見失ってしまいましたの。」
そう話すのはオリビア様。
「交流会ですので、ココ様だけを探す事も出来ずにいましたの。」
エリン様も私を探してくれていた。
「視線が気になり過ぎて、中庭にいました。」
少し落ち込で答えると、オリビア様とエリン様がウンウン頷く。
「ココ様が可愛くて、皆様騒いでいらっしゃいましたわ!」
「初めてココ様の顔を見ましたしね!しかもとても可愛らしいのですもの。男性達はココ様を目で追ってらっしゃいましたわ。」
(なんですと?!あの視線は嫌な視線じゃなかったの?)
今もずっと感じる視線に、私は勇気を出して確かめる事にする。
すると、数人の男性グループがこちらを見ていた。
視線が合ったので、ふんわり微笑んでみた。
男性達は顔を真っ赤にして顔を反らした。
(嘘よね⋯⋯。)
「これが、モテ期⋯⋯。」
ポロリと呟くと、私の隣に誰かが座った。
「ココ嬢。浮気ですか?」
私を覗き込むのはアロンソ様だ。
私を見つめるその瞳は、強い光を灯していた。
「ち、違います!」
手をブンブン振り、全力で否定する。
「なら良かったです。」
ニッコリ笑うアロンソ様の瞳は穏やかになっていた⋯⋯。
(怖い⋯⋯。)私が小さく身震いすると、アロンソ様はただ私を見つめた。
(アロンソ様の行動が解らない!恋愛どころか恋した事がないのに⋯⋯。
アロン様が少し怖い人なのだけは解る⋯⋯。)
アロンソ様は私の手を握り、プニプニを堪能する。
エリン様とオリビア様は私達を見て、はしゃいでいる。
「ココ様?ご子息様とはどんな関係ですの?」
興味津々で質問される。
私はまだ関係はないと否定しようとしたが、先にアロンソ様が言葉を発した。
「私がココ嬢に一目惚れをし、婚約者になって欲しいとお願いしたのです。」
アロンソ様の微笑みに、エリンもオリビアも見惚れてしまう。
「冷徹子息を落としたのは、ココ様ですのね⋯⋯。」
オリビアの呟きにギョッとした。
「あの⋯⋯。オリビア様?今の言葉は⋯⋯。」
私が恐る恐る問いかけると、オリビア様はハッとして笑って誤魔化された。
会場は何やら盛り上がっているようで、そちらに視線を向けようとしたら私達のテーブルの周りには人の壁があった。
私が驚いていると、
「私がいると騒がれるでしょう?なので、使用人達に壁を作って貰いました。」
私の手を堪能しながらニッコリ笑顔で話をするアロンソ様⋯⋯。
「そろそろ行くね。明日、侯爵家に伺いますので。」
アロンソ様は私の手を名残惜しそうに撫でると、席を立ち離れて行った。
私はなせかドッと疲れた⋯⋯。
エリン様とオリビア様の質問の嵐を苦笑いで答えたのだ。
学園の交流会は余り交流出来ずに終わりを告げた。
次の日は朝から公爵一家が訪ねて来た。
アロンソ様は嬉しそうに私を見つけると近付いて来た。
「おはようございます。ココ嬢。」
ニッコリご挨拶。
「おはようございます。アロンソ様。」
ふんわり微笑んでご挨拶。
ポヤポヤ雰囲気の二人に、公爵様が声をかけた。
「アロンソ。早く話を纏めなければ掻っ攫われるぞ。」
アロンソ様はハッとなり、私の手を取り邸に入る。
要約するとこうだ。
・学園に入るまで二ヶ月程ある。その間に婚約をするかしないかを決める。(私が⋯⋯。)
・その間、どこの家門とも婚約は受けない。
(他に婚約話など来るわけもないですし、何股もするのは私が嫌ですが?!)
