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わたしの初恋相手は姉の元婚約者です。今でも大好きなので、病弱なわたしと思い出作りしてください!  作者: 海空里和
第二章 学園祭に向けて

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 学園祭まであと一か月を切った。


 あれから兄姉たちは何も言って来ない。フローレンス派の貴族に絡まれることはあるが、もう慣れた。だいたいがリクスと一緒にいるため、実害はない。

 兄姉に関しては、もしかしたらエリシアたちが失敗するのを高みの見物といったところかもしれない。


(絶対そうはならないんだから!)


 意気込んだところで、リクスに頭をコンとこずかれる。


「こら、今日はリハーサルがあるんだから集中しろ!」

「はーい」


 あれからリクスの触れる手が優しく感じるのは気のせいだろうか。エリシアは頭を抱えて頬を染めた。少しは心を許してくれているなら嬉しいとエリシアは思った。


「ほら、おさらいだ」

「はい!」


 リクスに頷いて立ち位置につくと、魔法を練り上げる。エリシアの花魔法は、くるくると円を描きながら上空をカラフルに染めていく。次はそれを待機させたまま、風花で辺りを包み込む。花びらがひらひらとダンスをしているみたいで幻想的だ。そしてそれを矢の形に収束させる。エリシアがその矢を打ち放つ仕草をすると、待機していた円の間を花の矢がすり抜ける。それと同時に花魔法がパアンと上空で弾けた。弾けた花たちがひらひらと雪のように舞い落ちてきて、エリシアとリクスの元に降り積もった。


「すごい……綺麗!」


 完成したプログラムは、エリシアがイメージしやすいようにとリクスが魔力操作で見せてくれた矢から着想を得てできたものだ。エリシアがどうしても花の矢を入れたいと言って、リクスがプログラムを組んでくれた。


「もう、リーク天才!」

「大げさだな」


 喜ぶエリシアに、リクスが呆れながらも笑う。


「まあ、二人でやるあちらの派手さには及ばないかもしれないが、十分観客を魅せられるだろう。シアは競ってるわけじゃないもんな」

「うん!」


 エリシアは兄姉に勝ちたいわけではない。リクスと思い出を作りたいのだ。

 リクスがエリシアのことを理解してくれていて嬉しい。しかも愛称呼びになって、昔に戻ったかのようだ。嬉しくて幸せで、ついにこにこしてしまう。


「そろそろ会場に向かうか」

「うん!」


 リハーサルの時間はそれぞれに割り当てられていて、ダリオンたちは午前のトップバッターで、エリシアは午後からだ。顔を合わせないよう組まれているのは、もちろんアーセルの采配だ。


「こら、離れろ」


 腕に抱きついたエリシアをリクスが注意する。でもされるがままで、振りほどこうとはしない。


「えへへ」


 こうして触れることを許してくれるようになったのが、一番嬉しい。エリシアの顔はにやけっぱなしだ。


「ったく」


 リクスはまだブツブツ言っていたが、けっきょく二人は腕を組んだまま中央広場へと向かった。




 メインステージまで辿り着くと、前のグループのリハーサルが終わったところだった。


 ステージは装飾がまだ途中なものの、設置は完了している。

 受付を済ませ、エリシアはステージに上がった。一人で立つ舞台は広く感じられ、急に緊張が走る。ぎゅっと胸の前で両手を握れば、下にいるリクスと目が合った。


「いつもの元気はどうした」


 ふっと口元を緩めて笑ったリクスに、エリシアの胸がきゅううんと締め付けられる。


「好き!!」

「だから人がいるところで言うな!」


 思わず叫べば、リクスに怒られた。


「人がいないところならいいんだ?」

「よし、帰る」

「わー、待って! ごめん! ちゃんとリハーサルやります!」


 エリシアの軽口にリクスが踵を返したので、慌てて呼び止めた。


「ったく……時間も限られてるんだから早くしろ」


 仕方ないなといった様子で、腕組みしたリクスが振り返る。


「うん!」


 これからも好きだと伝えることはやめない。でもそれを言ったらリクスはまた怒るだろう。エリシアはにこにこしながら魔法を練る態勢に移った。


「うわあ!」

「きゃああ!」


 始めようとしたエリシアの後ろから、生徒たちの叫び声が聞こえた。何事かと振り向けば、まず逃げまどう生徒たちが目に入った。そして、その後ろには魔獣がいる。


(なんで学園内に魔獣が!?)


