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わたしの初恋相手は姉の元婚約者です。今でも大好きなので、病弱なわたしと思い出作りしてください!  作者: 海空里和
第三章 思い出を作って

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「よう、これから練習か? 頑張れよ!」


 廊下を歩いていると、中立派の生徒たちから次々に声をかけられた。しまいには教師からも「期待しているぞ!」とキラキラした目で言われてしまった。

 エリシアは、この学園にも根付く派閥の問題の重さを改めて実感させられた。


(でも、嬉しい!)


 重荷だなと思ったが、やはり応援してくれる人がいるというのは良い。今までは遠巻きにされるか、絡まれるかだけだったのだから。


(このこと、リークも知ってるのかな?)


 みんなが期待してくれていること。それに、学園祭でリクスの魔力が復活したことを大々的に示せれば、心無い噂を口にするフローレンス派を黙らせられるかもしれない。


(リークに早く伝えたい!)


 いつもの訓練場へるんるんと向かっていると、実行委員の一人に声をかけられた。


「エリシア嬢、アーセル殿下がお呼びだ」


 勇んだ足を止められ、口を尖らせる。エリシアは仕方なくアーセルの元へと向かった。




「お呼びでしょうか?」


 生徒会室に行けば、アーセルが机の上で書類を片付けていた。他の役員はいない。

 リクスは訓練場へ向かったのだろう。エリシアが遅れることは、実行委員が伝言してくれると言っていた。


(早くリークに会って、フィオナ様との話をしたかったのに)


 不満がまだ顔に出ていたらしい。アーセルはくすりと笑うと、椅子から立ち上がった。


「君、どこかに嫁がされるんだって?」

「どうしてそれを……!」


 いきなりアーセルに秘密を暴かれて、エリシアはおののいた。


「また新しい顔が見られたな」


 ふっと笑みをこぼしたアーセルがコツコツとエリシアのほうへ歩いて来る。


「ヴェイユ衣装室といえば、王家も御用達のブティックだからね」

「フィオナ……」


 アーセルに話したのかとうなだれる。秘密だと約束したのに。


(そういえば、フィオナ様は誰にも言わないとは言っていない。リークに口外しないと言っていたような?)


 ふとフィオナとの会話を思い出し、ますますうなだれる。


「大丈夫。リクスには言っていないから安心して?」

「本当ですか?」


 ぱっと顔を上げれば、いつの間にかアーセルがすぐ目の前にいた。


「私は、ますます君に興味が出たんだ。悪女の振る舞いで私を脅したかと思えば、色んな表情を見せる。いつも必死でひたむきで……」

「で、殿下?」


 じりじりと迫るアーセルに壁へ追い詰められ、縫い留められる。


 アーセルに秘密が漏れての一番の懸念は、リクスにも伝わることだ。


(もしかして、今度はわたしが脅される?)


 ごくりと息を呑めば、アーセルの顔が近付いて、ひえっとなる。


「その顔をさせているのはリクスだ。君のその目はいつだってリクスを追っている。……誰かにそんなに想われるなんて、うらやましいよ」

「あの、殿下?」


 意図がわからない。脅すつもりではないのだろうか。アーセルをじっと見れば、顎に手をかけられた。


「私なら君を助けられる」

「え?」


 ぐいっと肩を寄せられると、背を屈めたアーセルが耳元でささやいた。


「私に婚約者はいない。君を指名することくらい可能だよ。君の結婚相手が誰であろうとね」

「わたしはフローレンス家の者ですが……」

「そんなの関係ない」


 冗談かと思いつつ答えれば、アーセルはエリシアの耳を解放し、真剣な表情を正面に向けた。


「リクスから離れる嫁ぎ先より、私の妃になれば必然的にリクスの側にいられるよ」


 その表情からは、冗談ではないことが伝わる。


「どうしてそこまで」


 まごつくエリシアの顎を寄せ、アーセルが至近距離で瞳を覗き込む。


「その目をいつか私だけに向けて欲しい。それが望みだ」

「無理です」

「……」


 一瞬の間があり、アーセルはエリシアから顔を逸らすと吹き出した。


「――っは、即答か。ははは。まあ、そういうところが良いね。そんな感じで、いつか私だけを愛してくれないか」


 顔を戻したアーセルがエリシアを見つめる。キスしそうなくらいの距離まで顔を近付けられ、彼の吐息が鼻をくすぐった。


「わたしはリークしか好きになれない。一生」

「そんなもの、時間が経てば移ろいゆくものだ」


 きっぱりと告げれば、アーセルに鼻で笑われる。エリシアはムッとして言い返した。


「十歳のころからリークが好きなんですよ。見くびらないでください!」

「そんなに好きなのに君はリクスとの婚約を断り、他へ嫁ぐと?」

「病弱なわたしはリークの後継を残せません……それに家の意向には従うしかないのでは?」


 アーセルがもう片方の手を壁につき、エリシアはまたそこに縫い留められて身動きできない。


「だったら、なおさら私の申し出を受け入れるべきだ。私は第二皇子だから後継者のことは気負わなくていい。それに、君の気持ちが私に向くまでは手出ししないよ」

「そんなの耐えられません」

「は?」


 アーセルがエリシアの本心を聞き出そうと食い入るように見つめる。エリシアはわっと泣きそうな声で叫んだ。


「リークが他の子と結婚して幸せになるところを一番近くで見るなんて、耐えられません!」

「……それが理由?」


 ぽかんとしたアーセルがふっとすぐに笑みをこぼす。


「君って子は……本当にリクスが大好きなんだね。キスの一つでもすれば心変わりすると思ったのに」


 壁に縫い留められたまま、アーセルの唇がすぐ近くまで迫った。意地悪い笑みでエリシアを見るアーセルは、本気でキスをする気はないのだとわかる。


 これもリクスに近付くエリシアを試すためにやったのだろうか。


「あの、いい加減離れて――」


 楽しむかのように顔を寄せるアーセルを離れさせようと、胸をぐいぐいと押す。はははと笑うアーセルはびくともしない。


 ふざけるアーセルに本気で怒ろうとしたとき、がたんと音がした。


 音のしたほうに顔を向ければ、怖い顔のリクスが部屋の入口に立っていた。その金色の瞳には、軽蔑の色が見てとれる。


「――そういうことか」


 リクスはそう言い捨てると、すぐに生徒会室を出て行った。


「リーク、待って!」


 何か誤解されたに違いない。ようやく離れたアーセルをエリシアは睨んだ。


「私は何も仕組んでいないよ?」


 困ったように肩をすくめるアーセルは、嘘をついていないようだ。


(そんなことよりも!)


 とにかく今はリクスを追いかけなければいけない。


 エリシアは生徒会室を勢いよく飛び出すと、リクスの後を追った。

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