・婚約を了承するならば、アロンソ様が侯爵家に婿入し弟君が公爵家を継ぐ。
(なんですと?!)
「アロンソ様は婿入りで宜しいのですか?」
私は疑問に思い聞いてみた。だって、公爵家を継ぐ方が絶対に良いに決まっている。
「ココ嬢はお嫁に行けないでしょう?侯爵家の後継ですから。ココ嬢と一緒にいられるなら、どこに行っても良いのです。」
「そうですか⋯⋯。」
少しだけ照れてしまう。
何だかむず痒い⋯⋯。
両親達は何やら話があるらしく、私達は街にでも行ってらっしゃいと追い出された。
前世を思い出す前も街には行っていないので、初の街での散策となる。
それを聞いたアロンソ様は意気揚々と案内を始めた。
お店を幾つか巡るが、女の子が気に入るお店ばかりだった。
(お付き合いされた方と来ていたのよね⋯⋯。デートコースが前の女性と同じって、どうなのかしら?)
と、心の呟きを私は口にしていた。
「なっ!違います!私は誰ともデートはしていません!」
勘違いされては堪らない!と、アロンソは大慌てで否定する。
心の声を漏らした事に気が付いたココだが、
「大丈夫ですわ。アロンソ様は美しいのでモテて当然です。ただ、デートコースを被らせるのは女性は気が付いてしまうので良くないなぁー。と、思っただけですから。」
本当に気にしていないのでニッコリ笑って答えたのに、アロンソ様は笑顔が引き攣っている。
不思議そうにする私の手を取ると、街歩きもそこそこに邸に戻ってしまう。
侯爵家に帰ると、両親達はお茶を飲んでいた。
「あら。早いわね。」
オルガ夫人が私達に気が付いて声をかけた。
「重大案件が出来ました。急ぎ帰って対処します。
ココ嬢。明日の同じ時間に迎えに来ます。」
アロンソ様が私の両親に挨拶をすると、私の返事を聞く事もなく急いで帰って行った。
何かあったのか聞かれた私は出かけてからの話を順を追って説明した。
オルガ夫人だけがコロコロ笑い、他は苦笑いをしている。
考えても答えは出ないので、考える事を放棄し私は両親達と一緒にお茶を堪能した。
翌日は約束通りにアロンソ様が迎えに来たが、神妙な顔のまま私を馬車に乗せるとどこかに向う。
私は黙ってついて行くだけになった⋯⋯。
連れて行かれた場所は王宮の豪奢な扉の前⋯⋯。
アロンソ様が扉を叩くと、中から返事があり扉が開いた。
中に入ると美男美女の二人がいた。
男性は見たことがある。
王太子殿下だ!!
隣にいるのは婚約者の方かしら?
「シアーズ侯爵の長女、ココと申します。」
私が挨拶をすると、王太子殿下がソファーへ座るように促してくれた。
王太子殿下の前にアロンソ様と並んで座る。
「ココ嬢。昨日行ったお店は、彼女と行ったんだよ?」
アロンソ様がそう伝えてきた。
美女がニッコリ微笑み。
「ビオラ・バートンよ。殿下の婚約者よ。」
その言葉を聞き、私はアロンソ様に向かい合った。
「アロンソ様!そのお話は私や王太子殿下に失礼ですよ?昨日の事は私は全く気にしていませんわ。説明する為とは言え、お付き合いした女性を紹介するなんて。今は殿下の婚約者様でしょ?殿下にも失礼ですわよ?」
頰を膨らませプンプン怒る。
アロンソ様はそんな私を見ると、
「可愛い⋯⋯。怒っても可愛いのは反則だろう⋯⋯。」
と、右手で顔を覆い俯くと、ポツリと呟いた。
「クッ⋯⋯ククッッ⋯アハハハ!!」
笑い声の方を見ると、殿下がお腹を抱えて笑っている。
ビオラ様が殿下の背中を擦っているが、ビオラ様は肩を震わせ顔を後ろの方に向けている。
その光景を眺め、隣を眺めるとアロンソ様は俯いたまま先程の言葉を呟いている。
(この状況の意味を、誰か説明して下さい!)