 炎を纏い、四つ足歩行でこちらに向かってくるのはファイアーベアだ。


 呆然としている間もなく、ファイアーベアは舞台まで駆け上がり、その爪がエリシアの目の前に迫った。


「シア!!」

「きゃあ!」


 リクスの呼びかけにハッとして、間一髪で爪を避けたが、腕をかすった。

 ステージ上に転がるように倒れ込む。腕が熱くて痛い。


「はあ、はあ……」


 ファイアーベアはエリシアを獲物に見定めたようで、じりじりとステージの隅まで追い詰めた。

 エリシアの二倍もある巨体が、焼かれてしまいそうな炎と同じ赤い目が逃げることを許さない。息が荒くなり、その場から動くことさえもできない。まるでステージに縫い付けられてしまったような感覚だ。


「先生を呼んで来い!」

「きゃああ! 助けて!」


 ステージの周りでは逃げまどう悲鳴や混乱の声が渦巻いている。しかしファイアーベアはそんなことなどお構いなしとばかりに、エリシアだけを見て唸り声をあげている。ギラギラと燃え上がる目に睨まれて、身体が震える。逃げなければと頭ではわかっているのに、足が思うように動かない。


「シア!!」


 ベアの爪が再びエリシアを捕らえようとしたそのとき、リクスが後ろから飛び込んで来た。


 エリシアはリクスに抱きかかえられ、横に飛んだ。振り下ろされたファイアーベアの爪が音を立ててステージに突き刺さる。


「シア、大丈夫か?」


 リクスは、こくりと頷いたエリシアからファイアーベアへと視線を移す。ベアはステージに刺さった爪が抜けずに立ち往生していた。


「くそ、剣があれば……」


 学園内で帯剣はできない。剣の腕も確かなリクスだが、丸腰ではさすがに魔獣に立ち向かえないだろう。


「とにかく逃げよう」


 リクスはそう言うと、エリシアを抱えたままステージから飛び降りた。


 他の生徒たちが教師を呼びに行ったし、この場は大人がなんとかしてくれるだろう。エリシアがそう思ってリクスを見ると、彼はぎょっとした顔でステージを振り返っていた。


「ぐおおおおおお!」


 身体の自由を取り戻したファイアーベアがこちらを見ている。かと思えば、こちらに向かい始めた。


「あいつ、シアを狙っているのか!? 何で?」


 エリシアを抱えたままリクスが逃げる。


 先ほどもそうだが、大勢生徒がいる中で、ファイアーベアはまっすぐにエリシアだけを目がけて走って来る。


「リーク、狙われてるのがわたしなら、わたしから離れて!」

「そんなことできるわけないだろう!」


 リクスを巻き込みたくないのに、彼はエリシアを離そうとしない。逃げるうちに、校舎の行き止まりまで追い詰められてしまった。


「くそっ」


 リクスはエリシアを下ろすと、自身の背中に隠し、前に出た。


「リーク!」

「隠れてろ!」


 リクスの背中がエリシアを壁へと押し付ける。


「ぐああああ!」


 助走をつけて飛び上がったファイアーベアがリクスへと迫る。


(だめっ!!)


 ぎゅっとリクスの背中に抱き着いた。


「ぎゃん!」

「……え?」


 驚くリクスの声に、背中から顔をのぞかせれば、ファイアーベアが弾き飛ばされていた。顔の前で腕を振り上げていたリクスの正面には光の盾が構築されている。


「なんで……」


 それはルミナリエが使う光魔法だった。呆然と手の平を見返すリクスに、エリシアが叫ぶ。


「リーク!!」


 起き上がったファイアーベアが攻撃しようと、また飛びかかってきていた。リクスはぐっと拳を握りしめると、その手をファイアーベアへ向けた。


「彼の敵を仕留めろ、光の精霊よ。――シャイニング・アロー!」


 光の矢が一斉にファイアーベアを囲む。動きを制限されたベアが怯むと、一気に光の剣が放たれ、ドスドスとその巨体に刺さった。


「リーク……、やったあ!」


 ベアが沈黙し、エリシアが歓喜の声をあげる。


「おーい! 大丈夫か~?」


 遠くから先生たちの声が聞こえる。ようやく大人たちが来たようだ。


「魔力が少しだけ戻ってる……? なんで……」


 また呆然と手の平を見つめていたリクスに、エリシアは覗き込んでにまっと笑った。


「わたしの愛の力じゃなーい?」

「そんなわけあるか!」


 すぐに突っ込まれて、エリシアは口を尖らせた。しかし、すぐに悪い顔で笑う。


「ねえリーク、約束したよね?」


 リクスはエリシアの言葉にすぐ察し、ぎくっと肩を揺らした。


「魔力が戻ることがあれば、一緒にフローレンス・ルミナリエをやるって!」


 勝ち誇ったエリシアの顔に、リクスはその約束を後悔して顔を手で覆った。

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