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わたしの初恋相手は姉の元婚約者です。今でも大好きなので、病弱なわたしと思い出作りしてください!  作者: 海空里和
第二章 学園祭に向けて

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「倒れたと聞いたぞ!」

「もう、心配かけて!」

「お兄様、お姉様……」


 ダリオンとアメリアが医務室になだれ込んできて、一気に騒がしくなる。

 二人はリクスを押しのけると、エリシアに抱き着いた。


「身体が弱いんだから、これ以上はやめておいたら? 殿下には私から言ってあげてもいいわ」

「そうだな。実行委員は免除してもらおう。それから寮も引き払って、一緒に家から通おう」


 アメリアの言葉にダリオンが決まりだとばかりに話を進めていく。エリシアが反論しようと口を開く。


「でも、わたしまだ……」

「わがまま言わないで、エリシア。倒れたら屋敷に戻る約束でしょう? お兄様は学園へ通うのまでやめろとは言っていないでしょう?」


 びくりと揺れる。学園に通うのまで止められたら何もかも終わってしまう。学園祭はこれからだというのに。


「そうだぞ。お前に何かあってからじゃ遅いから、一緒に馬車で登校しようと言っているんだ」


 二人に詰め寄られ、エリシアは黙ってしまった。


(このまま押し切られちゃダメなのに……)


 屋敷に戻れば、また部屋に押し込められてしまうかもしれない。実際、倒れてしまったのだから良い言い訳も思いつかない。


「よし、さっそく退寮の手続きをとって帰ろう」


(ダメっ……!)


 抗いたいのに、何も言えない。ダリオンが勝手に決めてしまい、エリシアの肩に手をかけた。強制連行されてしまうとぎゅっと目をつぶった。


「とんだ過保護だな」

「……なんだと?」


 腕組みをして後ろに立っていたリクスが、渇いた笑いとともに口を開いた。ダリオンが怖い顔になり、リクスに振り向く。


「本人がやりたいと言っているのだから、やらせてやったらどうだ? 心配して閉じ込めるだけが愛情じゃないだろう」

「リーク……」


 リクスがかばってくれている。エリシアは嬉しくて泣きそうだ。しかし兄姉の酷い言葉にすぐに青くなった。


「はっ! 魔力の無いお前には、妹を心配するこの気持ちがわからないだろうな!」

「どうせあなたがエリシアに無理をさせたんでしょう! そうやって妹を苦しめて、フローレンスに打撃を与えたいんでしょう!?」

「やめて!」


 思わずベッドから抜け出し、両手を広げてリクスの前に立った。


「エリシア……?」


 兄姉が驚いた顔でエリシアを見ているが、ええい! と一気にまくし立てた。


「リークは何も悪くないの! わたしがやりたくてリークを付き合わせているだけなの! だからお願いします、これだけはやらせてください……!」

「おい!?」


 後ろからリクスの驚く声が聞こえたが、エリシアは構わず兄たちに向かって頭を下げた。


 これだけはどうしても叶えたい。邪魔されたくない。その先のことは何だって言うことを聞くから。


 そんな思いで頭を下げたのに、二人には伝わらなかったようだ。


「ダメだ」

「お兄様!?」


 容赦ない兄の声に頭を上げれば、腕を掴まれる。


「ルミナリエを庇うなんて……洗脳されているじゃないか。可哀そうに。」

「わたしは洗脳なんてされていない!」

「心配だから連れて帰る。アメリア」


 ダリオンはエリシアの声には耳を貸さない。アメリアはダリオンの合図に頷くと、帰るために医務室の扉を開いた。


(せっかくリークがかばってくれたのに……!)


 エリシアはダリオンに強引に肩を抱かれ、連れていかれそうになった。


「待て」


 それを止めようとしたリクスにダリオンが振り返る。


「何だ? フローレンス家の問題に口を出すのか? ルミナリエ侯爵子息」

「――っ」


 わざとらしい物言いに、リクスの顔が歪む。しかし、ダリオンの言う通りだ。リクスにはこれ以上介入する権限などない。

 それでもエリシアを留めようとするリクスに、これ以上迷惑をかけられないと思う。


(これまでか……)


 リクスに首を振り、抵抗をやめて身体の力を抜く。大人しくなったエリシアに、ダリオンも満足げに笑った。


 ダリオンに肩を抱かれたまま、アメリアが待つ扉に足を進める。すると外から人影が現れた。


「それが私の命令だと言っても、君たちはエリシア嬢を連れていくのかな?」

「アーセル殿下……」


 皇族で生徒会長であるアーセルが現れて、さすがのダリオンも息を呑んだ。


「エリシア嬢には両家の架け橋になってもらうべく、実行委員に任命したのはこの私だ」

「よく言いますよ。殿下はルミナリエ派のくせに」


 ダリオンがアーセルに噛みついたが、アーセルは余裕の笑みで返す。


「弟を使おうと画策している家の者には言われたくないな?」

「なっ!? 言いがかりです、殿下! 我が家を侮辱されますか!?」


 大げさに嘆いてみせるダリオンにも、アーセルは動じない。


「先に皇族を侮辱したのは君だ」

「くっ……」


 ダリオンが言い淀んだところで、アーセルが高らかに宣言した。


「いいか、これは皇子であり、生徒会長である私の命だ。エリシア嬢の邪魔をすることは今後一切、誰であろうと許されない!」


 ぎりりと歯ぎしりをしたダリオンがエリシアから離れる。そのまま怖い顔で医務室を出て行った。それを見送ったアメリアがアーセルに向き直る。


「学園祭は国の重臣たちも多く来場されます。エリシアを起用したことで殿下が恥をかかれませんこと、未来の妹としてお祈りいたしますわ」

「ありがとう」


 お互いにっこりと微笑み合うと、アメリアもダリオンの後を追っていなくなった。エリシアがホッと息をつく。


「俺に投げっぱなしだったくせに、今さら出てきたか」

「良いタイミングだったでしょ? いやー、リクスが前向きになってきたから協力してあげようと思ってね」


 呆れ顔のリクスにアーセルが茶化す。二人のやり取りをぽかんと見ていると、アーセルがエリシアに近付いて来た。


「私を脅していた勢いはどこにいったの? 頑張って」

「!」


 腰を屈め、アーセルがエリシアの耳元で囁いた。突然のことにエリシアが耳を押さえて顔を赤く染めた。


「はは、そっちが素顔か」


 見透かしたような顔のアーセルに、エリシアもひそひそと聞く。


「どうして助けてくださったんですか?」

「そういう誓約だろう」

「そうでした」


 エリシアの答えにアーセルの表情が崩れた。


「はは。君を見ていたら、なぜだかフローレンスと無関係と思えてきてね。興味が湧いたよ」

「わたしは殿下には興味ありません」


 エリシアの髪をくるくると指で弄ぶアーセルに、ばっさりと答える。しかしアーセルの口角はさらに持ち上がる。何がそんなに面白いのか。


「リクスだけって?」

「はい」

「言うね」


 当たり前のやり取りに、不機嫌な表情が出てしまう。それを見たアーセルがますます笑う。ようやくアーセルがエリシアの髪を解放すると、しびれを切らしたリクスが会話に割り込んできた。


「おい、何ひそひそ話しているんだ」

「ふうん?」


 何か怒っているようなリクスだったが、意味ありげなアーセルの笑みに、ますます機嫌を悪くしたようだ。ムスッとしたままアーセルを見た。


「何だ?」

「いや? じゃあ君たち、学園祭の準備頑張ってね」


 アーセルは手をひらひらさせると、医務室を出て行った。

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