いきなり王太子殿下と対面させられ、カオスな状況に身を置かれる。
意味が解らないココはポロリと涙を流す。
「もう嫌だ。帰りたい⋯。」
涙声で漏らした言葉にアロンソ様がバッと私を見た。
私はアロンソ様を涙を流しながら、じっと見つめた。
(この人のせいで私の穏やかに過ごすと計画した異世界生活が出来ない。)
困惑で泣いてしまったが、ココは段々腹が立って来てしまう。
ココはバッと立ち上がると。
「アロンソ様。貴方様との婚約は致しません。私は穏やかに過ごしたいのです。馬鹿にされたり、笑われたりするのはうんざりです。」
そう言い放ち、部屋の扉へと向かう。
後少しで部屋から出れるとドアノブに手を掛けようとしたが腕を掴まれ後ろに引かれてしまう。
ココはアロンソに抱きしめられ、
「違うよ!!ココ嬢が色々と勘違いをしているから、その考えを否定したくて殿下達にお願いしたんだよ。」
ココをクルリと自身の方に向けて、アロンソはココの両頬に手を添える。
「私は誰とも付き合った事はないし、デートもした事はないんだ。初めて恋したのはココ嬢だし、女性と二人で街歩きをしたのもココ嬢が初めてなんだよ?」
アロンソ様が泣きそうな顔で説明をする。
(私の勘違い?)
アロンソ様の顔を見ると嘘を言ってる感じはしない。
(看護師さんが格好良い男は浮気するって言ってたし。異世界の貴族は愛人も妻も沢山いてるって本には書いてあったわよ?違うのかしら?)
じっと見つめたままの私は、またもや心の声を口にしていた。
「私をそんな男性と一緒にしないで下さい。それにこの国は一夫一妻制です。後継がいないとか余程の理由が無い限り、妻は一人ですから。」
アロンソ様が捲し立てるように説明をしてくれた。
「また声に出してしまいました。
私の勘違いのようで、申し訳ありません。
ですが、やはり婚約は無理だと思いますわよ?この世界は細身で美しいビオラ様の様な方が望ましいのでしょ?私は見ての通り大き目のぽっちゃりですわ。アロンソ様が笑われてしまいます。」
私は困った顔でアロンソ様に伝えた。
「なぜそうなるのですか⋯⋯。」
泣きそうな顔でアロンソ様がポツリと言葉を漏らす。
交流会の日、会場に姿を現したアロンソ様に女性から送られる秋波の多さを見ていた。
それは=して婚約者への嫉妬となるはず。
私は耐えれる自信が無い⋯⋯。
恋愛どころか恋すらした事のない私には、きっと対処出来ない⋯⋯。
(私は自分の自信のなさを、アロンソ様のせいにしていたのね。)
ぽっちゃりを気にしていない振りをしても、一番気にしていたのは自分だった。
前世の事を思えば、ぽっちゃりでも健康ならば良い筈なのに⋯⋯。
ビオラ様の様な女性の憧れの人を前にしたら、やっぱり細身が良かった⋯⋯と、贅沢な悩みが出てしまう。
「私は自信が無い事をアロンソ様のせいにしていた様です。
アロンソ様は悪くありません。」
私はグッと手に力を込めた。
「アロンソ様はとてもモテるのは事実でしょう?私はそんな女性の争いに太刀打ち出来る術を知らない。私は穏やかな人生を望んでいます。
アロンソ様では、それは到底無理でしょう?」
