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わたしの初恋相手は姉の元婚約者です。今でも大好きなので、病弱なわたしと思い出作りしてください!  作者: 海空里和
第二章 学園祭に向けて

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「シア、紹介するよ。ルミナリエ家の一人息子リクスだ」


 そう言ってエリシアを手招きするのは、前侯爵である祖父だ。


「エリシア……と申します」


 ずっと部屋にとじこもっているエリシアにとって、リクスが初めて見る貴族の男の子だった。祖父の背中からおずおずと挨拶をすれば、リクスが手を差し伸べる。


「君のおじいさまに頼まれて魔法の先生をしにきたリクスだ。よろしく」

「リー……ク?」


 ハキハキと話すリクスの速度についていけず、エリシアがもごもごと繰り返すと、リクスから優しい笑みが返ってくる。


「うん。それで良いよ、シア」


 リクスはエリシアの手を取ると、祖父の後ろから自身へと引き寄せた。

 祖父以外にシアと呼んでくれる存在に、胸が弾んだ。しかも綺麗な顔の男の子が優しい声で呼ぶのだから、ドキドキしても仕方ない。


「俺をリークと呼ぶのはシアだけだよ」

「わたしだけ?」


 それは特別なことに感じられた。至近距離で優しく笑みを向けるリクスは、少年ながらも紳士的だった。幼いながらもエリシアはリクスのことを素敵だと感じた。


 思えばあのとき、すでに恋に落ちていたのかもしれない。会うたびに彼の優しさに触れて、好きになっていくのは必然的だったとしても。


 リクスもあのころはよく笑い、無邪気にエリシアの手を繋いでくれていた。


 優しくて幸せで、温かい。祖父がまだ生きていたころの、エリシアの大切な思い出だ。




「リーク……」

「気づいたか?」


 目を覚ませばエリシアは医務室のベッドの上にいた。


 右手に温かいものを感じる。ぎゅっと包まれた自身の手は、リクスが握りしめてくれているのだとわかった。

 昔の夢を見たせいか、幼い頃の彼と姿が重なって見える。


「リーク……わたし?」


 ぼんやりとしたまま天井を見ていると、リクスはベッドサイドの椅子から立ち上がり、心配そうにエリシアを覗き込んだ。


 あのまま自分は倒れてしまい、リクスがここまで運んでくれたのだと思い至る。目線が合い、安堵の表情を見せたリクスは再び椅子に腰かけた。


「リーク、ありがとう」

「すまなかった」


 お礼を伝えようとリクスに顔を向ければ、勢いよく彼が頭を下げた。ぱちくりとリクスのつむじを見つめる。


「本当に身体が弱かったんだな……。元気に振舞っているからと、お前が無理をしている可能性を考えなかった。すまない。俺の責任だ」


 リクスは頭を下げたままだ。

 エリシアの事情を理解してくれたのは嬉しいが、謝ってほしいわけではないのだ。


「頭を上げて! わたしは大丈夫だよ」


 エリシアの懇願で頭を上げたものの、リクスはまだ申し訳なさそうな顔をしている。


(もう、優しいんだから。好き)


 エリシアはふんわり笑ってみせると、上半身を起こす。そしてリクスに力説した。


「あのね、病気は良くなってるんだよ。ただ、体力がなさすぎて疲れたのと、練習に夢中になりすぎて魔力切れをおこしかけていたみたい」


 嘘にほんの少しの真実を織り交ぜてそれっぽく言えば、リクスが顎に手をかけ納得する。


「確かに医務室の医師もそのような症状だと言っていたな」

「でしょ?」


 エリシアは元気だということを示すため、拳を握った片手を振り上げてみせた。


「ほら、これ飲んどけ」


 ふうと息を吐いたリクスがエリシアに差し出したのは回復薬だ。


「あ、ありがとう!」


 リクスの優しさにじーんとしていると、早く飲めと促される。


 エリシアは薬を受け取ると、急いで蓋を開けて、回復薬を飲み干した。


 ふう、と一息ついていると、リクスの視線を感じる。何だろうとリクスを見れば、ジト目の彼が恐る恐る言った。


「……今回は取っておくなよ?」

「え? だめ?」


 当然、エリシアは取っておく気満々だった。


「だめだ」


 今度はリクスに瓶を奪われてしまった。エリシアはふてくされて横を向いた。


「ちぇっ、せっかくリクスがプレゼントしてくれたもの第二弾なのに」


 同じ物だろうとエリシアには関係ない。リクスがくれた、それだけが重要なのだから。


「……その代わり、一緒に学園祭を回ってやるから」

「え?」


 一瞬何を言われたのかとフリーズする。リクスは顔を赤くすると、そっぽを向いた。


「何だ、俺と回りたいって言っていたのは嘘か」

「回りたい!」


 エリシアはベッドから身を乗り出して叫んだ。


「ひゃっ!?」


 その勢いでベッドから落ちそうになる。間一髪のところでリクスが支えてくれた。


「わかったから落ち着け」

「あ、ありがとう」


 ドキドキと胸を鳴らすエリシアを、リクスがベッドの中央へと戻す。「まったく」とぶつぶつ言うリクスと目が合うと、エリシアはふにゃりと笑った。


「リークありがとう。大好き!」

「!」


 リクスの目が見開かれる。これはまた「そんなことは言うな」と怒られるかなとエリシアは苦笑した。


「ほんとにお前は…………。シア」


(えっ)


 目元は優しく細められ、声には甘ささえ感じられた。


 リクスの予想外の反応に、エリシアの心臓は跳ねた。


(あれ? あれれ?)


 しかも愛称で呼ばれたものだから、鼓動がおさまらない。ドキドキとうるさい音だけが耳に鳴り響く。

 リクスは優しい表情のままエリシアを見つめていた。


「リーク……」

「シア」


 懐かしいのに、初めて呼び合うかのように気恥ずかしい。見つめ合ったまま、まるで時間が止まったかのようだ。


「シア……俺は……」


 リクスが何か言いかけたとき、医務室の扉が勢いよく開け放たれた。


「エリシア!」


 そこには慌てた様子のダリオンとアメリアが立っていた。

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