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わたしの初恋相手は姉の元婚約者です。今でも大好きなので、病弱なわたしと思い出作りしてください!  作者: 海空里和
第一章 運命の再会

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 魔法学園に通うほとんどの生徒が、王都にある屋敷から通う。事情でそれができない生徒のためには寮が完備されていた。


 エリシアは寮に入ることを認められていた。


 侯爵家の令嬢なので帰る屋敷はあるし、過保護な兄姉がいるのになぜ認められたかというと、祖父の遺言のおかげだ。


 寮は個室のため、気兼ねなく過ごせる。エリシアは机の引き出しから手紙を取り出した。


 それを抱えてベッドにぼすんと身を投げる。


 手紙には祖父の字で「エリシアを魔法学園に入学させること」と記されている。

 エリシアが魔法学校に入る際には寮へ入れることも合わせて記載されている。そしてその手紙には、皇族にしか扱えない誓約魔法が施してあった。


 時の魔法を操る皇族の誓約魔法は、誰にも破ることのできない強固な魔法だ。破ればその身に災いが降りかかる。祖父の遺言書とともに残されたこの手紙は、捨てることも燃やすこともできず、完遂されるまでエリシアの手元に戻ってくる仕組みになっている。


(外に出られたのはお祖父様のおかげね)


 本来エリシアは、病弱を理由に外へ出ることを許されていなかった。


 ぎゅうっと手紙を抱きしめれば、皺ができる。その皺さえも誓約魔法で元通りになるのだから不思議だ。

 じいっと祖父の字を見つめていれば、昔の思い出がよみがえる。


 リクスとは幼馴染だが、そもそもの出会いは祖父が彼を連れてきてくれたことによる。


 昔、両家は仲が良かった。


 アストラル帝国では、各家門ごとに魔法の属性がある。花魔法を使うフローレンス家と光魔法を使うルミナリエ家が中心となって行う春の祭典が「フローレンス・ルミナリエ」だが、それは三年前から行われていない。


 両家に亀裂が入ったのは、ルミナリエ侯爵(リクスの父)が魔法省の長官に就任したからだ。


 魔法国家であるアストラル帝国の魔法省は国の要で、その長官は代々皇族が務めてきた。二大侯爵家がそれを支える形で、その力を発揮していた。


 フローレンスは国の緑化や薬事業を。ルミナリエは結界・浄化を担い、軍事力にも長けていたため皇族の近衛も排出している。


 それがなぜか、前フローレンス侯爵が他界してすぐにルミナリエ侯爵に魔法省長官の打診がなされた。

 二家の均衡を崩すものだと現フローレンス侯爵が皇帝に抗議したが、これまで通りだという回答とともに受け入れられなかった。


 それから怒ったフローレンス家が一方的に祭典から手を引き、両家の交流も途絶えた。フローレンスが一方的にルミナリエを敵視したことから始まったが、二大侯爵家によるいさかいは派閥を生み、今に至る。国を支えるフローレンス家に皇帝も窘めはしたが、強く出ることはできなかったようだ。


 目を閉じればエリシアの脳裏には、今でも祭典のあの美しさがよみがえる。


 祖父に連れられて、リクスと一度だけ祭典を見に行ったことがある。祖父とリクスの父は、見事な魔法で人々を喜ばせていた。


 花が空中で見事に咲き誇り、人々の間を舞う。眩い光がそれを照らし、演出する。それぞれの家門の魔法を活かした、それはそれは美しい祭典だった。人々の笑顔も花が咲くように幸せそうだったのを覚えている。

 何より、二家が協力することに祭典には意味がある。二大侯爵の関係が良好だからこそ、表立っていがみ合う貴族もいない。まさに均整がとれた政治で、穏やかな空気が国には流れていた。


『いつか俺たちが一緒にやるんだ』


 綺麗な光景とともに、リクスの言葉も輝いてよみがえる。

 当時十二歳だった彼は、幼いながらに整った顔をしていた。もちろん一緒に過ごした時間でリクスを好きになったが、その綺麗な顔にドキドキしない子はいないと思う。当時のエリシアはそんなことを思っていた。


『本当?』


 キラキラした瞳で期待をこめた返事をした。が、幼いエリシアには何もわかっていなかった。


 フローレンス・ルミナリエは家の代表である当主、または長子同士で行うものだ。

 今のエリシアにならわかる。どうしたってエリシアにその役目は回ってこない。


(どうしてあのとき、リークは一緒にやろうと言ったのかしら?)


 上の兄も姉も、優秀だ。むしろエリシアは魔力量が少なく、病弱でフローレンス家の足手まといだと言われている。兄と姉から可愛がられようが、フローレンスを支持する貴族たちから疎まれるのはそういった理由からだ。


 あの祭典を再現させたい――リクスと一緒に。

 復活は無理だとしても、どうしてもリクスと一度でいいからやりたい。


(やっと外に出られたんだから)


 叶わないと知りながらも、その約束を希望に生きてきたのだ。


「……リーク、かっこよかったなあ」


 成長した彼に再会して、やっぱり好きだと思った。


 思い描いていた再会ではなかったが、冷たい態度をとられたが、無視されないだけマシだ。

 むしろ、あの冷たい瞳が彼の色っぽさを強調してドキドキしてしまう。みんな同じ金色の瞳なのに、リクスだけ昔から特別に見えるのだから不思議だ。


 これが恋というやつのせいなのだろう。まるで魔法にかかったようだ。

 同じようにリクスに対して魔法にかかったご令嬢は多いようだ。フィオナやご令嬢たちがエリシアをリクスに近付けないよう阻んだのを思い出して、エリシアは溜息をついた。

 

 学園でもフローレンスとルミナリエは敵対していた。リクスに近付くのは容易でないかもしれない。


(でも、そんなの関係ないわ! 学園でなら約束を果たせるはずだもの!)


 ベッドから起き上がり、祖父の手紙を眺める。


「よし! わたしはやるわよ!」


 ぐっと拳を掲げると、エリシアは自分に言い聞かせるように宣言した。

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