一粒の涙を零し、泣き笑いで自分の気持ちを伝えた。
アロンソも自分が女性から沢山の秋波を寄せられる事を自覚している。
貴族の令嬢達の裏での醜い争いも何度も目にした。
ココの纏う柔らかな雰囲気や表情を、この様な悲しい姿にしたい訳ではなかった。
ただココと一緒にふんわりとした生活を夢見ただけなのだ⋯⋯。
物言わぬ二人は、ただお互いを見つめていた。
ガタッ。
音のする方に視線を向けると、ビオラ様がゆっくりとこちらに歩いて来ていた。
ココに近付いて来るとビオラ様が両手を開き近付いて来た。
その様は恐怖である。
ココは身を竦めるが、ふわりと抱きしめられた。
「可愛い⋯⋯可愛いらしいですわ!なんて健気で可愛いのでしょう。私が守って差し上げます!」
ビオラ様が私を抱きしめたまま宣言された。
可愛い可愛いを連呼し、ぎゅうぎゅうに抱きしめる。
状況が解らないまま、キョトンとなる。
「ビオラ戻っておいで。こっちで話し合いをするよ!」
殿下がビオラ様に声をかけた。
ビオラ様に手を引かれ、再びソファーへと戻された⋯⋯。
アロンソ様は少しだけ距離を開けて隣に座った。
(振り出しに戻ってしまったわ⋯⋯。)
「笑ってしまってごめんね。ココ嬢のめちゃくちゃな勘違いが可笑しくてさ。」
また笑い出しそうな殿下をビオラ様が扇子で叩いた。
「ッ⋯⋯。ごめん。ビオラと私の街歩きに、アロンソが付いてきただけなんだ。アロンソは私の側近だからね。」
(え?!側近?!)
「アロンソは女性嫌いで有名なんだけど、知らないかな?冷徹子息と言われてるくらいだけど?」
交流会で耳にはしたが、私自身は知らないので首を振った。
「ところで、ココ嬢から前世とか聞いた事のない単語があったが⋯⋯。ココ嬢は転生者かな?」
殿下が直球で聞いてきた。
私は自身の口から出した言葉なので、きちんと説明をした。
前世の自分の事を⋯⋯。
ビオラ様は涙を流しながら聞いてくれた。
アロンソ様は私を抱きしめ、頭をずっと撫で続ける。
「辛い前世だったんだね⋯⋯。
だからこそなんじやないかな?ココ嬢がこの国で幸せになる為にアロンソと出会ったんだよ。
アイマー公爵家の血筋は一途で、一度執着するととことん突き進む。ココ嬢が何を言っても婚約の申し込みをアロンソは取り下げないだろう?
どんな手を使ってもココ嬢を婚約者にするつもりだからだ。」
殿下の言葉に驚いてアロン様を見ると、スーっと視線を外された。
気不味そうにしているが、私を抱きしめる腕を外す気はないらしい。
(殿下の言われる通りかもしれない。前世愛されなかった私を可哀想に思ってくれた神様が、この国に転生してくれたのかもしれない。そして愛情深いアロンソ様に出会わせてくれたのかもしれない。)
都合の良い解釈かもしれないが、そう思うと心のモヤモヤがストンと消えた。
「ありがとうございます。殿下の言葉を受け入れたら何だかスッキリしました。
くよくよ悩まずに、与えて貰える愛情や手を素直に受け取る事にします。」
ふんわり微笑んで殿下に頭を下げた。
ココはアロンソと向き合う。
「先程婚約をしないと申し上げましたが、撤回させて頂けますか?
