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わたしの初恋相手は姉の元婚約者です。今でも大好きなので、病弱なわたしと思い出作りしてください!  作者: 海空里和
第二章 学園祭に向けて

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『生徒会の仕事があるから遅れる』


 実行委員からリクスの伝言を受け取ったエリシアは、先に実習場へ向かうことにした。


(よし! 先に復習をしておいて、今日こそリクスに褒めてもらうんだから!)


 この学園祭を最高の思い出にしたい。だからこそ時間を無駄にできないエリシアは、意気込んで実習場へと入る。すると、兄姉とその取り巻きたちがちょうど出て来たところで、出口でかち合ってしまった。


(しまった……。前の時間の使用者まで調べていなかったわ)


 アーセルから割り当ての表をもらってはいたが、自分の使用する時間しかチェックしていなかった。

 まさか鉢合わせるなんて。この前はリクスが一緒だったから良かったものの、今日はエリシア一人だ。


「おい、ルミナリエと恋仲らしいな?」


 やり過ごせるわけもなく、やはり取り巻きに絡まれる。


「どういうことだ! ダリオン様とアメリア様を裏切るのか!?」

「同じ学園の生徒なのに、裏切るとかそういう思考がおかしいと思わないの?」


 すごい剣幕で迫る取り巻きに、エリシアは呆れてつい反論してしまった。


「何だと!」


 案の定、その取り巻きは怒ってエリシアの胸ぐらを掴んだ。


 殴られる! そう思ったが、ダリオンが止めに入った。


「妹は病弱でずっと部屋にこもっていたから世間知らずなんだ。許してやってほしい」

「ダ、ダリオン様がそうおっしゃるのでしたら!」


 腕を振り上げていた取り巻きは、エリシアから手を離し後ろに下がる。


「エリシアは私の元婚約者だから、リクス様を気にかけてあげているのよね? 優しい子だもの」


 アメリアがエリシアをふわっと抱きしめると、取り巻きたちからは歓声がわきおこった。


「なんとお心が広い!」

「妹を正すのではなく、受け入れられるなんてさすが花魔法の女神!」


 ダリオンは抱き合う姉妹それぞれの肩に手を置くと、溜息をついた。


「でも、エリシアがみじめな思いをしないか心配だ」

「そうね。あのリクス様と組んで裏切られないといいけど……」


(そうなって欲しいんでしょ!)


 エリシアが失敗すれば、全てリクスのせいにされるだろう。ルミナリエに恥をかかせる絶好のチャンスだからだ。


(絶対にそうはさせないんだから)


 兄姉に逆らうなんてできない。エリシアは心の中でそう思いつつ、大人しくやり過ごす。


「無理はしないでね」

「そうだぞ、心配しているんだからな」


 二人にぎゅうと抱きしめられれば、取り巻きたちからは、ほうと大きな溜息が漏れた。

 

「じゃあねエリシア。困ったらいつでも頼ってね」

「愛しい妹よ、その可愛い顔をときおり見せておくれよ」


 長い抱擁からようやく解放され、エリシアは一人になった。兄姉たちの姿が見えなくなったところで、どっと疲れてその場に座り込む。


「はあっ……はあっ……」


 息が荒くなり、うずくまる。


「どうした? 疲れたのか?」


 駆け寄ってきたリクスがエリシアの肩に触れる。復習をする前にリクスが来てしまった。エリシアは慌てて立ち上がった。


「あ、うん! でも大丈夫だよ! 今日もよろしくね!」


 心配させないようにと力んで、いつもより大きな声が出てしまった。リクスの呆れ顔がエリシアに向けられる。


「……なんか、今日はいつもに増してテンション高いな?」

「ふふふ! あのね、リークとわたしが恋仲だって噂されているんだって! これって周りから仲良く思われている証拠だよね?」


 話を変えようと、仕入れたばかりの噂について話す。

 きっといつものように冷たくあしらうだろう。そう思っていたのに、リクスの表情が抜け落ち、エリシアの顔もこわばった。


「ほんと、なんなんだろうな?」

「リー……ク?」


 リクスの様子がおかしい。呼びかければ、傷付いたかのようなリクスの目がエリシアを捕らえた。


「お前は俺の心をかき乱して、そんなに楽しいか! 今さら俺の前に現れて――」

「リーク、」


 近付こうとして拒絶の目を向けられる。


「最初に俺との婚約を断ったのはお前だろう!」


 やはりリクスにもそう伝わっていた。エリシアはぎゅっと両手を胸の前で握りしめる。

 アーセルがそう言っていたのだから、当然根源はリクスだろう。


(リークは自らわたしを婚約者にと望んでくれていたの?)


 一緒に祭典をやろうと言ってくれた意味が、今ようやく理解できた。


(そりゃあ、避けられるわよね)


 リクスの中でエリシアは婚約を拒否している。あげくには姉が身代わりだ。最低すぎる。


 学園祭を成功させるためには、そのわだかまりだけでも解消しないといけない。今さらリクスとどうこうなりたいわけではない。ただ、思い出が欲しいのだ。


「それはわたしが病弱だったからで――」

「元気そうじゃないか!」


 説明しようとするエリシアの言葉をリクスが遮った。


「リーク? 話を――」


 なぜか苛立っているリクスに首を傾げながらも話をしようとする。しかしリクスはエリシアに背を向け、立ち去ろうとする。


「待って、リーク!」


 追いかけようとして、ぐらりと世界が歪む。


(こんなときに――)


 呼び止めることも、追いかけることもできない。エリシアはその場で倒れてしまった。


「シア!!」


 意識を失う直前、リクスの声が聞こえた。


(わたしをその愛称で呼ぶのはおじいさまと――)


 視界には慌てた様子のリクスが駆け寄ってくるのが見える。


 エリシアは口角を無理やり上げると、意識を手放した。

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