⑦
「一年生は主にメインステージの建設や準備を手伝います。それとは別に実行委員は生徒会のお手伝いをします」
エリシアのクラスの担任が文化祭について説明している。エリシアは後ろの席で前のめりになりながら聞いていた。
前の席に座る生徒たちも色めきだっている。
「二年、三年になれば出店や発表をできるのよね」
「去年、魔法劇の主役を務めた先輩二人が婚約したって聞いたわ」
「ロマンチック~!」
この国の貴族は政略結婚が多い。それは魔力を貴族間で次代へ継いでいく責務があるからだ。長子ほど婚約者が早く決まり、第二子以降は決まらないまま学園に入学するのはよくあることで。そういった貴族たちにとって学園は、結婚相手を探す場でもある。
特に学園祭を通じてのロマンスは、相手のいない令嬢たちにとって憧れになっていた。
文化祭は多くの貴族が集まる。それぞれ家の力を見せる場であり、繋がりを持てる場でもある。そして、魔法省を目指す学生のために協調性を育む目的が学園側にはある。
一年生は先輩たちを見て学び、来年に活かす。そしてめいいっぱい文化祭を楽しめる学年でもある。
「メインはダリオン様とアメリア様のメインステージでの魔法ショーでしょ?」
「去年反響を呼んで、今年はチケット制になるって噂よ」
「うそー! 入手したーい」
学園祭には生徒の家族の他にも、大勢の貴族が招待される。その中には魔法省の重鎮たちもいて、生徒がスカウトされることもあるらしい。
「三年生は特に目をギラギラさせているらしいぞ」
「俺たちもそうなるんだろうなあ」
担任の説明はとっくに終わり、今は思い思いに盛り上がっている。
(すごい。さすが帝国が誇る魔法学園の文化祭ね。規模も大きそう)
友達がいないエリシアは、ぽつんとみんなの話に聞き耳を立てていた。
ずっと屋敷にこもっていたエリシアにとって、文化祭はやはり無縁だったため、胸が高鳴る。兄姉が去年話題をかっさらったのは聞いていた。二人で派手に花魔法を披露したらしい。その魔力量にさすがフローレンス家だと賞賛が集まった。兄のダリオンはすでに魔法省入省が決まっていると囁かれている。
(やっぱりお兄様たちがメインなのね。リークはともかく王太子殿下も裏方に徹するってこと?)
考え込んでいると机に影が落ちた。見上げれば、腕組みをしたフィオナがエリシアを見下ろしていた。
「あなた、学園祭でリクス様のご予定を押さえようとしたのですって!? はしたないですわよ!」
「そんなこと――」
フィオナの圧は気にしないまま、否定しようとしてふと口を閉じる。
「……したなあ」
確かに一緒に祭典を再現して欲しいと頼んだ。それはリクスの学園祭の予定を押さえることになるのだろう。
フィオナの綺麗な顔がまたゴーレムのような恐ろしい顔に変貌したが、エリシアはにこにこ笑っている。さっきまでぼっちだったので、フィオナが話しかけてくれて嬉しいのだ。
「あなた、なんて噂されているか知っていますの!?」
「フローレンス家の足手まとい?」
首を傾げてあっさりと返せば、フィオナが一歩後ろに下がって怯む。
「姉の元婚約者に取り入ろうとするハイエナですわ!」
「それはまた強そうな魔獣に」
ケロッと返すエリシアに、フィオナが溜息とともに脱力した。
「あなたねえ……! リクス様に近付くからそんな噂をされますのよ!」
「うーん、お姉さまの後を狙うご令嬢たちとどう違うのでしょう?」
「……わたくしをバカにしているの?」
ぎろりと睨むフィオナだが、エリシアはまだにこにこしている。
「いいえ。フィオナ様は心無い噂を心配して、忠告をしてくださる優しい方なので」
そんな品のない噂を流すのは、きっとフローレンス派の貴族たちに違いない。放っておけばいいのに、わざわざエリシアに忠告してくれるのだから、フィオナは良い人だ。
「……あなたと話していると疲れるわ」
そう言いながら、何だかんだと難癖をつけながらも話しかけてくれた。他の生徒はエリシアを遠巻きに見ているのに。
「どうして笑っていられますの?」
にこにこフィオナを見つめるエリシアに、彼女は腰に手を当てて訝しんだ。
「わたし病弱で、ずっと屋敷の中でこもっていたので!」
「はあ」
エリシアは立ち上がり、なぜか意気揚々と語り始めた。フィオナが気圧される。
「お友達と話すなんて初めてだから!」
「とも!?」
フィオナの顔が瞬時に赤く染まる。エリシアはにこにこと穢れのない瞳を向け、フィオナを見つめた。
フィオナはこほんと咳払いをすると、姿勢を正してエリシアに向き合った。
「とにかく、学園祭ではあなたのお兄様たちがメインで演目をやられるのですから、同じフローレンス家で一年生のあなたは大人しくしていてはどうです?」
「それじゃあリークが卒業しちゃう!」
リクスは三年生だ。この学園は三年制だから、来年の春に彼は卒業する。
だからエリシアにとって三か月後の学園祭が、リクスと過ごせる最初で最後の学園祭だ。
「まあそうですけど……」
めずらしく悲壮な表情を浮かべたエリシアに、フィオナも頬に手を置いて考え込む。エリシアに絆されかけているようだ。
「――って! リクス様につきまとうのはもうおやめなさい! いいわね?」
ハッとしてそれだけ言い捨てると、フィオナはエリシアの元を去っていった。下を向いたままのエリシアをちらちらと振り返りながら。
もちろんエリシアはそんなフィオナには気づかない。
「……時間がないわ」
リクスに会えた喜びで忘れていたが、約束を果たす機会は文化祭しかない。そう思えば焦る。
(ううん! 大丈夫。やっとここまで来られたんだから。とりあえずわたしは魔法の練習ね!)
自身を鼓舞するようにエリシアはグッと拳を握った。
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