そして、私と婚約を結んで頂けますか?」
アロンソはココの言葉を聞き、嬉しそうに微笑んむとココのプニプニの手をとる。
「勿論です。ココ嬢を幸せにします。大事に大事にしますからね?」
そう伝えると、優しく抱きしめた。
「もう逃げられませんからね。」
最後の一言はココには聞こえなかった。
だが殿下とビオラ様は口の動きで言葉を拾ったようで、苦笑いをしている。
「婚約も調いそうだし、次の夜会には仲良く二人で出てくれ。」
殿下の言葉に頷き、それからは殿下達と沢山の話をした。
アロンソ様は三歳歳上なので、私が学園に入る時には卒業している。
アロンソ様の弟君が同じ歳だそうだ。
交流会にいたらしいが、まだ会った事はない。
しかも弟君の婚約者は仲良くなったエリン様だった。
学園の話を沢山聞かせてもらい、私か学園生活を楽しみにしているとアロンソ様が耳元で囁いた。
「浮気は許しませんからね?」
囁かれた言葉に驚くが、
「浮気は許しませんわよ?」
そう言い返した。
アロンソ様はクスリと笑う。
私も笑う。
たった数日しか交流のない私達。
でも悩んでも仕方ない。
貴族の婚約はこのようなものだ。
ならば、少しでも好意を持ってくれている人が良い⋯⋯。
アロンソ様の向けてくれる愛情を、私は十分に感じるのだから。
学園に入るまで沢山会って、お茶をしながら会話して、街にお出かけをした。
アロンソ様が学園に行っている以外はずっと一緒にいた。
アロンソ様の溺愛は社交界で有名となった。
冷徹子息がココ嬢といると甘々子息となるのだ。
優しく微笑み溺愛する様を見た者は、信じられない顔をする。
学園に入学すると、アロンソ様の弟君のリチャード様が私の護衛兼見張り役をする。
エリン様とオリビア様も一緒にいてくれるし、公爵子息のリチャード様が一緒にいるのだ。私に嫌がらせをしても見つけられては処罰されていた。
穏やかな生活は、周りの人達が与えてくれる。
私は何を返せば良いか解らない。
そんな話をすると全員が口を揃えて、
「ココ嬢(様)がそのままでいるだけで良いのです。」
そう口にされては、私のプニプニを堪能する。
癒しなんだそうな。
学園が長期休みに入る前に、学生も参加出来る夜会が開催される。
アロンソ様とお揃いの衣装で夜会に参加する。
会場入りすると私を見た女性達がざわついた。
そりゃあそうだ。なんせ相手がぽっちゃりなのだから。
アロンソ様に秋波を送る女性達からの不躾で嫉妬の視線は強烈で、負けない!と意気込んだココも耐えられなかった。
アロンソの手に乗せたココの手が小さく震える。
アロンソがココの両手を取り、向かい合わせる。
「ココ。大丈夫です。私がずっと離れずにいますから。」
アロンソの言葉に、泣きそうな顔をしながらもココはふわりと笑って頷いた。
その可愛い顔を目にした男性から、今度はココが秋波を送られる。
アロンソは気がつくが、ココは気が付いていない。
余計な事は教えない。
と、ココに向けられる秋波を無視した。
アロンソ達に近づこうと令嬢達が動き出す。
ぽっちゃりココを貶める事にしたようだ。
薄っすら嫌な笑みを浮かべながら二人に近付くが⋯⋯。
「ココちゃん!」
嬉しそうにココに声をかけるのは、王太子殿下の婚約者であるビオラ様だった。
ビオラはココに近付くと、ぎゅうぎゅうに抱きしめた。
「ココちゃんに会えるのを楽しみにしていたわ!」
ビオラの言葉に、ふわりと微笑み
「私もです。ビオラ様。」
ビオラがココの頭をなでなでする。
二人はあれから何度も会い、とにかくビオラがココを可愛がるのだ。
ビオラの後ろから現れた人物に、ココを貶めようとした令嬢達の表情が固まる。
「ビオラさん。私にも噂のココさんを紹介してくださらない?」
そう声をかけるのは、王妃様だ。
「お初にお目にかかります。
シアーズ侯爵家の長女ココです。」
ココはカーテシーをして、王妃様からのお声を待つ。
「楽にしてちょうだい。」
王妃様の言葉に顔をあげる。
王妃様がココに微笑んだ。
「アロンソの婚約者ね?」
「はい。」
ココはしっかり返事を返しながらも、恥ずかしそうに照れていた。
「可愛いわね⋯⋯。」
王妃様の言葉にビオラ様が
「でしょう?わたしの妹でしてよ?」
と、抱きしめられる。
「ココさん。私のお茶会にも是非来て下さいね。後日招待状を送るわ。」
王妃様はニッコリ微笑むと、その場を離れた。
周りにいた令嬢達は顔を青褪めさせる。
何故なら、ビオラとアロンソに冷たく厳しい視線を向けられていたからだ。
王妃様も気に入る令嬢に手を出すわけにはいかない!
令嬢達は散り散りに退散した。
その時、ピンクの髪色の令嬢がココの前に立ち塞がる。
「何でリチャード様の婚約者があんたじやないのよ!アロンソ様の婚約者は、本当は私なのよ!
勝手に物語を改編するなんて酷いわ!アロンソ様を返しなさいよ!この、デブ!」
その言葉に切れたのはビオラ様だ。
パシン!
ピンク髪の令嬢の頰を扇子で叩いた。
「私の可愛い妹によくも⋯⋯。」
もう一度叩きそうなビオラ様を、アロンソが止めた。
「お前など知らん。私はココ以外に恋はしないし興味もない。家門を潰されたくなければ、去れっ!」
冷たい空気を醸し出し、ピンク髪の令嬢に言い放つ。
ビオラを探しに来た殿下により、ピンク髪の令嬢は騎士に連れ出された⋯⋯。
会場は暫しざわめくが、夜会でトラブルは付き物。
面白い見世物を見たと、野次馬達は各々社交を再開した。
「最近ピンク髪の令嬢がうろうろして迷惑してたんだよね。丁度良く排除出来るから良かったよ。」
殿下の言葉に私は彼女の事を考える。
(異世界転生って、ヒロインとか悪役令嬢とかになるのよね?彼女はヒロイン?ピンクの髪だし⋯⋯。)
ココが何やら悩んでいる事に気が付き、
「どうしましたか?」
と、アロンソが声をかけた。
「彼女も転生者かもしれない⋯⋯。」
そう言うと殿下が少し考え、近くの近衛に何やら話をしている。
「調べてみるけど、ココ嬢と比べると同じ転生者とは思えないな。」
苦笑いで答えた殿下に、
「彼女が転生者なら前世の物語とこの世界は同じようで同じではない。皆それぞれが頑張って生きている。そう伝えて下さい。」
殿下は頷いてビオラ様に声をかけると、会場を離れた。
その日の夜会は、アロンソ様と三曲続けて踊った。以外にも余り疲れず、周りを驚かせた。
ダイエットになるかな?
そう言葉を漏らすと、ダンスを止めデザートが沢山ある場所に連れて行かれた。
(消費したカロリーを取り戻せと⋯⋯。)
アロンソがお皿にデザートを盛り、ココに渡してくる。
美味しそうに盛られたデザートに罪はないと、ココは笑顔で受け取り食べ始める。
小柄でぽっちゃりなココが嬉しそうに食べる姿はとても可愛らしく癒される。
アロンソを見れば幸せなのが十分に解る。
仲睦まじく過ごす二人を邪魔する者はいなかった。
王太子殿下と婚約者のビオラ様に気に入られ、王妃様をも虜にするぽっちゃりココ。
最強ぽっちゃりを敵に回してはならないと、社交界では暗黙のルールとなった。
アロンソはよそ見する事なく、ココを愛し守り溺愛する。
ココも婚約して一年が経つ頃にアロンソへの恋を自覚する。
アロンソはココからの想いを告げられ、暴走してしまう。
結果、学生であったが籍を入れることになった。
ココは詳しくは話さないが、皆は理解していた。
アロンソのせいだと⋯⋯。
式はココが卒業してから行い、アロンソは婿入するが側近を続けつつ侯爵家で暮らす事になる。
ピンク髪の令嬢はやはり転生者だった。
ヒロインに転生し喜んでいたのに、物語とはかけ離れた現実を何とか変えたかったようだ。
後日会った彼女に泣いて謝られた。
殿下から私の前世を聞き、自分がココに言った言葉に酷く後悔したらしい。
私は同情して欲しかった訳ではないので、お互いもう気にしない事を約束して別れた。
学生生活で、ヒロインとは仲良くなる事は無かった。
恋愛に奔放過ぎる彼女とは合わなかったから。
この世界は前世のように自由ではない。
学生のうちはそれでも許されるけれど、卒業と同時に貴族としての責任が伸し掛かるのだから。
身分制度が存在する以上、奔放過ぎる彼女は異質な存在として遠巻きにされてしまった。
学生の時に何度か説明をしたが、彼女は大丈夫!そう笑うだけで聞いては貰えなかった。
彼女は卒業して暫くすると生家から見放され、後妻として嫁がされた。
(私が改編してしまったから、ヒロインの彼女は人生が変わったのかも⋯⋯。)
学園を卒業し、アロンソと式を挙げ幸せな日々に耳にしたヒロインのその後の話⋯⋯。
暫く私は部屋に閉じ籠もってしまった。
アロンソが心配し、私を街に連れ出した。
街を歩きながらも、やはり彼女の事が頭を過ぎる⋯⋯。
アロンソが私の手を握り顔を合わせた。
「ココ、見てご覧。」
アロンソの指差した方を見ると、明るい笑顔で年配の男性と仲良く買い物をするピンクの髪の彼女がいた!
彼女はココに気が付くと、小さく手を振り男性と人混みに消えて行った。
「彼女は上手くやっているよ?旦那様にも大切にされているらしい。だからココが気にしなくても大丈夫だから。」
アロンソはココの気持ちを汲んで、彼女の様子が見れるように街に誘ってくれたのだった。
「ありがとう。アロンソ。」
安心したからか、ココは目眩をおこし倒れ込んだ。
慌てたアロンソがココを抱きかかえ、馬車に乗り込むと侯爵家に急いで帰る。
呼ばれたお医者様が言うには、妊娠しているとの報告を受けた。
アロンソは泣いて喜んでくれた。
誰もがココの妊娠を喜びお祝いしてくれる。
ぽっちゃりココのお腹は、まだいつものぽっちゃりなまま。
「この子の為にも痩せなきゃ!」
ココの決意はアロンソも反対出来なかった。
愛するココとの子供の為ならば、ぽっちゃりココが大好きな自分から卒業する事をアロンソも決意する。
子供の影響を考え、医師の指導を受けながら徐々に痩せていくココ。
無事に出産をし、元気な男の子を産む。
侯爵家は今迄以上に幸せな家庭を築いて行く。
出産後、久し振りに夜会に二人で出席した時は皆が驚いた。
アロンソが美女を連れて夜会に来たからだ。アロンソとココの二人を応援していた者からは物凄い馬事雑言をアロンソは浴びてしまう。
美女がココだと知ると、平謝りをしている。
ココは大笑いし、アロンソを慰める。
アロンソもココを心配しての出来事なので、さほど怒ってはいなかった。
だが、ビオラ様から扇子で叩かれた事は何時迄も根に持っていた。
毎日が幸せで、楽しくて。
転生して良かった!!染み染みと思う。
神様が転生してくれたのかは解らないけれど。
とにかく、ありがとうございます!
ココはアロンソとビオラの終わらない喧嘩を眺めながら、幸せを感じていた。
何時迄も仲睦まじい二人は、社交界での夫婦の指標となり、若い夫妻が目指す夫婦となった。
ぽっちゃり令嬢は転生したら溺愛された。
悲しむ暇がないほどの深い愛を受けて、異世界でココは満たされた人生を過ごしていく⋯⋯。




